祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──

相田 彩太

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第2章 夢からさめても

2-7.矛盾の邂逅 グンマー・ニューデン(新田 群馬)

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 書家”グンマー・ニューデン”は本名”新田にった 群馬ぐんば”という。
 水墨画と能筆を中心に活動する芸術家であり、国内よりも海外での評価が高い。
 彼の元へ来客があったのは世間で謎の怪死騒ぎが起きた日の昼過ぎのことだった。

「鈴成君、花畑さん、よく来たね。やはり君は優秀だなぁ」

 なごやかな口ぶりで群馬はふたりを歓待する。

「オ茶をどうぞ。ソ茶ですが」

 金髪碧眼きんぱつへきがん、和服の女性がふたりの前に緑茶をおく。

「ありがとうございます。いただきます」

 凛悟の器には茶柱が立っていた。

「ソれでは、私は奥でひかえてますので。ゴ用があったらおよびクダさい」

 日本人より日本人妻らしい仕草で金髪の女性は部屋を離れていく。

「綺麗な方ですね。奥さんですか」
「奥さんですよね。群馬さんの海外成功のきっかけとなった。確か、30年前に結婚されたとか」

 移動中に調べた情報を凛悟は披露する。
 これは普通なら、貴方のことをよく知っています、という好印象を与えるためのテクニック。
 だが今は違う。
 お前のことを知っているぞというプレッシャーでもある。
 
「そうか、もうそんなにも経つのか。こうなるとは思っていなかったなぁ」

 だが、群馬はそんなプレッシャーなぞ感じてないかのように飄々ひょうひょうと応えた。
 
「30年ってことは真珠婚式ですね。うらやましい。あたしもセンパイと金銀パールダイヤモンド婚したいなー」
「お嬢さん、そのコツを教えよう。まずは結婚式をすることじゃ。そうすりゃ、あっちゅーまじゃ」
「なるほど! そうだってセンパイ、一緒にがんばりましょ」

 なにをだ。
 凛悟はそうツッコミたく気持ちを抑える。

「その話はさておき」
「その話はふたりっきりの時にするとしまして」

 再びツッコミたくなる気持ちをグッと抑えて、凛悟は一枚の手紙を差し出す。
 今朝、学園の前に届けられた謎の手紙だ。

「この手紙は貴方が出したものですね」
「そうじゃ、懐かしいのぉ」
「どうして、俺にこの手紙を出したのです? いや、どうやって俺が、俺達が今朝学園の前に居ると知ったのです?」
「ん? 君はその答えを既に知っておるはずじゃが?」
「はい」
「セ、センパイ!? どういうことです!?」

 動揺する蜜子をよそに群馬と凛悟は会話を続ける。

「知っておるのなら、わざわざ儂の所へ来る必要はないのではないか?」
「いえ、ここに来る必要がありました。確認するためです」
かね?」
 
 群馬の問いに凛悟は少し間を置いて答える。

「先ほどの奥様が生き返ったどうかをです。ですが、うまくいったようですね」
「どどどど、どういうことです!? 死んだ人は生き返らないはずですよ、ですよね」

 神の座で聞いた”祝福ゲーム”のルール『死んだ人間は生き返らない』。
 それがくつがえろうとしている。
 蜜子の動揺は当然のことだった。

「ああ、全て君のおかげだ」
「いえ、おそらく俺も貴方のおかげで助かりましたから」

 言外でわかったように会話するふたりに蜜子はプクーと頬を膨らませる。
 そして、その不満が行動に現れた。

「すみませーん! おちゃのおかわりー! あとお菓子もちょうだーい!」

 蜜子はお茶をグイッっと飲み干し、奥の部屋にまで聞こえるような大声を上げる。

「ふたりとも、あたしにもわかるように説明してください! でないと……」

 ドンッと湯呑を強めに置いて、蜜子は言う。

「あの奥さんに『お前はすでに死んでいる』ってあることないこと言ってやりますから!」

 その剣幕に群馬は「わかった、わかった。ちゃんと説明するから、それはちょっとやめてくれんかの」と声を細めた。
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