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夕日の中
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俺とイリナは子供達が眠る会議室に戻った。
子供達はまだ眠り続けており、目を覚ます気配はない。誰も彼も、スヤスヤと寝息を立てている。
「羨ましいよ。グッスリ寝れるのが」
「そう? 亮平、船でグッスリ寝てたじゃない」
「ありゃあ、疲れていたからだ。普段はもっと眠りは浅い。酷い時は、夜中に起きる事もある」
「……おじいちゃんじゃん」
「……しばくぞ」
そんな馬鹿話を交わしているが、俺達の目は真剣そのものだ。
「……起きたら、聞こう」
「聞いて、断られたら?」
「それまでさ。……あの子の意思を尊重しなきゃ、子供達を買おうとした変態と同類だからな」
金で人の人生を買うのも、今後の生存権を握って自分の言いなりにするのも、倫理的にも俺のポリシーにも反する行為だ。個人は個人の人生を歩むべきであって、それは何か何者かの影響こそ受けど何者かに操られる事があってはならない。自由意思とは本来そういうものである。誰にも与えられ、誰にも侵されない神聖な権利だ。
意思を他者に握られるなんて、想像するだけでも背筋が冷たくなる。
「そうそう」
イリナは頷きながら言った。
「本当に、子供って私達が思ってる何倍も敏いからね。子供扱いすると、嫌がるわ」
前にも聞いたことがある言葉を、また彼女は言う。俺はそれにしみじみと頷いた。
「……今は、起きるのを待とう」
「……そうね」
気の赴くままに眠る子供達の中からエレナを見つけ、その寝顔を見詰めた。誰にも邪魔されない自分だけの時間を過ごす彼女の顔は、穢れを知らない無垢な天使のようだった。
結局、子供達が目を覚ましたのは日が西に沈む頃。
昼飯を食べた後に昼寝をし夕方に起きるのは、なんだか田舎で夏休みを過ごす小学生を彷彿とさせる。もっともここは、日本の田園の青鮮やかな田舎ではなく、太平洋のど真ん中は常夏の楽園ハワイであるが。
だが、危機から脱し、まどろみにも似たとろみが付いた空気を吸って、はしゃいでいる子供達は夏休み中の小学生そのものだ。案外、春にも関わらず汗ばむ気温を保っているハワイの地が、そうさせるのかもしれない。
子供達が寝ぼけから抜けてワイワイとしだす。起きるのが一足遅れたエレナは輪に入りそびれ、所在なさげにしていた。彼女にとってはさておいて、俺にとってはある意味運が良かった。
楽しそうに話をしている時に呼びつけるのは、気が引けるからだ。
「エレナ」
「……tío」
「¿Cómo es? Cómo estás」
「estás bien. Estoy bien」
「eso era bueno」
「……………………」
「……………………」
最初の挨拶を交わしたは良いが、すぐに間が持たなくなる。もう少し話をして、彼女の気をほぐしておきたかったが致し方ない。
「……¿Salimos afuera a tomar un poco de aire fresco?」
「¿afuera?」
「así es」
「……ir」
「OK」
こうして俺は、エレナを連れて警備隊の本部から出た。本部の前は贅沢な事に白い砂浜のオーシャンビューだ。
沈む夕日が砂浜のキャンバスをオレンジ色に、海を紫へと染めている。真面目な話をしに来たのに、この何処か現実離れした光景に思わず目を奪われてしまう。
それはエレナも例外でないようで。
「bonito……」
無邪気にそう呟いた。
「ah……. hermoso」
俺は砂浜の上にあぐらをかき、それから隣のスペースをポンポンと叩いた。それでエレナも足を伸ばして座る。
どう話を切り出そうかと迷っていると、先にエレナが口を開いた。
「……gracias por su ayuda」
それは、彼女の心からのお礼だった。
「no, no te preocupes」
ハッキリ言って、ここまで上手く助けられたのも奇跡に近い。様々な偶然が重なった結果、こうなっている訳だから、その偶然が無ければこうはならなかった。そしてその偶然は、俺の実力によって起きた訳じゃない。
「Simplemente sucedió que funcionó。nada especial」
「No. Aún así, no cambia el hecho de que me ayudaste」
「……no lo creo」
エレナは言葉遣いといい、本当に年の割に大人びている。だが、それにしては食器の使い方がなっていない。俺はその歪さが気になった。
子供達はまだ眠り続けており、目を覚ます気配はない。誰も彼も、スヤスヤと寝息を立てている。
「羨ましいよ。グッスリ寝れるのが」
「そう? 亮平、船でグッスリ寝てたじゃない」
「ありゃあ、疲れていたからだ。普段はもっと眠りは浅い。酷い時は、夜中に起きる事もある」
「……おじいちゃんじゃん」
「……しばくぞ」
そんな馬鹿話を交わしているが、俺達の目は真剣そのものだ。
「……起きたら、聞こう」
「聞いて、断られたら?」
「それまでさ。……あの子の意思を尊重しなきゃ、子供達を買おうとした変態と同類だからな」
金で人の人生を買うのも、今後の生存権を握って自分の言いなりにするのも、倫理的にも俺のポリシーにも反する行為だ。個人は個人の人生を歩むべきであって、それは何か何者かの影響こそ受けど何者かに操られる事があってはならない。自由意思とは本来そういうものである。誰にも与えられ、誰にも侵されない神聖な権利だ。
意思を他者に握られるなんて、想像するだけでも背筋が冷たくなる。
「そうそう」
イリナは頷きながら言った。
「本当に、子供って私達が思ってる何倍も敏いからね。子供扱いすると、嫌がるわ」
前にも聞いたことがある言葉を、また彼女は言う。俺はそれにしみじみと頷いた。
「……今は、起きるのを待とう」
「……そうね」
気の赴くままに眠る子供達の中からエレナを見つけ、その寝顔を見詰めた。誰にも邪魔されない自分だけの時間を過ごす彼女の顔は、穢れを知らない無垢な天使のようだった。
結局、子供達が目を覚ましたのは日が西に沈む頃。
昼飯を食べた後に昼寝をし夕方に起きるのは、なんだか田舎で夏休みを過ごす小学生を彷彿とさせる。もっともここは、日本の田園の青鮮やかな田舎ではなく、太平洋のど真ん中は常夏の楽園ハワイであるが。
だが、危機から脱し、まどろみにも似たとろみが付いた空気を吸って、はしゃいでいる子供達は夏休み中の小学生そのものだ。案外、春にも関わらず汗ばむ気温を保っているハワイの地が、そうさせるのかもしれない。
子供達が寝ぼけから抜けてワイワイとしだす。起きるのが一足遅れたエレナは輪に入りそびれ、所在なさげにしていた。彼女にとってはさておいて、俺にとってはある意味運が良かった。
楽しそうに話をしている時に呼びつけるのは、気が引けるからだ。
「エレナ」
「……tío」
「¿Cómo es? Cómo estás」
「estás bien. Estoy bien」
「eso era bueno」
「……………………」
「……………………」
最初の挨拶を交わしたは良いが、すぐに間が持たなくなる。もう少し話をして、彼女の気をほぐしておきたかったが致し方ない。
「……¿Salimos afuera a tomar un poco de aire fresco?」
「¿afuera?」
「así es」
「……ir」
「OK」
こうして俺は、エレナを連れて警備隊の本部から出た。本部の前は贅沢な事に白い砂浜のオーシャンビューだ。
沈む夕日が砂浜のキャンバスをオレンジ色に、海を紫へと染めている。真面目な話をしに来たのに、この何処か現実離れした光景に思わず目を奪われてしまう。
それはエレナも例外でないようで。
「bonito……」
無邪気にそう呟いた。
「ah……. hermoso」
俺は砂浜の上にあぐらをかき、それから隣のスペースをポンポンと叩いた。それでエレナも足を伸ばして座る。
どう話を切り出そうかと迷っていると、先にエレナが口を開いた。
「……gracias por su ayuda」
それは、彼女の心からのお礼だった。
「no, no te preocupes」
ハッキリ言って、ここまで上手く助けられたのも奇跡に近い。様々な偶然が重なった結果、こうなっている訳だから、その偶然が無ければこうはならなかった。そしてその偶然は、俺の実力によって起きた訳じゃない。
「Simplemente sucedió que funcionó。nada especial」
「No. Aún así, no cambia el hecho de que me ayudaste」
「……no lo creo」
エレナは言葉遣いといい、本当に年の割に大人びている。だが、それにしては食器の使い方がなっていない。俺はその歪さが気になった。
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