異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第11章 北の森

38 不毛な争い

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「言っておくが、攻撃を最初に仕掛けたのは我々ではない」
「橋の前で我々の馬車を止めて荷を没収しようとしたのは誰だ!」
「馬車を止められただけで攻撃を仕掛けてきたのはそちらだろう」
「よく言う、馬車を渡さねば燃やすと脅しただろうが」
「脅しではない、徴収すると言っただけだ。最初に攻撃を始めたのはそちらだ!」
「な、なんだと──」
「だああああ、もういいから。全員黙れ!」

 あれから一時間。結局出てきたのは俺たちと年端の変わらない若い兵士だった。
 彼はそれでもこの砦の責任者なのだという。それに取り巻きが10人ほど。相手の言い分も聞いて今、本陣のテントを一つここ砦のすぐ前に移し、双方の代表者で話し合いを始めたのはいいが全然話が進まない。
 結局テントを持ってくるのを言い訳にディーンの隊は全員こちらに移ってきやがった。お陰で砦の中も警戒を高め、今も歩哨が櫓からこちらを睨んでるハズだ。

 ディーンと同じヨークの出の二人、確かハゲのほうがマークで、太ったのがニックだったか?
 こいつらもこの年若い兵士が確かにここの責任者だと保証してくれた。肩書だけ大佐にして中央の捨て駒として送り出されたんだろう、てのが二人の意見だ。
 この二人の話を信用すると、この若い男、ジェームズ大佐がこの二人の忠告も諫言も聞き入れず、盲目に中央の辞令を信じ込み、それを盾に無理やりこの砦を死守してきたらしい。
 あゆみが途中で抜けていった会議で少し中の現状とこいつらヨークの二人の立場や状況、そして言い訳もいやってほど聞かされた。

 この二人、中央の通達に従ってヨークから一隊で農民を引き連れてきたらしい。ところが到着早々、農民は他の連中と一緒に管理すると取り上げられ、自分たちの持ってきた食料も取り上げられて、挙句の果てにはこの『経験不足』な青二才の下に組み込まれちまった。しかも中央から届くはずの食料も増援も、いつまでたっても届かない。
 送り出していた鉱石の代わりにナンシーから送られてきていた物資も主に中央の兵が占有し、それさえも川がスライムで通れなくなって以来まるっきに来なくなっちまった。
 一時は狼人族や農民を使って狩にも出したが、大量に逃げられて以来ジェームズが渋ってやめちまったと言う。二人は残された数少ない食料を分け合いながら、石に齧りつく思いで何とか生き延びて、中央の奴らが飢え死ぬのを待って農民を連れ戻すつもりだったと言った。

 ところがある日、どうしたことか突然肉が大量に手に入り始めた。どれもこれもやたら臭う肉だったが、飢えが回ってた砦の中では皆が競うようにしてその肉を食いまくった。農民に回してやれるほどだからよっぽどの量だったんだろう。すでに鉱山で働けない程弱った者はほぼ死に絶えた後だった。だから、たかが匂いで躊躇うような余裕は誰にもなかったらしい。

「ですが、数日の内に食中毒を起こすものが多数出始めました」

 太ったほうが憎々しげにそう言った。
 その数は日ごとに増え、そこでやっと自分たちが食わされてるのがオークの肉だと聞かされたのだそうだ。中央からの派遣組が無理やりオークの肉を自分たち以外に食わせてる、このままでは遠くないうちに自分たちも弱り果てて存命の内にヨークに報告に返ることも出来ない。だからこそ、現状を早急に報告するためにも泣く泣く砦を後にしたのだ……と二人は話を締めくくった。

 全く、馬鹿じゃねえのか。

 二人は言葉を飾って説明してたが、どんなにとり繕ったって二人の様子と状況を見りゃ事実なんか簡単に予想がつく。
 最初は確かに辞令のせいで動けなかったのかも知れない。時期を見て、適当な理由を付けて帰還するつもりだったんだろうな。だが、ついて早々食料が足りてないのを知り、慌てて自分たち軍人の食料だけは別に確保したってところだ。でなきゃあんな体型、どうやったって保てるわけがねえ。

 で、隠し持ってた食料で自分たちの口だけ賄ってる間に、連れてきた農民がバタバタ死んじまった。気づいたときにはそのまま何もせずにヨークに戻っては処罰を免れない所まで来ちまってたんだろう。だから今度は逃げるに逃げられなくなって、中央の連中の食料が尽きて弱るのを待ってここを占領でもするつもりだったのかもしれねえ。

 最終的に隠し持ってた食料が底をつき、中央の兵から分け与えられるオークの肉に耐え切れなくなり、とうとう脱走兵の汚名を着る覚悟で逃げ出した、ってとこだろう。

 その逃走の途中でディーンやアルディに行き会っちまい、何とかその場は誤魔化したにものの橋で中央の連中に見つかって、慌てて勝手にこちらから攻撃しはじめちまった。因みにアルディが予想以上に早く進軍してたのは、先に合流したディーンの隊が荷馬車の荷物を一部引き取って軽くしてくれたおかげらしい。

 まあ全て、俺やあゆみがいない間に起きちまった事だ。俺たちに文句は言えねえし、軍のやることに一々口を挟む言われもねえ。だが、たとえそうであっても俺にはやっぱりこれが無駄な争いにしか思えなかった。

 だからそんな軍の奴らにはとっとと見切りをつけて、俺は俺で実はバッカスとともに森に入って色々やってたんだが。
 ドラゴンの出現に慌てて戻ってみれば、あゆみが先に降り立ったドラゴンと交渉を始めちまってた。こいつ、ホントに何とでも怖じけずに話すよな。俺はバッカスの時で慣れてたが、他の奴らはとてもそうは行かねえだろう。あゆみの様子と後ろに控えるドラゴンに恐々としてやがった。それを良いことにドラゴンを後ろ盾にして無理やり交渉してしまおうとしたんだが。土壇場になってこのドラゴン、役に立たねえ。あの場でやめるっていう訳にもいかず、仕方なくあゆみに魔力を使わせちまった。

 本来あゆみやドラゴンみたいな莫大な戦力は、決して現実に使うんではなく抑止力に使うもんだ。あれだ、脅しだ。
 だが結果から言えば俺が完全に甘かった。軽く放ってもらって抑止力に使うはずだったのが、あゆみの奴、とんでもない威力で放出しやがった。気のせいか前回よりも威力が増してる気さえする。

 おい、確か魔力の調整は出来るようになるはずだったんじゃなかったのか?

 まあそれはともかく、案の定慌てて飛び出してきてこの話し合いの席に着くことに合意したんだから文句も言えねえ。まあ誰だって消し飛ばされると思えば飛び出してくるよな……

 やっとこれで本来俺がやりたかった話し合い、特に農民と狼人族の開放交渉が出来る……ハズだったんだが……

「まずはとにかくその橋の一件から離れろ」
「ネロ殿、一体あなたはどちらの味方ですか!?」
「何を言ってる、橋を襲ってきたのはお前らだろう!!」

 この調子だ。こいつら、とにかく自分の正当性しか頭にねえ。

「なんでこんなキーロン陛下に背く人間と話し合いなどしなければいけないんだ」
「はあ? 中央の方針に背いてるのはどちらだ! こちらにはちゃんとキーロン殿下の拝命書もあるんだぞ」
「またそんな偽物の話など──」
「あゆみ秘書官殿にあれだけの力がおありならあれで全て燃やし尽くしてしまえばいい!」
「だ、だからこんな話し合いなどしたくないと言ったんだ!!」

 持ち込んだ丸太の椅子にどっかりと腰かけた俺は、延々と続くこいつらの不毛な言い争いをもう止める気さえもなくしちまってた。
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