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Ⅵ 迷う魔女
v 塔を去るもの
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「大体、農民出身の君がこの王城に研究室を持つなんてどう考えても不釣り合いだとおもわないか? 苦労するだけだよ、こんなこと続けてても」
塔の各所に山積みの資料を見て眉を顰めては、一人勝手に言葉を続けるレイモンド。
そこに放置されていたアズレイアの古い研究資料を見つけ、それをペラペラとめくりながら戻ってきた。
「君の才能は認めてるんだよ? だから彼を送って君の研究に日が当たるチャンスを作ってあげようとしたんだ」
「そんな勝手な!」
流石のアズレイアも、いい加減彼の身勝手な言葉に声を上げた。
それを無感動に受け流したレイモンドが、またもアズレイアの前に立って説得を試みる。
「その論文は彼にあげなよ。そうすれば君の名で出すよりも、よっぽど沢山の援助を得られるだろう」
「嫌よ。これは私の研究よ。他人になんて渡すわけないでしょ」
なんでこんな当たり前のことを言わなければならないのだろう。
なぜこんな当たり前のことを、理解してもらえないんだろう。
理不尽に激高するアズレイアとは裏腹に、レイモンドが不思議そうにアズレイアを見る。
「でも君は農村を救いたいんだろう?」
「は?」
私、そんな話、レイモンドにしたっけ──。
「崇高なその目的のために、君はたかが自分の名誉のひとつも捨てられないのかい?」
確かにアズレイアの研究には、一貫して目標がある。
だけど、思い出せる限り、彼にその話をしたことは一度もない。
どうやらアズレイアの知らぬところで、色々と調べられていたのだろう。
でもならば、いつ?
「まさか、私の研究を奪ったのも同じ理由だって言う気?」
最初からそのつもりだったのか?
だとしたら、本当に最初からアズレイアは彼にとって、都合のいい道具でしかなかったということだ。
疑問というより、怒りを込めてアズレイアは尋ねているのに、当のレイモンドはまるでどうでもいいことだというように返事を返す。
「だって君の研究、よく出来すぎてたから」
「はぁあ?」
返ってきた答えの意味がどうやっても理解できない。
「何を言ってるのよ、あなただって充分優秀な論文を書いていたんでしょ。しかも私なんかと違って、あちこちの研究室で! もう主席になるのだってあなたに決まってたはず」
あまりにも理解できな過ぎて、アズレイアの声が裏返る。
それでも一度堰を切った言葉は簡単には止まらない。
「私の論文なんて取らなくても、あなたなら実力で王城魔術師の副長くらい簡単になれたじゃない」
長年言いたかったことを言い切って、肩で息をきるアズレイア。
それをレイモンドが感情のない目で見返している。
そして、疲れたように椅子に座ると、テーブルに肩ひじを付いてアズレイアを見上げた。
「確かに。だけど、モントレー教授の分野だけを見れば、君の論文は僕のを超えていたじゃないか」
アズレイアがぐっと言葉に詰まる。
優秀と認められたこと自体は全く嬉しくないわけではない。
ほかならぬレイモンドの目から見ても、充分に優秀だったと認められているのだ。
だが、そのあとに続く彼の言葉はそれをすべて覆すに足る、自分勝手極まりないものだった。
「農民出身の君には分からないかもしれないが、貴族社会において、農民の出の君は僕より優秀であってはいけない。僕は全分野主席でこの地位を得なければいけないんだよ」
この人は……!
この辺りで、アズレイアも理解した。
このレイモンドという人間と自分が、なぜこうも理解しあえないのかを。
レイモンドの価値観は、絶対にアズレイアと相いれないのだと。
「まあ君は優秀だからどうせ一年もすれば違う論文でやり直せるだろうとは思ってたしね。まさか一ヶ月であんなもの持ち出してくるとは思わなかったけど」
反論をやめたアズレイアに、レイモンドが淡々と語る。
そして軽く肩をすくめ、叱るように付け加えた。
「……おかげで僕の論文のインパクトが薄れてしまった」
思った反応を返さないアズレイアにイラついたのか、レイモンドが言い募る。
「あんなもの、いつ記録撮ってたの? 僕との情事を逐一記録してたの? 一体どんな変態だよ。どんなに隠しても、そういうところで下劣な本性が透けて見えるよね」
どうやらレイモンドはアズレイアの最終研究の内容を知る立場になったらしい。
彼にはあの研究が、単なる自分との情事の暴露にでも見えたのだろう。
この人と自分の考えは、決して交わることがないのだろう。
学生時代、ひと時でも彼に惹かれたのは、本当にもの知らずだった自分の、無知ゆえの過ちだったのだ。
そう理解したアズレイアに、レイモンドが今度こそアズレイアの理解を超える文句をつけ始める。
「君が一度手に入れた貴族社会への糸口を惜しむのも分からなくはないが、もうこれ以上、兄や僕に迷惑をかけるのはやめるんだ。モントレー家の決定は君も見ただろう」
「はあ?」
兄ってなに?
なんでまたモントレー家の名がここで出てくるの?
その顔にはっきりと疑問を浮かべたアズレイアを見上げていたレイモンドが、薄く笑い、そして憐れむようにアズレイアを見やった。
「……ああ。君はまだそれすら知らないのか」
レイモンドの勝ち誇った顔を見るうちに、アズレイアの胸がざわめきだす。
これはあの時と一緒だ。
講堂で、リズたちに追い詰められたとき。
自分だけが分からない何かを、この人は知っている。
自分は今、絶対に知っているべき大切な何かを見失っている──。
それがなんであるかは理解できなくとも、彼女の直感が警鐘を鳴らす。
だが同時に、あの時の孤独と恐怖が思い出され足が震えだした。
やっと求めていた通りの反応を引き出せたレイモンドは、椅子から立ち上がり、満足げな笑みを浮かべて塔の出口へと歩き出す。
「明日チャールズをもう一度よこすよ。彼の前でちゃんと這いつくばって慈悲を乞うんだ。彼だって君がちゃんと謝れば許してくれるだろう」
そこでふと思い出したように付け加えた。
「あれでトレルダル家の男だからね。ちゃーんといっぱい相手してくれるよ。あの頃みたいに君が鳴いてねだるくらいには、ね」
あの夜、私がチャールズに何をされそうだったのか、この人は本当にわかっているのだろうか??
分かっているのだろう。
分かっていてこんなこと、よくも、その口で、言える!
怒りに燃える目でアズレイアがレイモンドを睨む。
それを見た彼の口元に、クスリと残忍な笑みが浮かんだ。
「ああ、それとも僕に抱かれた日々がまだ忘れられない?」
アズレイアの怒りをどう勘違いしたのだろう。
そのまま手を伸ばし、今一度アズレイアを引きよせようとする。
そして上体をかがめ、アズレイアの耳元に囁こうとした──
「そっか、じゃあいいよ。最後にもう一度だけ、抱いてあげ──ぐはッッッ!!!」
──レイモンドの細い顎に、アズレイアのアッパーカットが綺麗にキマった。
ゆっくりと、後ろに向かって倒れゆくレイモンドの体に、背後から一筋の光が射し込む。
それがゆっくりと拡がって、アズレイアの待ち望んだ声が聞こえた。
「アズレイア、扉が開きっぱなしだぞ──!」
「カルロス!」
扉を開くカルロスの姿に、アズレイアが跳ねるように飛んでいく。
足元に転がるレイモンドになど目もくれない。
「遅いわよ、どこまで行ってたのよ!」
「王城までって、お前これどういうことだ!?」
飛んできたアズレイアの勢いに押され、素直に答えてしまってから、目前の光景に一瞬で語気を荒げて恫喝した。
「お前!」
一拍遅れて、倒れている男がレイモンドだと認識したカルロスが、怒りの籠った低い声で唸る。
「これ以上何をしに来た」
カルロスがドスを利かせて尋ねるも、レイモンドは倒れたまま、その場に手を突いてまだ起き上がることもできない。
「アズレイアに何をした、答えろ」
頭を振りつつ、やっと上体をおこした彼に、カルロスがより鋭い声で詰問した。
「そう怒るなよ。ただ彼女にぴったりの相談を持ち掛けただけだ」
「そんなことで彼女は殴ったりしない。何をした」
いけしゃあしゃあと言ってのけたレイモンドの言葉になど耳も貸さず、カルロスが重ねて尋ねる。
そんなカルロスを見返したレイモンドは、立ち上がり、自分の服についた埃りを払いながらまっすぐに二人を見返して口を開いた。
「そうだね。最後はどうも僕が見誤ってたらしい。もうすでに新しい男に飼いならされてるんじゃ仕方ない」
その口調には、自分がしようとした卑劣な行為への罪悪感はひと欠片もない。
そこにあるのは冷い蔑みと嘲りだけだ。
「お前に、アズレイアの、何がわかる」
「『傷ものの魔女』、それ以外になんの意味がある?」
冷薄な笑みを浮かべたレイモンドの返答に、一瞬でカルロスが拳をあげる。
だが、それを止めたのはアズレイアだった。
「やめて。こんな人、殴るだけあなたが馬鹿を見るわよ」
いくらカルロスが貴族だったとしても、相手はレイモンドなのだ。
モントレー伯爵家の嫡子で王城魔術師の副長なんて肩書の人間を殴ったら、一体どんな酷い処罰をされるか分かったものではない。
アズレイアの言葉には、なんの偽りも感傷も含まれない。
あるのはただ、カルロスの立場を思いやる気持ちだけだった。
それが分かってしまったから、カルロスも上げた拳を止めた。
そんな二人を見比べて、時間を無駄にしたとでもいうようにレイモンドが首を振って扉に向かう。
「二度とこの塔に近づくな。これ以上、お前の好き勝手を見過ごす気はない。俺も近衛隊の任に戻るつもりだ。覚悟しておけ」
カルロスの宣言にすら振りかえることなく、軽く手を振りつつそのまま塔を去るレイモンド。
その背中をアズレイアはどこか凪いだ気持ちで見送った。
塔の各所に山積みの資料を見て眉を顰めては、一人勝手に言葉を続けるレイモンド。
そこに放置されていたアズレイアの古い研究資料を見つけ、それをペラペラとめくりながら戻ってきた。
「君の才能は認めてるんだよ? だから彼を送って君の研究に日が当たるチャンスを作ってあげようとしたんだ」
「そんな勝手な!」
流石のアズレイアも、いい加減彼の身勝手な言葉に声を上げた。
それを無感動に受け流したレイモンドが、またもアズレイアの前に立って説得を試みる。
「その論文は彼にあげなよ。そうすれば君の名で出すよりも、よっぽど沢山の援助を得られるだろう」
「嫌よ。これは私の研究よ。他人になんて渡すわけないでしょ」
なんでこんな当たり前のことを言わなければならないのだろう。
なぜこんな当たり前のことを、理解してもらえないんだろう。
理不尽に激高するアズレイアとは裏腹に、レイモンドが不思議そうにアズレイアを見る。
「でも君は農村を救いたいんだろう?」
「は?」
私、そんな話、レイモンドにしたっけ──。
「崇高なその目的のために、君はたかが自分の名誉のひとつも捨てられないのかい?」
確かにアズレイアの研究には、一貫して目標がある。
だけど、思い出せる限り、彼にその話をしたことは一度もない。
どうやらアズレイアの知らぬところで、色々と調べられていたのだろう。
でもならば、いつ?
「まさか、私の研究を奪ったのも同じ理由だって言う気?」
最初からそのつもりだったのか?
だとしたら、本当に最初からアズレイアは彼にとって、都合のいい道具でしかなかったということだ。
疑問というより、怒りを込めてアズレイアは尋ねているのに、当のレイモンドはまるでどうでもいいことだというように返事を返す。
「だって君の研究、よく出来すぎてたから」
「はぁあ?」
返ってきた答えの意味がどうやっても理解できない。
「何を言ってるのよ、あなただって充分優秀な論文を書いていたんでしょ。しかも私なんかと違って、あちこちの研究室で! もう主席になるのだってあなたに決まってたはず」
あまりにも理解できな過ぎて、アズレイアの声が裏返る。
それでも一度堰を切った言葉は簡単には止まらない。
「私の論文なんて取らなくても、あなたなら実力で王城魔術師の副長くらい簡単になれたじゃない」
長年言いたかったことを言い切って、肩で息をきるアズレイア。
それをレイモンドが感情のない目で見返している。
そして、疲れたように椅子に座ると、テーブルに肩ひじを付いてアズレイアを見上げた。
「確かに。だけど、モントレー教授の分野だけを見れば、君の論文は僕のを超えていたじゃないか」
アズレイアがぐっと言葉に詰まる。
優秀と認められたこと自体は全く嬉しくないわけではない。
ほかならぬレイモンドの目から見ても、充分に優秀だったと認められているのだ。
だが、そのあとに続く彼の言葉はそれをすべて覆すに足る、自分勝手極まりないものだった。
「農民出身の君には分からないかもしれないが、貴族社会において、農民の出の君は僕より優秀であってはいけない。僕は全分野主席でこの地位を得なければいけないんだよ」
この人は……!
この辺りで、アズレイアも理解した。
このレイモンドという人間と自分が、なぜこうも理解しあえないのかを。
レイモンドの価値観は、絶対にアズレイアと相いれないのだと。
「まあ君は優秀だからどうせ一年もすれば違う論文でやり直せるだろうとは思ってたしね。まさか一ヶ月であんなもの持ち出してくるとは思わなかったけど」
反論をやめたアズレイアに、レイモンドが淡々と語る。
そして軽く肩をすくめ、叱るように付け加えた。
「……おかげで僕の論文のインパクトが薄れてしまった」
思った反応を返さないアズレイアにイラついたのか、レイモンドが言い募る。
「あんなもの、いつ記録撮ってたの? 僕との情事を逐一記録してたの? 一体どんな変態だよ。どんなに隠しても、そういうところで下劣な本性が透けて見えるよね」
どうやらレイモンドはアズレイアの最終研究の内容を知る立場になったらしい。
彼にはあの研究が、単なる自分との情事の暴露にでも見えたのだろう。
この人と自分の考えは、決して交わることがないのだろう。
学生時代、ひと時でも彼に惹かれたのは、本当にもの知らずだった自分の、無知ゆえの過ちだったのだ。
そう理解したアズレイアに、レイモンドが今度こそアズレイアの理解を超える文句をつけ始める。
「君が一度手に入れた貴族社会への糸口を惜しむのも分からなくはないが、もうこれ以上、兄や僕に迷惑をかけるのはやめるんだ。モントレー家の決定は君も見ただろう」
「はあ?」
兄ってなに?
なんでまたモントレー家の名がここで出てくるの?
その顔にはっきりと疑問を浮かべたアズレイアを見上げていたレイモンドが、薄く笑い、そして憐れむようにアズレイアを見やった。
「……ああ。君はまだそれすら知らないのか」
レイモンドの勝ち誇った顔を見るうちに、アズレイアの胸がざわめきだす。
これはあの時と一緒だ。
講堂で、リズたちに追い詰められたとき。
自分だけが分からない何かを、この人は知っている。
自分は今、絶対に知っているべき大切な何かを見失っている──。
それがなんであるかは理解できなくとも、彼女の直感が警鐘を鳴らす。
だが同時に、あの時の孤独と恐怖が思い出され足が震えだした。
やっと求めていた通りの反応を引き出せたレイモンドは、椅子から立ち上がり、満足げな笑みを浮かべて塔の出口へと歩き出す。
「明日チャールズをもう一度よこすよ。彼の前でちゃんと這いつくばって慈悲を乞うんだ。彼だって君がちゃんと謝れば許してくれるだろう」
そこでふと思い出したように付け加えた。
「あれでトレルダル家の男だからね。ちゃーんといっぱい相手してくれるよ。あの頃みたいに君が鳴いてねだるくらいには、ね」
あの夜、私がチャールズに何をされそうだったのか、この人は本当にわかっているのだろうか??
分かっているのだろう。
分かっていてこんなこと、よくも、その口で、言える!
怒りに燃える目でアズレイアがレイモンドを睨む。
それを見た彼の口元に、クスリと残忍な笑みが浮かんだ。
「ああ、それとも僕に抱かれた日々がまだ忘れられない?」
アズレイアの怒りをどう勘違いしたのだろう。
そのまま手を伸ばし、今一度アズレイアを引きよせようとする。
そして上体をかがめ、アズレイアの耳元に囁こうとした──
「そっか、じゃあいいよ。最後にもう一度だけ、抱いてあげ──ぐはッッッ!!!」
──レイモンドの細い顎に、アズレイアのアッパーカットが綺麗にキマった。
ゆっくりと、後ろに向かって倒れゆくレイモンドの体に、背後から一筋の光が射し込む。
それがゆっくりと拡がって、アズレイアの待ち望んだ声が聞こえた。
「アズレイア、扉が開きっぱなしだぞ──!」
「カルロス!」
扉を開くカルロスの姿に、アズレイアが跳ねるように飛んでいく。
足元に転がるレイモンドになど目もくれない。
「遅いわよ、どこまで行ってたのよ!」
「王城までって、お前これどういうことだ!?」
飛んできたアズレイアの勢いに押され、素直に答えてしまってから、目前の光景に一瞬で語気を荒げて恫喝した。
「お前!」
一拍遅れて、倒れている男がレイモンドだと認識したカルロスが、怒りの籠った低い声で唸る。
「これ以上何をしに来た」
カルロスがドスを利かせて尋ねるも、レイモンドは倒れたまま、その場に手を突いてまだ起き上がることもできない。
「アズレイアに何をした、答えろ」
頭を振りつつ、やっと上体をおこした彼に、カルロスがより鋭い声で詰問した。
「そう怒るなよ。ただ彼女にぴったりの相談を持ち掛けただけだ」
「そんなことで彼女は殴ったりしない。何をした」
いけしゃあしゃあと言ってのけたレイモンドの言葉になど耳も貸さず、カルロスが重ねて尋ねる。
そんなカルロスを見返したレイモンドは、立ち上がり、自分の服についた埃りを払いながらまっすぐに二人を見返して口を開いた。
「そうだね。最後はどうも僕が見誤ってたらしい。もうすでに新しい男に飼いならされてるんじゃ仕方ない」
その口調には、自分がしようとした卑劣な行為への罪悪感はひと欠片もない。
そこにあるのは冷い蔑みと嘲りだけだ。
「お前に、アズレイアの、何がわかる」
「『傷ものの魔女』、それ以外になんの意味がある?」
冷薄な笑みを浮かべたレイモンドの返答に、一瞬でカルロスが拳をあげる。
だが、それを止めたのはアズレイアだった。
「やめて。こんな人、殴るだけあなたが馬鹿を見るわよ」
いくらカルロスが貴族だったとしても、相手はレイモンドなのだ。
モントレー伯爵家の嫡子で王城魔術師の副長なんて肩書の人間を殴ったら、一体どんな酷い処罰をされるか分かったものではない。
アズレイアの言葉には、なんの偽りも感傷も含まれない。
あるのはただ、カルロスの立場を思いやる気持ちだけだった。
それが分かってしまったから、カルロスも上げた拳を止めた。
そんな二人を見比べて、時間を無駄にしたとでもいうようにレイモンドが首を振って扉に向かう。
「二度とこの塔に近づくな。これ以上、お前の好き勝手を見過ごす気はない。俺も近衛隊の任に戻るつもりだ。覚悟しておけ」
カルロスの宣言にすら振りかえることなく、軽く手を振りつつそのまま塔を去るレイモンド。
その背中をアズレイアはどこか凪いだ気持ちで見送った。
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