55 / 61
53話 最終訓練2
しおりを挟む
驚きはすぐにあった。そもそも、キングの振り落としかねないスピードにも、問題なく対応できていたことからして普通ではない。
「おおおっ、い、意外とかわせてる!?」
まるで、いつもの自分ではないような身体の軽さ。いつだったか風の魔法でスピードを上げてもらった時のような感覚が、ずっと続いている感じ。スピードに定評のあるラウンドウルフを翻弄できる身軽さ。こ、これはすごいかもしれない。
かわす! かわす! かわす! かわす! 全部かわせる! ラウンドウルフの動きが先読みできている。右前足を強く踏み込んでいるから、一呼吸おいてから半身で避ける。もっと細かく見れば、踏み込む前の筋肉の動き、視線からわかる行動予測。ラウンドウルフがどのように僕を追いつめようとしているのかが見えてくる。
昨日の夜からずっと魔力で覆っていたことで、最小限に効率よく魔力を張り巡らせる感覚が自然と出来ている。魔力の消費状況としては悪くない。少し余裕が出てきたかもしれない。
「キングー! 今日の訓練は、何時までなの?」
少し離れたところでのんびりと昼寝でもしかねない雰囲気のキングさん。
そんなこと、お前に言うわけねーだろボケ的な表情をしてから、おもむろに草を食べ始めたキングさん。お前、ゴーレムなのに草とか、馬の姿に引っ張られ過ぎだよ。
「あのやろー。とりあえず時間無制限として、僕の持っている魔力回復ポーションは五本のみ。二時間に一本ペースでなんとか終日持たせられるかってとこか。っと、次は、団体さんね」
ラウンドウルフは得意とする連携攻撃で来た。上下左右から四匹が連携して襲い掛かろうとしている。
大丈夫、見えている。ギリギリまで引き付けてから、瞬時にたった二歩だけ下がる。それだけで、ラウンドウルフは互いにぶつかり合ってしまう。
もっと、視野を広げられる。
群れ全体の連携がどのように統率されているのかを探れる。僕を囲うようにして逃げ場をなくしながら、ゆっくりとその距離を詰めてきている。見つけた!
「あー、あいつが指示を出しているのか。群れのボスなのかな?」
僕の正面後方に立ち、一際大きなサイズで対峙する個体がいる。どうやらこの群れのボスっぽい。先程から、細かなサインのようなものを送って指示を出しているのがわかる。
それにしても、かわせてはいるが、これではきりがない。僕は攻撃を封じられているので、ラウンドウルフは次から次へと増える一方。これではきりがない。
少しでも、この狼達を減らすことは出来ないだろうか。次から次へと丘の上には新しい群れが現れてるし。
「……よし、ここはキングを巻き込もう。僕が攻撃出来ないのなら、キングに数を減らさせればいい」
勢いをつけてラウンドウルフの群れを飛び越えると、呑気に草を食べているキングへと走っていく。当然、連れられるようにラウンドウルフ達もやってくるわけで。キングが顔を上げた時には、新しい群れも加わり、数百のラウンドウルフに囲まれた状態だった。
プルルっ!?
「ここからは、お互いに頑張ろうかキング。僕は君から離れずにラウンドウルフの攻撃をかわし続けるよ。キングはこいつらを減らすか、逃げるかの二つの選択肢しかない。もちろん、逃げた場合は、僕もラウンドウルフも君についていくだけなんだけどね」
心底嫌そうな顔をしてみせるキング。お前、ゴーレムのくせに表情豊かだよね。
さすがのキングさんも、この大量のラウンドウルフの壁を超えていくにはそれなりに時間が掛かる。僕は付かず離れず側にいればいい。
ブルっ! ブルっルルル、ヒッヒーン!!
「そうだよ。諦めてラウンドウルフに攻撃すればいい」
直線的な攻撃手段しかないかと思われたキングさんだが、意外に小回りを利かせながら、角で突き刺し、前脚で踏み抜き、後脚で飛ばしていく。僕はキングの後方やや斜めの位置をキープしながらかわし続ける。
「それにしても、キングの討伐の仕方が粗すぎて酷い……」
好きあらば、後ろ脚で僕の方にラウンドウルフを飛ばしてくるキングさん。前脚で頭を踏み抜いた死体、角で脇腹を突き刺された死体。すぐに目の前の草原が血塗れの惨状となっている。
血や死体で足が滑りやすくなってしまい、より足元に負担が掛かる。もっと、集中しなければ、足を滑らしたところを狙われてしまうだろう。全体の流れを俯瞰しながら、目の前の足場や環境も頭に入れながら見ていく。たまに、蹴られて飛んでくるラウンドウルフも把握しながら、キングと適度に距離を保ちながら離れない。
かわす! かわす! かわす! かわす!
気づいたら、あんなにいっぱいいたラウンドウルフ達が撤退しはじめた。約半数がキングに倒されているのだから当たり前といえば当たり前か。何なら撤退の指示が遅かったぐらいだ。
そうして、退いていくラウンドウルフを後目に、一体の大きなラウンドウルフが僕の前に立ちはだかった。これは例のボスだね。ケジメなのだろうか? 多くの部下を失った責任とかあるのかもしれない……。
いや、僕、攻撃出来ないから、来られても倒してあげられないんだけどね……。
ブルルっ!
「なんだよ。相手してやれってこと?」
空気を読まないキングさんにしては珍しく、ボスウルフに対して戦ってやれと言っているように思える。しょうがない。ボスの男気に応えて一撃食らわしてやろう。
ブルルルルっ!!!
「な、なんだよ。拳銃はダメなの?」
何となく拳銃はダメかなとは思ってはいたけど、予想通りよくないらしい。キングも、お前っ、嘘だろっ!? って表情をしていた。本当にゴーレムのくせに表情豊かな奴だ。
まさか、ラウンドウルフと拳で戦うことになるとは思わなかったよ。残りの魔力を両脚と右腕に強く放出して覆い馴染ませていく。ボスのその覚悟に対して、せめて一瞬で決めてあげよう。
「多分、これが今出せる僕の最大攻撃。名を付けるなら、神の右手かな」
抵抗はあるけど、ボスウルフの気持ちに精一杯応えてあげようと思う。素早く回り込んで脳天を一撃で仕留める。この経験をくれたことに感謝を。
「おおおっ、い、意外とかわせてる!?」
まるで、いつもの自分ではないような身体の軽さ。いつだったか風の魔法でスピードを上げてもらった時のような感覚が、ずっと続いている感じ。スピードに定評のあるラウンドウルフを翻弄できる身軽さ。こ、これはすごいかもしれない。
かわす! かわす! かわす! かわす! 全部かわせる! ラウンドウルフの動きが先読みできている。右前足を強く踏み込んでいるから、一呼吸おいてから半身で避ける。もっと細かく見れば、踏み込む前の筋肉の動き、視線からわかる行動予測。ラウンドウルフがどのように僕を追いつめようとしているのかが見えてくる。
昨日の夜からずっと魔力で覆っていたことで、最小限に効率よく魔力を張り巡らせる感覚が自然と出来ている。魔力の消費状況としては悪くない。少し余裕が出てきたかもしれない。
「キングー! 今日の訓練は、何時までなの?」
少し離れたところでのんびりと昼寝でもしかねない雰囲気のキングさん。
そんなこと、お前に言うわけねーだろボケ的な表情をしてから、おもむろに草を食べ始めたキングさん。お前、ゴーレムなのに草とか、馬の姿に引っ張られ過ぎだよ。
「あのやろー。とりあえず時間無制限として、僕の持っている魔力回復ポーションは五本のみ。二時間に一本ペースでなんとか終日持たせられるかってとこか。っと、次は、団体さんね」
ラウンドウルフは得意とする連携攻撃で来た。上下左右から四匹が連携して襲い掛かろうとしている。
大丈夫、見えている。ギリギリまで引き付けてから、瞬時にたった二歩だけ下がる。それだけで、ラウンドウルフは互いにぶつかり合ってしまう。
もっと、視野を広げられる。
群れ全体の連携がどのように統率されているのかを探れる。僕を囲うようにして逃げ場をなくしながら、ゆっくりとその距離を詰めてきている。見つけた!
「あー、あいつが指示を出しているのか。群れのボスなのかな?」
僕の正面後方に立ち、一際大きなサイズで対峙する個体がいる。どうやらこの群れのボスっぽい。先程から、細かなサインのようなものを送って指示を出しているのがわかる。
それにしても、かわせてはいるが、これではきりがない。僕は攻撃を封じられているので、ラウンドウルフは次から次へと増える一方。これではきりがない。
少しでも、この狼達を減らすことは出来ないだろうか。次から次へと丘の上には新しい群れが現れてるし。
「……よし、ここはキングを巻き込もう。僕が攻撃出来ないのなら、キングに数を減らさせればいい」
勢いをつけてラウンドウルフの群れを飛び越えると、呑気に草を食べているキングへと走っていく。当然、連れられるようにラウンドウルフ達もやってくるわけで。キングが顔を上げた時には、新しい群れも加わり、数百のラウンドウルフに囲まれた状態だった。
プルルっ!?
「ここからは、お互いに頑張ろうかキング。僕は君から離れずにラウンドウルフの攻撃をかわし続けるよ。キングはこいつらを減らすか、逃げるかの二つの選択肢しかない。もちろん、逃げた場合は、僕もラウンドウルフも君についていくだけなんだけどね」
心底嫌そうな顔をしてみせるキング。お前、ゴーレムのくせに表情豊かだよね。
さすがのキングさんも、この大量のラウンドウルフの壁を超えていくにはそれなりに時間が掛かる。僕は付かず離れず側にいればいい。
ブルっ! ブルっルルル、ヒッヒーン!!
「そうだよ。諦めてラウンドウルフに攻撃すればいい」
直線的な攻撃手段しかないかと思われたキングさんだが、意外に小回りを利かせながら、角で突き刺し、前脚で踏み抜き、後脚で飛ばしていく。僕はキングの後方やや斜めの位置をキープしながらかわし続ける。
「それにしても、キングの討伐の仕方が粗すぎて酷い……」
好きあらば、後ろ脚で僕の方にラウンドウルフを飛ばしてくるキングさん。前脚で頭を踏み抜いた死体、角で脇腹を突き刺された死体。すぐに目の前の草原が血塗れの惨状となっている。
血や死体で足が滑りやすくなってしまい、より足元に負担が掛かる。もっと、集中しなければ、足を滑らしたところを狙われてしまうだろう。全体の流れを俯瞰しながら、目の前の足場や環境も頭に入れながら見ていく。たまに、蹴られて飛んでくるラウンドウルフも把握しながら、キングと適度に距離を保ちながら離れない。
かわす! かわす! かわす! かわす!
気づいたら、あんなにいっぱいいたラウンドウルフ達が撤退しはじめた。約半数がキングに倒されているのだから当たり前といえば当たり前か。何なら撤退の指示が遅かったぐらいだ。
そうして、退いていくラウンドウルフを後目に、一体の大きなラウンドウルフが僕の前に立ちはだかった。これは例のボスだね。ケジメなのだろうか? 多くの部下を失った責任とかあるのかもしれない……。
いや、僕、攻撃出来ないから、来られても倒してあげられないんだけどね……。
ブルルっ!
「なんだよ。相手してやれってこと?」
空気を読まないキングさんにしては珍しく、ボスウルフに対して戦ってやれと言っているように思える。しょうがない。ボスの男気に応えて一撃食らわしてやろう。
ブルルルルっ!!!
「な、なんだよ。拳銃はダメなの?」
何となく拳銃はダメかなとは思ってはいたけど、予想通りよくないらしい。キングも、お前っ、嘘だろっ!? って表情をしていた。本当にゴーレムのくせに表情豊かな奴だ。
まさか、ラウンドウルフと拳で戦うことになるとは思わなかったよ。残りの魔力を両脚と右腕に強く放出して覆い馴染ませていく。ボスのその覚悟に対して、せめて一瞬で決めてあげよう。
「多分、これが今出せる僕の最大攻撃。名を付けるなら、神の右手かな」
抵抗はあるけど、ボスウルフの気持ちに精一杯応えてあげようと思う。素早く回り込んで脳天を一撃で仕留める。この経験をくれたことに感謝を。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる