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第四章 準々決勝
その1 挑発は露骨に
しおりを挟む「で、挑発の仕方がこれですか」
部長の挑発策は単純である。
俺はいつもの忍者装束の背中に日輪を背負っている。
その日輪に各種の野菜が点々としている。
蘭子は大きな鯛の張りぼてに胴体を収め、黒い網タイツを穿いている。
うーむ、元キャラは変態なのだが、蘭子が着ると網タイツが妙にエロい。
俺の桃闇も、んばばと踊りだすぞ!
そして、部長は大型山羊の角を被り、赤茶色の衣装と中華焼き豚が刺さった杖を持っている。
うん、様々な厄災が詰まった箱を開けてしまった魔女っぽい衣装だ。
並び順も徹底している。
カメラや相手から見て、蘭子が一番前、俺が二番目、部長が最後尾だ。
つまり、姿で相手を挑発する格好だ。
「こんなんで、うまくいくかな~?」
「大丈夫、相手はきっと乗ってくるわ。それよりも勝てる作戦の方が重要よ」
部長の言葉は正しい、乗ってくるのは間違いない。
挑発に乗らない場合というのは、挑発に乗ったら不利になるケースだ。
ここでの不利は料理バトルの有利不利ではない。
自分の料理人のキャリアとしての有利不利だ。
もし、タベルト・ツクルト・ミンナトの3人が挑発に乗らなかったら、学生相手にまっとうに勝負しないというそしりは免れない。
それは料理人の判断としては悪手だ。
「そこはボスの作戦で問題ないだろう。それよりも、おぬしたちの体調は大丈夫か? 少年はもとより、ボスと少女も昨日の激辛料理のダメージが残っておるのではないか?」
師匠が俺たちの体調の心配をしてくれる。
「俺は大丈夫だ。今日の料理も極力試食は少な目にする」
昨日は重湯しか食べれなかったが、胃の痛みは消え、体力も戻った。
「あたしは快調だよ~。今日の魚対決は、あたしの一番の得意料理で勝負するよ~」
昨日、蘭子は俺のお見舞いに着てくれたが、見た目からも言動からも、全く陰りは見えなかった。
まったく、けしからん健康優良児である。
部長はちょっと中座してたが。
「私も平気よ。昨日、トイレの神様にたっぷりお祈りしておいたからね」
そうだよな、あの激辛料理を食べるとそうなるはずだよな。
「私はあいつに対抗できる肉の手配を終えているわ。試合開始までには届くでしょう。だから私は三番目ね」
「え~と、あたしが先鋒で、りっくんが次鋒、なでちゃんが大将だよね」
「いや、3人の場合は俺は中堅だろう。次鋒はやられ役の感じがするぞ」
「次鋒レオパルドン行きます! グオゴゴゴ! ギャーッ!」
ほら、部長も、ろくでもないセリフを吐いているいるじゃないか。
「案ずるな少年。東映版なら瞬殺する側だ」
「いや師匠、どちらも東映ですよ」
「そういえばそうだな、これは一本取られたな。フハハハハ!」
「「フハハハハ!」」
うん、いつもの感じが戻ってきた。
「ぶ~、3人が何言っているか、わかんな~い」
そう、ぶーたれるな蘭子、普通はわからん、部長が異常なんだ。
◇◇◇
「大会もいよいよ準々決勝! 第一試合はノーゲームの中から『激辛辣火』の棄権により勝ち上がった『料理愛好倶楽部』と、特選素材とそのポテンシャルを120%引き出す調理で勝ち上がった『タベルト・ツクルト・ミンナト』だー!」
俺たちはステージに上がる、コスプレ衣装で。
『タベルト・ツクルト・ミンナト』の3人もステージに上がる。
まともなコックコートだ。
白と薄い青色と薄い桃色という違いはあるが、まともだ、よかった!
「ふぅ」
対戦相手が溜息をつき、かぶりを振る、やれやれと言った風に。
「何よ! 何か文句があるの!?」
部長が問いかける。
「文句も言いたくなるわよ! なんなのその衣装は! 料理を舐めてるの!」
「1回戦は迷彩ボディペイントしたミリタリーオタクだったし! 2回戦は、まわしスモーレスラーだったし!」
「そして準々決勝はコスプレ学生!? 溜息もつかざるを得ないわ!」
あー、この人たちも★超絶! 悶絶! 料理バトル!★っぽいチームと戦い抜いてきたのか。
その気持ちは分かる、よく分かる。
俺は初めてまともな料理人と対決する事になって安堵したけど、彼女たちはその逆で、3回連続でイロモノ系と当たったのか。
「人を見た目で判断すると痛い目みるわよ!」
部長はそう言うが、逆の立場だったら俺は相手を応援したくなるな。
「御託やパフォーマンスはうんざりよ! 料理人なら洗練された料理の技術と、鮮烈な料理で語りなさい!」
いやー、おっしゃる通りでございます。
そうだよな、おっぱいやヒャッハーで語るのがおかしいんだよな。
「いいわよ! 語ってやろうじゃない! 蘭子、先鋒はあなたよ! 陸、次鋒は任せたわ! 私は大将で最後を決めるわ!」
「いっくよー!」
「ふっ、世のため、家族のため、エンゲル係数の野望を打ち砕くニンジャコック! この日輪の恵みを味わいたいのなら、かかってこい!」
「大地に眠る家畜よ、私に力を! ハッ! 与えよっ!」
部長を中心に左を陸棲魚の蘭子が、右を忍ばないニンジャコックが構えを取り、そして俺たちは決めポーズを取る!
「だから、そういうのを止めろと言っとんのじゃー!」
うん、挑発は完璧だな。
◇◇◇
「さあ、それでは1セット目を開始しましょう。蘭子選手とタベルト選手はステージに上がって下さい」
蘭子の相手はタベルト選手、事前プロフィールでは魚のエキスパートとある。
よし、俺たちの作戦通りに進んでいるぞ。
「それでは、イニシアチブを決めて下さい」
司会者が二人を促す。
「コイントスでいいわね?」
「いいよ~、あたし表」
「では、裏で」
二人の声を聞き、司会者がコインを投げ、手で受け止める。
「表です」
「やったぁ! じゃあ、あたしは先攻で『料理』を選ぶね」
「うちは『食材』を選ぶわ」
そして二人はお題を紙に書き、司会者に渡す。
準々決勝にて初めて、談合を使わない方法でお題が決まったぞ。
蘭子の腕ならば実力でも勝負になる、得意料理なら勝ち目もある。
そして何よりも、蘭子は小細工とか奸智とかに向いていない。
正々堂々と正面から倒す!
これが蘭子の作戦、逆を言えば、この戦法でしか蘭子は勝てない。
「決まりましたー! お題は『料理:手作りかまぼこ』と『食材:くつぞこ』です!」
くつぞこ? え、何? 大航海時代の飢餓状態での最後の手段に革製品を食べる逸話があるけど、それをするの? それとも靴を舐めるの!?
「くつぞこか……、あれは美味しいわね」
「えっ!? 部長、だれかの靴を舐めた事あるんですか!?」
スパコーン!
本気の蹴りが俺の顔面にヒットした。
靴底は苦い土の味がした。
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