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―楽園編―
その後ろ姿は王者の風格
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アンデッドが群れをなして、ワラワラと部屋の外へ這い出して来る。
彼女は、部屋の入り口に集まり始めたアンデッドの群れの中へと、果敢にも単騎で飛び込んでいった。
「アイリ……ミィコには真似できません。尊敬します」
――藍里は杖を振るう。なんかカッコいいモーションだ。
彼女がくるくると回しながら振るうその杖が、襲い来るゾンビに当たるたびに小爆発を起こす。
そして、あらかたほとんどのゾンビに攻撃を当てたかと思うと、藍里は華麗なバックステップで僕らの近くまで退避し、杖をくるりと回転させたかと思うと、そのまま勢いよくトンッと地面に打ち付けて、決めポーズ! からの――ヒーローショット!
その直後、藍里から攻撃をもらっていたゾンビたちが次々と爆発し始め、その連鎖によって、凄まじい大爆発が引き起こされた! その衝撃と言えば、遺跡が崩れるんじゃないかと思えるほどだ――
いや、実際に崩れ始めている――僕らはその場から微動だにせず、その崩落するさまをただ、ただ眺めていた。
藍里の凄まじいまでの爆発攻撃により、アンデッドの群れごと、その部屋の入り口もろとも崩落させてしまったようだ。
当然、鉄格子の先の通路も崩壊していることだろう。
――藍里は決めポーズのまま立ち尽くしている。
彼女の心境を思うと心が痛む。せっかく、決めポーズまでしてカッコよく決めたのに、まさか、こんなことになってしまうなんて。
「ミィコ、藍里のおかげでアンデッドは片付いた――でも」
「サトリ、お宝なんて最初からなかったんです。そう、心に言い聞かせて、潔く諦めてください」
「そうだな、ミィコ! 藍里、あれだけの数を一人で! 助かったよ!」
本当に、根拠のない大丈夫ほど当てにならないものなどなかった。『何かあったら僕が守る』とか言っておいて、僕が守られる立場になっていたのを、その言葉の裏で恥じたのだった。
「アイリ、一人で全部倒すなんてすごいです!」
ミィコが藍里に近づいて声をかけた――が、反応がない。
仕方ないので、僕は“放心状態で決めポーズ“をしている藍里の肩にそっと手を置いてみた。
無反応。まさか――これは、放心状態などではない! これは――“抜け殻”か!?
「ミィコ、藍里はもしかして――」
僕は状況を察して、ミィコにそれとなく聞いてみる。
「これは――サトリの時と同じ現象のようです。今、アイリは、現実世界へと一時的に戻されているのかもしれません。それほどまでに、カッコよくポーズを決めてからの、部屋を崩落させてしまうという超絶ミスは、アイリにとってトラウマ級なものだったのでしょう――」
ミィコは、藍里の傷口に塩を塗っていくスタイルだ。
「ミィコ、もうやめてあげて……!」
「とにかくです! すぐにここから抜け出しましょう」
幸い、抜け殻の藍里にはミィコの発言が届いていない。
僕は藍里を抱え、ミィコと一緒に上階へと繋がる階段の手前までやってきた。
――そこで僕は気が付いた。
なんと、階段を上ろうとする僕らの前に、上の階で様子を見ていたアンデッドの群れが現れたのだ。
ぞろぞろと階段を下りてくるアンデッドたち――
「サトリ、こうなったらアンデッドを倒すのです!」
ミィコはそう言うが……数も多く、藍里と違って範囲攻撃のできない僕にとって、これはかなり厳しい状況だ。
「なにか、なにかないか……」
「サトリのすごい光能力で、バーンってやっちゃえばいいんです!」
「バーンって……なんだよ!」
「バーン、です!」
そのミィコの謎の発言から、僕は思いついた!
光爆発――これだ! 凝縮させた光を刀身に纏わせ、その金属部分の電子を融合させれば――よく分からないけど爆発くらいは起こせるかもしれない! 僕は二本の刀に光を纏わせた――よく分からないイメージとともに。
「バーン、できるかもしれない!」
ミィコによく分からないイメージを伝えた!
「なんだか怪しいですけど、サトリ、期待します!」
「ミィコ、藍里をお願い」
僕は藍里をそっと、ミィコに寄りかからせる。ミィコは必死で、寄りかかってきた人形のような藍里を抱きしめて抱えた。
僕はそのままアンデッドの群れの中に飛び込んだ――が、ある考えが浮かんだ。
ここで光爆発を使えば、間違いなく階段は崩れ落ちるだろう。そう、僕らは出られなくなる。そんなことになったら、僕はミィコに殺される――確実に。
「僕から離れて!」
ある作戦が頭に浮かんだ僕は、不意にそう叫んだ。
「サトリ、分かりました!」
僕がアンデッドの群れを引き連れ、入り口から離れると、ミィコが藍里を引っ張りながら、じりじりと入り口付近まで近づいていく。
それを確認した僕は、ミィコにアンデッドたちの注意がいかないよう、もう少し奥までおびき寄せる。
そして、近づいてきたアンデッドの群れに、光爆発をすかさず叩き込んだ。
――光を帯びた刀を交差させることにより、強い衝撃を伴う爆発が起こった!
残念ながら、藍里のルーン石のような威力はなく、アンデッドたちを弾き飛ばす程度に終わった。
だが、逃げる時間は十分に稼げた!
「ミィコ、今だ!」
「はい、サトリ!」
僕は、藍里を大事そうに抱きかかえているミィコの元へと一気に駆け出し、そのまま二人で藍里を抱えながら階段を上る。
二人で藍里を抱えたまま、遺跡の出口へと一目散に駆け抜ける。
そうして、僕とミィコ、それに抜け殻となった藍里、三人で無事に脱出することができたのだ。
――遺跡の外。
空を見上げる――すっかりと雨は上がっているのだが、遺跡には思いのほか長くいたようで、日暮れも近いといった様子だ。
「サトリ、カッコ良かったです。ちょっとだけ、ですけど」
ミィコが僕を褒めてくれている。
「なんだか、想像していたのと違って威力はイマイチだったけど、何とかなってよかった」
僕らはしばらくの間、晴れた空を眺めていた。
抜け殻となった藍里を二人で抱えながら――
彼女は、部屋の入り口に集まり始めたアンデッドの群れの中へと、果敢にも単騎で飛び込んでいった。
「アイリ……ミィコには真似できません。尊敬します」
――藍里は杖を振るう。なんかカッコいいモーションだ。
彼女がくるくると回しながら振るうその杖が、襲い来るゾンビに当たるたびに小爆発を起こす。
そして、あらかたほとんどのゾンビに攻撃を当てたかと思うと、藍里は華麗なバックステップで僕らの近くまで退避し、杖をくるりと回転させたかと思うと、そのまま勢いよくトンッと地面に打ち付けて、決めポーズ! からの――ヒーローショット!
その直後、藍里から攻撃をもらっていたゾンビたちが次々と爆発し始め、その連鎖によって、凄まじい大爆発が引き起こされた! その衝撃と言えば、遺跡が崩れるんじゃないかと思えるほどだ――
いや、実際に崩れ始めている――僕らはその場から微動だにせず、その崩落するさまをただ、ただ眺めていた。
藍里の凄まじいまでの爆発攻撃により、アンデッドの群れごと、その部屋の入り口もろとも崩落させてしまったようだ。
当然、鉄格子の先の通路も崩壊していることだろう。
――藍里は決めポーズのまま立ち尽くしている。
彼女の心境を思うと心が痛む。せっかく、決めポーズまでしてカッコよく決めたのに、まさか、こんなことになってしまうなんて。
「ミィコ、藍里のおかげでアンデッドは片付いた――でも」
「サトリ、お宝なんて最初からなかったんです。そう、心に言い聞かせて、潔く諦めてください」
「そうだな、ミィコ! 藍里、あれだけの数を一人で! 助かったよ!」
本当に、根拠のない大丈夫ほど当てにならないものなどなかった。『何かあったら僕が守る』とか言っておいて、僕が守られる立場になっていたのを、その言葉の裏で恥じたのだった。
「アイリ、一人で全部倒すなんてすごいです!」
ミィコが藍里に近づいて声をかけた――が、反応がない。
仕方ないので、僕は“放心状態で決めポーズ“をしている藍里の肩にそっと手を置いてみた。
無反応。まさか――これは、放心状態などではない! これは――“抜け殻”か!?
「ミィコ、藍里はもしかして――」
僕は状況を察して、ミィコにそれとなく聞いてみる。
「これは――サトリの時と同じ現象のようです。今、アイリは、現実世界へと一時的に戻されているのかもしれません。それほどまでに、カッコよくポーズを決めてからの、部屋を崩落させてしまうという超絶ミスは、アイリにとってトラウマ級なものだったのでしょう――」
ミィコは、藍里の傷口に塩を塗っていくスタイルだ。
「ミィコ、もうやめてあげて……!」
「とにかくです! すぐにここから抜け出しましょう」
幸い、抜け殻の藍里にはミィコの発言が届いていない。
僕は藍里を抱え、ミィコと一緒に上階へと繋がる階段の手前までやってきた。
――そこで僕は気が付いた。
なんと、階段を上ろうとする僕らの前に、上の階で様子を見ていたアンデッドの群れが現れたのだ。
ぞろぞろと階段を下りてくるアンデッドたち――
「サトリ、こうなったらアンデッドを倒すのです!」
ミィコはそう言うが……数も多く、藍里と違って範囲攻撃のできない僕にとって、これはかなり厳しい状況だ。
「なにか、なにかないか……」
「サトリのすごい光能力で、バーンってやっちゃえばいいんです!」
「バーンって……なんだよ!」
「バーン、です!」
そのミィコの謎の発言から、僕は思いついた!
光爆発――これだ! 凝縮させた光を刀身に纏わせ、その金属部分の電子を融合させれば――よく分からないけど爆発くらいは起こせるかもしれない! 僕は二本の刀に光を纏わせた――よく分からないイメージとともに。
「バーン、できるかもしれない!」
ミィコによく分からないイメージを伝えた!
「なんだか怪しいですけど、サトリ、期待します!」
「ミィコ、藍里をお願い」
僕は藍里をそっと、ミィコに寄りかからせる。ミィコは必死で、寄りかかってきた人形のような藍里を抱きしめて抱えた。
僕はそのままアンデッドの群れの中に飛び込んだ――が、ある考えが浮かんだ。
ここで光爆発を使えば、間違いなく階段は崩れ落ちるだろう。そう、僕らは出られなくなる。そんなことになったら、僕はミィコに殺される――確実に。
「僕から離れて!」
ある作戦が頭に浮かんだ僕は、不意にそう叫んだ。
「サトリ、分かりました!」
僕がアンデッドの群れを引き連れ、入り口から離れると、ミィコが藍里を引っ張りながら、じりじりと入り口付近まで近づいていく。
それを確認した僕は、ミィコにアンデッドたちの注意がいかないよう、もう少し奥までおびき寄せる。
そして、近づいてきたアンデッドの群れに、光爆発をすかさず叩き込んだ。
――光を帯びた刀を交差させることにより、強い衝撃を伴う爆発が起こった!
残念ながら、藍里のルーン石のような威力はなく、アンデッドたちを弾き飛ばす程度に終わった。
だが、逃げる時間は十分に稼げた!
「ミィコ、今だ!」
「はい、サトリ!」
僕は、藍里を大事そうに抱きかかえているミィコの元へと一気に駆け出し、そのまま二人で藍里を抱えながら階段を上る。
二人で藍里を抱えたまま、遺跡の出口へと一目散に駆け抜ける。
そうして、僕とミィコ、それに抜け殻となった藍里、三人で無事に脱出することができたのだ。
――遺跡の外。
空を見上げる――すっかりと雨は上がっているのだが、遺跡には思いのほか長くいたようで、日暮れも近いといった様子だ。
「サトリ、カッコ良かったです。ちょっとだけ、ですけど」
ミィコが僕を褒めてくれている。
「なんだか、想像していたのと違って威力はイマイチだったけど、何とかなってよかった」
僕らはしばらくの間、晴れた空を眺めていた。
抜け殻となった藍里を二人で抱えながら――
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