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指切りの中
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買う買わない。いるいらない。
そんな平行線上の会話に終止符を打たんと、口を開いたのはイリナだった。
「じゃあ、私がエレナちゃんの服を買うわ」
俺は彼女の唐突な割り込みに驚くと同時に、その発言の中身にまた驚かされた。
エレナも目を丸くさせている。
「それだったら、おじさんの懐は痛まないわよ」
自身満々に言うが、イリナが口にしているのは英語なので、エレナは俺に翻訳を頼んできた。
なんとも締まらないが、俺は素直にそれを訳した。
「……買ってくれるの?」
エレナは俺の翻訳を挟みながら、イリナに問う。
「勿論」
力強い返事にエレナは一瞬、喜びの表情を浮かべたものの、すぐに表情を暗くさせてしまう。
「でも、お姉ちゃんのお金が……」
俺にしたのと同じ遠慮をする。しかし、イリナは俺の翻訳を聞いても眉一つ動かさず。
「私はおじさんより稼いでるから、全然平気よ」
そう言い切った。俺の男としてのプライドが傷つくような発言だが、エレナのしなくていい遠慮を止めさせるためなら我慢する。
「……本当?」
「嘘じゃないわ。私はおじさんよりお金持ちよ」
あまりに自信満々に言い切る様に、エレナも自分の為にイリナが嘘をついているのだと邪推するのを止めたようで、「うん」と首を縦に振ってくれた。
「よし決まり! 明日行こうね」
こうしてイリナは無理矢理ながらも、最終的には本人にも納得させる形で話を付けたのだ。
俺は内心、彼女の手腕に感服した。
そんな俺の感情を読み取ったのか、イリナはこちらを向き、得意げな顔をする。
俺の給料に関してもう少し言い方なかったのかと、小言の一つでも言いたかったが、エレナをその気にさせたのに免じて、黙っておくことにした。
翌日。
朝食を食べてから、ナザロフに最寄りのバス停と乗り換えの説明を受ける。
バスの乗り方は日本と大差は無い。それに俺とイリナは英語が分かるので、問題なく目的地まで行けるはずだ。
一応、ナザロフの説明をメモしておき、女性陣に声を掛ける。
「行くぞ」
家の奥からパタパタと音を立てながら、二人がやってくる。
身支度をしていたらしい。エレナはつい先程まで乾燥機にいたワンピースを、イリナは船で会った時と同じブラウスとスラックスという服装だ。
ワンピースのエレナはいいが、堅苦しい服装をしているイリナは見ているだけで暑苦しい。一応、袖を捲って半袖風にしているが、それでも暑苦しい。視線をそちらに向けるだけで汗が噴き出してきそうだ。
「……ついでに、お前の服も見ていくか」
俺の提案に、イリナは科を作って応じる。
「選んでくれる?」
「ほざけ。ガキじゃあるまいし、テメェで選べ」
冷たくあしらうと、彼女はすぐに元の態度に戻った。
「ひっどーい」
口ではそう言っているが、顔は笑っている。
「だいいち、なんで俺がお前の服を選ばにゃならんのだ」
「いいじゃん別に」
アホらしいこともしゃあしゃあと言い切るのが、実にイリナらしい。脳内に芽を出しつつあった頭痛の種をため息と共に吐き出した。
「……それじゃあ行ってくるから」
こうして気持ちを切り替えると、留守番のナザロフにそう声を掛け、俺達三人は街へと繰り出した。
バスを乗り継ぎ、ホノルルで一番栄えているエリアへ足を踏み込んだ。
高層ビルが建ち並び、景色としては新宿や港区と遜色ないくらいだ。それどころか、それらより栄えているようにも思える。
エレナは周囲を何度も見回し、目を輝かせていた。高層建築物を間近に見るのは初めてらしいので、無理もない。
「高いビルがいっぱい!」
「だな」
「おじさんの国にも、高いビルはある?」
「もちろん。おじさんが住んでいるところからは離れてるけど、三百メートルくらいあるビルがある」
「三百……」
エレナは初めて耳にするような数字に圧倒され、呆然とする。一メートルがどれくらいかを理解していないと、大きさを想像するのも難しいだろう。
「それに、他にも高い建物は沢山あるぞ。通天閣とか、サンシャインビルとか、東京タワーとか、スカイツリーとか」
「スカイツリー?」
俺が幾つかの高層建築の名前を出すと、エレナは興味津々といった様子で食いついてきた。そして、彼女の琴線に触れたのはスカイツリーだったらしい。
その期待に応えるべく、俺は知っているスカイツリーに関しての情報を全て話すことにした。
「電波塔だったかな。テレビの電波を流してる塔で、お金を払えば、展望デッキに行けるんだよ」
「……スカイツリーは、どのくらい高いの?」
「六百三十四メートルだったかな。さっきのビルの倍の高さだな」
三百メートルでさえ想像が付かなかったのに、それの倍ともなると考えが追い付かないようで。
「……凄いね」
とだけ、呆けた顔で呟いた。せっかくなので、日本に行ってからのエトセトラについて話すことにした。
「……それだったら、日本に住むことになったら、行くか? スカイツリーに」
「行きたい!」
無邪気に答えるエレナ。
「約束な」
俺は小指を立てて、彼女の方に差し出した。
「なに?」
「『いただきます』と同じ、日本のおまじないだ。『指切りげんまん』って言うんだ」
指切りについて簡単に説明し、さっそく実践する。
「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本、飲ーます。指切った!」
昔から思っていたことだが、本当に嘘ついたら針を千本飲まなければならないのだろうか。
そんな平行線上の会話に終止符を打たんと、口を開いたのはイリナだった。
「じゃあ、私がエレナちゃんの服を買うわ」
俺は彼女の唐突な割り込みに驚くと同時に、その発言の中身にまた驚かされた。
エレナも目を丸くさせている。
「それだったら、おじさんの懐は痛まないわよ」
自身満々に言うが、イリナが口にしているのは英語なので、エレナは俺に翻訳を頼んできた。
なんとも締まらないが、俺は素直にそれを訳した。
「……買ってくれるの?」
エレナは俺の翻訳を挟みながら、イリナに問う。
「勿論」
力強い返事にエレナは一瞬、喜びの表情を浮かべたものの、すぐに表情を暗くさせてしまう。
「でも、お姉ちゃんのお金が……」
俺にしたのと同じ遠慮をする。しかし、イリナは俺の翻訳を聞いても眉一つ動かさず。
「私はおじさんより稼いでるから、全然平気よ」
そう言い切った。俺の男としてのプライドが傷つくような発言だが、エレナのしなくていい遠慮を止めさせるためなら我慢する。
「……本当?」
「嘘じゃないわ。私はおじさんよりお金持ちよ」
あまりに自信満々に言い切る様に、エレナも自分の為にイリナが嘘をついているのだと邪推するのを止めたようで、「うん」と首を縦に振ってくれた。
「よし決まり! 明日行こうね」
こうしてイリナは無理矢理ながらも、最終的には本人にも納得させる形で話を付けたのだ。
俺は内心、彼女の手腕に感服した。
そんな俺の感情を読み取ったのか、イリナはこちらを向き、得意げな顔をする。
俺の給料に関してもう少し言い方なかったのかと、小言の一つでも言いたかったが、エレナをその気にさせたのに免じて、黙っておくことにした。
翌日。
朝食を食べてから、ナザロフに最寄りのバス停と乗り換えの説明を受ける。
バスの乗り方は日本と大差は無い。それに俺とイリナは英語が分かるので、問題なく目的地まで行けるはずだ。
一応、ナザロフの説明をメモしておき、女性陣に声を掛ける。
「行くぞ」
家の奥からパタパタと音を立てながら、二人がやってくる。
身支度をしていたらしい。エレナはつい先程まで乾燥機にいたワンピースを、イリナは船で会った時と同じブラウスとスラックスという服装だ。
ワンピースのエレナはいいが、堅苦しい服装をしているイリナは見ているだけで暑苦しい。一応、袖を捲って半袖風にしているが、それでも暑苦しい。視線をそちらに向けるだけで汗が噴き出してきそうだ。
「……ついでに、お前の服も見ていくか」
俺の提案に、イリナは科を作って応じる。
「選んでくれる?」
「ほざけ。ガキじゃあるまいし、テメェで選べ」
冷たくあしらうと、彼女はすぐに元の態度に戻った。
「ひっどーい」
口ではそう言っているが、顔は笑っている。
「だいいち、なんで俺がお前の服を選ばにゃならんのだ」
「いいじゃん別に」
アホらしいこともしゃあしゃあと言い切るのが、実にイリナらしい。脳内に芽を出しつつあった頭痛の種をため息と共に吐き出した。
「……それじゃあ行ってくるから」
こうして気持ちを切り替えると、留守番のナザロフにそう声を掛け、俺達三人は街へと繰り出した。
バスを乗り継ぎ、ホノルルで一番栄えているエリアへ足を踏み込んだ。
高層ビルが建ち並び、景色としては新宿や港区と遜色ないくらいだ。それどころか、それらより栄えているようにも思える。
エレナは周囲を何度も見回し、目を輝かせていた。高層建築物を間近に見るのは初めてらしいので、無理もない。
「高いビルがいっぱい!」
「だな」
「おじさんの国にも、高いビルはある?」
「もちろん。おじさんが住んでいるところからは離れてるけど、三百メートルくらいあるビルがある」
「三百……」
エレナは初めて耳にするような数字に圧倒され、呆然とする。一メートルがどれくらいかを理解していないと、大きさを想像するのも難しいだろう。
「それに、他にも高い建物は沢山あるぞ。通天閣とか、サンシャインビルとか、東京タワーとか、スカイツリーとか」
「スカイツリー?」
俺が幾つかの高層建築の名前を出すと、エレナは興味津々といった様子で食いついてきた。そして、彼女の琴線に触れたのはスカイツリーだったらしい。
その期待に応えるべく、俺は知っているスカイツリーに関しての情報を全て話すことにした。
「電波塔だったかな。テレビの電波を流してる塔で、お金を払えば、展望デッキに行けるんだよ」
「……スカイツリーは、どのくらい高いの?」
「六百三十四メートルだったかな。さっきのビルの倍の高さだな」
三百メートルでさえ想像が付かなかったのに、それの倍ともなると考えが追い付かないようで。
「……凄いね」
とだけ、呆けた顔で呟いた。せっかくなので、日本に行ってからのエトセトラについて話すことにした。
「……それだったら、日本に住むことになったら、行くか? スカイツリーに」
「行きたい!」
無邪気に答えるエレナ。
「約束な」
俺は小指を立てて、彼女の方に差し出した。
「なに?」
「『いただきます』と同じ、日本のおまじないだ。『指切りげんまん』って言うんだ」
指切りについて簡単に説明し、さっそく実践する。
「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本、飲ーます。指切った!」
昔から思っていたことだが、本当に嘘ついたら針を千本飲まなければならないのだろうか。
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