孤独な冒険者B

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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第8話 ボッチの涙

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2人は巨獣の森の中にある、小さな小屋に入った。

シノン「ここは俺の家だ、適当にくつろいでくれ。ああ、そうだ。俺の名はシノン、この森で聖剣の守り手をやっている、、って前に説明したか?おっさんは何度かこの森に来たことがある冒険者で間違いないよな?」

ボッチ「ああ、そうだ。今回は死の洞窟へ辿り着くためにこの森にやってきた」

シノン「死の洞窟だって?その先は魔界が広がってるだけだぜ?」

ボッチ「ここへ坊主頭の斧を持った若者が来なかったか?」

ボッチはタイクーツ村の若者がここを通ったはずだと思っていた。

しかし、シノンはポカンとした表情で答える。

シノン「この森に近寄る奴なんざ、あんたみたいな変人か、さっきここへやってきた勇者様御一行くらいなもんだ」

ボッチ「そうか、、、あれはセイギーノ王国のフラペチーノ王子、坊主頭の若者はいなかったな」

やはり、あの若者は魔王を倒すどころか、この森にすら辿り着かなかったということか。
そう思って、ボッチはガッカリした。

ボッチ「ここに巨獣はやってこないのか?」

ボッチが素朴な疑問を口にすると、シノンは毒々しいキノコを手に、偉そうに回答した。

シノン「このキノコは、炙ると巨獣の嫌いな匂いを発するんだ。家の前で燃えているのはただの焚き火じゃねぇってわけ。逆に奴等の好む匂いを発するキノコを燃やせば、、、まぁ色々出来るってわけよ」

ボッチ「なるほどな」

シノン「ところで、おっさん。どうして手を貸した?」

質問の意図が分からなかったため、ボッチは正直にその質問に答える。

ボッチ「お前が手を貸せと言ったからだ」

その回答を聞き、シノンは大笑いした。

シノン「くっはっはっは!!どこの誰かも知らねぇ奴の言葉に従って、一国の王子に喧嘩を売るとは大したもんだ!」

ボッチ「いや、そもそも突然剣を振りかざしたのはフラペチーノ王子の方だ」

シノン「でも、俺が殺されかけた時、助けてくれたよな?あれは正当防衛でも何でもなく、国に対するただの反逆だぜ?」

ボッチ「確かに、何故俺は攻撃を仕掛けてしまったんだろうな」

ボッチは自分の行動が分からなくなった。

最後の一振りはシノンが殺されるのを防ぐためだった。

しかし、もしも魔法使いが呪文を唱えていなかったら。
ボッチの巨剣は、魔王討伐のための3人を真っ二つにしていた可能性がある。

ボッチはフラペチーノ王子の狂気に満ちた目を思い出した。
魔王を倒すために生きてきた、あの言葉がボッチの胸に深く刺さっていた。
ガトリー、フラペチーノ王子、タイクーツ村の若者。

何かのために生きている者がとても輝いて見えたのだ。

俺はこの40数年感、何のために生きてきたんだ?

フラペチーノ王子のあの目が、ボッチの人生を否定しているような気がしたのだ。

あの最後の一振りは、自分の人生を肯定するための、あってはならない一振りだったとボッチは思った。

ボッチ「俺は、生きる意味を見つけたいんだ」

気が付けば、ボッチはそう呟いていた。

シノン「何だそれ、生きるのに意味なんてねぇだろ」

シノンは葉巻を加えながらボッチの言葉に反応する。

ボッチ「お前はどうなんだ?何故聖剣の守り手としてこの森に滞在している?」

シノン「はっ、こんなの手段に過ぎねぇよ。俺の真の目的はな、王政の廃止だ。そのためにあーゆークソみたいな王子様に聖剣が渡らねぇように監視してるってわけよ」

ボッチ「王政の廃止、それがお前の生きる意味か?」

シノン「生きる意味って、、、そのために生きてるってわけじゃねぇが、まぁ活力にはなってるよな。王政がぶっ壊れるところを見るまで死ぬわけにはいかねぇってな。何処の馬の骨かも分からねぇ誰かが、聖剣を抜いて、魔王を倒してくれりゃ~王国の信頼はガタ落ちなんだけどなぁ」

俺は何のために生きたいんだ?
何があったら死ぬわけにはいかないと思える?

ボッチは心の中で自分に問いかけた。

シノン「あ!!!分かった、おっさん!あんた強いんだから、聖剣抜いてみてくれよ!んで俺と一緒に魔王をぶっ倒そうぜ。ついでに勇者様御一行も蹴散らしてよ」

ボッチ「俺は聖剣に興味がない。そして誰が魔王を倒しても、倒さなくてもどうでも良い。しかし、あの王子は魔王を倒すために生きてきたのだろう?だったら彼が魔王を倒すべきだ。そして坊主頭の若者がここへ来ていないということは、俺がここに滞在する理由もない。世話になったな」

ボッチは立ち上がり、小屋を出た。

シノン「ったく、化け物級の強さを持っていながら、無欲なおっさんだぜ」

ボッチは来た道を戻っていた。

坊主頭の若者に会えば、自分も何か、生きる意味を見つけられるような気がしたのだ。
しかし彼はいなかった。

そして、彼に会わずとも、フラペチーノ王子という、魔王を倒すためだけに生きている者に出会って、自分の無力さを知った。

生きる意味を明確に持っている者の前では、自分は生きている資格すらないと思ってしまうような感覚に陥ってしまった。

やはり、俺には生きる意味などない。
だからと言って死ぬ理由もない。

これからも、死ぬまで依頼をこなしながら、ただ食って、寝てを繰り返す日々を過ごすことになるのだろう。

今までそうして生きてきたのだ、何を今更変わろうとしている。

そう思うのに、ボッチの目からは涙がこぼれ落ちる。

幼い頃に親を亡くした日以来、涙を流したことはなかった。

それなのに、何を今更!

ボッチ「俺は!!、、、生きる意味が欲しい」

ボッチは1人泣きながら、切り伏せた魔物の屍の上を歩いていた。



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