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第6章 森
4 怪我
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帰ってきた黒猫君は……ボコボコだった。
「ちょっとバッカス、あんたやり過ぎ!」
「あゆみそれはネロに失礼だぞ。そいつに食らった傷はこっちだってかなり深いんだから」
顔をしかめて言い返したバッカスの姿をよく見れば、バッカスも毛の間に何箇所も血が固まってた。
「うわ、ホントだ黒猫君もやり過ぎだから!」
帰りがけに声を掛けていたのかバッカスの周りに何人か集まってきてバッカスの傷を舐め始める。
「ちゃんとクツの実のジュースで口洗った?」
私の問に皆ちゃんと頷いてる。もう私もずっとここには居られないんだから信じるよかないよね。
「ネロ、お前も俺が舐めてやろうか?」
「止めてくれ、気色悪い」
即答した黒猫君にバッカスがちょっとムッとしてるけどこれは習慣の違いだからしょうがないと思う。
「バッカス、私達には傷を舐めて治すって習慣はないんだよ、前にも言ったでしょ?」
そう、バッカスは私がちょっと擦りむくたびにやはり舐めようとしてなだめられてきたのだ。毎回反射的に舐めようとするバッカスを何回押し返した事か。いい加減覚えてほしい。
「あれはあゆみが女だから嫌がるのかと思ってた」
「いや、男が男に舐められる方がよっぽど嫌だから」
バッカスの答えにマジで顔を引きつらせながら黒猫君が答えた。
そんな二人を見回しながら、私はもう呆れて言葉も出ない。
結局こいつらは喧嘩しないと納得しないのか。
昨日あんだけ色々仕組んだ私の決闘は何だったんだ。
また拗ねるぞ。
私の機嫌が急降下していくのには二人共気付いているようで、二人で目配せしながらこっちを伺ってる。
そんな二人の顔を見比べて大きなため息が零れ落ちた。
ああ、馬鹿らしい。
何が一番馬鹿らしいってこの二人、傷だらけになって帰ってきたくせに凄く仲が良い。それどころか私の事なんて放っておいていつの間にかすごく気が合ってるみたいだ。
これでも一応心配して帰りを待ってたのに。まあ、『友の会』の皆様から昨日私が貰いそこなった分のおやつは頂いてたけど。
みんな私が暫く街に戻るからもう毎日毛づくろいしてあげられないと言うと涙を溜めてて引き留めてくれてた。正直この二人よりよっぽど私の事を思ってくれてる気がする。
どこまでも不機嫌になっていく私を恐々として見ていたバッカスが突然良い事を思い出した、と言うように声をかけてきた。
「あ、あゆみ、そう言えば森のすももが色付いたぞ。そろそろ食べごろのはずだ。行ってみるか?」
「え? ほんと?! あれこの前はたっぷり生ってるのにまだ青いって言ってバッカスが止めるから食べ損なったんだよね」
そう、森の一角に群生してるすももの木が上から下までたっぷり実を付けてたのだ。
あ、でも。
「黒猫君、大丈夫? 歩けるの?」
結構ボロボロだしもしかしてどっか折れてたりしないだろうか?
心配して声を掛ける私を何気なく見返しながら黒猫君が答える。
「あん? 大丈夫だ。なんのかんの言ってこいつ、俺が動けなくなるような怪我はしないように手加減してやがった」
「それはお互い様だろ。お前、俺の目や鼻を狙わなかっただろ」
……二人してニヤニヤしてて何かヤラシイ。
ふと見ると黒猫君の切れてた唇の端が治ってる。
「あれ? 黒猫君、そこさっき切れてなかったっけ?」
「あれ? ホントだ。」
黒猫君がちょっと驚いたように片眉を上げて、直ぐに手の甲の切り傷を舐め始めた。
「……どうやら俺も舐めると治癒が少しは出来るみたいだな」
うわ、みるみるうちに傷が塞がってく。
「あゆみちょっと手を貸してみろ」
言われてなんの気なしに手を差し出した私は黒猫君の次の行動に飛び上がった。
黒猫君、なんと私の手の甲にあったすり傷を舐め始めたのだ!
「ちょ、ちょっと黒猫君!」
黒猫君の舌の感触にびっくりして振り払おうとしたのに、そのまま押さえつけて本当に傷がなくなるまで舐められてしまった。
私はもうくすぐったくて転げまわりそうなのを我慢するだけで精いっぱいだった。
「おお、やっぱりこれ自分以外にも効くのか」
「そ、そんなのバッカスで試せばいいでしょ!!!」
完全に消え去った私の手の甲の傷を見ながら嬉しそうに呟く黒猫君を睨め付けながら言った私の言葉に一瞬バッカスを見やった黒猫君がボソリと「毛深いから嫌だ」と呟いてそっぽを向いた。
そうかい。毛が生えてないから私の手で試したのかこいつは。
怒鳴ろうかと思いつつ、でも今傷を治してもらった自分の手の甲を見てふと考える。
これ結構凄い事だよね。この傷ってバッカス達と暮らし始めてすぐの頃に藪を抜ける時に付けたやつだもん、既に一週間近く経ってる。そんな古い傷も跡形もなく治せちゃうなんて。
私がちょっと考え事をしていると横から立ち上がったバッカスが声をかけてきた。
「あゆみ、そろそろ出発するぞ。それなりに距離があるからあゆみはネロにでも運んでもらえ」
そう言って意味有りげに黒猫君を見やった。
黒猫君はちょっと顔を歪めたがそれには何も答えずにまたも声も掛けずに私を抱き上げた。
「ちょっとバッカス、あんたやり過ぎ!」
「あゆみそれはネロに失礼だぞ。そいつに食らった傷はこっちだってかなり深いんだから」
顔をしかめて言い返したバッカスの姿をよく見れば、バッカスも毛の間に何箇所も血が固まってた。
「うわ、ホントだ黒猫君もやり過ぎだから!」
帰りがけに声を掛けていたのかバッカスの周りに何人か集まってきてバッカスの傷を舐め始める。
「ちゃんとクツの実のジュースで口洗った?」
私の問に皆ちゃんと頷いてる。もう私もずっとここには居られないんだから信じるよかないよね。
「ネロ、お前も俺が舐めてやろうか?」
「止めてくれ、気色悪い」
即答した黒猫君にバッカスがちょっとムッとしてるけどこれは習慣の違いだからしょうがないと思う。
「バッカス、私達には傷を舐めて治すって習慣はないんだよ、前にも言ったでしょ?」
そう、バッカスは私がちょっと擦りむくたびにやはり舐めようとしてなだめられてきたのだ。毎回反射的に舐めようとするバッカスを何回押し返した事か。いい加減覚えてほしい。
「あれはあゆみが女だから嫌がるのかと思ってた」
「いや、男が男に舐められる方がよっぽど嫌だから」
バッカスの答えにマジで顔を引きつらせながら黒猫君が答えた。
そんな二人を見回しながら、私はもう呆れて言葉も出ない。
結局こいつらは喧嘩しないと納得しないのか。
昨日あんだけ色々仕組んだ私の決闘は何だったんだ。
また拗ねるぞ。
私の機嫌が急降下していくのには二人共気付いているようで、二人で目配せしながらこっちを伺ってる。
そんな二人の顔を見比べて大きなため息が零れ落ちた。
ああ、馬鹿らしい。
何が一番馬鹿らしいってこの二人、傷だらけになって帰ってきたくせに凄く仲が良い。それどころか私の事なんて放っておいていつの間にかすごく気が合ってるみたいだ。
これでも一応心配して帰りを待ってたのに。まあ、『友の会』の皆様から昨日私が貰いそこなった分のおやつは頂いてたけど。
みんな私が暫く街に戻るからもう毎日毛づくろいしてあげられないと言うと涙を溜めてて引き留めてくれてた。正直この二人よりよっぽど私の事を思ってくれてる気がする。
どこまでも不機嫌になっていく私を恐々として見ていたバッカスが突然良い事を思い出した、と言うように声をかけてきた。
「あ、あゆみ、そう言えば森のすももが色付いたぞ。そろそろ食べごろのはずだ。行ってみるか?」
「え? ほんと?! あれこの前はたっぷり生ってるのにまだ青いって言ってバッカスが止めるから食べ損なったんだよね」
そう、森の一角に群生してるすももの木が上から下までたっぷり実を付けてたのだ。
あ、でも。
「黒猫君、大丈夫? 歩けるの?」
結構ボロボロだしもしかしてどっか折れてたりしないだろうか?
心配して声を掛ける私を何気なく見返しながら黒猫君が答える。
「あん? 大丈夫だ。なんのかんの言ってこいつ、俺が動けなくなるような怪我はしないように手加減してやがった」
「それはお互い様だろ。お前、俺の目や鼻を狙わなかっただろ」
……二人してニヤニヤしてて何かヤラシイ。
ふと見ると黒猫君の切れてた唇の端が治ってる。
「あれ? 黒猫君、そこさっき切れてなかったっけ?」
「あれ? ホントだ。」
黒猫君がちょっと驚いたように片眉を上げて、直ぐに手の甲の切り傷を舐め始めた。
「……どうやら俺も舐めると治癒が少しは出来るみたいだな」
うわ、みるみるうちに傷が塞がってく。
「あゆみちょっと手を貸してみろ」
言われてなんの気なしに手を差し出した私は黒猫君の次の行動に飛び上がった。
黒猫君、なんと私の手の甲にあったすり傷を舐め始めたのだ!
「ちょ、ちょっと黒猫君!」
黒猫君の舌の感触にびっくりして振り払おうとしたのに、そのまま押さえつけて本当に傷がなくなるまで舐められてしまった。
私はもうくすぐったくて転げまわりそうなのを我慢するだけで精いっぱいだった。
「おお、やっぱりこれ自分以外にも効くのか」
「そ、そんなのバッカスで試せばいいでしょ!!!」
完全に消え去った私の手の甲の傷を見ながら嬉しそうに呟く黒猫君を睨め付けながら言った私の言葉に一瞬バッカスを見やった黒猫君がボソリと「毛深いから嫌だ」と呟いてそっぽを向いた。
そうかい。毛が生えてないから私の手で試したのかこいつは。
怒鳴ろうかと思いつつ、でも今傷を治してもらった自分の手の甲を見てふと考える。
これ結構凄い事だよね。この傷ってバッカス達と暮らし始めてすぐの頃に藪を抜ける時に付けたやつだもん、既に一週間近く経ってる。そんな古い傷も跡形もなく治せちゃうなんて。
私がちょっと考え事をしていると横から立ち上がったバッカスが声をかけてきた。
「あゆみ、そろそろ出発するぞ。それなりに距離があるからあゆみはネロにでも運んでもらえ」
そう言って意味有りげに黒猫君を見やった。
黒猫君はちょっと顔を歪めたがそれには何も答えずにまたも声も掛けずに私を抱き上げた。
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