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5話 タイ料理サバチャイ
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ここは会社のそばに昔からある馴染みのタイ料理屋で、ランチ時は客が途切れない人気の店だ。店の名前はサバチャイ。店主の名前からとっているらしい。
「へいっ、らっしゃい。注文何するね?」
「パッタイ大盛で」
「アイヨー、パッタイ大盛一つね! 常連さんはどうするね?」
「そうだなぁ、今日はトムヤムクン定食にしようかな」
「アイヨー! トムヤムクン、パクチー多めね!」
相変わらずイントネーションのおかしいサバチャイさんは、日本に来てもう二十年は経つらしい。
まぁ、言葉は通じるから構わないんだけど、普通二十年もいたらもう少し上手くなっていてもおかしくない。
「アイヨー、グリーンカリーお待たせね!」
とはいえ、逆にサバチャイさんが流暢に日本語ペラペラになられても、それはそれで微妙な気もするから結局のところ、これでいいのかもしれない。
本人にそういった考えがあるのかはわからないが、外国人が日本で成功するには、外国人らしさというのも必要なのだろう。
「サバチャイさん、そういえば何で俺のいつもパクチー多めなの?」
いつも勝手にパクチー多めにされているのはサービスっぽい気はしている。しかしながら常連ではあるが、パクチーを多めにしてくれと頼んだことは一度もなかった。
「常連さんはサービスね。常連さん大事。バングラディッシュの教えで、金いっぱい落とす客は太客ね。いっぱい大事にするってあるよ!」
おかしい……。格言的なものもあやしいが、ここは確かタイ料理屋のはず。なのにサバチャイさんはバングラディッシュの出身という。バングラディッシュとタイの地理関係はよくわからないけど……近いのか!?
まあ、サバチャイさんの料理は美味しいからいいか。きっと深く考えないことがいいこともある。
「それにしても、今日は料理が出てくるのに時間がかかっているな」
「大変ね、大変ね。店長、消えたよ!」
厨房が騒がしいと思ったら、東南アジア系バイトのお姉さんが、サバチャイさんが突然厨房から消えたとか叫んでいる。
ランチの時間は有限だ。出来ればパクチーを増やすよりも、提供スピードを早めてもらえると助かる。
「アイヤー困ったね。これじゃあ、店出来ないよ。あっ、でも常連さんのトムヤムクン定食パクチー多めは大丈夫よ。本当常連さんパクチー好きね」
別にパクチーは好きでも嫌いでもない。ひょっとしたら、バイトのお姉さんから厨房でパクチー野郎とか、パクチーマンとか言われているのかもしれない。
とはいえ、トムヤムクン定食は無事提供されるようでちょっと安心した。
「あー、なるほど。炒めもの全般が、サバチャイさんいないと難しいのか」
「そうねー。全くどこいったよクソ店長。トイレか?」
サバチャイさんがいないと突然口調が汚くなるのは、きっとお姉さんなりにも思うところがあるのだろう。そのあたりは常連であっても、踏み込むところではないとわきまえている。
すると、いきなり厨房が光りはじめたと思ったら、目の前にサバチャイさんが現れた。包丁と萎びたパクチーを手に持って。
私は夢でも見ているのだろうか……。
「お前、サバチャイをクソ店長言ったか?」
「ちっ、聞こえてやがったか……。私、そんなこと言ってないね。店長のトイレクソなげー言ったね」
「サバチャイ、トイレ行ってないよ!」
「じゃあどこ行ってたね!」
何故か、サバチャイさんは急に目を細めながら、どこか遠くを見るような憂いの表情で語りはじめた。
「サバチャイ、魔法学園でルークに召喚されたね。ルークとてもいいやつ。お金くれるよ」
そういってポケットから銀色の硬貨をじゃらじゃらと取り出してみせた。
「店長、パチスロ行ってたか? 一番忙がしい時にめっちゃアホやな」
「お前、サバチャイにアホ言ったか?」
「ランチにパチスロ行く店長を、アホ以外に何ていうよ!」
「サバチャイ、パチスロ行ってないね。サバチャイが行ったのは異世界よ。ルーク言ったね、サバチャイは最上級の召喚獣。サバチャイ歴史的に見てもチョーヤベー奴だって」
「店長、とうとう頭おかしくなったね……。常連さん、もうこの店終わりかもね」
お姉さんの気持ちも痛いほどわかるのだけど、今は厨房から消えたのに、光って戻ってきたサバチャイさんの方がかなりヤバい。
「あ、あの、サバチャイさん、本当に異世界行ったんですか?」
「常連さん、信じてくれるね? 優しい常連さんにはルークからもらった銀貨一枚あげるね」
そう言って渡されたのは、とても古びた見たことのない銀貨だった。デザインもシンプルで、凝った造りでもない。
「サバチャイさん、これは異世界から?」
「そうね。ルークからもらったね」
「でも、これはこっちではほとんど価値がないんじゃないかな?」
「さすが常連さん賢いね! でもね、サバチャイいいこと思いついているから問題なしよ」
暗く陰のある笑顔をみせるサバチャイさんは何か考えがあるらしい。
「ちょっと、あとでATMに行ってくるね。サバチャイ、財布のお金を増やしておかないといけなくなったね。もうウハウハよ。おいっ、ランチ抜けても大丈夫か?」
「店長アホか。今一番忙しいよ。ランチ終わってからトイレでもパチスロでもいけばいいね」
何故、ATMに行かなければならないのかは不明だが、どうやら、サバチャイさんは本当に異世界に召喚されたらしく、とりあえず役目を終えて戻されたとのこと。
「その役目って何なんですか?」
「トムヤムクン定食、常連さんに渡せなかったから代わりにルークから、銀貨かつあげしたね」
「アイヤー、トムヤムクン定食冷めちゃうよー常連さん、早く食べて食べて!」
驚きすぎてトムヤムクン定食のことをすっかり忘れていた。それにしてもサバチャイさん、本当に異世界へ行ったというのか。しかし目の前で起こったことなので信じざるを得ない。
「へいっ、らっしゃい。注文何するね?」
「パッタイ大盛で」
「アイヨー、パッタイ大盛一つね! 常連さんはどうするね?」
「そうだなぁ、今日はトムヤムクン定食にしようかな」
「アイヨー! トムヤムクン、パクチー多めね!」
相変わらずイントネーションのおかしいサバチャイさんは、日本に来てもう二十年は経つらしい。
まぁ、言葉は通じるから構わないんだけど、普通二十年もいたらもう少し上手くなっていてもおかしくない。
「アイヨー、グリーンカリーお待たせね!」
とはいえ、逆にサバチャイさんが流暢に日本語ペラペラになられても、それはそれで微妙な気もするから結局のところ、これでいいのかもしれない。
本人にそういった考えがあるのかはわからないが、外国人が日本で成功するには、外国人らしさというのも必要なのだろう。
「サバチャイさん、そういえば何で俺のいつもパクチー多めなの?」
いつも勝手にパクチー多めにされているのはサービスっぽい気はしている。しかしながら常連ではあるが、パクチーを多めにしてくれと頼んだことは一度もなかった。
「常連さんはサービスね。常連さん大事。バングラディッシュの教えで、金いっぱい落とす客は太客ね。いっぱい大事にするってあるよ!」
おかしい……。格言的なものもあやしいが、ここは確かタイ料理屋のはず。なのにサバチャイさんはバングラディッシュの出身という。バングラディッシュとタイの地理関係はよくわからないけど……近いのか!?
まあ、サバチャイさんの料理は美味しいからいいか。きっと深く考えないことがいいこともある。
「それにしても、今日は料理が出てくるのに時間がかかっているな」
「大変ね、大変ね。店長、消えたよ!」
厨房が騒がしいと思ったら、東南アジア系バイトのお姉さんが、サバチャイさんが突然厨房から消えたとか叫んでいる。
ランチの時間は有限だ。出来ればパクチーを増やすよりも、提供スピードを早めてもらえると助かる。
「アイヤー困ったね。これじゃあ、店出来ないよ。あっ、でも常連さんのトムヤムクン定食パクチー多めは大丈夫よ。本当常連さんパクチー好きね」
別にパクチーは好きでも嫌いでもない。ひょっとしたら、バイトのお姉さんから厨房でパクチー野郎とか、パクチーマンとか言われているのかもしれない。
とはいえ、トムヤムクン定食は無事提供されるようでちょっと安心した。
「あー、なるほど。炒めもの全般が、サバチャイさんいないと難しいのか」
「そうねー。全くどこいったよクソ店長。トイレか?」
サバチャイさんがいないと突然口調が汚くなるのは、きっとお姉さんなりにも思うところがあるのだろう。そのあたりは常連であっても、踏み込むところではないとわきまえている。
すると、いきなり厨房が光りはじめたと思ったら、目の前にサバチャイさんが現れた。包丁と萎びたパクチーを手に持って。
私は夢でも見ているのだろうか……。
「お前、サバチャイをクソ店長言ったか?」
「ちっ、聞こえてやがったか……。私、そんなこと言ってないね。店長のトイレクソなげー言ったね」
「サバチャイ、トイレ行ってないよ!」
「じゃあどこ行ってたね!」
何故か、サバチャイさんは急に目を細めながら、どこか遠くを見るような憂いの表情で語りはじめた。
「サバチャイ、魔法学園でルークに召喚されたね。ルークとてもいいやつ。お金くれるよ」
そういってポケットから銀色の硬貨をじゃらじゃらと取り出してみせた。
「店長、パチスロ行ってたか? 一番忙がしい時にめっちゃアホやな」
「お前、サバチャイにアホ言ったか?」
「ランチにパチスロ行く店長を、アホ以外に何ていうよ!」
「サバチャイ、パチスロ行ってないね。サバチャイが行ったのは異世界よ。ルーク言ったね、サバチャイは最上級の召喚獣。サバチャイ歴史的に見てもチョーヤベー奴だって」
「店長、とうとう頭おかしくなったね……。常連さん、もうこの店終わりかもね」
お姉さんの気持ちも痛いほどわかるのだけど、今は厨房から消えたのに、光って戻ってきたサバチャイさんの方がかなりヤバい。
「あ、あの、サバチャイさん、本当に異世界行ったんですか?」
「常連さん、信じてくれるね? 優しい常連さんにはルークからもらった銀貨一枚あげるね」
そう言って渡されたのは、とても古びた見たことのない銀貨だった。デザインもシンプルで、凝った造りでもない。
「サバチャイさん、これは異世界から?」
「そうね。ルークからもらったね」
「でも、これはこっちではほとんど価値がないんじゃないかな?」
「さすが常連さん賢いね! でもね、サバチャイいいこと思いついているから問題なしよ」
暗く陰のある笑顔をみせるサバチャイさんは何か考えがあるらしい。
「ちょっと、あとでATMに行ってくるね。サバチャイ、財布のお金を増やしておかないといけなくなったね。もうウハウハよ。おいっ、ランチ抜けても大丈夫か?」
「店長アホか。今一番忙しいよ。ランチ終わってからトイレでもパチスロでもいけばいいね」
何故、ATMに行かなければならないのかは不明だが、どうやら、サバチャイさんは本当に異世界に召喚されたらしく、とりあえず役目を終えて戻されたとのこと。
「その役目って何なんですか?」
「トムヤムクン定食、常連さんに渡せなかったから代わりにルークから、銀貨かつあげしたね」
「アイヤー、トムヤムクン定食冷めちゃうよー常連さん、早く食べて食べて!」
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