超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

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第六章 幕間~もうひとつの準決勝~

その1 面白ければよかろうなのだー!

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 エキシビションマッチとなった準決勝第二試合3セット目、それはもはや消化試合で、俺たちの望むような相手の力量を間近に見るという事は望めないと思っていた。

 『寿師翁! 頼む! お願いがある!』

 スチュワート教授が相手に懇願する。

 『ふむ、言うてみい』

 少し中華を思わせるコックコートを着て、余裕を思わせる表情で寿師翁じゅしおうが言う。
 前回の優勝者であり、未だ負け知らず、銀座の一等地に店舗を構え、星も手にしている名店だ。

 『勝負は決した。ならば最後に思い出として料理を作らせてくれ! ふたつのお題を両方選ばせて欲しい!』
 『よかろう、好きにするがよい』
 『ありがとうございます!』

 そう言った教授の顔がニヤリと笑ったのを俺は見逃さなかった。

 「あの教授、部長に影響を与えたって言ったよな?」
 「ええ」
 「なら、あの教授の負けだな。負け方を面白くするだけだ」

 部長と同じ思考をするなら、教授が選ぶであろうお題はおのずと分かる。
 
 「言うわね。なら、教授が選ぶお題を当ててみて」
 「簡単さ、彼が言うのは、たったひとつの冴えないお題だな。具体的にはテーマで『この3セット目は3セット分の勝利点とする』さ」

 そして、モニターの中で司会のラウンダがお題を叫ぶ。

 『こ! これはー! こんなお題が許されるのか!? お題は『テーマ:3セット目の勝利点を3セット分とする』と『食材:ひとりあたり、卵1個、砂糖30g、牛乳100ml、小麦粉100g、バター10g、メープルシロップ10ml、塩0.5g』だぁー!!』

 うん、ドンピシャ!

 「やるわね、私と同じ考えだわ」
 「りっくん、すご~い!」
 「でも、もし部長が決勝で同じ事をしたとしても勝てませんよ」
 「え~、どうして? 最後に勝てばいいじゃないの?」
 「簡単さ、第一に審査員の印象が悪すぎる。そして……」
 「そして?」
 「あの寿師翁は、この程度で勝てるほど甘い相手じゃない」
 「そうだな。拙者も同じ見解だ」

 師匠が俺の意見に同意する。

 『引っ掛かったな! うつけめ! 私は特選素材を使って絶品パンケーキを作るぞ! 学者と侮るな! 何度も何度も試行と思考を繰り返し、私が失敗する事は無い! 素材の壁を越えられるかな!?』

 ものスゴイ悪そうな顔をしてスチュワート教授が言う。
 
 『ぐわっははは! 少しは面白くなって来たわ! ならば久々に全力で料理を作って見せようぞ!!』
 『師匠! あの程度の小物、軽くひねって下さい!』
 『父さん! がんばって!』
 『ふっふっふ、そこで見ておるがよい。この寿師翁のスイーツを!』

 初老だが、服の上からも分かる鍛え上げられた筋肉を張り、寿師翁が調理を開始した。
 そして、1時間後、俺の見立ては正しかった事が証明される。

 『決まったー! スチュワート教授88点、寿師翁選手97点! 決勝に進むのは前評判通り、魚鱗鮨だぁー! 番狂わせは2回は起きませんでしたぁー!!』

 スチュワート教授が作ったのは厳選された素材で作った絶品ふわふわパンケーキ。
 あの分量が指定された食材では、パンケーキを作るしかない、そして素材の差が料理の差となるはずだった。
 だが、寿師翁が作ったのはパンケーキではなかった。

 小麦粉を水で練ってバターを加え、薄く広げた物を折りたたんで細長い直方体のパイ状にする。
 牛乳にバターと小麦粉を少々入れ、卵黄と砂糖を混ぜて冷やしアイスクリームにする。
 卵白は砂糖を加え、泡立ててメレンゲにし、ガスバーナーで焦げ目を付ける。
 そして、パイを焼く時には表面に砂糖を塗り、キャラメリゼする。
 パイの一部はごま油で揚げる。
 この時『調理油は食材に入らんよなぁ』と言う事も忘れない。

 出来上がったパイはアイスデップかメレンゲディップか、メープルシロップに付けて食べる。
 俺は真紅さんのデザートを食べた後だったが、それを見た瞬間に別腹が湧いた。

 「師、師匠!」
 「みなまで言うな! 大会が終わったら、同じ物を馳走してやる!」
 「やったぁ~!」
 「先生のスイーツは美味しいもんね!」
 「わたくしも、食べてあげてもよろしくってよ」
 「にゃは! あちしも混ぜてにゃ!」
 「病める時も、健やかなる時も、スイーツを食べる時も、いつも一緒です。わたしは同伴します!」

 今、俺たちの心がひとつに!

 「あれ? でも、師匠はこの大会ではアイスクリームソースは不利だと言っていませんでしたか?」
 
 俺は師匠がブドウ糖のシュークリームを作ってくれた時の事を思い出した。

 「うむ、拙者もそう思っておった。だが、夜である事、アイスソースではなくディップである事、温度差を味わうスイーツでありながら、アイスとパイを別皿にする事でアイスの器をドライアイスで冷やす事を可能としているのだ。寿師翁……あらゆる方面で隙が無く、老いて益々盛んなりといった所か」
 「いや~、私の想像通り、良い悪役を演じてくれたわ、教授は」

 少し嬉しそうに部長が言う。
 やっぱ、部長も同じ考えだったか。

 「え~、あれ演技だったの?」
 「そうだな。あの教授はエキシビションマッチを盛り上げる為に、負けるのを覚悟で、いや確信してあんなお題にしたんだな」
 「ええ、教授は面白い料理勝負が好きだから、番組を盛り上げる為に、あえて、ああしたのよ」
 「いや~、あの恋敵に先んじて超進化態になったようないやらしいわらいい顔は見事だったな」
 「そうね、彼は、優秀で……誠実で……サイコーのエンターテイナーよ」
 
 あんな表情をする人間は、部長の好みに間違いない。
 俺も思わずファンになりそうだった。

 「教授は寿師翁の全力を引き出した点でも評価できますね。ですが、それは、あなたたちに相手の強大さを見せつけただけかもしれませんが」

 そう、寿司とかけ離れたスイーツならば、よもやとも思った。
 だが、今回の勝負をみた限り、あの寿師翁に弱点は……ない。

 「わたしも寿師翁と再戦し、勝利するためには何でもする覚悟でしたが……確実に勝てる方法があるとは言えませんね。わたしにも、わかりません」

 あの真紅さんでも自信がないと言わざるを得ない。
 本当にどうやって勝てばいいんだ……。

◇◇◇◇

 「いよう! 嬢ちゃんたち、坊主! 陣中見舞いに来てやったぞ!」
 
 少し暗い雰囲気になっていた俺たちの前に、聞き覚えのある声の男が入って来た。
 魚吉さんだ。

 「魚吉さん!」
 「嬢ちゃん、昼間はすまなかったな。おれっちがもっと上手くアドバイスできてりゃなー」
 「いいよ~、あたしが気づかなかったのが悪いんだから」
 「そ、そうか、そう言ってもらえると少し心が軽くなるやな。でも、お詫びに俺っちに出来る事なら何でも言ってくれ」
 「わかった~、魚吉さんに頼みたい事があったらお願いするね。でも、応援に来てくれてうれしいな~」
 「はっはっ、イベントは大好きやからな。あと、午後は善子さんと良道さんはお店で応援やったけど、明日の決勝は臨時休業で応援に来るって言ってたで」

 流石に竜の舌を毎晩閉めるわけにはいかない。
 だけど、決勝は終日応援に来てくれるそうだ。
 俺の家族も応援に来る予定だ。

 「そうか~、じゃあ明日はがんばらなくっちゃ。最後だもんね~」
 「で、嬢ちゃんたちと坊主に勝算はあるんか?」

 うっ、痛い所を突かれた。

 「私は一応策はあるけど、勝てるとは言い切れないわ」
 「俺も考えはある、準備もしている。だけど、勝算は五分五分かな?」
 「思った以上に高いわね。さっきの電話がそれ?」

 さっきの電話とは、さっき食べながら江戸川に電話していた件だ。

 「ああ、食材の入手を頼んだ」

 それと引き換えに俺の秘蔵のエロエロスマホゲーのアカウントを渡す事になっている。
 
 「大麻! ニンジャ! 大麻! ニンジャ! って言ってたましたけど、マジックマッシュルームのスープでも作るつもりですか? わたしはわかりません」
 「にゃは! ケシの実をたっぷりのせたドラッグあんパンとかもにゃね!」

 ごめん、どっちでもないです。

 「あたしはどうしようかな~」

 部長は作戦は決まっているようだが、蘭子は決めあぐねているようだ。
 
 「う~ん、りっくん、なでちゃん、何か良い策はない?」

 蘭子が勝てる策か……、真正面から俺や部長が料理バトルすれば、勝負にもならない。
 だけど、蘭子ならば勝負にはなる、でも勝てない。
 蘭子の得意な小料理は、きっとお通しという形で魚鱗鮨でも出されているだろう。
 刺身なら……いや、それでも互角が精々だ。
 部長も悩んでいる。

 「ねぇ、魚吉さん! さっき何でもするって言ってたよね!」
 「ま、まあ、そう言ったが……、出来る事には限りがあるで」
 「大丈夫! 魚吉さんの得意な事だから!」

 そう言って部長は魚吉さんを連れて部屋を出た。
 得意な事とは言っていたが、きっと無茶なお願いをするんだろうな。
 あっ、戻って来た。

 「じゃあ、お願いね」
 「おうよ! まかせとけ!」

 魚吉さんが胸を叩く。
 あれ? 真っ当なお願いだったのかな?

 「じゃあ、嬢ちゃんたち、坊主、俺っちはけえるけど、明日も応援に来るでな」
 「うん、ありがと~」
 「またな、魚吉さん」
 「明日、寝不足にならないでね」
 「安心しな、移動は代行を頼むでな」

 そう言って、手を振って魚吉さんは帰っていった。

 「さて、一息付いたら、わたしたちも引き上げましょう。決勝は今まで以上に消耗します。わたしは知っています」
 
 真紅さんが俺たちに経験則からのアドバイスをくれた。

 「ですが、おいとまする前にお聞きしたい事があります」

 そう言って、真紅さんは師匠に視線を向け、言った。

 「は、をしているのですか?」
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