超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

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第五章 準決勝

その17 今にも落ちてしまいそうな空腹の下で

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 「やったわ! 私たちの勝利よ!」
 「りっくん! すてき~!」
 「ぐ、ぐぬぬ……むき―! むかー! げっぱー!!」
 「あ~ら、くやしいのね。無理もないわ、ここまで準備して、卑怯な真似をして負けたら面目が立たないものね。あー今晩は美味いお酒が飲めそうだわ~」

 体力が回復してすっかり元気を取り戻した部長がうざ子に絡んでいる。

 「だから! そこ! 上品に、上品にと言っただろうが!」
 「でもパパ! 納得いかないわ!」
 「うぞうむぞうおじさん! 信じていたわ! やっぱ孫の中で一番可愛いと言われる私が魅力的だって事ね!」
 「たとえお前が可愛いボクだとしても、私情は挟まんと言ってるだろうに! ええから聞け!」

 うん、こいつらの血は絆よりも濃いぞ。

 「両者の料理は素晴らしい物でした。『フランス料理フルコース高級ワイン付き』と『B級』、そして『料理としての完成度』この3つでは、重きを置く所が両者違えども、最高の水準で仕上げられており、甲乙着けがたい、いや甲乙着けられない物でした」

 会場の審査員たちもそれに同調してうんうんと頷く。

 「だが、そこにあえて差を着けるとしたならば。ニンジャコック選手のコースは『外で食べる事を前提としたコース』であった事です」

 会場から『おおー』という声が上がった。

 「真紅選手、あなたにお尋ねしますが、もしあなたが『野外パーティでコース料理を振舞って欲しい』とリクエストを頂いたならば、どんなコースにしますか?」
 「理解しました。そのオーダーを頂いたなら、わたしは野外で最も効果的で美味しく頂ける料理を出します。時には煙が出る料理や、ガラスの器の光の反射まで計算に入れた料理などです」
 「そうです。ニンジャコック選手は前菜のグラトンを目の前で揚げ、香りが会場に広がるスープを出し、太陽の光とその錯覚を利用した肉料理で驚かせ、そして解放感溢れる非日常のイベントで盛り上がるデザートで締めくくりました、全てが野外向け、いや野外で食べる事で最も美味しくなる料理だったのです!」

 あっ、そう言われてみれば……

 「そうだ少年! そこが少年のコースの100点を超える1000点にも達するポイントだ! 正直、拙者も驚嘆したぞ!」
 「あー、し、師匠、ナイショですが、俺は、B級料理というかB級グランプリというイベントをイメージして演出しただけなんです……なんです」
 「さ、左様であったか!? まさにB級オブB級だな! 息が花となるような乙女でなく、息がギャグになるような男子おのこのようだ! 存在そのものがB級と言っても良い!」

 師匠! まったく褒められている気がしません!

 「真紅選手、ここが素敵なレストランの一室だったら、今日が雨天で室内対決になっていたら、あなたの勝利だったでしょう」
 「いいえ『B級』というお題に惑わされて、ここが野外イベントの最中さなかである事を失念していたわたしの過ちです。わたしの……負けです」
 
 「決着ー!! 準決勝第一試合は『料理愛好倶楽部』の勝利だー! 完全なダークホースだが、この場のみんなは知っている! そして何よりも、戦った好敵手ライバルたちが知っている。その実力は折り紙付きだー! この素晴らしい名勝負をしてくれた両チームに惜しみない拍手をー!!」

 割れんばかりの拍手の嵐が俺たちに降りかかる。

 長かった、本当に長かった……
 というか、もう一番星が見える時間じゃねーか!
 時計の針は18時を回り、夜の帳が降りようとしていた。
 ドスンと俺は尻もちを着く。

 「無事か、少年!?」
 「大丈夫ですか? 長丁場でしたからね」
 
 師匠と真紅さんが俺に手を伸ばしてくる。
 俺は迷わず真紅さんの手を取る。
 男ならば当然だ。

 ドスン

 真紅さんが尻もちを着いた音だ。

 「あら、わたしも限界のようですね」

 彼女も膝に力が入らなかったのだ。
 
 「ふふっ」
 「あははっ」
 「あなたの言う通りでしたね。わたしが膝を屈する事になりました」

 俺たちは見つめ合い笑い合う。

 「良い勝負でした。負けたのは正直悔しいですが、わたしは全力を出し切りました。あなたの料理になら負けても本望です。この気持ちは、わたしにしかわからないでしょう」
 「正直勝てるとは思わなかった。俺はただ全力で料理しただけだった。思い出す事、明日の事、考えるべき事は多くあるけれども、今、俺が考えている事は、ただひとつだ」
 「何ですか? ひょっとしてわたしと同じですか?」
 「そうだな、同じだと思うぞ」
 「君の……」
 「あなたの……」
 「「料理が食べたい!」」

 ぐうぅううう~!

 ふたりの腹が鳴った。

◇◇◇◇

 「うまうまー!」

 俺は煮込みハンバーグのパイ包みを口に頬張っている。
 大口を開けて食べるその中からはデミグラスソースの濃厚な味と、その濃厚な味を上回る肉と肉汁の味が溢れ出す。

 「こっちの鮭の皮のガランティーヌ風も良いぞ!」

 師匠は覆面の隙間から器用に食べている。

 「ポリポリ……とまらないにゃー! たまらないにゃー! もう、これだけでいいにゃー! いや、お酒ちょうだい! にゃんでもするから!」
 「茶華さん、下品ですよ。このロストビーフはふざけたネーミングとは裏腹に良い味ですね。ポン酢ジュレと大根おろしソースをゼリーで固めれば……いや、それならいっそ冷凍大根おろしをマス状に凍らせた物を被せた方が……」

 茶華さんはグラトンをポリポリと食べながらお酒をくいっと呑み、真紅さんはロストビーフのバリエーションを食べながら考えている。

 「真紅さん、このコースってひょっとして全て冷凍食品やレトルトに出来るのでは?」

 コースを食べながら俺は気づいた事を語りかける。

 「ええ、それも意識してコースを作りました」
 「ふはははは! マゼンダさん監修フルコース量産の暁には! 冷凍市場などあっという間に叩いてくれるわ!」
 「にゃは! 1000円でフルコースが味わえて、電子レンジで10分で出せるにゃよ!」
 「うむ、欧州では冷凍食品を使ったフルコースが一般的とも聞く。これは日本での鏑矢かぶらやとなるかもしれぬな」
 「欧州では逆に冷凍食品を使わないコースがアピールポイントになっています。でも、市民への普及という点では良いアプローチになるでしょう。わたしにはわかります」
 
 茶華さんの試算通り1000円でこのコースが食べれるのなら、妹や弟の誕生日に食べさせてやれる。
 
 「なんで、それを言わなかったの?」

 部長が問いかける。

 「今回の『B級』対決では、日常のB級よりも、非日常のB級の方が評価されると思いましたので。でも、気づいて貰えて嬉しいです。さすが、将来の旦那様です。わたしにはお似合いです」

 はい!?

 「なんあなんああ~! なに言ってんの!? りっくんは、あたしの王子様なんだから!」
 「ちょちょちょうにょ! ちょっと待って! この流れで、なんでそんな話になるわけ!?」
 「さきほど、お互いにお互いの『料理が食べたい』と言い、そして二人は食べ合いました。あれは日本ではプロポーズの意味を持つと聞きます。わたしは知っています」

 あー、あの時か。

 「た、たとえ、『君の味噌汁が飲みたい』と言って、本当に味噌汁を出す未亡人管理人が居たとしても、そんなの許さないわ! そーいうのは、ちゃ、ちゃんと言葉にして言わないといけないと思うわ!」

 まあ、面白いからほっとこう、それよりもデザートデザート。

 「で、陸は彼女のプロポーズを受けるの受けないの?」

 矢面がこっちに向いた。
 真紅さんは美人だ。
 そして、料理も上手く、将来性も高い。
 俺にはもったいないくらいだ。
 だが、俺の桃闇ピンクダークはこう告げる。
 『ハーレムルートを目指せ!』と。

 「んー、保留、保留、とりあえず18歳になるまで待ってくれ」

 ああ、未成年って素晴らしい!

 「わかりました。その日が来るまで待ちましょう。選ばれるのはわたしです。わたしにはわかります」
 「えらばれるのは、あたしなんだから」
 「陸、あんたいつか刺されるわよ」

 ごめんなさい部長、刺さないで下さい。

 「ふむ、2年後の事より明日の事を考えるべきではないか。決勝の相手が決まったぞ」

 控室ではもう一つの準決勝がモニターされている。
 俺たちとは開始時刻がずれていて、夜のゴールデンタイムに3セット目が終わるスケジュールだ。
 だが、ゴールデンタイムにはまだ早い、その理由は簡単だ。
 2セット目で勝負が決まったのだ。

 『魚鱗鮨の紅一点! 安寿あんじゅ選手が早くも勝負を決めてしまったー! スチュワート研究室は大将のスチュワート教授を待たずして決まってしまったー!』

 2セット目で勝負が決まってしまっても、3セット目はエキシビションマッチとして行われる。
 魚鱗鮨は準々決勝もそうだった。

 「あーあ、残念ですわね、撫子さん。寿師翁の本気は見られませんわよ」
 「いや、教授はここで終わるような男ではないわ」
 「部長、あのスチュワート教授を知っているのですか?」
 「ええ、何度かお会いした事があるわ。私の戦略は教授の影響を多分に受けているわ」

 ああ……愉快で挑戦的で、ちょっと卑怯というか、相手の足元をちゃぶ台返しするのが好きそうな人ですね。
 そして、教授は俺の想像通りの人だった。
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