やはり、父になれず。

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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第二章 夢のために

第7話 曲作りのために

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休日は子供達が帰ってきても一階に降りることなく作曲を続けた。

それに関して雪乃から不満が出ることはなかった。

曲作りに熱中していると雪乃からLINEがきた。

[ご飯出来た]

結婚五年目にもなると、もはや絵文字なんて使わない。
基本的に業務連絡のみである。

[了解]

そう送ったものの、まだ曲作りがひと段落していない。

いつでもやる気があるわけではない、創作活動というのは気力に波があるものなのだ。

気力のビッグウェーブには乗らないと損である。

そして、今がその時だ!

徹はそのまま楽曲制作を続けた。

そうこうしているうちに階段駆け上がってくる音が聞こえる。

おそらく晩御飯を食べたくない灯が時間稼ぎのためにパパを呼びに来たのだろう。

「パ~パ~!!ご飯出来たよ!!」

ご名答である。

「仕事終わったら降りるから、先に食べてて」

ガチャガチャ

扉を開けようとドアノブを荒々しく揺する灯だったが、扉には鍵をかけている。

「え~パパも行かなきゃ嫌だ!!」

「いいから、先に食べてなさい」

ガチャガチャガチャガチャ!!

ドアノブが悲鳴をあげている。

「パパは仕事中だよ」

「開けてよ~うわぁーーーーん」

自分の思い通りにいかない時の最終手段、大泣き大暴れを発動し、灯は制御不能となる。

ワガママでネガティブな炎を扉の前で撒き散らし、籠城している徹を火攻めする。

この状況下で仕事に集中することなど不可能であると判断した。
結局徹は灯の計略にまんまと引っかかり、扉を開けるのであった。

「パパ!!遅いよ!!」

「はいはい、下に降りましょう」

スタスタと階段を降りると灯は更に怒り出す。

「あーちゃんが先に降りるの!!」

「はいはい、じゃあ早く先に降りてください」

「もう!!パパなんて知らない!!」

プリプリと怒りながら徹を追い越す灯。

その後ろをPCにうしろ髪ひかれながらダラダラと降りる徹。

「パパ!!早く!!」

まだ仕事が終わっていないのに、何故こんな茶番に付き合わされなければならないのか。
理不尽な怒りを受け続け、沸々と胸に怒りが溜まっていく。

子供がいる生活というのは全ての行動の時間を決められているようなものだ。
起きる時間、ご飯の時間、お風呂の時間、寝る時間、、、
好きな時間に好きなタイミングで動くことは出来ない、常に決められた時間に子供と一緒に行動する必要がある。

こんな状況じゃ仕事が進まない。

今となっては曲作りの優先順位が一番高い。
何故ならお金が発生していて、責任が伴っているからだ。

「やっぱりパパは仕事をしなきゃいけないから、あーちゃんは先にご飯食べてて」

「えー!!嫌だ~パパも行くの~!!」

灯は地団駄を踏みながら泣き始めた。

「ごめんね、ちゃんとご飯食べるんだよ」

泣き叫ぶ灯に背を向け、徹は自室へと引き返す。

これで良いんだ、最悪の事態は曲作りが終わらず、納期に間に合わずに夢が途絶えることである。

「もうパパなんて知らない!」

階段に灯の怒りが響き渡る。

何度も聞き流していたその言葉に初めて返答をしたくなった。

「ああ、頼むからほっといてくれ」

そう小さく呟いた。
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