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52話 最終訓練1
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憂うつだ。今日もまた朝がやってきてしまった。ほとんど睡眠をとれた感じがしない。身体は無駄に軽いのだけど、心はとっても沈んでいる。朝食後には、すぐにゴリラと馬に追いかけまわされるのだ。
「逃げ出したいけど、朝食の時間からゴドルフィン様と一緒なんだよね……」
昨日の夜からは、常時魔力を出しとけー! とか言われて、記憶のある限りベッドで横になりながらも魔力で体を覆っていたのだ。疲れているのは、このせいでもある。
「それにしても、寝たら魔力が霧散しちゃうかと思っていたけど、今現在も薄くではあるけど魔力に覆われたままでいるのか。疲れてはいるけど、身体が無駄に軽いのはこれのおかげだね」
ゴリラと馬によるスパルタ式訓練による賜物というやつなのだろう。短期間でレベルアップしなければならないのだから、多少はしょうがないとは思うのだけど。理不尽な特訓に対して、いつか仕返しは考えたいと思う。
「なんだ、随分と挑発的な顔をしているじゃないか。それにしても驚いたな……。もう魔力を常時覆えるようになっているのか。これならば、今日はノルドルド高原まで遠出するか。あそこはスピードに優れたラウンドウルフの縄張りだからちょうどいい」
ラウンドウルフは、ノルドルド高原を生息地とする狼のモンスターで、そのスピードを活かした集団攻撃は冒険者ギルドでも危険ランクBとされている。ラウンドウルフ単体であればランクDなのだが、集団ではその危険度はぐっと上がってしまうのだ。
「いくら、ゴドルフィン様が一緒とはいえ、さすがに危険ではないでしょうか?」
「何、討伐はしないのだから、そこまで心配せずともよい」
「ん? ちょっと言ってる意味が理解出来ないのですが?」
「お前はただ逃げ回るだけでいいのだからな。魔力も自然に少ない出力で覆えている。そろそろ仕上げにかかろう。あー、それから、これは訓練だからな、あの拳銃とやらは禁止だ。使ったら殺すからな」
ニヤニヤした表情からも、相当ヤバい訓練になることが予想できる。
「えーっと……、それはいったい」
「俺はサバチャイとポリスマンをいじめ……鍛えなければならんから、ノルドルド高原にはキングに乗って行け。行きと帰りは乗せるように言っておくから、目一杯魔力を消費していいぞ」
今、いじめていると言いかけたな……。しかし、ゴリラから離れられるなら、サバチャイさん達には悪いけどラッキーなのかもしれない。あの馬も相当性格が歪んでいるが、ゴリラよりはマシというもの。
「か、かしこまりました」
朝食後に、訓練所に向かうと途中でキングが待ち構えていた。今日は最初から馬の状態でいる。僕を見かけると、嬉しそうにニチャリと気持ち悪い笑顔をみせた。ゴーレムなのに笑顔とかすげー怖い。とはいえ、今日はラウンドウルフを蹴散らしてくれる仲間でもあるのだ。できる限りの仲良くしたいという姿勢たけでも見せておかねばなるまい。
「キング、今日はよろしくね。君にとってラウンドウルフは大したことないかも知れないけど、僕にはとっても脅威なんだ。あまり数が増えすぎないように調整よろしくね?」
これぐらい下手に出ておけば適度に上手くやってくれるだろう。キングは軽く嘶くと、僕に乗れよと背中を近づけてくる。なかなか可愛らしい一面もあるようだ。
「のんびり、ノルドルド高原まで向かおうか」
ブルルルル、ブルルルル! ヒッヒーン!
僕が跨がった瞬間、キングは後ろ立ちになると気合いを入れたのか、一気に走り始めた。のんびり向かってはくれないらしい。魔力で身体を覆っている影響で、なんとか落とされずに済んでいるが、危なかった。
ブルルルル!?
不思議そうに背中の僕を窺ってくるあたり、僕を落とそうとしたのかもしれない。キングの驚いている顔は、はじめて見た気がする。いや、ゴーレムだけれども。それにしても、どうやらはなから仲良くするつもりなどなかったということか。
「やはり、召喚主に性格が似るんだね。相当歪んでるよ!」
いや、召喚主に似るということは、僕とサバチャイさんの性格が似ていることになってしまう。それは断じて否、否である。僕の隠された性格にもあそこまで、はっちゃけたものなどない。
そうして、到着したのは、おそらく高原ほぼ中央らへん。当たり前のようにキングは、ちょいちょい、ラウンドウルフの群れにちょっかいをかけながらここまで来た。つまり、僕たちの周りには数えきれない程の狼の群れ、群れ、群れ。
「薄々勘づいてはいるんだけどさ、キングは戦うつもりないよね?」
ブルルルル
特に焦った様子もなく、普通であるかのように頷いて見せたキング。こいつ、やりやがったな……。えーっと、ゴリラは何て言った。
確か、討伐はしなくていい。ただ逃げ回るだけでいい。
「わかったよ! 逃げきってやる。全身をくまなく魔力で覆い、両足は特に厚くだ!」
アイスアーマーがあるから、ある程度の噛みつき攻撃は防げるはず。とにかく、逃げて逃げて逃げまくって、この訓練を乗り切ってやる。
レッドドラゴンと戦う前に死んでたまるか。
「逃げ出したいけど、朝食の時間からゴドルフィン様と一緒なんだよね……」
昨日の夜からは、常時魔力を出しとけー! とか言われて、記憶のある限りベッドで横になりながらも魔力で体を覆っていたのだ。疲れているのは、このせいでもある。
「それにしても、寝たら魔力が霧散しちゃうかと思っていたけど、今現在も薄くではあるけど魔力に覆われたままでいるのか。疲れてはいるけど、身体が無駄に軽いのはこれのおかげだね」
ゴリラと馬によるスパルタ式訓練による賜物というやつなのだろう。短期間でレベルアップしなければならないのだから、多少はしょうがないとは思うのだけど。理不尽な特訓に対して、いつか仕返しは考えたいと思う。
「なんだ、随分と挑発的な顔をしているじゃないか。それにしても驚いたな……。もう魔力を常時覆えるようになっているのか。これならば、今日はノルドルド高原まで遠出するか。あそこはスピードに優れたラウンドウルフの縄張りだからちょうどいい」
ラウンドウルフは、ノルドルド高原を生息地とする狼のモンスターで、そのスピードを活かした集団攻撃は冒険者ギルドでも危険ランクBとされている。ラウンドウルフ単体であればランクDなのだが、集団ではその危険度はぐっと上がってしまうのだ。
「いくら、ゴドルフィン様が一緒とはいえ、さすがに危険ではないでしょうか?」
「何、討伐はしないのだから、そこまで心配せずともよい」
「ん? ちょっと言ってる意味が理解出来ないのですが?」
「お前はただ逃げ回るだけでいいのだからな。魔力も自然に少ない出力で覆えている。そろそろ仕上げにかかろう。あー、それから、これは訓練だからな、あの拳銃とやらは禁止だ。使ったら殺すからな」
ニヤニヤした表情からも、相当ヤバい訓練になることが予想できる。
「えーっと……、それはいったい」
「俺はサバチャイとポリスマンをいじめ……鍛えなければならんから、ノルドルド高原にはキングに乗って行け。行きと帰りは乗せるように言っておくから、目一杯魔力を消費していいぞ」
今、いじめていると言いかけたな……。しかし、ゴリラから離れられるなら、サバチャイさん達には悪いけどラッキーなのかもしれない。あの馬も相当性格が歪んでいるが、ゴリラよりはマシというもの。
「か、かしこまりました」
朝食後に、訓練所に向かうと途中でキングが待ち構えていた。今日は最初から馬の状態でいる。僕を見かけると、嬉しそうにニチャリと気持ち悪い笑顔をみせた。ゴーレムなのに笑顔とかすげー怖い。とはいえ、今日はラウンドウルフを蹴散らしてくれる仲間でもあるのだ。できる限りの仲良くしたいという姿勢たけでも見せておかねばなるまい。
「キング、今日はよろしくね。君にとってラウンドウルフは大したことないかも知れないけど、僕にはとっても脅威なんだ。あまり数が増えすぎないように調整よろしくね?」
これぐらい下手に出ておけば適度に上手くやってくれるだろう。キングは軽く嘶くと、僕に乗れよと背中を近づけてくる。なかなか可愛らしい一面もあるようだ。
「のんびり、ノルドルド高原まで向かおうか」
ブルルルル、ブルルルル! ヒッヒーン!
僕が跨がった瞬間、キングは後ろ立ちになると気合いを入れたのか、一気に走り始めた。のんびり向かってはくれないらしい。魔力で身体を覆っている影響で、なんとか落とされずに済んでいるが、危なかった。
ブルルルル!?
不思議そうに背中の僕を窺ってくるあたり、僕を落とそうとしたのかもしれない。キングの驚いている顔は、はじめて見た気がする。いや、ゴーレムだけれども。それにしても、どうやらはなから仲良くするつもりなどなかったということか。
「やはり、召喚主に性格が似るんだね。相当歪んでるよ!」
いや、召喚主に似るということは、僕とサバチャイさんの性格が似ていることになってしまう。それは断じて否、否である。僕の隠された性格にもあそこまで、はっちゃけたものなどない。
そうして、到着したのは、おそらく高原ほぼ中央らへん。当たり前のようにキングは、ちょいちょい、ラウンドウルフの群れにちょっかいをかけながらここまで来た。つまり、僕たちの周りには数えきれない程の狼の群れ、群れ、群れ。
「薄々勘づいてはいるんだけどさ、キングは戦うつもりないよね?」
ブルルルル
特に焦った様子もなく、普通であるかのように頷いて見せたキング。こいつ、やりやがったな……。えーっと、ゴリラは何て言った。
確か、討伐はしなくていい。ただ逃げ回るだけでいい。
「わかったよ! 逃げきってやる。全身をくまなく魔力で覆い、両足は特に厚くだ!」
アイスアーマーがあるから、ある程度の噛みつき攻撃は防げるはず。とにかく、逃げて逃げて逃げまくって、この訓練を乗り切ってやる。
レッドドラゴンと戦う前に死んでたまるか。
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