29 / 70
夕日の中
しおりを挟む
俺とイリナは子供達が眠る会議室に戻った。
子供達はまだ眠り続けており、目を覚ます気配はない。誰も彼も、スヤスヤと寝息を立てている。
「羨ましいよ。グッスリ寝れるのが」
「そう? 亮平、船でグッスリ寝てたじゃない」
「ありゃあ、疲れていたからだ。普段はもっと眠りは浅い。酷い時は、夜中に起きる事もある」
「……おじいちゃんじゃん」
「……しばくぞ」
そんな馬鹿話を交わしているが、俺達の目は真剣そのものだ。
「……起きたら、聞こう」
「聞いて、断られたら?」
「それまでさ。……あの子の意思を尊重しなきゃ、子供達を買おうとした変態と同類だからな」
金で人の人生を買うのも、今後の生存権を握って自分の言いなりにするのも、倫理的にも俺のポリシーにも反する行為だ。個人は個人の人生を歩むべきであって、それは何か何者かの影響こそ受けど何者かに操られる事があってはならない。自由意思とは本来そういうものである。誰にも与えられ、誰にも侵されない神聖な権利だ。
意思を他者に握られるなんて、想像するだけでも背筋が冷たくなる。
「そうそう」
イリナは頷きながら言った。
「本当に、子供って私達が思ってる何倍も敏いからね。子供扱いすると、嫌がるわ」
前にも聞いたことがある言葉を、また彼女は言う。俺はそれにしみじみと頷いた。
「……今は、起きるのを待とう」
「……そうね」
気の赴くままに眠る子供達の中からエレナを見つけ、その寝顔を見詰めた。誰にも邪魔されない自分だけの時間を過ごす彼女の顔は、穢れを知らない無垢な天使のようだった。
結局、子供達が目を覚ましたのは日が西に沈む頃。
昼飯を食べた後に昼寝をし夕方に起きるのは、なんだか田舎で夏休みを過ごす小学生を彷彿とさせる。もっともここは、日本の田園の青鮮やかな田舎ではなく、太平洋のど真ん中は常夏の楽園ハワイであるが。
だが、危機から脱し、まどろみにも似たとろみが付いた空気を吸って、はしゃいでいる子供達は夏休み中の小学生そのものだ。案外、春にも関わらず汗ばむ気温を保っているハワイの地が、そうさせるのかもしれない。
子供達が寝ぼけから抜けてワイワイとしだす。起きるのが一足遅れたエレナは輪に入りそびれ、所在なさげにしていた。彼女にとってはさておいて、俺にとってはある意味運が良かった。
楽しそうに話をしている時に呼びつけるのは、気が引けるからだ。
「エレナ」
「……tío」
「¿Cómo es? Cómo estás」
「estás bien. Estoy bien」
「eso era bueno」
「……………………」
「……………………」
最初の挨拶を交わしたは良いが、すぐに間が持たなくなる。もう少し話をして、彼女の気をほぐしておきたかったが致し方ない。
「……¿Salimos afuera a tomar un poco de aire fresco?」
「¿afuera?」
「así es」
「……ir」
「OK」
こうして俺は、エレナを連れて警備隊の本部から出た。本部の前は贅沢な事に白い砂浜のオーシャンビューだ。
沈む夕日が砂浜のキャンバスをオレンジ色に、海を紫へと染めている。真面目な話をしに来たのに、この何処か現実離れした光景に思わず目を奪われてしまう。
それはエレナも例外でないようで。
「bonito……」
無邪気にそう呟いた。
「ah……. hermoso」
俺は砂浜の上にあぐらをかき、それから隣のスペースをポンポンと叩いた。それでエレナも足を伸ばして座る。
どう話を切り出そうかと迷っていると、先にエレナが口を開いた。
「……gracias por su ayuda」
それは、彼女の心からのお礼だった。
「no, no te preocupes」
ハッキリ言って、ここまで上手く助けられたのも奇跡に近い。様々な偶然が重なった結果、こうなっている訳だから、その偶然が無ければこうはならなかった。そしてその偶然は、俺の実力によって起きた訳じゃない。
「Simplemente sucedió que funcionó。nada especial」
「No. Aún así, no cambia el hecho de que me ayudaste」
「……no lo creo」
エレナは言葉遣いといい、本当に年の割に大人びている。だが、それにしては食器の使い方がなっていない。俺はその歪さが気になった。
子供達はまだ眠り続けており、目を覚ます気配はない。誰も彼も、スヤスヤと寝息を立てている。
「羨ましいよ。グッスリ寝れるのが」
「そう? 亮平、船でグッスリ寝てたじゃない」
「ありゃあ、疲れていたからだ。普段はもっと眠りは浅い。酷い時は、夜中に起きる事もある」
「……おじいちゃんじゃん」
「……しばくぞ」
そんな馬鹿話を交わしているが、俺達の目は真剣そのものだ。
「……起きたら、聞こう」
「聞いて、断られたら?」
「それまでさ。……あの子の意思を尊重しなきゃ、子供達を買おうとした変態と同類だからな」
金で人の人生を買うのも、今後の生存権を握って自分の言いなりにするのも、倫理的にも俺のポリシーにも反する行為だ。個人は個人の人生を歩むべきであって、それは何か何者かの影響こそ受けど何者かに操られる事があってはならない。自由意思とは本来そういうものである。誰にも与えられ、誰にも侵されない神聖な権利だ。
意思を他者に握られるなんて、想像するだけでも背筋が冷たくなる。
「そうそう」
イリナは頷きながら言った。
「本当に、子供って私達が思ってる何倍も敏いからね。子供扱いすると、嫌がるわ」
前にも聞いたことがある言葉を、また彼女は言う。俺はそれにしみじみと頷いた。
「……今は、起きるのを待とう」
「……そうね」
気の赴くままに眠る子供達の中からエレナを見つけ、その寝顔を見詰めた。誰にも邪魔されない自分だけの時間を過ごす彼女の顔は、穢れを知らない無垢な天使のようだった。
結局、子供達が目を覚ましたのは日が西に沈む頃。
昼飯を食べた後に昼寝をし夕方に起きるのは、なんだか田舎で夏休みを過ごす小学生を彷彿とさせる。もっともここは、日本の田園の青鮮やかな田舎ではなく、太平洋のど真ん中は常夏の楽園ハワイであるが。
だが、危機から脱し、まどろみにも似たとろみが付いた空気を吸って、はしゃいでいる子供達は夏休み中の小学生そのものだ。案外、春にも関わらず汗ばむ気温を保っているハワイの地が、そうさせるのかもしれない。
子供達が寝ぼけから抜けてワイワイとしだす。起きるのが一足遅れたエレナは輪に入りそびれ、所在なさげにしていた。彼女にとってはさておいて、俺にとってはある意味運が良かった。
楽しそうに話をしている時に呼びつけるのは、気が引けるからだ。
「エレナ」
「……tío」
「¿Cómo es? Cómo estás」
「estás bien. Estoy bien」
「eso era bueno」
「……………………」
「……………………」
最初の挨拶を交わしたは良いが、すぐに間が持たなくなる。もう少し話をして、彼女の気をほぐしておきたかったが致し方ない。
「……¿Salimos afuera a tomar un poco de aire fresco?」
「¿afuera?」
「así es」
「……ir」
「OK」
こうして俺は、エレナを連れて警備隊の本部から出た。本部の前は贅沢な事に白い砂浜のオーシャンビューだ。
沈む夕日が砂浜のキャンバスをオレンジ色に、海を紫へと染めている。真面目な話をしに来たのに、この何処か現実離れした光景に思わず目を奪われてしまう。
それはエレナも例外でないようで。
「bonito……」
無邪気にそう呟いた。
「ah……. hermoso」
俺は砂浜の上にあぐらをかき、それから隣のスペースをポンポンと叩いた。それでエレナも足を伸ばして座る。
どう話を切り出そうかと迷っていると、先にエレナが口を開いた。
「……gracias por su ayuda」
それは、彼女の心からのお礼だった。
「no, no te preocupes」
ハッキリ言って、ここまで上手く助けられたのも奇跡に近い。様々な偶然が重なった結果、こうなっている訳だから、その偶然が無ければこうはならなかった。そしてその偶然は、俺の実力によって起きた訳じゃない。
「Simplemente sucedió que funcionó。nada especial」
「No. Aún así, no cambia el hecho de que me ayudaste」
「……no lo creo」
エレナは言葉遣いといい、本当に年の割に大人びている。だが、それにしては食器の使い方がなっていない。俺はその歪さが気になった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる