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変な奴と変わった所で再会する。
それ以外に、この状況を表す言葉は見つからなかった。
「三年ぶり?」
「ああ……。その、くらいだな……」
あの半島で別れて以来、彼女の声を聞くのも見るのは久し振りの事だった。
三年前の戦争以来、俺は傭兵時代知り合いの誰とも連絡を取っていない。傭兵を辞める時、親しかった何人かは『落ち着いたら連絡寄越せ』と言ってきたが、なんとなく連絡するのが躊躇われたのだ。
あの昔話が発作のトリガーにならないとも限らないし、安全地帯から戦場へ電話をするのが卑怯にも思えたからだ。
彼女は糸目を少しだけ開き俺を舐め回す様に見た後、満足そうに何度も頷く。
「再会を祝して、酒でも飲みながら話したいけど……今は無理ね」
何言ってんだと叫びそうになるのを堪え、耳打ちの形で話しかける。
「……勝手に近付いて来たのはお前だ。それに、お前仕事中だろ」
「フフッ、そうね。じゃあ夜、午後八時にデッキ十一のバーに来てよ。待ってるから」
人の都合などお構いなしに、ヴァンプは勝手に話を進め、勝手に会う約束を作ってしまう。抗議しようにも、俺が口を開こうとした時には彼女は既に人混みの中に紛れ込んでしまっていた。
「ああ……。クソッ」
周囲の人々が投げかけてくる好奇の目線が痛い。居づらくなった俺は、逃げるようにしてカジノから去った。
結局、カジノを出てから俺は何処に行くでもなくジャケットを脱ぐと、ベッドに倒れ込んだ。足が重い。
思えば家を出発してからこうするまで、飯を食っている時以外歩きっぱなしだった。スラックスを脱ぎ、ふくらはぎを揉む。こうすれば気休め程度には軽くなるだろう。
更に言えば、日本に帰って来てからこんなにも歩いたのも久方振りだ。
帰ってきたばかりの頃、仕事を探してあちこちをウロウロしていたのを最後に、長い距離を歩いた記憶が無い。
久し振りから連想され、俺の脳裏にヴァンプの顔がちらつてくる。
(なんでこんな所で会っちまうのか……)
傭兵から雇われのボディーガードに転職したのだろうが、それでは疑問の本当の答えになっていない。
何故、戦闘時に先陣を切る程の戦闘狂がある意味転職とも呼べる傭兵を辞めたのか。それが向こうから出されて、初めて答えになる。
(……まぁいいさ。どうせこの後会うんだし)
向こうから押しつけられた約束だ。それを破るなんてことはないだろう。
そう判断して、俺は答えの出ない疑問へ脳のリソースを割くのを一時中止し、静かに目を閉じた。
マットレスの概念の無いアパートの布団と違い、一番グレードの低い部屋でもベッドは高級品だ。いつもと違う寝心地に困惑しながらも布団では味わえない柔らかさに包まれ、俺は眠りに落ちた。
目を覚まし、腕時計で時刻を確認する。
時計の針は七時四十分を指している。
すきっ腹に酒を入れるのは気が進まないが、晩飯を食うには足りない。だが、こればかりはしょうがない。
(ナッツのつまみくらい出るだろ)
顔を洗い、シャツをのシワを直し、ジャケットを羽織る。
(デッキ十一だったよな……)
午前中に船を回った時にバーの場所は確認してある。時間的には少し早いが、別に早いからってどうという訳ではない。先に一杯やって待っていたアピールでもして、彼女に少しでもプレッシャーを掛けてやるのも悪くは無い。そう思いながら、俺は部屋から出た。
エレベーターでデッキ十一に向かい、バーに入ると店内をザッと見回してヴァンプの姿を探した。
流石に指定の十五分前に来るほど奇特な奴ではないらしい。愉悦に似た高揚感に頬を染めながら、俺はカウンター席に付いた。
俺が内側の酒棚を見据えると同時に、バーテンダーが注文を取りに来る。良いタイミングで聞きに来るあたりプロだ。
「ハイボールを」
「ハイボールですと……。ウイスキー、リキュール、スピリッツなどがありますが」
「ああ……。ウイスキーソーダを」
「ウイスキーは何にいたしましょう」
「……あるなら、日本のヤツ」
「かしこまりました」
バーテンは俺へ軽く礼をすると、冷蔵庫からウイスキーとソーダ水を出した。氷を入れて冷やしたタンブラーグラスにそれらを注ぎ、軽く混ぜる。
くし切りのレモンをグラスの縁に皮と身を挟むようにして挿し、ウイスキーソーダが完成した。
「どうぞ」
「どうも」
礼を言い、早速一口飲む。俺の貧乏舌にはもったいない味だった。小さく何度も頷きながら歓心していると、さりげなくカシューナッツが乗った小皿を差し出される。
「どうも」
また礼を言い、ナッツを口へ放り込んだ。微かに甘味のするナッツがウイスキーの後味を抑えると共に、また欲しいと促してくる。
その欲求に従うまま、俺はまた酒を飲んだ。
(美味い)
流れでナッツの皿に手を伸ばそうとすると、横からヌッと手が出てきてナッツを一粒奪っていった。
手が出てきた方を見る。案の定、ヴァンプがナッツを噛んでいた。
「……お前」
「ナッツの一つくらい、いいでしょ。――お酒、私も彼と同じのを」
前半は俺に、後半はバーテンに対して向けられた言葉だ。
「まったくこの野郎……」
嫌味混じりに酒を啜る。それを面白がりながら、彼女は。
「久し振り、亮平」
そう真面目な口調で言った。
それ以外に、この状況を表す言葉は見つからなかった。
「三年ぶり?」
「ああ……。その、くらいだな……」
あの半島で別れて以来、彼女の声を聞くのも見るのは久し振りの事だった。
三年前の戦争以来、俺は傭兵時代知り合いの誰とも連絡を取っていない。傭兵を辞める時、親しかった何人かは『落ち着いたら連絡寄越せ』と言ってきたが、なんとなく連絡するのが躊躇われたのだ。
あの昔話が発作のトリガーにならないとも限らないし、安全地帯から戦場へ電話をするのが卑怯にも思えたからだ。
彼女は糸目を少しだけ開き俺を舐め回す様に見た後、満足そうに何度も頷く。
「再会を祝して、酒でも飲みながら話したいけど……今は無理ね」
何言ってんだと叫びそうになるのを堪え、耳打ちの形で話しかける。
「……勝手に近付いて来たのはお前だ。それに、お前仕事中だろ」
「フフッ、そうね。じゃあ夜、午後八時にデッキ十一のバーに来てよ。待ってるから」
人の都合などお構いなしに、ヴァンプは勝手に話を進め、勝手に会う約束を作ってしまう。抗議しようにも、俺が口を開こうとした時には彼女は既に人混みの中に紛れ込んでしまっていた。
「ああ……。クソッ」
周囲の人々が投げかけてくる好奇の目線が痛い。居づらくなった俺は、逃げるようにしてカジノから去った。
結局、カジノを出てから俺は何処に行くでもなくジャケットを脱ぐと、ベッドに倒れ込んだ。足が重い。
思えば家を出発してからこうするまで、飯を食っている時以外歩きっぱなしだった。スラックスを脱ぎ、ふくらはぎを揉む。こうすれば気休め程度には軽くなるだろう。
更に言えば、日本に帰って来てからこんなにも歩いたのも久方振りだ。
帰ってきたばかりの頃、仕事を探してあちこちをウロウロしていたのを最後に、長い距離を歩いた記憶が無い。
久し振りから連想され、俺の脳裏にヴァンプの顔がちらつてくる。
(なんでこんな所で会っちまうのか……)
傭兵から雇われのボディーガードに転職したのだろうが、それでは疑問の本当の答えになっていない。
何故、戦闘時に先陣を切る程の戦闘狂がある意味転職とも呼べる傭兵を辞めたのか。それが向こうから出されて、初めて答えになる。
(……まぁいいさ。どうせこの後会うんだし)
向こうから押しつけられた約束だ。それを破るなんてことはないだろう。
そう判断して、俺は答えの出ない疑問へ脳のリソースを割くのを一時中止し、静かに目を閉じた。
マットレスの概念の無いアパートの布団と違い、一番グレードの低い部屋でもベッドは高級品だ。いつもと違う寝心地に困惑しながらも布団では味わえない柔らかさに包まれ、俺は眠りに落ちた。
目を覚まし、腕時計で時刻を確認する。
時計の針は七時四十分を指している。
すきっ腹に酒を入れるのは気が進まないが、晩飯を食うには足りない。だが、こればかりはしょうがない。
(ナッツのつまみくらい出るだろ)
顔を洗い、シャツをのシワを直し、ジャケットを羽織る。
(デッキ十一だったよな……)
午前中に船を回った時にバーの場所は確認してある。時間的には少し早いが、別に早いからってどうという訳ではない。先に一杯やって待っていたアピールでもして、彼女に少しでもプレッシャーを掛けてやるのも悪くは無い。そう思いながら、俺は部屋から出た。
エレベーターでデッキ十一に向かい、バーに入ると店内をザッと見回してヴァンプの姿を探した。
流石に指定の十五分前に来るほど奇特な奴ではないらしい。愉悦に似た高揚感に頬を染めながら、俺はカウンター席に付いた。
俺が内側の酒棚を見据えると同時に、バーテンダーが注文を取りに来る。良いタイミングで聞きに来るあたりプロだ。
「ハイボールを」
「ハイボールですと……。ウイスキー、リキュール、スピリッツなどがありますが」
「ああ……。ウイスキーソーダを」
「ウイスキーは何にいたしましょう」
「……あるなら、日本のヤツ」
「かしこまりました」
バーテンは俺へ軽く礼をすると、冷蔵庫からウイスキーとソーダ水を出した。氷を入れて冷やしたタンブラーグラスにそれらを注ぎ、軽く混ぜる。
くし切りのレモンをグラスの縁に皮と身を挟むようにして挿し、ウイスキーソーダが完成した。
「どうぞ」
「どうも」
礼を言い、早速一口飲む。俺の貧乏舌にはもったいない味だった。小さく何度も頷きながら歓心していると、さりげなくカシューナッツが乗った小皿を差し出される。
「どうも」
また礼を言い、ナッツを口へ放り込んだ。微かに甘味のするナッツがウイスキーの後味を抑えると共に、また欲しいと促してくる。
その欲求に従うまま、俺はまた酒を飲んだ。
(美味い)
流れでナッツの皿に手を伸ばそうとすると、横からヌッと手が出てきてナッツを一粒奪っていった。
手が出てきた方を見る。案の定、ヴァンプがナッツを噛んでいた。
「……お前」
「ナッツの一つくらい、いいでしょ。――お酒、私も彼と同じのを」
前半は俺に、後半はバーテンに対して向けられた言葉だ。
「まったくこの野郎……」
嫌味混じりに酒を啜る。それを面白がりながら、彼女は。
「久し振り、亮平」
そう真面目な口調で言った。
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