戦う理由

タヌキ

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おもちゃ屋の中

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 ワーゲンの男達は日本人――石田と、対象――エレナがアラモアナセンターに入っていくのを確認した。
 助手席と運転席の男は冷静にその様子を観察していたが、後部座席に座る一人、ペイズリー柄のシャツを着た大柄の男は叫び声を挙げた。
「おいおい! ショッピングセンターん中に入っちまったじゃねぇか!」
 見れば分かると隣に座る男がボソリと言ったが、彼はそれが聞こえなかったか、あるいは無視して叫び続ける。
「だったら、バスに乗る前にさっさにやっとけばよかったのによぉ!」
 騒ぐペイズリー男をよそに、運転席の男はこの状況をチャンスだと捉えていた。
 ただ民家に押し入り、三人を血祭りに挙げるだけでは不審がられるだろう。物取りの仕業と見せかけるにしても、無理がある。対象達がいた家はとてもじゃないが、強盗が涎を垂らすような獲物には見えない。
 それに、FBIへ圧力を掛けるにしても、派遣された捜査官は怪しむはずだ。
 ならば、ここであえて暴れ、ただのテロリストだと思わせた方が捜査をかく乱出来る。
 その算段を付けた運転席の男は、他の仲間達に指示を出した。
「皆聞け。今から、あのショッピングセンターで対象を確保する」
「危険じゃないのか? 警官が駆け付けてくるはずだ。それに、足が付かないか」
 不安を口にする仲間達に、運転席の男は先程の案を説明する。その案は仲間達に受け入れられ、満場一致で男の案が決行されることになった。
 男達は防弾ベストや弾倉帯を身に着け、イスラエルはIMI社製のアサルトライフル、ガリルSARとSIG P228拳銃で武装し、顔をバラクラバで隠す。
「テロリストのはどうする?」
 P228をコッキングしながら、助手席の男が運転席の男に問う。
「……なんでもいい。適当にアメリカ嫌いの連中を装えば、馬鹿な連中が勝手に解釈してくれるだろう」
「分かりました」
 全員の装備が整ったのを確認し、運転席の男は号令を掛ける。
「始めるぞ」
 空は青く澄みわたっていたが、遠くの方から黒雲がホノルルへ向かっていた。

 おもちゃ屋は意外にも混んでおり、デカいぬいぐるみを抱えて移動するのは中々難しかった。
 地元民らしき親子連れもいるが、観光客らしき家族もいる。おもちゃなんて自分達の国でも買えるはずだが、子供にその理論は通じないらしい。
 現に、日本でも見たことある水鉄砲の前で五歳くらいの男の子が駄々をこねていた。その子の両親らしき男女は困り果てており、説得疲れの色も見える。
 いったいどれだけの時間、あの少年は粘っているのだろうか。
 同情の眼差しを向けていると、シャツの袖を引っ張られた。
「おじさん、早く早く」
 エレナが会計を急かす。レジが空き、店員が「こちらへどうぞ」と手を上げる。
「はいはい。分かったよ」
 クマをレジに置く。
「お包みしますか?」
 代金を払いながら答える。
「いや結構。抱いてかえるみたいだから」
「そうですか」
 店員がエレナに微笑みかける。
「お名前、付けてあげてね」
 エレナはなんて言われたか分からないようだが、ニュアンスは感じ取ったらしく大きく頷いた。
 代金をトレーに置き、顔を上げる。
 すると、横目で入口から奇妙な二人組が店に入ってきたのが見えた。
 黒で無地のバラクラバ。真新しいチェストリグ弾倉入れプレートキャリア防弾ベスト
 手にはガリルSAR。腰には拳銃が収まったホルスター。
 それらを見て、これからなにが起こるかを察した途端、動悸が早くなる。
 この場にいる誰よりも早く、俺はエレナに覆い被さるようにして床に伏せた。
「イスラム国よ、永遠なれ!」
 二人組の片割れがアラビア語を叫ぶと同時に、もう一人がこちらに向けてガリルを撃つ。今の今まで俺が立っていたところを弾丸が通過し、その先に会ったラジコンを破壊する。
 誰かが悲鳴を挙げるよりも先に、誰が動くよりも先に、俺は。
「おじさん!」
 エレナを抱きかかえ、店の外に飛び出した。俺の動きにワンテンポ遅れて、銃弾が飛んでくる。
(なんなんだよ!)
 色々と思うことはあるが、それについて考える暇は無い。
 とにかく動かなければ死ぬ。その恐怖が俺を突き動かす。
 おもちゃ屋を出ると、同じ装備をした男が一人、目の前から飛び出してきた。まるで、俺が来るのを待ち構えていたかのようだ。
(キツネ狩りか)
 俺は現れたペイズリー柄のシャツを着た男を睨みつけながら、雄叫びを挙げた。

 イリナは目を覚まして、石田とエレナがいなくなっているのを見て困惑した。様々な考えが浮かんでは消えていく中、先に起きていたナザロフが石田が残した書置きを差し出す。
 それを見て彼女は激怒こそしなかったが、へそを盛大に曲げた。当然、不機嫌の原因は。
「私を置いていくなんて!」
 であった。
 傍目から見ると、彼女は破裂寸前の爆弾に近い存在である。
 しかし、扱い方を知るナザロフは彼女の気を逸らす餌を差し出した。
「イリナさん、これ」
 彼が差し出したのは、彼女の物と思しきキャリーバッグだ。それを見た途端、イリナは先程の不機嫌が嘘のように顔をほころばせる。
「うっそ、これ私のじゃん! これどうしたの?」
 さっそく鞄を開け、下着やらを取り出す。黒やら紫のそれから視線を外しながら、彼女の質問にナザロフは答える。
「沿岸警備隊の人が届けてくれたんですよ」
 それを聞いた瞬間、イリナは鞄を漁る手を止めた。
「……沿岸警備隊?」
 ナザロフへ確認を取る声は、いつになく硬い。
「え? ええ……」
 彼女の変わりようにナザロフは戸惑うものも肯定する。
「影の薄そうな?」
「はい……。丁寧に届けてくれましたよ」
 イリナの中に浮かんだのは、コッポラと共に取り調べを行った男だった。影が薄いという特徴にも合致する。
 それならと、彼女の中で疑問が生まれる。
 ナザロフ宅の住所はコッポラにしか伝えていない。誰の指示ともなければ、男は自主的にコッポラに聞いて訪ねてきた事になる。
 事件への取り調べは消極的だったのに何故、荷物を届けに来たのか。
 その疑問の答えは数時間後。考えられる限りで最悪の形で、彼女達の元へ送られてきた。
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