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第四章 準々決勝
その3 切先は豪胆に
しおりを挟む俺達の会話をよそに、蘭子とタベルトさんの調理は進んでいた。
手作りかまぼこに必要な白身魚は1種類である必要はない。
かまぼこは数種類の白身魚を混ぜて作るのが一般的だ。
蘭子が選んだのはカマス、旬の魚だ。
タベルトさんが選んだのは鯛だ。
ふたりとも手際よく魚を捌いていく。
「あら、胸だけでなく、包丁さばきも大胆やね。うちといい勝負ったね」
タベルトさんが蘭子の腕を褒める。
当たり前だ、蘭子の腕は俺達の中では一番なんだぞ。
こうして考えると部長の考えの正しさがよく分かる。
魚が食材になったら、俺や部長では魚の目利きや捌きの腕不足で圧敗していただろう。
圧敗とおっぱいって響きが似ているよね。
くっ、鎮まれ俺の桃闇!
これもさっきのツクルトさんとミンナトさんの妄言が悪いんだ。
妄想しちまうちゃないか!
「包丁だけじゃなく、料理も大胆なんだよ~」
あれは、小太刀二刀流!
いや、小出刃二刀流!
ガンガンガンガン!
蘭子の両手に小出刃包丁が握られ、舌平目とカマスが瞬く間にミンチになっていく。
それだけではない、その隣ではグラグラと煮たてられた鍋がある。
俺の目は逃していない、頭や骨や皮といったアラがその鍋にに入っていったのを。
蘭子が作る料理はあれだ。
竜の舌の中でも絶賛の一品だ!
ゴリゴリゴリゴリ!
調理は次の工程に移る、ミンチになった身に塩が降られ、すり鉢の中で練られているのだ。
この工程ですり身となる。
あとは直方体の型に入れて蒸せばかまぼこの完成だ!
だが、ただのかまぼこでは★超絶! 悶絶! 料理バトル!★では勝てないのは蘭子も先刻承知、一工夫した一品で勝負だ!
対するタベルトさんも同じく魚をすり身にしていく。
蒸し器の隣にあるのは、油鍋?
何かを揚げるのか!?
「さあ! 調理も進んで参りました。蘭子選手は先ほど蒸しあがったかまぼこを氷水に浸けて熱を取っている。そして、大型冷蔵庫に入れておいた一品を取ってきた!」
蘭子はかまぼこをカットして、盛り付けに入った。
「一方のタベルト選手は、まだ蒸している、調理時間は残りわずかなのに大丈夫なのかー!」
ん、まだ蒸しているとな!?
少し気になる、いや、まずいかもしれない、まずい。
でも、天候は晴れだ、冬なら負けた、だけど今は夏だ。
くそっ、微妙過ぎる!
「タイムアーップ、それでは審査に入ります!」
◇◇◇
審査員達と対戦相手の所に蘭子の料理が運ばれてくる。
「さあ、蘭子選手の料理が運ばれてきました。蘭子選手、この料理の名前は?」
「これはね~『手作りかまぼこシベリア風』だよ~」
「シベリア風? ロシア要素は見当たりませんが?」
「ちがうよ~、お菓子のシベリアだよ~」
蘭子の言う通り、その料理はお菓子のシベリアに似ている。
カステラで羊羹をはさむアレだ。
白いかまぼこの間に黒い物が挟まれている。
俺はこれの正体を知っている。
「確かに! これはシベリアだ~! それでは早速試食して頂きましょう」
司会者の声で審査員が蘭子の料理を口にする。
「これ、煮凝り!?」
そう、煮凝りです。
皮と骨の旨みが凝縮された煮凝りです。
「美味しい! かまぼこってこんなに美味しかったの!?」
「淡泊な味じゃない、しっかりとした旨みがある!」
「しかも煮凝りの味と相まって素材の味がさらに高まっているわ!」
審査員からも好評の声が上がる。
「これは、ちょっとヤバいわね」
「ええ、正直、見くびっていたわ」
よしよし、隣のツクルトさんとミンナトさんも驚きを禁じ得ないようだぞ。
俺も何度か食べた事はあるが、これは美味いんだ。
「ね、ねぇ、一切れ分けてくれない?」
そういえば、部長は食べた事がなかったっけ。
食べたくなる気持ちはよくわかる。
「いいわよ、んっ」
ミンナトさんが口にかまぼこを加えて、突き出す。
「そんな食い方しないわよ! 一切れもらうね!」
そう言って部長は皿から一切れ奪い取り、口に入れる。
「あら、勝負に負けたら、そんな、こんな、あんな食べ方をするというのに」
キ、キマシタワー!
「気を付けた方がええよ。ミンナトは男でも女でも食べれる、肉食系を超えた、暴食系やからね」
えっ、そうだったのですか!
負けたら、俺たちは酒池肉林の酒と肉になるんですか!
俺の桃闇のエロさが有頂天でとどまる所を知らない状態になりますよ!
「これいい! いけるわ! 勝てるわよ、私たち!」
相当、美味かったのだろう、部長が立ち上がり、拳を握りしめて言う。
そうか、いいのか、ええんか、グヘヘ。
「あー、坊、エロいこと考えとるね。好きやねぇ」
ツクルトさん! 気づいてしまいましたか!?
「でも、それは夜に取っときな。今は料理勝負に集中や。これでも食って落ち着きな、忍者さんもや」
そう言って、ツクルトさんが柔らかな手で俺と師匠にかまぼこを運ぶ。
『手作りかまぼこシベリア風』は何度か食べた事がある。
だが、そのどの記憶よりもこれは美味かった。
舌平目という高級素材の差だろうか。
それもあるだろうが……、これは……。
「そもそも、あたいらは一次欲求を満たす為に料理しとるんや。だから、食べることだけじゃなく、夜の事も……」
ツクルトさんが何やらエロい事を言っているが、そうじゃない、そうだ……、そうだ!
俺は審査員席を見る。
俺の予想通り、席には料理とドリンクが置かれていた。
「し、師匠! まずいかもしれません!」
「落ち着け少年! 少年の危惧が当たっている! だが! 勝負はまだ付いておらぬ!」
俺は蘭子を見る。
「これは『竜の舌』の名物料理なんですよ~、ぜひ食べに来てね~」
蘭子は呑気に店の宣伝をしている。
彼女の行動は正しい、間違っていない、だけど……。
いや、タベルトさんの料理を食べぬうちに決めてはいけない。
「蘭子選手の『手作りかまぼこシベリア風』は非常に好評でした。それでは、次の審査に行ってみましょう」
司会者の声と共に、俺たちの前にタベルトさんの料理が運ばれてくる。
これは……もり塩!?
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