31 / 100
第2章 夢からさめても
2-7.矛盾の邂逅 グンマー・ニューデン(新田 群馬)
しおりを挟む
書家”グンマー・ニューデン”は本名”新田 群馬”という。
水墨画と能筆を中心に活動する芸術家であり、国内よりも海外での評価が高い。
彼の元へ来客があったのは世間で謎の怪死騒ぎが起きた日の昼過ぎのことだった。
「鈴成君、花畑さん、よく来たね。やはり君は優秀だなぁ」
なごやかな口ぶりで群馬はふたりを歓待する。
「オ茶をどうぞ。ソ茶ですが」
金髪碧眼、和服の女性がふたりの前に緑茶をおく。
「ありがとうございます。いただきます」
凛悟の器には茶柱が立っていた。
「ソれでは、私は奥でひかえてますので。ゴ用があったらおよびクダさい」
日本人より日本人妻らしい仕草で金髪の女性は部屋を離れていく。
「綺麗な方ですね。奥さんですか」
「奥さんですよね。群馬さんの海外成功のきっかけとなった。確か、30年前に結婚されたとか」
移動中に調べた情報を凛悟は披露する。
これは普通なら、貴方のことをよく知っています、という好印象を与えるためのテクニック。
だが今は違う。
お前のことを知っているぞというプレッシャーでもある。
「そうか、もうそんなにも経つのか。こうなるとは思っていなかったなぁ」
だが、群馬はそんなプレッシャーなぞ感じてないかのように飄々と応えた。
「30年ってことは真珠婚式ですね。うらやましい。あたしもセンパイと金銀パールダイヤモンド婚したいなー」
「お嬢さん、そのコツを教えよう。まずは結婚式をすることじゃ。そうすりゃ、あっちゅーまじゃ」
「なるほど! そうだってセンパイ、一緒にがんばりましょ」
なにをだ。
凛悟はそうツッコミたく気持ちを抑える。
「その話はさておき」
「その話はふたりっきりの時にするとしまして」
再びツッコミたくなる気持ちをグッと抑えて、凛悟は一枚の手紙を差し出す。
今朝、学園の前に届けられた謎の手紙だ。
「この手紙は貴方が出したものですね」
「そうじゃ、懐かしいのぉ」
「どうして、俺にこの手紙を出したのです? いや、どうやって俺が、俺達が今朝学園の前に居ると知ったのです?」
「ん? 君はその答えを既に知っておるはずじゃが?」
「はい」
「セ、センパイ!? どういうことです!?」
動揺する蜜子をよそに群馬と凛悟は会話を続ける。
「知っておるのなら、わざわざ儂の所へ来る必要はないのではないか?」
「いえ、ここに来る必要がありました。確認するためです」
「なにをかね?」
群馬の問いに凛悟は少し間を置いて答える。
「先ほどの奥様が生き返ったどうかをです。ですが、うまくいったようですね」
「どどどど、どういうことです!? 死んだ人は生き返らないはずですよ、ですよね」
神の座で聞いた”祝福ゲーム”のルール『死んだ人間は生き返らない』。
それが覆ろうとしている。
蜜子の動揺は当然のことだった。
「ああ、全て君のおかげだ」
「いえ、おそらく俺も貴方のおかげで助かりましたから」
言外でわかったように会話するふたりに蜜子はプクーと頬を膨らませる。
そして、その不満が行動に現れた。
「すみませーん! おちゃのおかわりー! あとお菓子もちょうだーい!」
蜜子はお茶をグイッっと飲み干し、奥の部屋にまで聞こえるような大声を上げる。
「ふたりとも、あたしにもわかるように説明してください! でないと……」
ドンッと湯呑を強めに置いて、蜜子は言う。
「あの奥さんに『お前はすでに死んでいる』ってあることないこと言ってやりますから!」
その剣幕に群馬は「わかった、わかった。ちゃんと説明するから、それはちょっとやめてくれんかの」と声を細めた。
水墨画と能筆を中心に活動する芸術家であり、国内よりも海外での評価が高い。
彼の元へ来客があったのは世間で謎の怪死騒ぎが起きた日の昼過ぎのことだった。
「鈴成君、花畑さん、よく来たね。やはり君は優秀だなぁ」
なごやかな口ぶりで群馬はふたりを歓待する。
「オ茶をどうぞ。ソ茶ですが」
金髪碧眼、和服の女性がふたりの前に緑茶をおく。
「ありがとうございます。いただきます」
凛悟の器には茶柱が立っていた。
「ソれでは、私は奥でひかえてますので。ゴ用があったらおよびクダさい」
日本人より日本人妻らしい仕草で金髪の女性は部屋を離れていく。
「綺麗な方ですね。奥さんですか」
「奥さんですよね。群馬さんの海外成功のきっかけとなった。確か、30年前に結婚されたとか」
移動中に調べた情報を凛悟は披露する。
これは普通なら、貴方のことをよく知っています、という好印象を与えるためのテクニック。
だが今は違う。
お前のことを知っているぞというプレッシャーでもある。
「そうか、もうそんなにも経つのか。こうなるとは思っていなかったなぁ」
だが、群馬はそんなプレッシャーなぞ感じてないかのように飄々と応えた。
「30年ってことは真珠婚式ですね。うらやましい。あたしもセンパイと金銀パールダイヤモンド婚したいなー」
「お嬢さん、そのコツを教えよう。まずは結婚式をすることじゃ。そうすりゃ、あっちゅーまじゃ」
「なるほど! そうだってセンパイ、一緒にがんばりましょ」
なにをだ。
凛悟はそうツッコミたく気持ちを抑える。
「その話はさておき」
「その話はふたりっきりの時にするとしまして」
再びツッコミたくなる気持ちをグッと抑えて、凛悟は一枚の手紙を差し出す。
今朝、学園の前に届けられた謎の手紙だ。
「この手紙は貴方が出したものですね」
「そうじゃ、懐かしいのぉ」
「どうして、俺にこの手紙を出したのです? いや、どうやって俺が、俺達が今朝学園の前に居ると知ったのです?」
「ん? 君はその答えを既に知っておるはずじゃが?」
「はい」
「セ、センパイ!? どういうことです!?」
動揺する蜜子をよそに群馬と凛悟は会話を続ける。
「知っておるのなら、わざわざ儂の所へ来る必要はないのではないか?」
「いえ、ここに来る必要がありました。確認するためです」
「なにをかね?」
群馬の問いに凛悟は少し間を置いて答える。
「先ほどの奥様が生き返ったどうかをです。ですが、うまくいったようですね」
「どどどど、どういうことです!? 死んだ人は生き返らないはずですよ、ですよね」
神の座で聞いた”祝福ゲーム”のルール『死んだ人間は生き返らない』。
それが覆ろうとしている。
蜜子の動揺は当然のことだった。
「ああ、全て君のおかげだ」
「いえ、おそらく俺も貴方のおかげで助かりましたから」
言外でわかったように会話するふたりに蜜子はプクーと頬を膨らませる。
そして、その不満が行動に現れた。
「すみませーん! おちゃのおかわりー! あとお菓子もちょうだーい!」
蜜子はお茶をグイッっと飲み干し、奥の部屋にまで聞こえるような大声を上げる。
「ふたりとも、あたしにもわかるように説明してください! でないと……」
ドンッと湯呑を強めに置いて、蜜子は言う。
「あの奥さんに『お前はすでに死んでいる』ってあることないこと言ってやりますから!」
その剣幕に群馬は「わかった、わかった。ちゃんと説明するから、それはちょっとやめてくれんかの」と声を細めた。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
フローライト
藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。
ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。
結婚するのか、それとも独身で過ごすのか?
「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」
そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。
写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。
「趣味はこうぶつ?」
釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった…
※他サイトにも掲載
【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~
安里海
恋愛
佐藤沙羅(35歳)は結婚して13年になる専業主婦。
愛する夫の政志(38歳)と、12歳になる可愛い娘の美幸、家族3人で、小さな幸せを積み上げていく暮らしを専業主婦である紗羅は大切にしていた。
その幸せが来訪者に寄って壊される。
夫の政志が不倫をしていたのだ。
不安を持ちながら、自分の道を沙羅は歩み出す。
里帰りの最中、高校時代に付き合って居た高良慶太(35歳)と偶然再会する。再燃する恋心を止められず、沙羅は慶太と結ばれる。
バツイチになった沙羅とTAKARAグループの後継ぎの慶太の恋の行方は?
表紙は、自作です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる