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性癖の中
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梁 堃が小児性愛に目覚めたのは、二十歳の夏であった。
昔からその気があったのだが、それが発現したのは彼が大学の夏休みで帰省していた時、おつかいをしていた近所の少女を目にした時であった。
水玉模様のワンピースから伸びるよく日に焼け汗ばんだ肌、短く切った黒髪、何も施されていないつぶらな瞳。
化粧を塗りたくり、伸ばした髪の毛を染め、アイプチを施した目の都会の女とは、明らかに異なったイキモノに彼は強く心惹かれたのだ。
普段から彼が同級生の女達を、胸糞悪くような香水の匂いを振りまき、恥も外聞もなく肌を露出した下品な売女だと内心見下していたのも手伝い、その感情は一気に膨れ上がった。
「哈罗」
何も知らない少女は、近所の家の人間である梁に笑顔で元気よく挨拶をする。少女の鈴のような軽やかな声を聞き、彼は股間が熱くなるのを感じた。思わず理性が消し飛びそうになり、すぐそばの人気の無い茂みが目に入ったが、彼の知性がそれを引き止めた。
少女が行方不明になれば、当然、家族や警察が捜索や捜査するだろう。小さな町だ、そうなればどんな小細工をしようとも誰がナニをしたかぐらい簡単にバレてしまう。
彼は太ももをつねって我慢し、その場を切り抜けた。
だが切り抜けたはいいものの、それ以来彼は日に焼けた小麦色の肌や褐色肌の少女に、強い劣情を抱くようになってしまった。普通の肌でも興奮しない訳じゃなかったが、彼の中では褐色肌が一番興奮するのであった。
それは大学をトップクラスの成績で卒業し、大企業に就職しても、独立して興した会社が成功を収めても、変わらなかった。
三十の山を越えようとしている彼に、周囲はお見合い話を持ちかけてくるようになったが、彼は写真を開きもしない。
彼の心は褐色肌の少女に奪われたまま、年頃の女性に向くことはなかったのだ。
発散しようにも、社会的地位や立場が高い身ではそういう場所には中々行けないし、なにより、少女というのはただの美女よりも見つけるのにハードルが高く、好みに合った相手が見つからないことが多く、彼はヤキモキしていた。
そんな欲求不満が限界を迎えつつあった頃だった。
同じ趣味を持つ知り合いから『リンカーン』の事を聞いたのは。
奴隷解放宣言を掲げた者の名が付いた船で行われる、非合法オークション。完全紹介制のオークションは機密性が高く、何十回ものオークションを成功させた実績もある。
しかも、何回か参加すれば運営側が特別に自分の性癖に合った子供を特別価格で売ってくれるとの話だった。
梁は話を持ってきた知り合いに、すぐさま自分を紹介してくれと頼みこんだ。
その頼みから二か月後、彼は初めて『リンカーン』に乗り、生まれて初めて抱え込んだ欲求を発散する事が出来た。
それからというもの、彼はまとまった休みと航海時期が合えば『リンカーン』に乗り続けて何人もの少女を買ってきた。欲求が解消される度に彼の頭も冴え、会社の業績も上がっていく。
梁自身からすれば、まさに好循環であった。そんなことを続けて三年。
ようやく自分の好みに合った少女が買える。彼が思った矢先、そのバラ色の夢は悪夢へと変貌した。
自らが雇ったガードマンとその知り合いの日本人によって。
「いったいどうなっているんだ!」
彼は電話口の相手に怒鳴る。その怒りは怒髪冠を衝き、今にも部屋の調度品に八つ当たりしそうになっている。
船から逃げるように降りた彼は、ホノルルのホテルのスイートルームを取り、そこでクレームを入れているのだ。
『まぁ、起こってしまったことに文句を言っても始まりません』
だが、電話の相手――オークションの運営側はあくまでも冷静に、丁寧な口調を崩さない。
「始まらないだと!?」
『私共といたしましても、されるがまま、というのは大変腹立たしい事でして。彼等にはキッチリと落とし前を付けさせますよ。その暁には、必ずや商品を取り返し、貴方様の所までお届けに参りますので』
相手の言葉に、梁は開きかけた口を閉じ、静かに声を出した。
「……本当だろうな」
『商売に必要なのは、一にも二にも顧客との信頼関係ですよ』
「……絶対に、商品を取り戻すんだな?」
念を押し、その言葉が安請け合いでないことを確認する。
『ええ。幸い、向こうの行き先はもう掴んでいます。後は機を見て、仕掛けるだけです』
「……傷を付けるなよ」
『分かっております。……それでは』
電話を切った彼は携帯電話をベッドの上へ投げ捨てると、ソファーに身を投げ出すようにして座った。
「倭に贱人が……」
クソ日本人にクソ女。あまりお上品じゃない、ある意味でお里が知れる暴言を吐き、彼は目を閉じる。
商品が自分の手元に来るまでいったいどのくらいの時間が掛かるのか。その事を考え、期待と無駄にその時間を伸ばした二人を八つ裂きにする妄想を繰り広げた。
昔からその気があったのだが、それが発現したのは彼が大学の夏休みで帰省していた時、おつかいをしていた近所の少女を目にした時であった。
水玉模様のワンピースから伸びるよく日に焼け汗ばんだ肌、短く切った黒髪、何も施されていないつぶらな瞳。
化粧を塗りたくり、伸ばした髪の毛を染め、アイプチを施した目の都会の女とは、明らかに異なったイキモノに彼は強く心惹かれたのだ。
普段から彼が同級生の女達を、胸糞悪くような香水の匂いを振りまき、恥も外聞もなく肌を露出した下品な売女だと内心見下していたのも手伝い、その感情は一気に膨れ上がった。
「哈罗」
何も知らない少女は、近所の家の人間である梁に笑顔で元気よく挨拶をする。少女の鈴のような軽やかな声を聞き、彼は股間が熱くなるのを感じた。思わず理性が消し飛びそうになり、すぐそばの人気の無い茂みが目に入ったが、彼の知性がそれを引き止めた。
少女が行方不明になれば、当然、家族や警察が捜索や捜査するだろう。小さな町だ、そうなればどんな小細工をしようとも誰がナニをしたかぐらい簡単にバレてしまう。
彼は太ももをつねって我慢し、その場を切り抜けた。
だが切り抜けたはいいものの、それ以来彼は日に焼けた小麦色の肌や褐色肌の少女に、強い劣情を抱くようになってしまった。普通の肌でも興奮しない訳じゃなかったが、彼の中では褐色肌が一番興奮するのであった。
それは大学をトップクラスの成績で卒業し、大企業に就職しても、独立して興した会社が成功を収めても、変わらなかった。
三十の山を越えようとしている彼に、周囲はお見合い話を持ちかけてくるようになったが、彼は写真を開きもしない。
彼の心は褐色肌の少女に奪われたまま、年頃の女性に向くことはなかったのだ。
発散しようにも、社会的地位や立場が高い身ではそういう場所には中々行けないし、なにより、少女というのはただの美女よりも見つけるのにハードルが高く、好みに合った相手が見つからないことが多く、彼はヤキモキしていた。
そんな欲求不満が限界を迎えつつあった頃だった。
同じ趣味を持つ知り合いから『リンカーン』の事を聞いたのは。
奴隷解放宣言を掲げた者の名が付いた船で行われる、非合法オークション。完全紹介制のオークションは機密性が高く、何十回ものオークションを成功させた実績もある。
しかも、何回か参加すれば運営側が特別に自分の性癖に合った子供を特別価格で売ってくれるとの話だった。
梁は話を持ってきた知り合いに、すぐさま自分を紹介してくれと頼みこんだ。
その頼みから二か月後、彼は初めて『リンカーン』に乗り、生まれて初めて抱え込んだ欲求を発散する事が出来た。
それからというもの、彼はまとまった休みと航海時期が合えば『リンカーン』に乗り続けて何人もの少女を買ってきた。欲求が解消される度に彼の頭も冴え、会社の業績も上がっていく。
梁自身からすれば、まさに好循環であった。そんなことを続けて三年。
ようやく自分の好みに合った少女が買える。彼が思った矢先、そのバラ色の夢は悪夢へと変貌した。
自らが雇ったガードマンとその知り合いの日本人によって。
「いったいどうなっているんだ!」
彼は電話口の相手に怒鳴る。その怒りは怒髪冠を衝き、今にも部屋の調度品に八つ当たりしそうになっている。
船から逃げるように降りた彼は、ホノルルのホテルのスイートルームを取り、そこでクレームを入れているのだ。
『まぁ、起こってしまったことに文句を言っても始まりません』
だが、電話の相手――オークションの運営側はあくまでも冷静に、丁寧な口調を崩さない。
「始まらないだと!?」
『私共といたしましても、されるがまま、というのは大変腹立たしい事でして。彼等にはキッチリと落とし前を付けさせますよ。その暁には、必ずや商品を取り返し、貴方様の所までお届けに参りますので』
相手の言葉に、梁は開きかけた口を閉じ、静かに声を出した。
「……本当だろうな」
『商売に必要なのは、一にも二にも顧客との信頼関係ですよ』
「……絶対に、商品を取り戻すんだな?」
念を押し、その言葉が安請け合いでないことを確認する。
『ええ。幸い、向こうの行き先はもう掴んでいます。後は機を見て、仕掛けるだけです』
「……傷を付けるなよ」
『分かっております。……それでは』
電話を切った彼は携帯電話をベッドの上へ投げ捨てると、ソファーに身を投げ出すようにして座った。
「倭に贱人が……」
クソ日本人にクソ女。あまりお上品じゃない、ある意味でお里が知れる暴言を吐き、彼は目を閉じる。
商品が自分の手元に来るまでいったいどのくらいの時間が掛かるのか。その事を考え、期待と無駄にその時間を伸ばした二人を八つ裂きにする妄想を繰り広げた。
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