野菜士リーン

longshu

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第1章

1-31 [天の声]の正体

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シフに案内された森の遊歩道をしばらくぶらぶらと歩くリーン達。所々降り注ぐ陽だまりの中で、小リスやキツネと戯れながら、森閑とした『創生の森』を歩むこと一時間。それでも、まったく人の住んでいそうな風景は見えてこなかった。

「おい、おまえのおじいちゃん何でこんな辺鄙な所に住んでるんだ?」

「趣味よ、趣味。おじいちゃん、私が小さい頃から引っ越しが趣味なのよ。この前は、浮遊城を作って旅行してたわ。そのまた前は、海中にコロニーを作って360°どこから見渡してもアクアリウムじゃ、なんて言って楽しんでたし。特に私が独り立ちして『ヴァルヴァンティア』に住むようになってからは、どんどんエスカレートしてるわね(笑)。」

「はぁ、派手なおじいさんだな~、、、。」

「でも、もうかれこれ癌を10年も患っているから、いよいよ最期は『土の賢者』らしく森閑とした太古の森の中で、とか何とか言ってたわ?」

「そうなのか?お前、一緒にいてやらなくて良いのか?」

「仮にも『土の賢者』が孫の世話になどならん、と言って固く断られているのよ。おじいちゃんの偏屈ぶりは今に始まったことじゃないから仕方ないわね(笑)。それに何年たってもあんまり変わらないわね、病状が進行しているというよりは寿命を全うしようとしている、と言ったところかしら(笑)。」

なぜだか爽やかな笑顔だ。

「ふ~ん、そんなもんかね~。。。」

二人が『森の賢者』の人となりについてやり取りしていると、突然、男性の親指ほどもある太くてぶよぶよとした放射状に伸びた粘着質の糸が上から降りかかって、リーンとガラハドを捉えた。

「きゃー!!!」

「何だ、これは!?」

「つ、土蜘蛛よ、土蜘蛛!!こんな古い森にはけっこういるのよ、ひぃ~!!!」

いつになくリーンは冷静さを欠いている。

「ああそうだ、蜘蛛苦手だったな、お前。何だよこれくらい!」

バスタードソードで蜘蛛の糸を瞬断するガラハド、粘着質の太い糸も彼の剣にかかればすぱっと後引きなく切れるのだった。通常、言うまでもなく土蜘蛛は死んだ落ち武者の顔に、むくむく太った大柄な茶色の体躯、毒々しい太く黄色いのこぎり状の棘をまとった脚を持ち、見るものに必ず吐き気を催さずに入られないほど醜いというのが定番だが、ガラハドがリーンに絡みついている糸を切ろうと身を翻した瞬間、5mはあろうかという土蜘蛛の顔と眼が合う。そして唖然となる。

「レ、レーネ、、、何で、、、?」

土蜘蛛の頭部分にレーネの顔がついている、ガラハドを見て凄惨な笑みを浮かべているレーネが。

「久しぶりねガラハド、あなた私を置いてリーンと逃亡するなんて、ひどい趣味じゃない?ガラララララ~!」

レーネの顔をした土蜘蛛は腐臭漂う泥水のような醜悪な音を発しながら、口からさらに粘着性の高い糸を吐いた。ガラハドのバスタードソードで切ろうにもガムのようにまとわりついて切れない。やがて、動揺も手伝ってガラハドも絡め取られてしまった。

あまりのことに、リーンが失神する。

「くっ、油断した。って、なんだあの土蜘蛛は、もしや王宮から遠隔操作しているのか?」

「びっくりした!?」

突然、背後から可愛らしい甲高い声での問いかけがあった。

「ラルっちに幻術をちょっと教わっているんだけど、どうだった!?」

「メル!?な、何だ、お前は!!幻術?よりによってなんて悪趣味な仕掛けだ!?おい、リーン起きろよ!」

その小柄な娘がガラハドの目の前でかわいらしい指をパチンと鳴らすと、リーンを失神させガラハドを絡め取っていた巨大な土蜘蛛は跡形もなく消え去るのだった。

ガラハドは縛を解除された後、リーンの首筋にある気付けのツボをぐっと押す。『リヒテナウアー剣術』の教本にあるのかしごく手慣れた仕草だ。しばらくして、リーンは跳ね上がるように起き上がった。

、、、しばらくして、、、

「ちょっと!!!人を脅かすにも程があるわよ!!私が蜘蛛嫌いなの知ってるくせに!!!」

「ごめんなさい、忘れてたのよ。ちょっと悪ふざけが過ぎたわ、でも、魔法に免疫のないガラハドはともかく、リーンくらいの手練れともなれば、子供がサンタさんの存在を見破るみたいにすぐに分かると思ったのよ。」

と、全く悪びれる素振りもなく、リーンに素直に謝っている彼女はメルと言う。メル・クロンメリン。リーンより3歳若く22歳、幼名馴染みで無二の親友、リーンの育ての祖父ラルフとも従姪のような間柄だ。身体は小さくて少女のようだが、赤いきらきらした瞳ときれいなストレートのブロンドの髪で小悪魔的な印象を醸し出している。絵本の国から出てきたような、洗練された小さく華奢な調度品のような、現実離れした可愛らしい風貌である。

『英雄戦争』時代は、戦局が膠着し魔法使いの優劣がそれを左右しだした終盤からリーンの招聘に応じて参戦し、持って生まれた光魔法を駆使して治癒の神官を任じていた。当時は、もっぱら回復役に専念していたのだが、、、

「全然、分かんなかったわよ。だいたい私の友達に幻術使いなんていないし!」

リーンは憮然としている。何年ぶりでも屈託無く感情をぶつけ合える間柄らしい。

「そうだよ、久しぶりに合うんだから素直に歓迎してくれてもいいじゃないか?」

『英雄戦争』当時、メルの回復魔法に幾度と無くお世話になっているガラハドも、まったく数年離れていた事など感じさせない打ち解けた雰囲気だ。もちろん、メルの常識の枠を越えた歓待の仕方にもその原因はあったのだが。

「ふふふ、それじゃ登場がおもしろくないでしょ?最近、あなたのおじいちゃんから絶賛習得中なんで人間に試してみたくなったのよ。シフは幻術なんて全然相手にしてくれないし、おまけに石みたいに鈍感というか何と言うか全然効かないし。。。それで相手にしてくれるような、しかも掛けても怒られない相手に試してみたくなったの(笑)。」

「まぁ、どうせあなたのことだから普通の登場の仕方はしないと思ったから、もういいけど、、、でも、だいたい、あなた神官じゃないの、何を血迷ったのか幻術なんて、、、?」

「こんな私でも、いろいろこの世界の事を考えているのよ。たんなるイカれた治療女じゃ、出番が無いのよ。」

「この世界というか、本小説でのあなたの役回りの事ね、、、。」

「まぁ、そう言う事。」

「結局あなた、昔から変わらないわね、、、。時折、どこからともなく聞こえた、[]カッコに囲まれた暇そうな超世界的な暴露系の声はやっぱりあなた?」

「バレたか(笑)」

「やっぱり(笑)、せっかく作者が正統派ファンタジーを志して注意に注意を重ねてストーリーテリングしているのに、雰囲気ぶち壊しだわ(笑)。」

と、執筆者にとってみればいささかモラハラな発言も全く意に介さず、いかにもツーカーな感じである。これ以上読者離れを起こさないかヒヤヒヤものである、、、。

「他にもラルっちに色々習ったのを基に開発していろいろ見せられるのよ。ペガサスとかユニコーンとか一般的な幻獣の他にも、サタンとか精神汚染する異世界生物とか(笑)。」

「い、いいよ、もう、またピンチになったらお願いする。」

「そう?せっかく開発したのに(笑)。」

「[天の声]たるあなたなら説明は不要かもしれないけど、実は、かくがくしかじかで、おじいちゃんの元へ急いでいるの、どう行けばいいの?」

「あぁ、この先まっすぐ5kmくらいよ。歓迎ついでに案内してあげるわ(笑)。私の家すぐ横だし。」

「5kmか、、、、まったく、おじいちゃんも、メルなんかに幻術教えてこの先どうなるか分かってんのかしら、、、」

(それにしても、主人公狙ってたのに、天然のリーンに取られちゃって、色物の女神官みたいな役柄なんて貧乏くじひいちゃったわ、、、これからは幻術であっと言わせるしか無いわね、、、)

「なにか言った?」

「何でもない(笑)。」

「それにしてもおじいちゃん。シフと言い、なかなか若い娘に人気あるわね~、邪気が無いからかしら、、、天然だから、、、?」

「だって、ラルフさん実力者だもん、能力も人格もね、皆に慕われると思うわよ。」

「能力は認めるけど、人格ね~、あの偏屈大王がね~、、、、。」

「まぁまぁ、身内と、他人とで違うのかもよ(笑)。さ、行きましょ。」

「オレも、『英雄戦争』の時、一度会議の席上で『土の賢者』ちら見しただけだし、一度お話してみたいな~。」

「ただの偏屈狸だって!!」

「ははは!さ、行こう!」

長く波乱に富んだ逃避行をようやく終え、メルによるひどく手厚い歓迎を受けつつも『土の賢者』の持つコテージへ向かうリーン達であった。
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