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第四章 準々決勝
その2 戦略は大胆に
しおりを挟む「はて? クツゾコとはどんな魚なのでしょうか」
司会者が少し演技がかった言い方で疑問を口にする。
あー、実は知っているな。
「ふっ、教えてやってもええけど、その娘は知っているん? うちと相対するのに最低限の資格はあるん」
「しってるよ~、有明海での舌平目のよびかたでしょ」
バカにしないでくれる!? 知っているわよそれくらい!! といった言い方で蘭子が答えた。
そうか、舌平目の事か。
「へぇ、最低限の知識はあるようね」
「でも~、会場にあった舌平目は瀬戸内産だったよ~、あれじゃゲタだね~」
この★超絶! 悶絶! 料理バトル!★会場には各地の魚も用意されている。
舌平目はあったが、その産地までは気にしてなかったな。
「そうね、ゲタね」
ゲタ? また食べ物とは遠い単語が出て来たぞ。
「舌平目は地方によって呼び方は異なるとよ。九州ではクツゾコ、瀬戸内ではゲタ、学名はウシノシタ、その他にはゾウリ、ヨーロッパはでは靴の底を意味するSoleと呼ばれとるんよ。形からそう思えるっちゃろね」
タベルトさんが解説してくれた。
「おおーっと、クツゾコとは舌平目の事だったー! 言われてみれば形がそっくりだ!」
うーん、ちょっとわざとらしい。
「ゲタではクツゾコとは言えんね。しゃーなか、うちの用意したクツゾコを分けてやるとよ」
タベルトさんがそう言うとスタッフが発砲スチロールの箱に収められた舌平目を持ってくる。
「量は十二分にあるけん、お先に半分持ってってよかよ」
タベルトさんが蘭子に促す。
「ここで解説しましょう! この★超絶! 悶絶! 料理バトル!★では会場に多彩な食材を用意しておりますが、選ばれた食材が無い、短時間での調達も難しい場合はお題に『食材』を選んだ側が準備するというルールになっているのです」
あーそういえば、そんなルールが小冊子に載っていたな。
「でも、有明産ではなくても、瀬戸内産や静岡産の舌平目はあるのですが……、それでは駄目なのでしょうか?」
「だめだよ~」
「ダメに決まっているでやろ! きさん、クツゾコをなめんのも大概にしーよ!」
ふたりがダメ出しをする。
うん、今、この番組を見た視聴者は何の番組なのか分からないセリフを吐いているな。
「有明産、百歩譲っても九州産でないとクツゾコとは言えんとよ!」
タベルトさんはこだわり派だな。
「し、失礼しました」
司会者の人がふたりの雰囲気に押され汗をぬぐう。
「じゃあ、お言葉に甘えて半分いただくね~」
蘭子が発砲スチロールの空き箱にクツゾコを入れていく。
「へえ、あの小娘、やるやないけ」
俺の隣に座るツクルトさんが言う。
俺たちはステージから離れた所に用意された席に座っているのだが、近いのだ、対戦相手との距離が。
席順で言えばタベルトさん(空席)、蘭子(空席)、ツクルトさん、俺、ミンナトさん、部長の順に並んでいる。
師匠は俺の後ろで佇んでいる。
流石忍者、汚い。
なんで俺が敵に挟まれていないといけないんだ。
でも美人にサンドイッチされるのは気分がいいな!
俺の桃闇も元気を取り戻してきたぞ。
「先鋒に実力者を持ってくるのは定石であろう。目利きにもぬかりはないぞ」
師匠が後ろから声を掛ける。
「そうね、小娘はタベルトが入れておいた質の悪いダミーを巧みに避けて選んでいたさかい」
あー、ちょっと卑怯っぽい。
でも部長に言わせれば、これは真っ当な戦略なんだろうな。
会場に無い食材を相手の分まで提供し、その中に質の悪い物を混ぜておく。
”十二分”に用意してある、”半分”分けてあげるという言葉から、相手が全部良質の物を選んだとしても自分の分はちゃんと残るようにしてあるのだろう。
相手に魚の目利きが出来なければ、この時点で有利になるってわけだ。
「ほんやけど、タベルトが負ける事はあらへん。そっちは首を洗って待っとくのがええと思うわ」
「ほほう、このニンジャコックを挑発するとはいい度胸だ。うちの蘭子を甘くみるなよ」
「ほな賭ける? どっちが勝つかを!」
俺はしばし考える。
「乗りなさい陸」
即答したのは部長だった。
「よかろう、このニンジャコック、仲間を信じない心は持ち合わせておらぬ! 俺は蘭子の勝利に賭けるぞ! して、何を賭けるのかな!?」
これは罠だと分かっている、相手の戦略だという事も、でも、それを利用するのが俺達の戦略でもある。
これは布石だ。
そして、相手が賭けに持ち出してくるのは、きっと3つのお題のどれを選ぶかだ。
「吐いた唾は飲まんとき。あたいが勝ったら、せやね……、あたいとの対戦の時、そっちは先攻でお題で『テーマ』を選択してもらうのはどうや? あたいは『料理』か『食材』から好きな方を選ぶ事が出来るって事や?」
やっぱり、ツクルトさんはベジタブルマイスターと聞く、野菜が活かせないお題を選ばれると困るんだろう。
「いいだろう、では、俺が勝ったらその逆にしよう」
「決まりや!」
話はまとまった……、きっとツクルトさんは心でほくそ笑んでいるのだろう。
だが、お前たちは甘く見過ぎだ、俺と、俺達を!
「それと、最後に、負けたチームは勝ったチームの言う事を何でもひとつ聞くってのはどう? もちろん、あたいは性的なお願いをする事にするわ」
こいつは何を言っているんだ!?
「いいわ、部長権限でその賭けに乗るわ!」
こいつも何を言っているんだ!?
「後ろの忍者も付けてもらいましょう。わたしは下半身が露わになったふたりの絡みが見たいです」
どいつもこいつも何を言っているんだ!?
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