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第四章 準々決勝
その11 彼女は素敵な月の女王
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「くわー! はっはっはっ!」
部長が嗤う。
とても美少女JKとは思えない。
あれは20年以上のキャリアを持つ女優の嗤いだ。
「んー、何を驚いているのかしら!?」
「ええと、お題が矛盾しているのではないかと思いますが」
「くわっー、はっはっはっ! 愚かな! 全く愚かとしか言いようがないわ! 精進料理が牛肉で作れないとでも言うのじゃろうかか! たわけめ! 私は作れるわよ! もし、そっちが作れないのなら、私の勝利って事でいいかのう?」
大きな山羊を模した被り物の首を大きく曲げ、挑発するようにミンナトさんを覗き込みながら部長が言う。
「そんな物、作れるわけ……、あるわよ! こと肉においてわたしが遅れを取る事はないわ!」
おおっ、挑発にのったぞ!
会場からも『おおーっ』という声があがる。
なんだかんだ言っても、みんなこの矛盾したお題をどう解決するか楽しみなんだな。
「お題を受領しまシタ。これから審査員を表示しマス。調理時間は2時間デス」
いつもの機械合成音が流れ、そして審査員が表示されていく。
おおっ、僧職の方もいるぞ。
ん、部長が俺に何か目配せしている、そして俺の携帯に着信が入る。
そこには部長から『お坊さんと会話して私をアシストしなさい』とメッセージが入っていた。
相変わらずスゴイブラインドタッチの技だな。
俺は親指を立て、部長に合図を送ると、ニンジャよろしくシュタタタタと移動を始めた。
「あいや、そこなる御仁。名高い高僧と見受けるが、ちとよろしいかな?」
「ふむ、拙僧は修行中の身、高僧と呼ばれる事には抵抗があるが良いぞ」
「まず、お名前を伺ってよろしいかな。俺はニンジャコックと申す」
「ふむ、拙僧は慈道と申す。破悪権院の慈道、慈しむ道と書きます」
うーん、字面は普通なのだが、ラスボス系僧侶みたいな名前だ。
「ふむ、拙僧に尋ねたい事とは何かな?」
「ニンジャは精進料理を知らぬ、基本から説いて頂きたい」
この会話はもちろんマイクをオンにしている。会場はおろか部長やミンナトさんにも聞こえているだろう。
「ふむ、では解りやすく説明しましょう。精進とは悟りを開き仏に至るために努力する事じゃ。精進料理とはその修行の一環の料理で、戒律を守った食事の事じゃな。戒律には不殺生があり、肉食が禁じられているのはこのためですな」
「ほほう、それでは牛肉を使った精進料理なんて無理だと? そもさん!」
「ふむ、せっぱ!」
滋道さんは柔らかい笑みを浮かべて言った。
穏やかで良い表情だ。
俺も思わず教えを聞きたくなってしまいそうだ。
これが、高僧のオーラというやつか。
「肉食は確かに忌避すべきだが、必ずしもそうではない。ほれ、あれを見るがよい」
慈道さんが示す先には、ミンナトさんが用意した肉があった。
あれは、すね肉に似ているような気がするが。
「おーっと、ミンナト選手が取り出したのは牛肉だが、これで精進料理になるのかー!?」
「精進料理は殺生を禁じています。だから肉は使えません。だったら殺生をしなければいいのです! これは! 天寿を全うして老衰で死んだ牛から頂いた大地の恵みです!」
おおー、と会場から歓声が上がる。
そして視線が俺に、いや滋道さんに集まっている。
「ふむ、仏道には三種の浄肉というのがあってな、ある条件を満たせば供される肉を食べても良いとされておる」
「ほほう、その条件とは?」
「ふむ、その条件とは『見・聞・疑』、すなわち
『殺される所を見ていない』
『自分に料理を供するために殺されたと聞いていない』
『自分に料理を供するために殺されたらしいと疑いを持つ余地がない』
の3条件じゃな」
「それでは、あのミンナトさんの肉はその条件を満たしておると?」
「ふむ、老衰であれば殺生とは言えぬ。あの肉ならば良しである」
ほほー、という声が会場から上がった。
「なるほど、肉食は絶対ダメという事ではないのだな。では、乳製品や酒はどうだ? 俺の記憶が確かならば、戒律には不飲酒戒という酒を禁ずる戒律もあったと思うが」
「ふむ、乳製品は大丈夫じゃよ。過去には蘇や醍醐という牛乳の加工製品も供されておった。牛乳は本来、子牛の物であるからの、子牛を押しのけ、飢えさせるような形で牛乳を奪った物でなければ大丈夫じゃ。まあ、そんな事はなかろうて、お釈迦様も断食明けに乳粥を食べた逸話もある」
蘇は現代で言う所のチーズのような物と聞いた事がある。
ん、今、ミンナトさんと一瞬視線が合ったような。
いや、こっちを見ているのだな。
老牛の肉を煮込み始めているが、その材料の吟味に慈道さんの会話を参考にしようとしているのだろう。
俺は覆面の下でニヤリと笑う。
「では、お酒はどうなのだ? 具体的には料理酒とかは?」
「ふむ、飲酒は禁じられておる。だが、それは飲酒により不道徳をしたり、戒律を破らないようにするためなのじゃよ。つまり、酔った勢いで、拙僧とまじわる色欲の夜になったりするのを防ぐためじゃな」
こいつ! 心の桃闇を戒めている!
「ふむ、じゃが、アルコール分を飛ばせば大丈夫じゃ、酔って心が乱れるのを禁じているのじゃよ。故に料理酒は問題ない」
「これはご高説ありがたく存じる。部長もそれを肝に銘じて料理をするでしょう」
「ふむ、拙僧が言った事は宗派によって変わる。あくまでも拙僧が精進料理として食べられるという前提じゃ。じゃが、その部長とやらは全く肉を準備していないようじゃが!?」
へ? 部長、何をしているんですかー!?
「あら、肝心の肉が出てきていないじゃないの。サレンダーなの?」
部長の様子に気付いたのだろう、ミンナトさんが部長に声を掛ける。
というか、部長! 衣装すら脱いでいないじゃないですかー!?
部長はスパイスの準備をしているだけだ。
「くうぇーけけっ、まだまだ、お楽しみはこれからじゃよ。まあ、もう少し待っておれ」
部長が汗をかいているように見えるのは気温のせいだけじゃない。
未だに着ている魔女の衣装のせいじゃない……と思う。
おそらく、部長の予想より配送に時間が掛かっているのだろう。
「そう、まさか古代中国にあったような豚の尻肉を削いで、傷を泥で塞ぎ、治ったら再度削ぐような肉を持ってくるのではないでしょうね」
げっ、そんな拷問のような肉の採り方があったのか。
「ご存知ないかもしれませんが、精進には不道徳を禁じていますのよ。生き物を苦しめるような形で手に入れた肉はダメですのよ」
「くうぇ、へっへっ、その言葉、そっくりお返しするわ! さて、私の肉が届いたようじゃぞ」
泥棒猫のマークが入った宅配人が部長に駆け付けて来た。
そして、部長が配達された肉を調理台に取り出す。
それは、白い幕に赤い水玉が入ったグロテスクな物だ。
内臓系か!?
「そ、それは!?」
ミンナトさんの顔色が変わる。
「気づいたようね! 逆転の発想よ! この肉を入手する時に殺生は行われていない! 命も失われていない! むしろ命が生まれている!」
白い幕を取り除き、赤い塊の部分を取り出しながら部長が叫ぶ!
「な、撫子選手! その命が生まれている肉とは!? まさか!?」
司会の人が少し興奮気味に問いかける。
「これは今朝生まれたての、牛の胎盤よ!」
その手があったか!
部長が嗤う。
とても美少女JKとは思えない。
あれは20年以上のキャリアを持つ女優の嗤いだ。
「んー、何を驚いているのかしら!?」
「ええと、お題が矛盾しているのではないかと思いますが」
「くわっー、はっはっはっ! 愚かな! 全く愚かとしか言いようがないわ! 精進料理が牛肉で作れないとでも言うのじゃろうかか! たわけめ! 私は作れるわよ! もし、そっちが作れないのなら、私の勝利って事でいいかのう?」
大きな山羊を模した被り物の首を大きく曲げ、挑発するようにミンナトさんを覗き込みながら部長が言う。
「そんな物、作れるわけ……、あるわよ! こと肉においてわたしが遅れを取る事はないわ!」
おおっ、挑発にのったぞ!
会場からも『おおーっ』という声があがる。
なんだかんだ言っても、みんなこの矛盾したお題をどう解決するか楽しみなんだな。
「お題を受領しまシタ。これから審査員を表示しマス。調理時間は2時間デス」
いつもの機械合成音が流れ、そして審査員が表示されていく。
おおっ、僧職の方もいるぞ。
ん、部長が俺に何か目配せしている、そして俺の携帯に着信が入る。
そこには部長から『お坊さんと会話して私をアシストしなさい』とメッセージが入っていた。
相変わらずスゴイブラインドタッチの技だな。
俺は親指を立て、部長に合図を送ると、ニンジャよろしくシュタタタタと移動を始めた。
「あいや、そこなる御仁。名高い高僧と見受けるが、ちとよろしいかな?」
「ふむ、拙僧は修行中の身、高僧と呼ばれる事には抵抗があるが良いぞ」
「まず、お名前を伺ってよろしいかな。俺はニンジャコックと申す」
「ふむ、拙僧は慈道と申す。破悪権院の慈道、慈しむ道と書きます」
うーん、字面は普通なのだが、ラスボス系僧侶みたいな名前だ。
「ふむ、拙僧に尋ねたい事とは何かな?」
「ニンジャは精進料理を知らぬ、基本から説いて頂きたい」
この会話はもちろんマイクをオンにしている。会場はおろか部長やミンナトさんにも聞こえているだろう。
「ふむ、では解りやすく説明しましょう。精進とは悟りを開き仏に至るために努力する事じゃ。精進料理とはその修行の一環の料理で、戒律を守った食事の事じゃな。戒律には不殺生があり、肉食が禁じられているのはこのためですな」
「ほほう、それでは牛肉を使った精進料理なんて無理だと? そもさん!」
「ふむ、せっぱ!」
滋道さんは柔らかい笑みを浮かべて言った。
穏やかで良い表情だ。
俺も思わず教えを聞きたくなってしまいそうだ。
これが、高僧のオーラというやつか。
「肉食は確かに忌避すべきだが、必ずしもそうではない。ほれ、あれを見るがよい」
慈道さんが示す先には、ミンナトさんが用意した肉があった。
あれは、すね肉に似ているような気がするが。
「おーっと、ミンナト選手が取り出したのは牛肉だが、これで精進料理になるのかー!?」
「精進料理は殺生を禁じています。だから肉は使えません。だったら殺生をしなければいいのです! これは! 天寿を全うして老衰で死んだ牛から頂いた大地の恵みです!」
おおー、と会場から歓声が上がる。
そして視線が俺に、いや滋道さんに集まっている。
「ふむ、仏道には三種の浄肉というのがあってな、ある条件を満たせば供される肉を食べても良いとされておる」
「ほほう、その条件とは?」
「ふむ、その条件とは『見・聞・疑』、すなわち
『殺される所を見ていない』
『自分に料理を供するために殺されたと聞いていない』
『自分に料理を供するために殺されたらしいと疑いを持つ余地がない』
の3条件じゃな」
「それでは、あのミンナトさんの肉はその条件を満たしておると?」
「ふむ、老衰であれば殺生とは言えぬ。あの肉ならば良しである」
ほほー、という声が会場から上がった。
「なるほど、肉食は絶対ダメという事ではないのだな。では、乳製品や酒はどうだ? 俺の記憶が確かならば、戒律には不飲酒戒という酒を禁ずる戒律もあったと思うが」
「ふむ、乳製品は大丈夫じゃよ。過去には蘇や醍醐という牛乳の加工製品も供されておった。牛乳は本来、子牛の物であるからの、子牛を押しのけ、飢えさせるような形で牛乳を奪った物でなければ大丈夫じゃ。まあ、そんな事はなかろうて、お釈迦様も断食明けに乳粥を食べた逸話もある」
蘇は現代で言う所のチーズのような物と聞いた事がある。
ん、今、ミンナトさんと一瞬視線が合ったような。
いや、こっちを見ているのだな。
老牛の肉を煮込み始めているが、その材料の吟味に慈道さんの会話を参考にしようとしているのだろう。
俺は覆面の下でニヤリと笑う。
「では、お酒はどうなのだ? 具体的には料理酒とかは?」
「ふむ、飲酒は禁じられておる。だが、それは飲酒により不道徳をしたり、戒律を破らないようにするためなのじゃよ。つまり、酔った勢いで、拙僧とまじわる色欲の夜になったりするのを防ぐためじゃな」
こいつ! 心の桃闇を戒めている!
「ふむ、じゃが、アルコール分を飛ばせば大丈夫じゃ、酔って心が乱れるのを禁じているのじゃよ。故に料理酒は問題ない」
「これはご高説ありがたく存じる。部長もそれを肝に銘じて料理をするでしょう」
「ふむ、拙僧が言った事は宗派によって変わる。あくまでも拙僧が精進料理として食べられるという前提じゃ。じゃが、その部長とやらは全く肉を準備していないようじゃが!?」
へ? 部長、何をしているんですかー!?
「あら、肝心の肉が出てきていないじゃないの。サレンダーなの?」
部長の様子に気付いたのだろう、ミンナトさんが部長に声を掛ける。
というか、部長! 衣装すら脱いでいないじゃないですかー!?
部長はスパイスの準備をしているだけだ。
「くうぇーけけっ、まだまだ、お楽しみはこれからじゃよ。まあ、もう少し待っておれ」
部長が汗をかいているように見えるのは気温のせいだけじゃない。
未だに着ている魔女の衣装のせいじゃない……と思う。
おそらく、部長の予想より配送に時間が掛かっているのだろう。
「そう、まさか古代中国にあったような豚の尻肉を削いで、傷を泥で塞ぎ、治ったら再度削ぐような肉を持ってくるのではないでしょうね」
げっ、そんな拷問のような肉の採り方があったのか。
「ご存知ないかもしれませんが、精進には不道徳を禁じていますのよ。生き物を苦しめるような形で手に入れた肉はダメですのよ」
「くうぇ、へっへっ、その言葉、そっくりお返しするわ! さて、私の肉が届いたようじゃぞ」
泥棒猫のマークが入った宅配人が部長に駆け付けて来た。
そして、部長が配達された肉を調理台に取り出す。
それは、白い幕に赤い水玉が入ったグロテスクな物だ。
内臓系か!?
「そ、それは!?」
ミンナトさんの顔色が変わる。
「気づいたようね! 逆転の発想よ! この肉を入手する時に殺生は行われていない! 命も失われていない! むしろ命が生まれている!」
白い幕を取り除き、赤い塊の部分を取り出しながら部長が叫ぶ!
「な、撫子選手! その命が生まれている肉とは!? まさか!?」
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その手があったか!
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