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第三章 二回戦
その5 祭りの後先
しおりを挟む気が付くと俺はベッドに寝かされていた。
腕には点滴の針が刺さっており、ぽたぽたと垂れる滴が見て取れた。
「気づいたか、少年」
「ううーりっくん、よかったよ~」
「これで一安心ね」
師匠と蘭子と部長が隣に座っていた。
窓の外が暗い所を見ると、既に夜になっているらしい。
「部長、俺はどうなって、いや、それより試合は!?」
「そんな事を気にせず体力回復に努めなさい、と言いたいけれど教えてあげるわ」
部長が立ち上がる。
「いや、それはわしから伝えよう」
部屋の端から声がする。
この声はの激辛辣火リーダー、辣王だ。
「すまなかった。決してお前や審査員の方々を傷つける気はなかったのだ」
あの衣装は脱ぎ去り、普通の服に着替えた辣王が語る。
「正直、やりすぎたと思っている」
この声はヒャッハーだ。でも、今は普通の衣装だ。
「ごめんなさい。許してくれるなら何でもしますから!」
えっ、ダメージドチャイナさん! 今、何でもって言ったよね!
そしてなんで服がダメージドチャイナのままなんですか!
もしかしてエロエロですかー!
俺の桃闇が元気を取り戻す。
俺はガバッと状態を起こした。
「いたた!」
腕の注射針が俺に痛みを与えた。
「ほら、安静にしてなさい!」
部長が再び俺をベッドに寝かせた。
「試合はわしらが棄権した。あの惨状の責任をとってな」
「眩暈で倒れる者18名、胃や食道に炎症が診られる者15名、それが今回の顛末よ。陸は15名の1人に入っているわ」
「えっ、俺の胃、どうかなっているの?」
「軽い炎症だ、少々出血しておったがな。胃洗浄して処置したので、数日で回復するらしい」
師匠が俺の病状を解説してくれた。
「今回の影響で明日の予備日に2回戦の残りを行う事になったわ。だから明後日の準々決勝までゆっくり養生しなさい」
「わーい! あたし看病する~!」
わーいはないだろ、わーいは、と思うが四肢に力の入らないこの状態では頼らざるを得ないかな。
「おぬしらには心からすまなかったと思っている。何かわしらで出来る事があったら、ここに連絡してくれ」
世紀末辣王さんとヒャッハーさんとダメージドチャイナさんは部長に名刺を渡すと部屋を退出していった。
◇◇◇
「おそろしい相手だったわね。完敗だわ」
「そうですね。俺の読みが甘かったです」
「ええ~、勝ったのあたしたちだよ」
「ええ、試合には勝ったわ。でも、勝負には負けてるわ。ネットの書き込みを見てみなさい」
--------------------------------------------------------------------------------------
「激辛辣火の料理最高だったぜ! 倒れたやつは修練が足りんのだよ」
「そうね、素人には厳しいかもね。あのニンジャコックはともかく、激辛好きとプロフィールに書いたニワカは反省して欲しいわ」
「そう酷な事を言うな、あの明王満辛全席はさしもの俺も少し胃に響いた。夏で胃腸が弱っている時にはキツいと思うぞ」
「ちなみに、店で食べようとしたら10万円は下らんみたいだぞ」
「本気かよ! 最高じゃないか」
「でも、素人というか初心者向けには料理愛好倶楽部のヤツもおススメだぞ。それなりに辛く、それなりに美味い。あと、お値段も安めで済む」
「俺は激辛辣火の方が勝ちだったと思うぜ」
「あたしも! あたしも! 『伏魔殿・万魔殿・パンデツツーム』は物足りなかったわ」
「生き残った審査員で採点したら『明王満辛全席』の勝ちだと思うぜ!」
「生き残った……って何だよw! 審査員の敷居高過ぎだろw」
--------------------------------------------------------------------------------------
自称審査員の書き込みを見ると8割が激辛辣火の勝ちだと評していた。
「負けてますね」
それがタブレットでネットを見た俺の正直な感想だった。
「そうね。病院送りになった審査員の意見が書き込まれたら少しは変わるかもしれないわ。でも、大勢は揺るがないでしょうね」
部長も俺の意見に同調する。
「ちがうよ~、料理は人を幸せにするものだよ~、涙をながしたり~、誰かを傷つけたりするのは失格だよ~」
蘭子は俺たちの意見とは違う。
蘭子の意見は正しい、だがそれは普通の人のルールでだ。
激辛好きの人のルールではないんだ。
そして俺たちは激辛好きの人のルールで競技したんだ。
本来は俺たちの負けだ。
「そうだな、これは完全な勝利とは言えない。だが、勝利は勝利だ。お前たちのやるべき事は、少年は体調の回復、ボスとお嬢ちゃんは準々決勝の対策だ。次からは各人1試合ずつの3セットマッチになる。試合の厳しさは今までの比ではないぞ」
そうか、次からは3セットマッチになるのか。
今まで3人で60人分を作っていたのだが、1人で作らなくてはならないのか。
これは、想像以上に大変だぞ。
「明日も見舞いに来るわ。一緒にネット中継を見ましょ。次の対戦相手の試合をね」
そうだな、明日こそは料理以外の心配をしなくて済む相手だといいな。
昨日も同じ事を思っていた気がするが……まあ、いいか!
◇◇◇
願いは叶った。
次の対戦相手は『タベルト・ツクルト・ミンナト』。
肉と野菜と魚のエキスパートだ。
各人が旬の特選素材を持ち込んでくる。
二回戦の『料理:ちゃんこ鍋』『食材:キノコ』では圧倒的大差で勝利を収めた。
勝利の鍵は天然キノコである。
特に天然マイタケと栽培マイタケの味の差が顕著だと解説していた。
部長曰く、天然マイタケと栽培マイタケでは天と地ほどの違いがあるらしい。
肉は天然飼育の鶏肉。
そして魚は骨切りハモといった熟練の包丁技をも披露した。
味の層の組み立てが違うのである。
「強敵ね……」
わかっていた、試合が進むにつれ敵のレベルが上がっていくのは。
料理の腕では、一回戦ですら俺たちでは互角程度、二回戦では負けていた。
おそらく準々決勝ではまともに勝負すれば勝ち目はないだろう。
「ねぇ、なでちゃん。あれに勝てる食材は手に入れられないの?」
「あらゆる場合を想定して準備しておくのは不可能よ。私が手に入れられるのは普通に流通している物か、相手の手を読んで決め打ちで事前に用意しておく食材だわ」
「手を読めば用意できるんだろ?」
「察しが良くて助かるわ。何かリクエストは?」
「不要だ。いつもの特売スーパーで手に入れておく」
俺は会場にあった設備を思い出す。
肉類を保存しておくマイナス25度の移動型大型冷蔵室があったはずだ。
「それよりもオーダー順です。肉・野菜・魚のエキスパートが出てくる順番を読まないと。俺は野菜と戦いたいです」
「あたし魚~」
「そう、私は肉と戦いたかったのでちょうど良いわ。あとは相手を挑発すれば良い訳ね。それと陸、後で秘密の作戦を授けるわ」
そう言って部長はにひひと厭らしく笑った。
あーこれは愉快な事を考えている顔だな。
ちょっと愉快な魔女の嗤いだった。
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