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第3章 夢よもういちど
3-34.無奇跡の大逆転 鈴成 凛悟
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エゴルトがマリアに『あの女を殺しつくせ』と命じた理由。
それを凛悟は少し考えるふりをする。
「わかったかね?」
「わかったさ、わかりたくはなかったけどな」
「言ってみたまえ」
エゴルトは凛悟を値踏み、いや面接でもするような口調で言う。
「アンタは検証していたんだ。マリアを使って」
「正解だ! 素晴らしい!」
満足したようにエゴルトの手が叩かれる。
「け、検証ってどういうことですか!? わたくしを使ってまだ何かしようとしているのですか!?」
「心配しなくてもいい。検証はもう済んだ」
「どいうことだと! 聞いているのです!!」
涙を怒りの感情で塗りつぶすようにマリアが叫ぶ。
「……この”祝福”ゲームのかなり序盤、第4の願いで叶えられた願いがある。『この”祝福”で誰かの死を願おうとしたなら、その願いを言い終わる前にその人が苦しんで死ぬようにして』という願いが」
マリアはそれを聞いて自分の胸を抑えた。
鼓動はある、生きている、それを確かめるように。
「だが、第9の願い『この”祝福”ゲームが始まってから今までのことを全部夢だったことにしてくれ』という願いで、第4の願いは無くなっているはずだった。世界中の人々がキングを熱愛したことや、現代に恐竜が復活したことを含め」
凛悟はゆっくりと手を上げ”本”を指差す。
「蜜子から聞いているかと思うが、俺の願いは”本”。”祝福者”と”叶えられた願い”の情報が自動更新される”本”だ。だから俺はそれを知っている。そして俺から”本”を奪ったエゴルトもだ」
「結局、検証ってどういうことですの?」
エゴルトの狙いに薄々と気付いたのか、マリアも声のトーンを落とす。
「エゴルトは抜け目のないヤツだということだ。キングや恐竜のことは夢になったが、第4の願いも本当に夢になったのか確証はない。自分の”祝福”でそれをするにはリスクが高すぎる」
「生きていてくれて嬉しいよマリア君。これで僕は完全勝利を迎えられる」
エゴルトがこれから何をしようとしているのか凛悟はわかっていた。
そして生き残った他の”元祝福者”たちも気づかされていた。
「僕はこれから”祝福”を使う。それを聞いたら好きにしていい。お金でも数えながら慎ましく暮らすといい」
アーシーとマリアに向かってエゴルトは軽く言う。
「実君。正直、僕は君に好感を持っていない。僕の部下を殺してくれたからね」
「ほとんどは貴方が殺したんだけど」
床に横たわるスタッフたち。
彼らが命を落としたのは間違いなくエゴルトのせい。
そう言わんばかりに実は言い放つ。
「彼らは僕に逆らおうとしたからさ。君がこうならないことを願うよ」
「アタシを世界のトップスターにするって約束は?」
「君が死んでも君がトップスターになるようプロデュースは続けるよ。約束通りにね。知らないかい? ゴッホという画家を」
「……知ってるわ」
”ひまわり”に代表される数々の絵を残した画家、フィンセント・ファン・ゴッホ。
今では歴史に名を残す大画家であったが、生前の彼はほとんど評価されなかった。
ゴッホを大画家に押し上げたのは、彼の死後、ゴッホの弟の妻、ヨハンナの働きによるものだった。
「凛悟君、君は言ったね。君の友人の藤堂君が僕を追い詰めると」
「……」
「君の友人に伝えておいてくれ、死にたくなければ僕に逆らわないことだと。もちろん君も」
凛悟は震えていた。
もはや立ち続けることもできず、床に手をつきながら震えていた。
それは出血による体温低下のためだったが、エゴルトにはそれが恐怖によるもののようにも見えた。
「さあ、聞きたまえ! 第23の願いを!」
「……やめてくれ、そんなことをしたら死んでしまう」
天高く宣言しようとしたエゴルトの台詞を地面からの凛悟の台詞が遮る。
「ほう、君はまだ僕に逆らう気があるということか。いいだろう、僕に屈服するもよし、最後まで立ち向かうもよし、君の好きにしたまえ。僕はどちらでもよしだ」
屈服したなら勝利の満足感を得られる。
屈服しないのなら、そこまでの矜持を持った相手に勝った達成感が味わえる。
どちらでも気持ちがいいエンディングだ。
永遠の若さ、どんな事故や事件でも傷つことはない、もちろん命も脅かされない。
自分への約束や宣言は必ず履行される。
”祝福”は全て手の中で、奇跡も起きなかった。
これから誰も自分に逆らえなくなる上に、タイムリープの能力もどうにでも出来る。
エゴルトの許可なくしては発動出来ないという約束をしてしまえばいいのだ。
うまくいけば、ひとつ”祝福”を残したままで僕は”祝福ゲーム”に勝てる。
絶対無敵の完全勝利。
それを確信しながらエゴルトは高らかに叫ぶ。
「神よ! 第23の願いだ! この僕に逆らう者はみんな死……」
…
……
彼はその願いを最後まで言うことが出来なかった。
「だから言ったろ、死んじまうって。そいつは……」
さっきまでの弱々しい口調からとは裏腹に、
「言ってはいけない願いだ」
力強く、胸を張りながら凛悟は立ちあがる。
エゴルトは口と目から血を流し、床に膝を付いた。
それを凛悟は少し考えるふりをする。
「わかったかね?」
「わかったさ、わかりたくはなかったけどな」
「言ってみたまえ」
エゴルトは凛悟を値踏み、いや面接でもするような口調で言う。
「アンタは検証していたんだ。マリアを使って」
「正解だ! 素晴らしい!」
満足したようにエゴルトの手が叩かれる。
「け、検証ってどういうことですか!? わたくしを使ってまだ何かしようとしているのですか!?」
「心配しなくてもいい。検証はもう済んだ」
「どいうことだと! 聞いているのです!!」
涙を怒りの感情で塗りつぶすようにマリアが叫ぶ。
「……この”祝福”ゲームのかなり序盤、第4の願いで叶えられた願いがある。『この”祝福”で誰かの死を願おうとしたなら、その願いを言い終わる前にその人が苦しんで死ぬようにして』という願いが」
マリアはそれを聞いて自分の胸を抑えた。
鼓動はある、生きている、それを確かめるように。
「だが、第9の願い『この”祝福”ゲームが始まってから今までのことを全部夢だったことにしてくれ』という願いで、第4の願いは無くなっているはずだった。世界中の人々がキングを熱愛したことや、現代に恐竜が復活したことを含め」
凛悟はゆっくりと手を上げ”本”を指差す。
「蜜子から聞いているかと思うが、俺の願いは”本”。”祝福者”と”叶えられた願い”の情報が自動更新される”本”だ。だから俺はそれを知っている。そして俺から”本”を奪ったエゴルトもだ」
「結局、検証ってどういうことですの?」
エゴルトの狙いに薄々と気付いたのか、マリアも声のトーンを落とす。
「エゴルトは抜け目のないヤツだということだ。キングや恐竜のことは夢になったが、第4の願いも本当に夢になったのか確証はない。自分の”祝福”でそれをするにはリスクが高すぎる」
「生きていてくれて嬉しいよマリア君。これで僕は完全勝利を迎えられる」
エゴルトがこれから何をしようとしているのか凛悟はわかっていた。
そして生き残った他の”元祝福者”たちも気づかされていた。
「僕はこれから”祝福”を使う。それを聞いたら好きにしていい。お金でも数えながら慎ましく暮らすといい」
アーシーとマリアに向かってエゴルトは軽く言う。
「実君。正直、僕は君に好感を持っていない。僕の部下を殺してくれたからね」
「ほとんどは貴方が殺したんだけど」
床に横たわるスタッフたち。
彼らが命を落としたのは間違いなくエゴルトのせい。
そう言わんばかりに実は言い放つ。
「彼らは僕に逆らおうとしたからさ。君がこうならないことを願うよ」
「アタシを世界のトップスターにするって約束は?」
「君が死んでも君がトップスターになるようプロデュースは続けるよ。約束通りにね。知らないかい? ゴッホという画家を」
「……知ってるわ」
”ひまわり”に代表される数々の絵を残した画家、フィンセント・ファン・ゴッホ。
今では歴史に名を残す大画家であったが、生前の彼はほとんど評価されなかった。
ゴッホを大画家に押し上げたのは、彼の死後、ゴッホの弟の妻、ヨハンナの働きによるものだった。
「凛悟君、君は言ったね。君の友人の藤堂君が僕を追い詰めると」
「……」
「君の友人に伝えておいてくれ、死にたくなければ僕に逆らわないことだと。もちろん君も」
凛悟は震えていた。
もはや立ち続けることもできず、床に手をつきながら震えていた。
それは出血による体温低下のためだったが、エゴルトにはそれが恐怖によるもののようにも見えた。
「さあ、聞きたまえ! 第23の願いを!」
「……やめてくれ、そんなことをしたら死んでしまう」
天高く宣言しようとしたエゴルトの台詞を地面からの凛悟の台詞が遮る。
「ほう、君はまだ僕に逆らう気があるということか。いいだろう、僕に屈服するもよし、最後まで立ち向かうもよし、君の好きにしたまえ。僕はどちらでもよしだ」
屈服したなら勝利の満足感を得られる。
屈服しないのなら、そこまでの矜持を持った相手に勝った達成感が味わえる。
どちらでも気持ちがいいエンディングだ。
永遠の若さ、どんな事故や事件でも傷つことはない、もちろん命も脅かされない。
自分への約束や宣言は必ず履行される。
”祝福”は全て手の中で、奇跡も起きなかった。
これから誰も自分に逆らえなくなる上に、タイムリープの能力もどうにでも出来る。
エゴルトの許可なくしては発動出来ないという約束をしてしまえばいいのだ。
うまくいけば、ひとつ”祝福”を残したままで僕は”祝福ゲーム”に勝てる。
絶対無敵の完全勝利。
それを確信しながらエゴルトは高らかに叫ぶ。
「神よ! 第23の願いだ! この僕に逆らう者はみんな死……」
…
……
彼はその願いを最後まで言うことが出来なかった。
「だから言ったろ、死んじまうって。そいつは……」
さっきまでの弱々しい口調からとは裏腹に、
「言ってはいけない願いだ」
力強く、胸を張りながら凛悟は立ちあがる。
エゴルトは口と目から血を流し、床に膝を付いた。
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