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決意の中
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俺達は軽食として用意されていたハムとチーズのサンドイッチを頬張りながら、弾を込めていった。
数時間にも亘る作業の後、俺達は程良い疲労感に身を任せ、目を瞑った。
戦うのに一番必要なのは、戦車でも銃でもナイフでもない。体力だ。体力さえあれば、なんでも出来る。
それは俺が四半世紀もの間、傭兵を続けて導き出したものだ。体力が無ければ、戦うことはもちろん、逃げることすら出来ない。
つまるところ、戦いの本質は体力勝負だ。一対一の喧嘩だろうが、国同士の戦争だろうがそれは変わらない。最終的に、体力が多い方が勝つ。
でも、三年前。なんとか州都の市街地に到着し、官庁街を奪還した際。俺は役所に翻る自軍の旗を見ながら、自分の衰えを感じた。
思うように動かない身体を抱え、これからも戦っていけるかが分からなくなってしまったのだ。
そして俺は、戦場から背を向けた。
戦うことを辞めたのだ。
でも、なんの因果か、俺はこうして再び鉄火場に戻ってきた。
背を向けていたのに。
エレナを助けるために、鉄火場に立つのだ。
他の誰のためでもない。
エレナのために、俺は戦う。
そう考えると、身体が少しだけ軽くなる。
しかし、それでも万全ではない。
気圧のせいか傷が少し痛むし、体力も三年前と比べて明らかに落ちている。
だからこそ、せめてと体力を付けておこうとしている。
体力を付けるには、やはり食って寝るのが一番だ。
バハマ諸島のある島に着いたのは、昼頃だった。時差やらフライト時間などを調べていなかったから、時間が曖昧なのだ。それで時計も合わせられないから、尚更だ。
ここまで連れてきてくれたパイロットに礼を言い、飛行機を降りる。
外に出ると同時に、常夏の国らしい熱気が俺達を出迎えてくれた。皮膚の奥まで日焼けしそうな勢いだ。
普段なら感慨の一つにも浸るが、今はそんなことをしている時間はなかった。早々と空港の建物に向かった。
もっとも、空港と呼ぶにはだいぶ小規模なものだったが。
入国審査も、今の俺達はFBIからの特別な命令を受け取った何者かであり、いちサラリーマンである審査官も面倒事はごめんらしく、審査はごく簡単なものだ。
紛争付帯を渡り歩いた痕跡が残るパスポートを見ても、審査官は顔色を変えずに「入国の目的は?」と俺達へ訊ねた。
「コンバット」と答えそうになったイリナの口を押さえ、俺が「仕事」でと返答する。
やけに火薬臭い鞄を持ち、鉄と油臭い指先をしている奴が言う仕事に、ロクな気配はしないが、サラリーマンは入国許可のスタンプを押した。
そんな彼に、俺は梁というこの島に別荘を持つ中国人を知らないか聞いた。
彼は首を縦に振り、知っていることを示す。
「じゃあ、彼の別荘の位置を知らないか?」
すると彼は無言で島の地図を引っ張り出し、南側のある場所を気怠げに指差す。
「ここなんだな?」
俺の確認に彼は頷いた。
すかさず、イリナが携帯で写真を撮る。
「……これ、少ないけど」
俺は財布から五十ドルを出し、彼の胸ポケットにねじ込んだ。
「誰かに俺達のこと聞かれたら、観光地の場所を訊ねてきたと言え」
男は頷く。
「よっし」
男が黙っていてくれるという確証はないが、ここまでならバレても構わない。
場所を聞いただけだと、しらばっくれればいい話だ。
空港を出て、タクシーを拾おうと周囲を見渡す。
それもただのタクシーではない。ドライブレコーダーが付いてなさそうな、古い車がいい。
そう思いながらタクシー乗り場に向かうと、ドラレコが付いてないタクシーが何台か止まっていた。
その中で、一番暇そうにしていた運転手が乗るタクシーの窓を叩く。
「乗せてくれ」
「……はいはい」
欠伸をしながら応じる現地人らしき、中年の男。景気が悪そうな顔をしている。
俺達が後部座席に収まると、のったりとした動きでこちらを振り向く。
「どちらまで?」
「島の南。詳しい場所は、その時に」
「はいはい。それじゃあ、出発しますよ」
タクシーは走り出した。
窓の外を流れる景色は、ホノルルと同じような常夏の国だが、ホノルルのような観光地的な装いではなく、高級住宅街のような気品漂うものだ。
国と評すより楽園の方がしっくりくる。
でも、車内の空気からはそれを楽しもうという空気も、楽しませようという気概も感じない。
俺としては楽でいいが。
そんなふうにぼんやりと過ごしていると、運転手が車を路肩に停めた。
「南の方ですけど……。詳しい場所、教えてもらってもいいですか?」
いよいよだ。俺は鞄を開け、マカロフを出しスライドを引いて運転手へ突き付けた。
食事をとって、体力回復させたエレナは行動を始めた。脱出の準備をだ。
ここは船みたいに四方八方、逃げ場が無い海ではない。建物を脱出さえすれば、どうにかなるだろうと考えたのだ。
彼女にはここがどこか見当は付かない。それでも、いつまでも泣いてるわけにはいかないのは理解していた。
それに、自分が以前とは違うことも理解してた。
(絶対に帰るんだ)
自分に、帰る場所があり、自分の帰りを待っていてくれる人がいるということを。
数時間にも亘る作業の後、俺達は程良い疲労感に身を任せ、目を瞑った。
戦うのに一番必要なのは、戦車でも銃でもナイフでもない。体力だ。体力さえあれば、なんでも出来る。
それは俺が四半世紀もの間、傭兵を続けて導き出したものだ。体力が無ければ、戦うことはもちろん、逃げることすら出来ない。
つまるところ、戦いの本質は体力勝負だ。一対一の喧嘩だろうが、国同士の戦争だろうがそれは変わらない。最終的に、体力が多い方が勝つ。
でも、三年前。なんとか州都の市街地に到着し、官庁街を奪還した際。俺は役所に翻る自軍の旗を見ながら、自分の衰えを感じた。
思うように動かない身体を抱え、これからも戦っていけるかが分からなくなってしまったのだ。
そして俺は、戦場から背を向けた。
戦うことを辞めたのだ。
でも、なんの因果か、俺はこうして再び鉄火場に戻ってきた。
背を向けていたのに。
エレナを助けるために、鉄火場に立つのだ。
他の誰のためでもない。
エレナのために、俺は戦う。
そう考えると、身体が少しだけ軽くなる。
しかし、それでも万全ではない。
気圧のせいか傷が少し痛むし、体力も三年前と比べて明らかに落ちている。
だからこそ、せめてと体力を付けておこうとしている。
体力を付けるには、やはり食って寝るのが一番だ。
バハマ諸島のある島に着いたのは、昼頃だった。時差やらフライト時間などを調べていなかったから、時間が曖昧なのだ。それで時計も合わせられないから、尚更だ。
ここまで連れてきてくれたパイロットに礼を言い、飛行機を降りる。
外に出ると同時に、常夏の国らしい熱気が俺達を出迎えてくれた。皮膚の奥まで日焼けしそうな勢いだ。
普段なら感慨の一つにも浸るが、今はそんなことをしている時間はなかった。早々と空港の建物に向かった。
もっとも、空港と呼ぶにはだいぶ小規模なものだったが。
入国審査も、今の俺達はFBIからの特別な命令を受け取った何者かであり、いちサラリーマンである審査官も面倒事はごめんらしく、審査はごく簡単なものだ。
紛争付帯を渡り歩いた痕跡が残るパスポートを見ても、審査官は顔色を変えずに「入国の目的は?」と俺達へ訊ねた。
「コンバット」と答えそうになったイリナの口を押さえ、俺が「仕事」でと返答する。
やけに火薬臭い鞄を持ち、鉄と油臭い指先をしている奴が言う仕事に、ロクな気配はしないが、サラリーマンは入国許可のスタンプを押した。
そんな彼に、俺は梁というこの島に別荘を持つ中国人を知らないか聞いた。
彼は首を縦に振り、知っていることを示す。
「じゃあ、彼の別荘の位置を知らないか?」
すると彼は無言で島の地図を引っ張り出し、南側のある場所を気怠げに指差す。
「ここなんだな?」
俺の確認に彼は頷いた。
すかさず、イリナが携帯で写真を撮る。
「……これ、少ないけど」
俺は財布から五十ドルを出し、彼の胸ポケットにねじ込んだ。
「誰かに俺達のこと聞かれたら、観光地の場所を訊ねてきたと言え」
男は頷く。
「よっし」
男が黙っていてくれるという確証はないが、ここまでならバレても構わない。
場所を聞いただけだと、しらばっくれればいい話だ。
空港を出て、タクシーを拾おうと周囲を見渡す。
それもただのタクシーではない。ドライブレコーダーが付いてなさそうな、古い車がいい。
そう思いながらタクシー乗り場に向かうと、ドラレコが付いてないタクシーが何台か止まっていた。
その中で、一番暇そうにしていた運転手が乗るタクシーの窓を叩く。
「乗せてくれ」
「……はいはい」
欠伸をしながら応じる現地人らしき、中年の男。景気が悪そうな顔をしている。
俺達が後部座席に収まると、のったりとした動きでこちらを振り向く。
「どちらまで?」
「島の南。詳しい場所は、その時に」
「はいはい。それじゃあ、出発しますよ」
タクシーは走り出した。
窓の外を流れる景色は、ホノルルと同じような常夏の国だが、ホノルルのような観光地的な装いではなく、高級住宅街のような気品漂うものだ。
国と評すより楽園の方がしっくりくる。
でも、車内の空気からはそれを楽しもうという空気も、楽しませようという気概も感じない。
俺としては楽でいいが。
そんなふうにぼんやりと過ごしていると、運転手が車を路肩に停めた。
「南の方ですけど……。詳しい場所、教えてもらってもいいですか?」
いよいよだ。俺は鞄を開け、マカロフを出しスライドを引いて運転手へ突き付けた。
食事をとって、体力回復させたエレナは行動を始めた。脱出の準備をだ。
ここは船みたいに四方八方、逃げ場が無い海ではない。建物を脱出さえすれば、どうにかなるだろうと考えたのだ。
彼女にはここがどこか見当は付かない。それでも、いつまでも泣いてるわけにはいかないのは理解していた。
それに、自分が以前とは違うことも理解してた。
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