異世界人類を現代知識チートで導け!

相田 彩太

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最終章 ここから始まる理想郷

その15 俺と理想の最終決戦

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 「さて、妾の姿をどう思う?」
 「素晴らしいの一言に尽きます」

 本当にそうとしか言いようがない。
 体躯に合わせたバストサイズというのは存在する。
 あれは理想のHカップだ。
 
 「そうであろう。何せお主の理想を顕現したのであるからの」
 「理想を顕現するだと!?」
 「そうじゃ、お主の心に浮かんだ理想をこの身に宿したという訳じゃ」

 そして女王は戦いの構えを取る。

 「そんな! あのサイズが神様のお好みだったなんて!」
 「くっ! おっぱいがたりない!」

 そこのふたり、今、そんな悠長な状態じゃないんだ。
 あの構えは猿渡流の基礎にして奥義”真っ向正拳突き”の構えだ。

 「ほほう、この能力ちからの恐ろしさがわかったようじゃの」
 「ああ」

 あいつは理想を顕現したと言った。
 スポーツや武道ではイメトレという物がある。
 それは、脳内で理想の動きをイメージし、その動きに近づけるように体を動かす訓練だ。
 そして、女王の構えは俺が毎日の訓練でイメージしている理想の姿だ。
 だから、あの構えから放たれる拳は、俺の理想の一撃になる。
 俺が出来る最高の一撃に。

 「さて、では、ゆくぞ」

 そう言って、女王は俺との間合いをじりじりと詰める。
 ”真っ向正拳突き”
 それは、左手を防御に、右手を攻撃に、そして、間合いに入った者への全力の正拳突きを放つという単純な技だ。
 だが、相手からの攻撃にはカウンターを、必中の間合いでは最速の拳を放つその技への必勝法などない。
 つまり、攻略が非常にめんどくさい技なのだ。

 「逃げれれば楽なのにな」

 俺はぼそりと呟く。
 真っ向正拳突きへの楽な対処は逃走だ。
 
 「逃げてもよいのじゃぞ」
 「それはできん。俺の後ろには守るべきおっぱいがあるからな」
 「そうか……」

 女王の歩みが俺の間合いに入る。

 「せいっ!」

 俺は上段蹴りを放つ。
 
 「甘い!」

 女王は、その歩法を早め、俺の胸にその拳を叩きこんだ。

 ガハッ!

 胸骨がきしみ、俺は膝を着いた。

 「あぶないッ! 神様っ!」
 「トドメです! 母上!」

 だが、追撃は来なかった。
 くそっ! 残心まで理想の通りかよ!
 追撃に対するカウンダ―を描いていた俺の作戦は不発に終わった。
 ならば!

 「ほほう!? 同じ構えでくるか」

 俺が選んだのは”真っ向正拳突き”の構え。
 これで、相手より先に拳を叩きこむ。
 俺たちはお互いににじり寄ると、必中の間合いで拳を繰り出した。

 ボグッ!

 俺の拳は届かなかった。

 「理想を顕現したと言ったじゃろ。お主の考えうる最大の速度で、最高のタイミングで、最強の一撃を放つのじゃぞ」

 イメトレでも最高の一撃を放てる事は何十回に一回しかない。
 『おっ! 今の一撃は良かったぞ』という練習を繰り返して、少しずつ自分を鍛えるのだ。

 「さて、決して届かぬ理想に手を伸ばしながら、敗北するがいい!」

 再び間合いが詰められ、そして女王の拳が俺を痛めつける。
 
 ゴカッ! バキッ! ドグッ!

 胸に、腹に、顔に、何度も女王の攻撃をくらい、俺はついには地面に伏した。
 暗転する意識の中で、俺は瞬間の夢を見る。
 走馬燈というやつか。
 一説には走馬燈は死に瀕した時、脳が生き残るすべを記憶の中から探そうという行為だという。
 これもそうなのか……
 俺が見たかったのはおっぱいの夢だったが、見えたのは親父の夢だった。

◇◇◇◇

 それは、中二の夏休み。
 武道の修行は1日1時間だったが、俺はさらに1時間追加していた。
 早朝と夕方に1時間ずつ、海岸を走り、巻き藁を突く。
 早朝は、人目がないので、開放的になっている水着女性が多く、夕方は疲労であられもない姿を気にも留めなくなったバカンス女性が多いからだ。

 数日前、俺は親父に寺に連れていかれた。

 「朱鷺雄ときお、この撞木しゅもくを突いてみろ」

 撞木しゅもくとは、釣鐘を突く棒の事だ。
 俺は親父に言われるがまま、撞木を突く。

 ゴーン!

 俺の全力の正拳突きが、撞木しゅもくを揺らし、鐘が音を奏でる。

 「まあまあだな。では、お手本だ」
 
 グォオオオーン!

 親父の正拳突きで奏でられた音は、俺の数倍は大きかった。

 「すげぇ! とうちゃん!」
 「うむ、毎日1時間でいい、訓練を続ければ朱鷺雄もこれくらいは出来るようになるぞ」

 そう言って、親父は俺の頭を撫でた。
 だから、俺は毎日2時間修行するようにした。

 打ち返す波の音、キャッキャウフフの声、そしてバンバンという巻き藁を突く音。
 時にはキャッキャウフフを横目で見ながら、時間を忘れて巻き藁を突く時もあった。 

 そして、夏休みの終わり、親父は俺を再び寺に連れて行った。

 「さあ! 朱鷺雄! もう一度、この撞木しゅもくを突いてみろ!」
 「おう! とうちゃん!」

 その時の俺は素直だった。
 ただ全力で、俺は撞木しゅもくを突いた。

◇◇◇◇

 俺は再び意識を取り戻し、立ち上がる。

 「神様! もういいです! ほら! ブラジャーを外しましたから!」

 ボロンとこぼれる胸を揺らして、バス―が叫ぶ。
 
 「俺も!」
 「あたしも!」

 その他の仲間もブラジャーを取り、それを地面に投げ捨てる。
 お前らバカだろ!
 だが、その愚かしさが愛おしい。
 だから、俺が守らねばならぬ。
 神を名乗った者の責任として!

 「ほう!? やはり、その構えでくるか」

 俺が取った構えは正拳突き。

 「そうじゃな、何百回に一度は理想と同じ動きができるかもしれぬな」

 女王はそう言って、再び”真っ向正拳突き”の体制に入る。
 女王の言う通り、何百回と繰り返すイメトレの中で、理想の動きが取れる時がある。
 だが、違うよ。
 これは”真っ向正拳突き”じゃない。

 女王が少しずつ距離を詰めて来る。
 俺もじわりじわりと進む。

 「シャッ!」
 「ハイッ!」

 そして、ふたつの拳が交差した。

 女王は、もしも、俺の拳が理想に届いたとしても、相打ち。
 それならば、ダメージも互角で、耐えれると踏んだのだろう。
 だが、結果は違う。
 俺の渾身の一撃による衝撃は、彼女の正中線の真ん中を打ち抜いていた。

 ゴボッ!

 彼女の口から赤い血のような物が流れ落ちる。

 「な、なぜ、理想を超えるなど……ありえないのに……」

 彼女は思い違いをしている。

 あの時、夏休み最後の日、俺の拳は鐘を鳴らさなかった。
 撞木が割れ、砕けてしまったのだ。
 俺は、俺の拳と親父の顔を交互に見つめていた。
 信じられないといった顔で。
 親父は『それが修行の成果だ! よく頑張ったな、朱鷺雄!』とニコニコしながら言った。
 
 スポーツや武道で、毎日の地道な修練の結果『えっ!? 今の本当に俺がやったの!?』という事態は往々にしてあり得るのだ。

 俺が放ったのは、ただの正拳突き。
 だが、たゆまぬ努力で鍛えられたそれは、己の想像を超えた一撃となった。
 ”想絶そうぜつ正拳突き”
 名前は今、付けた。

 
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