野菜士リーン

longshu

文字の大きさ
112 / 160
第1章

1-96 決着

しおりを挟む
その後戦う事30分、手数で押し、一撃必殺の攻撃をうまくするりと躱し続けているガラハドは、徐々に優勢を取ってきた。カーンの顔や身体が所々ミミズ腫れに腫れ上がる。リーンの言う『ミズガルズ剣豪ランキング 11289年度版』に従えば、カーンは3位、ガラハドは20位と数段強いはずであったが、今日のカーンは今ひとつ精彩を欠いている。

(どうやら、迷いがその所作身のこなしに出ているようだ、原因は恐らくレーネかな?)

ガラハドは冷静にそう分析する。腕一本で妻の復讐を果たし、おのが身体一つで『英雄戦争』勝利をつかみ取った、その勝ち抜くための強固な執念と確信が、現在のカーンには見られない。

無言に見えるカーンの太刀筋にも、『英雄戦争』からこの方、稽古や剣術試合を含め幾度となく刃を合わせているガラハドにはその意味を理解する事が出来たのであった。”レーネーを止めてほしい”その一言である。

『レボルテ』の大将軍を務める肩書き上、また彼の生き方からして、ましてやレーネは無くしてしまった戦友マキシムの一人娘だ、変節する事などとても出来た物では無かったが、心は悲鳴を上げているようであった。ガラハド達にも分からない、何か重大な事が背後で起こった事は想像に難くない。

数十分の死闘で劣勢にまわったカーンは、起死回生とばかりガラハドめがけて、『大地の斧』を盲滅法振り回し迫って来た。対『ウェールズ』王エアハルト戦で見せた必殺技だ、ガラハドによるクリーンヒットを数限りなく受けてもあまり応えてはいないようだった。驚異的な体力と防御力である。カーンの斧撃の周辺にはあまりの風圧につむじ風が立ち上り、『大地の斧』の魔力によって生成された岩や土塊が飛び散り、幾筋もの小さな竜巻が舞起こっているかのようであった。

「きゃっ!ま、まずいわ!ガ、ガラハド、応援しようか?」

「剣士の決闘に助力は無用だ。そして、オレは打ち克つ必要がある。」

(ど、どうしちゃったのかしら、ガラハド?何か悪い物でも食べた??)

(ほんと、レーネを前にして、覚悟を決めたのかしら???でも、やられそうになったら有無を言わさず助けるわ!!)

(これがカーンの『斧風撃』か!?確かにこの圧撃はまずいな、付け入る隙が無い上にカーンの体力は無尽蔵だ。どうしたものか?)

豹のような敏捷さこそ無いものの、規格外の体力に圧倒的な攻撃力と防御力を持つカーンと、正確無比な剣術と神のような攻撃への読みを持つガラハド、両名が真剣に闘えば水と油で決定打に欠くのであったが、峰打ちを狙う分ガラハドが不利であった。巨象のような防御を誇るカーンに対して、どうすれば生け捕りする決定打を放つ事が出来るのか、ガラハドは考えあぐねていた。

(ん?狙ってみるか?)

ふと、思いついたのか、ガラハドは一つ狙ってみる事にした。

襲いかかってくるカーン、斧撃は一向に留まるところを知らず、身体が温まってきたとでも言うのか、ますますそのスピードとパワーは上がってくる。そして、ガラハドを切り刻んだかに見えた刹那、ガラハドは地面に転がった白檀の木刀一つを残し、一瞬カーンの視界から姿を消した。

「む、何じゃ???」

狐につままれたようなカーン、そして数瞬の後に、後頭部にもらう深く重い一撃、、、朦朧とするカーンに、ガラハドの止めの一撃が失神を狙って急所にお見舞いされる。決着は付いた。

ガラハドは、カーンの攻撃の死角を利用し、白檀の木刀を踏み台にしてカーンの遙か上空へ飛び上がったようだった。その間0.1s、遠くから見ていたリーン達も注意してみていなければ見逃してしまいそうな驚異的にに俊敏な動きであった。

、、、 10分後 、、、

気がつくとカーンは直径数十cmはあろうかという蔦植物に全身ミイラのようにぐるぐる巻きにされ、身動き一つ出来ないでいた。

「こんな事をするのは、お前を置いて他におらんな、リーン?」

「ごめんなさい。レーネを取り戻すまで、しばらくこのままの姿勢で居てもらうわ。」

カーンは抵抗をやめている、例え全身の力を使って、蔦を一本千切ったと言った所で、一瞬のうちに更に数巻き巻き付かれるのは『英雄戦争』で幾度となく見て知っていたからだ。おまけに、ご丁寧にカーン専用に通常の3倍はあろうかという太さと強靱さを兼ね備えた蔦を選んでいるようである。これならばエンシェントドラゴンでも生け捕りに出来そうだ。

「ふん、好きなようにせい!!」

カーンは負けて身動きを奪われて悔しいのか、明後日の方向を見ている。

「ねぇ、カーン、ちょっと聞きたいんだけど、どうしてここにはあなたしか居ないのかしら?道中襲いかかってきたのは幽霊みたいな人間の入っていない鎧兵士だけよ?護衛の魔装兵達はどうしたの?」

「、、、」

口を噛むカーン、自身でも信じられないとでも言った感じで、口に出すのをきつく戒めている。

「ねぇ、私達、レーネを倒しに来た訳じゃないの。恋人のガラハドも連れてきて、みんなで昔みたいな前だけを見て笑っていた日々に戻りたいだけなのよ。」

「、、、」

「カーン、レーネに何があったんですか?教えてください。」

縛り付けられているカーンに土下座して頼み込むガラハド。その哀願するような元恋人の口調には、カーンも感ずるものがあったのか、ぶっきらぼうに答える。

「、、、レーネはワシがここへ来るまでは、最上階におった。自分たちで今『イスティファルド』で何が起こっとるのか確認するが良かろう。」

横を向いたまま、ぼそぼそと答えるカーン。やはり死人の館のように静まりかえった『イスティファルド』では何かが起こっているようであった。それも豪快で快活で裏表のないカーンを黙り込ませてしまうほどの何かが。

「どうしても教えてくれないのね。いいわ。私達、絶対にレーネを取り戻してくる!それまで待っていてちょうだい!!」

「、、、そうか、、、さっさと行け!」

「それでは、そのような格好で申し訳ありませんが、お暇します。オレ達を信じて待っていてください。」


、、、 リーン達が去って 、、、

(マキシムよ、お前が死んでから国を継がなければならなかったレーネを娘のように思って補佐しておったが、どうしてこうなってしまったんじゃろうか?果たして他に選択肢は無かったんじゃろうか? ワシはどうしたらよかったんじゃ??? 頭の悪いワシにはわからん!!!教えてくれマキシムよ!!!)

リーン達の去った後で、床に横たわったまま一人静かにむせび泣くカーンの姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が……王太子……のはずだったのに??

#Daki-Makura
ファンタジー
最愛と朝を迎えたら……城下が騒がしい……?? 一体……何が起きているのか……??

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...