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第四章 準々決勝
その12 彼女は愉快な混沌の女王
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「撫子選手の肉は胎盤だー! 確かに、これなら殺生に至らず、命が生まれているー!」
「そうじゃ、胎盤は母親と赤ちゃんを繋ぐ組織よ! そして出産と同時に排出される! むしろ排出されないと危険なので排出させなくてはいけないのじゃ!」
司会の人に合わせて部長が解説する。
「牛の胎盤はヒトのような大きな塊の盤状胎盤にならず、多胎盤と呼ばれる小さな塊になるのじゃ、これを膜から外せば、ホレ、この通りじゃ!」
片手に握りしめられる大きさの赤い塊を上に掲げ、部長は叫んだ。
うーんちょっとグロテスクだな。
料理人にとっては平気かもしれないが、観客の人は少し引いているぞ。
「胎盤の行く末は、母牛に食べられるか、産業廃棄物となるか、地に還るかじゃが……、無論! 食べる事が可能じゃ! 人がヒトの胎盤を食う事もあれば、東南アジアやインドでは牛の胎盤食が文化としてある地域もあるのじゃ、恐れいったのかの!? ぐうぇへっへっへっ」
目に妖しい輝きを浮かべて部長が言う。
もはや美少女JKよりも、サイケデリックJKと言った方が近い。
きっと全方位学園人気女子ランキングはダダ落ちだな。
「んー、どーう? どーら? 今からでも胎盤を調達してもいいのよ? 調達できるんならねぇ!! くわーかっかか」
「くっ、そんなの準備しているはずないでしょ!」
「だろうなぁ、どどーら? どーら? どどどら どーら? どどらら どどらら さあどーら? くうぃひっひっ!!」
部長が月の素敵な悪の魔女のようなリズムに合わせて挑発する。
ペースは部長だが、肝心の料理はどうなんだ!?
不殺生という精進料理の要件は満たしていても、肝心の味は大丈夫なのか?
特別審査員席は少し高い位置にあるので、キッチンステージの様子が良く見える。
ミンナトさんは老牛の赤ワイン煮込みだ。
あの筋の多さはおそらくスネ肉だろう。
定番だが美味だ、圧力鍋を使っているので、トロトロの柔らかい仕上がりになるだろう。
対する部長も煮込みだ、レモングラスと黒胡椒で煮込んでいる所を見ると、インド風の黒胡椒煮込みになるのであろう。
スライスした物は焼き肉にでもするのかな。
技術で劣る部長が考えた末に出した調理法なのだろう。
ミンナトさんはソースに取り掛かっている。
あれは圧力鍋から取り出した玉ねぎと赤ワインの煮汁と生クリームと……
それを見た時、俺は確信した。
俺のアシストと部長の知恵、これはその成果だ!
◇◇◇
「それでは、試食ターイム! 精進料理と牛肉という困難なお題から二人は見事な料理を作りました! では、そのお味を見てみましょう! まずは先攻の撫子選手の料理からです」
部長の料理が審査員の前に並べられる。
「これが私の『牛胎盤の岩盤焼きと黒胡椒煮込み』よ!」
うーん、部長にしては平凡なネーミングだ。
岩盤焼きの上には刻まれた緑の葉が載せられている。
「これは……、葉ワサビね!?」
特別審査員の一人が驚きの声を上げる。
「そうじゃ! 胎盤には内臓系の生臭さがあるでな、美味しく頂くにはスパイスが必要なのじゃ!」
そうか、葉ワサビか。
「うん、ピリッとした刺激が食欲をそそるね」
「黒胡椒煮もいけるわ。レモングラスの香りも良いわ。まあ、肉の味は感じないというか損なっているかもしれないけど」
「慈道さん、刺激物は大丈夫なのですか?」
「心配無用じゃよ。宗派によっては五葷と呼ばれるニンニクなどのネギ類が禁じられておるが、拙僧は大丈夫じゃ。ちなみに五葷は宗派だけではなく地域によっても違うぞ。東南アジアではパクチーが禁じられている所もある」
慈道さんが解説してくれる。
そうか、パクチーが駄目な所もあるのか、本当に様々だな。
「これは中々の評価! 胎盤という難しい食材をハーブやスパイスで食べやすく調理したー!!」
俺は未だに慈道さんの隣に立っている、いや忍んでいる。
慈道さんは穏やかな語り口の通りニコニコした表情で部長の料理を食べた。
他の審査員の評価も良さそうだ。
だが、驚きが少ない。
これは普通のレストランで美味しい食事が出て来た時の感想だ。
及第点のちょっと上といった感じか。
「それでは続いてミンナト選手の審査に参りましょう!」
「はい、これがわたしの『老牛スネ肉の赤ワイン煮込みです』」
ミンナトさんの料理が審査員たちの前に並ばれられた。
匂いだけで分かる。
あっ、これうまいやつー!
そして、俺の判断は間違いではないのであった。
「これ何!? トロトロしている! そしてソースのピリッとした刺激!」
「この刺激が食欲をそそって、肉を口に運ばせるわ!」
「何だろう、これ? 俺、食べた事があるはずなんだけど……、わからん!」
「老牛の肉は硬いし、スネ肉はもっと硬いはずなのに、口の中でホロホロと蕩けていくわ!」
俺は冷静だ。
食べたくて仕方がないが、もう少し待てばご相伴にあずかれるのが分かっているからな。
「秘密はソースの隠し味に入れたブルーチーズです」
そう、俺は見ていた、赤ワインと玉ねぎから作っていたソースに生クリームとブルーチーズが加えられていたのを。
「そうか! このピリッとした味わいはブルーチーズか!」
「このソース美味しいわ! あーパンが欲しい! 付けて食べたい!」
一般審査員からも特別審査員からも賞賛の声が上がる。
ただ一人を除いては。
俺は指で丸を作り、部長に合図を送る。
「くっ、くっ、くっ……、くわーはっはっはっ!!」
突如として奇声を上げ始めた部長に視線が集まる。
「何がおかしいのですか? それとも頭がおかしいのですの?」
「あたまはおかしくないわー!! 嗤っておるのは、不憫で哀れじゃからだ!! おぬしの足りない頭と未来を奪われた命にのぉ!」
くわっかかか、と嘲笑するような嗤いを伴いながら部長が言う。
「何を言ってますの? わたしの料理は天寿を全うした肉を使った精進料理ですわよ」
ミンナトさんが抗議の声を上げる。
「くっくく、このスコープで覗いてみれば分かるわぁ!」
そう言って部長は手で望遠鏡を作り、慈道さんを覗き込んだ。
自然と全員の視線が慈道さんに集まった。
そして気づく、慈道さんの皿の異変を。
「あーっ! ミンナト選手の料理に手が付けられていない! これはどういった事でしょう!?」
「そうじゃ、胎盤は母親と赤ちゃんを繋ぐ組織よ! そして出産と同時に排出される! むしろ排出されないと危険なので排出させなくてはいけないのじゃ!」
司会の人に合わせて部長が解説する。
「牛の胎盤はヒトのような大きな塊の盤状胎盤にならず、多胎盤と呼ばれる小さな塊になるのじゃ、これを膜から外せば、ホレ、この通りじゃ!」
片手に握りしめられる大きさの赤い塊を上に掲げ、部長は叫んだ。
うーんちょっとグロテスクだな。
料理人にとっては平気かもしれないが、観客の人は少し引いているぞ。
「胎盤の行く末は、母牛に食べられるか、産業廃棄物となるか、地に還るかじゃが……、無論! 食べる事が可能じゃ! 人がヒトの胎盤を食う事もあれば、東南アジアやインドでは牛の胎盤食が文化としてある地域もあるのじゃ、恐れいったのかの!? ぐうぇへっへっへっ」
目に妖しい輝きを浮かべて部長が言う。
もはや美少女JKよりも、サイケデリックJKと言った方が近い。
きっと全方位学園人気女子ランキングはダダ落ちだな。
「んー、どーう? どーら? 今からでも胎盤を調達してもいいのよ? 調達できるんならねぇ!! くわーかっかか」
「くっ、そんなの準備しているはずないでしょ!」
「だろうなぁ、どどーら? どーら? どどどら どーら? どどらら どどらら さあどーら? くうぃひっひっ!!」
部長が月の素敵な悪の魔女のようなリズムに合わせて挑発する。
ペースは部長だが、肝心の料理はどうなんだ!?
不殺生という精進料理の要件は満たしていても、肝心の味は大丈夫なのか?
特別審査員席は少し高い位置にあるので、キッチンステージの様子が良く見える。
ミンナトさんは老牛の赤ワイン煮込みだ。
あの筋の多さはおそらくスネ肉だろう。
定番だが美味だ、圧力鍋を使っているので、トロトロの柔らかい仕上がりになるだろう。
対する部長も煮込みだ、レモングラスと黒胡椒で煮込んでいる所を見ると、インド風の黒胡椒煮込みになるのであろう。
スライスした物は焼き肉にでもするのかな。
技術で劣る部長が考えた末に出した調理法なのだろう。
ミンナトさんはソースに取り掛かっている。
あれは圧力鍋から取り出した玉ねぎと赤ワインの煮汁と生クリームと……
それを見た時、俺は確信した。
俺のアシストと部長の知恵、これはその成果だ!
◇◇◇
「それでは、試食ターイム! 精進料理と牛肉という困難なお題から二人は見事な料理を作りました! では、そのお味を見てみましょう! まずは先攻の撫子選手の料理からです」
部長の料理が審査員の前に並べられる。
「これが私の『牛胎盤の岩盤焼きと黒胡椒煮込み』よ!」
うーん、部長にしては平凡なネーミングだ。
岩盤焼きの上には刻まれた緑の葉が載せられている。
「これは……、葉ワサビね!?」
特別審査員の一人が驚きの声を上げる。
「そうじゃ! 胎盤には内臓系の生臭さがあるでな、美味しく頂くにはスパイスが必要なのじゃ!」
そうか、葉ワサビか。
「うん、ピリッとした刺激が食欲をそそるね」
「黒胡椒煮もいけるわ。レモングラスの香りも良いわ。まあ、肉の味は感じないというか損なっているかもしれないけど」
「慈道さん、刺激物は大丈夫なのですか?」
「心配無用じゃよ。宗派によっては五葷と呼ばれるニンニクなどのネギ類が禁じられておるが、拙僧は大丈夫じゃ。ちなみに五葷は宗派だけではなく地域によっても違うぞ。東南アジアではパクチーが禁じられている所もある」
慈道さんが解説してくれる。
そうか、パクチーが駄目な所もあるのか、本当に様々だな。
「これは中々の評価! 胎盤という難しい食材をハーブやスパイスで食べやすく調理したー!!」
俺は未だに慈道さんの隣に立っている、いや忍んでいる。
慈道さんは穏やかな語り口の通りニコニコした表情で部長の料理を食べた。
他の審査員の評価も良さそうだ。
だが、驚きが少ない。
これは普通のレストランで美味しい食事が出て来た時の感想だ。
及第点のちょっと上といった感じか。
「それでは続いてミンナト選手の審査に参りましょう!」
「はい、これがわたしの『老牛スネ肉の赤ワイン煮込みです』」
ミンナトさんの料理が審査員たちの前に並ばれられた。
匂いだけで分かる。
あっ、これうまいやつー!
そして、俺の判断は間違いではないのであった。
「これ何!? トロトロしている! そしてソースのピリッとした刺激!」
「この刺激が食欲をそそって、肉を口に運ばせるわ!」
「何だろう、これ? 俺、食べた事があるはずなんだけど……、わからん!」
「老牛の肉は硬いし、スネ肉はもっと硬いはずなのに、口の中でホロホロと蕩けていくわ!」
俺は冷静だ。
食べたくて仕方がないが、もう少し待てばご相伴にあずかれるのが分かっているからな。
「秘密はソースの隠し味に入れたブルーチーズです」
そう、俺は見ていた、赤ワインと玉ねぎから作っていたソースに生クリームとブルーチーズが加えられていたのを。
「そうか! このピリッとした味わいはブルーチーズか!」
「このソース美味しいわ! あーパンが欲しい! 付けて食べたい!」
一般審査員からも特別審査員からも賞賛の声が上がる。
ただ一人を除いては。
俺は指で丸を作り、部長に合図を送る。
「くっ、くっ、くっ……、くわーはっはっはっ!!」
突如として奇声を上げ始めた部長に視線が集まる。
「何がおかしいのですか? それとも頭がおかしいのですの?」
「あたまはおかしくないわー!! 嗤っておるのは、不憫で哀れじゃからだ!! おぬしの足りない頭と未来を奪われた命にのぉ!」
くわっかかか、と嘲笑するような嗤いを伴いながら部長が言う。
「何を言ってますの? わたしの料理は天寿を全うした肉を使った精進料理ですわよ」
ミンナトさんが抗議の声を上げる。
「くっくく、このスコープで覗いてみれば分かるわぁ!」
そう言って部長は手で望遠鏡を作り、慈道さんを覗き込んだ。
自然と全員の視線が慈道さんに集まった。
そして気づく、慈道さんの皿の異変を。
「あーっ! ミンナト選手の料理に手が付けられていない! これはどういった事でしょう!?」
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