野菜士リーン

longshu

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第1章

1-72 門番長 ダンドン

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「おお~い!!」

でっぷりと太った不潔な巨人の門番が鎖でがんじがらめに縛られている空間に、地鳴りのような大音声の銅鑼声が木霊する。地震か岩壁の崩落かと思い、思わず身を伏せたリーン達が見上げた声の先には、『フレーセイ島』で会った海賊の首領ヨーンのような立派な風体を持つ大男が、外壁の上に毅然と立ち壁下を見下ろしていた。碧眼黄髪、多少痛んではいるがよく手入れされた鋼鉄の鎧と兜を身に纏い、さながら神将のような出で立ちである。明らかに先ほどの門番とは格が違うようであった。

「またウドグドの奴、暴れ出したな!しようのない奴め!」

と、大声で言うと、さっと20mの岩壁から飛び降りた。ずしーん、辺りにまた木霊する地震のような巨大な地響き。

「おお、これはこれは、ザイラート殿ではないか。こんな辺鄙な国境で何をしている?」

「おお、ダンドン殿。見ての通り、その、あなたの部下ですか?彼に襲われたので、静かにしていてもらっていた所です。」

「な、なんと。国の恥部を見せてしまって申し訳ない。こらウドグド、お客人になんてことしているんだ!」

「お、おだ、こごをどおさねー、っていう ぎまりをまもろうと、、、」

手首両膝首まで細い鎖で縛られて、ぐぅとなっている肥大した巨人ウドグドは、切れ切れに言った。

「それは我々巨人の間でのみの事だ、ノームに手を上げろなど申してはおらんぞ!!」

「ず、ずびばせん。。。」

巨大な炎の巨人ウドグドもダンドンには従順なようだ。

「と、言う訳で『ライラックガーデン』の方々に攻撃してしまったのは、あくまで誤解だ。申し訳ない。」

「ははは、ならば仕方ないですね。しかし私だからまだ対処できましたが、一般市民であればこうは行きますまい、是正を要求しますよ。」

幾分、有無を言わせぬ強制のような口調でザイラートが言う。彼のその戦闘面の実力からして絶対命令のような響きがないわけでもなかった。

「申し訳ない。」

心底反省しているといった風に深々と頭を垂れる。その潔さにリーンは『炎の巨人』達に対して少し印象を改めた。

--- 外壁をくぐって領内にある守衛所 ---

「と、言う訳なのだ。『炎の巨人領』と『ライラックガーデン』の最大の関門所『アイジンノン』ならもう少し整備されていると思うのだが、みっともない所を見せてしまったな。申し訳ない。」
他国の人間に至らないところを見られて本当に申し訳なさそうに大男の門番の長ダンドンが小さくなって言う。

リーン達は、ならず者の巨漢ウドグドをやり過ごした後、門番の長をしているダンドンの計らいにより、国境である外壁を通り、付近の守衛所でもてなされていた。大多数の身長が身長3mを超える『炎の巨人』達の居住空間である。辺境の寂れた守衛所であっても、旧時代の遺跡か神殿のようにリーン達には感じた。

ダンドンの申し開きはこうだった。

元々巨人国『炎の巨人領』とノーム国『ライラックガーデン』の国境は漠然としていた。ノーム達の煌びやかな魔法が及ぶ範囲までが『ライラックガーデン』で、それが及ばなくなると『炎の巨人領』といった感じである。広い『ムスペッルスヘイム』大陸に遠く離れた両国家、人口も『ミズガルズ』の人間達とは比べものにならないほど少なく、争うほどの金や宝石や魔法物質などの資源もそれほど必要としない両国にとっては、国境など意味をなさないものであった。

『炎の巨人領』の現王『賢帝ドンフレイム』も現状通り自由な往来を是としていた。と言っても一部のノームの行商人の入国と、彼らには珍しい新しもの好きな奇特な巨人(子供や若者が多かった)、また一部のやはり奇特な様々な旅行者の出国くらいしか交流はないのであったが。

『炎の巨人領』は王制を敷いていた。が、国境周辺までくるとその権威はほとんど及ばないほど、人もまばらで自然環境は荒々しく、各都市間の連絡もよほどの事が無い限りはろくに取れない。それぞれの地域はそれぞれの領主が治め、数年に一度思い出したように首都『ライザンカンザル』に朝貢に訪れる。時にはその首都から招集の掛かる事もあるにはあったが。とにかく国王と領主はそれくらいの間柄であった。現在の『炎の巨人領』は大領主が並び立つ領邦国家なのであった。

この粗末な外壁のある辺りは国王の遠戚にあたるグーボルグが治めていた。積極家で野心家だ。ダンドンは彼の直属の配下である。単なる都市の緩い集合体となっている『炎の巨人領』の統治を良しとしなかった彼は、自身の領地だけでも領土、金融、法政、国家を構成する全てにおいて厳格さを求めようとし、人材も乏しいなか無理な政策を推し進めていた。

元々国家意識を持っていない大多数の領内の『炎の巨人』達は、『炎の巨人領』の他の領地へ離解したり、『ライラックガーデン』に流れたりして空洞化を招き、その結果がこの急ごしらえの荒れ果てた外壁と、領外へのこれ以上の流出を許さないための粗暴な田舎者ウドグドの門番役に繋がっている。

「国を思う気持ちは皆同じなのだが、少しやり過ぎるのだ、わが領主殿は。。。」

門番長は嘆息して言う。裏表ない態度だ。ウドグドを見て印象最悪だったリーン達ではあったが、ダンドンの率直な素振りを見て、認識を少し改める事にした。

「あなたとは、5年ぶりくらいでしょうか?少しやつれましたかな?」

「うむ、貴公と前回会ったのは、我が首都城『ザンジナルパレス』に外交使節として来た時だったな?フィリ殿は元気か?」

「ええ、相変わらず静かにぶれる事無く統治しておられます。この頃どうした事か少し慌ただしくしておいでですが。。。」

ダンドンの登場で落ち着いたリーン達一行は、巨人守衛所にて少し休憩を取ることにした。
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