僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑

つちねこ

文字の大きさ
6 / 61

5話 タイ料理サバチャイ

しおりを挟む
 ここは会社のそばに昔からある馴染みのタイ料理屋で、ランチ時は客が途切れない人気の店だ。店の名前はサバチャイ。店主の名前からとっているらしい。

「へいっ、らっしゃい。注文何するね?」

「パッタイ大盛で」

「アイヨー、パッタイ大盛一つね! 常連さんはどうするね?」

「そうだなぁ、今日はトムヤムクン定食にしようかな」

「アイヨー! トムヤムクン、パクチー多めね!」

 相変わらずイントネーションのおかしいサバチャイさんは、日本に来てもう二十年は経つらしい。

 まぁ、言葉は通じるから構わないんだけど、普通二十年もいたらもう少し上手くなっていてもおかしくない。

「アイヨー、グリーンカリーお待たせね!」

 とはいえ、逆にサバチャイさんが流暢に日本語ペラペラになられても、それはそれで微妙な気もするから結局のところ、これでいいのかもしれない。

 本人にそういった考えがあるのかはわからないが、外国人が日本で成功するには、外国人らしさというのも必要なのだろう。

「サバチャイさん、そういえば何で俺のいつもパクチー多めなの?」

 いつも勝手にパクチー多めにされているのはサービスっぽい気はしている。しかしながら常連ではあるが、パクチーを多めにしてくれと頼んだことは一度もなかった。

「常連さんはサービスね。常連さん大事。バングラディッシュの教えで、金いっぱい落とす客は太客ね。いっぱい大事にするってあるよ!」

 おかしい……。格言的なものもあやしいが、ここは確かタイ料理屋のはず。なのにサバチャイさんはバングラディッシュの出身という。バングラディッシュとタイの地理関係はよくわからないけど……近いのか!?


 まあ、サバチャイさんの料理は美味しいからいいか。きっと深く考えないことがいいこともある。


「それにしても、今日は料理が出てくるのに時間がかかっているな」



「大変ね、大変ね。店長、消えたよ!」

 厨房が騒がしいと思ったら、東南アジア系バイトのお姉さんが、サバチャイさんが突然厨房から消えたとか叫んでいる。

 ランチの時間は有限だ。出来ればパクチーを増やすよりも、提供スピードを早めてもらえると助かる。

「アイヤー困ったね。これじゃあ、店出来ないよ。あっ、でも常連さんのトムヤムクン定食パクチー多めは大丈夫よ。本当常連さんパクチー好きね」

 別にパクチーは好きでも嫌いでもない。ひょっとしたら、バイトのお姉さんから厨房でパクチー野郎とか、パクチーマンとか言われているのかもしれない。
 とはいえ、トムヤムクン定食は無事提供されるようでちょっと安心した。

「あー、なるほど。炒めもの全般が、サバチャイさんいないと難しいのか」

「そうねー。全くどこいったよクソ店長。トイレか?」

 サバチャイさんがいないと突然口調が汚くなるのは、きっとお姉さんなりにも思うところがあるのだろう。そのあたりは常連であっても、踏み込むところではないとわきまえている。

 すると、いきなり厨房が光りはじめたと思ったら、目の前にサバチャイさんが現れた。包丁と萎びたパクチーを手に持って。



 私は夢でも見ているのだろうか……。


「お前、サバチャイをクソ店長言ったか?」

「ちっ、聞こえてやがったか……。私、そんなこと言ってないね。店長のトイレクソなげー言ったね」

「サバチャイ、トイレ行ってないよ!」

「じゃあどこ行ってたね!」

 何故か、サバチャイさんは急に目を細めながら、どこか遠くを見るような憂いの表情で語りはじめた。

「サバチャイ、魔法学園でルークに召喚されたね。ルークとてもいいやつ。お金くれるよ」

 そういってポケットから銀色の硬貨をじゃらじゃらと取り出してみせた。

「店長、パチスロ行ってたか? 一番忙がしい時にめっちゃアホやな」

「お前、サバチャイにアホ言ったか?」

「ランチにパチスロ行く店長を、アホ以外に何ていうよ!」

「サバチャイ、パチスロ行ってないね。サバチャイが行ったのは異世界よ。ルーク言ったね、サバチャイは最上級の召喚獣。サバチャイ歴史的に見てもチョーヤベー奴だって」

「店長、とうとう頭おかしくなったね……。常連さん、もうこの店終わりかもね」

 お姉さんの気持ちも痛いほどわかるのだけど、今は厨房から消えたのに、光って戻ってきたサバチャイさんの方がかなりヤバい。

「あ、あの、サバチャイさん、本当に異世界行ったんですか?」

「常連さん、信じてくれるね? 優しい常連さんにはルークからもらった銀貨一枚あげるね」

 そう言って渡されたのは、とても古びた見たことのない銀貨だった。デザインもシンプルで、凝った造りでもない。

「サバチャイさん、これは異世界から?」

「そうね。ルークからもらったね」

「でも、これはこっちではほとんど価値がないんじゃないかな?」

「さすが常連さん賢いね! でもね、サバチャイいいこと思いついているから問題なしよ」

 暗く陰のある笑顔をみせるサバチャイさんは何か考えがあるらしい。

「ちょっと、あとでATMに行ってくるね。サバチャイ、財布のお金を増やしておかないといけなくなったね。もうウハウハよ。おいっ、ランチ抜けても大丈夫か?」

「店長アホか。今一番忙しいよ。ランチ終わってからトイレでもパチスロでもいけばいいね」


 何故、ATMに行かなければならないのかは不明だが、どうやら、サバチャイさんは本当に異世界に召喚されたらしく、とりあえず役目を終えて戻されたとのこと。

「その役目って何なんですか?」

「トムヤムクン定食、常連さんに渡せなかったから代わりにルークから、銀貨かつあげしたね」

「アイヤー、トムヤムクン定食冷めちゃうよー常連さん、早く食べて食べて!」

 驚きすぎてトムヤムクン定食のことをすっかり忘れていた。それにしてもサバチャイさん、本当に異世界へ行ったというのか。しかし目の前で起こったことなので信じざるを得ない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

処理中です...