僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑

つちねこ

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53話 最終訓練2

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 驚きはすぐにあった。そもそも、キングの振り落としかねないスピードにも、問題なく対応できていたことからして普通ではない。

「おおおっ、い、意外とかわせてる!?」

 まるで、いつもの自分ではないような身体の軽さ。いつだったか風の魔法でスピードを上げてもらった時のような感覚が、ずっと続いている感じ。スピードに定評のあるラウンドウルフを翻弄できる身軽さ。こ、これはすごいかもしれない。

 かわす! かわす! かわす! かわす! 全部かわせる! ラウンドウルフの動きが先読みできている。右前足を強く踏み込んでいるから、一呼吸おいてから半身で避ける。もっと細かく見れば、踏み込む前の筋肉の動き、視線からわかる行動予測。ラウンドウルフがどのように僕を追いつめようとしているのかが見えてくる。

 昨日の夜からずっと魔力で覆っていたことで、最小限に効率よく魔力を張り巡らせる感覚が自然と出来ている。魔力の消費状況としては悪くない。少し余裕が出てきたかもしれない。

「キングー! 今日の訓練は、何時までなの?」

 少し離れたところでのんびりと昼寝でもしかねない雰囲気のキングさん。

 そんなこと、お前に言うわけねーだろボケ的な表情をしてから、おもむろに草を食べ始めたキングさん。お前、ゴーレムなのに草とか、馬の姿に引っ張られ過ぎだよ。

「あのやろー。とりあえず時間無制限として、僕の持っている魔力回復ポーションは五本のみ。二時間に一本ペースでなんとか終日持たせられるかってとこか。っと、次は、団体さんね」

 ラウンドウルフは得意とする連携攻撃で来た。上下左右から四匹が連携して襲い掛かろうとしている。

 大丈夫、見えている。ギリギリまで引き付けてから、瞬時にたった二歩だけ下がる。それだけで、ラウンドウルフは互いにぶつかり合ってしまう。

 もっと、視野を広げられる。

 群れ全体の連携がどのように統率されているのかを探れる。僕を囲うようにして逃げ場をなくしながら、ゆっくりとその距離を詰めてきている。見つけた!

「あー、あいつが指示を出しているのか。群れのボスなのかな?」

 僕の正面後方に立ち、一際大きなサイズで対峙する個体がいる。どうやらこの群れのボスっぽい。先程から、細かなサインのようなものを送って指示を出しているのがわかる。


 それにしても、かわせてはいるが、これではきりがない。僕は攻撃を封じられているので、ラウンドウルフは次から次へと増える一方。これではきりがない。

 少しでも、この狼達を減らすことは出来ないだろうか。次から次へと丘の上には新しい群れが現れてるし。

「……よし、ここはキングを巻き込もう。僕が攻撃出来ないのなら、キングに数を減らさせればいい」

 勢いをつけてラウンドウルフの群れを飛び越えると、呑気に草を食べているキングへと走っていく。当然、連れられるようにラウンドウルフ達もやってくるわけで。キングが顔を上げた時には、新しい群れも加わり、数百のラウンドウルフに囲まれた状態だった。

 プルルっ!?

「ここからは、お互いに頑張ろうかキング。僕は君から離れずにラウンドウルフの攻撃をかわし続けるよ。キングはこいつらを減らすか、逃げるかの二つの選択肢しかない。もちろん、逃げた場合は、僕もラウンドウルフも君についていくだけなんだけどね」

 心底嫌そうな顔をしてみせるキング。お前、ゴーレムのくせに表情豊かだよね。

 さすがのキングさんも、この大量のラウンドウルフの壁を超えていくにはそれなりに時間が掛かる。僕は付かず離れず側にいればいい。

 ブルっ! ブルっルルル、ヒッヒーン!!

「そうだよ。諦めてラウンドウルフに攻撃すればいい」

 直線的な攻撃手段しかないかと思われたキングさんだが、意外に小回りを利かせながら、角で突き刺し、前脚で踏み抜き、後脚で飛ばしていく。僕はキングの後方やや斜めの位置をキープしながらかわし続ける。

「それにしても、キングの討伐の仕方が粗すぎて酷い……」

 好きあらば、後ろ脚で僕の方にラウンドウルフを飛ばしてくるキングさん。前脚で頭を踏み抜いた死体、角で脇腹を突き刺された死体。すぐに目の前の草原が血塗れの惨状となっている。

 血や死体で足が滑りやすくなってしまい、より足元に負担が掛かる。もっと、集中しなければ、足を滑らしたところを狙われてしまうだろう。全体の流れを俯瞰しながら、目の前の足場や環境も頭に入れながら見ていく。たまに、蹴られて飛んでくるラウンドウルフも把握しながら、キングと適度に距離を保ちながら離れない。

 かわす! かわす! かわす! かわす!

 気づいたら、あんなにいっぱいいたラウンドウルフ達が撤退しはじめた。約半数がキングに倒されているのだから当たり前といえば当たり前か。何なら撤退の指示が遅かったぐらいだ。

 そうして、退いていくラウンドウルフを後目に、一体の大きなラウンドウルフが僕の前に立ちはだかった。これは例のボスだね。ケジメなのだろうか? 多くの部下を失った責任とかあるのかもしれない……。

 いや、僕、攻撃出来ないから、来られても倒してあげられないんだけどね……。

 ブルルっ!

「なんだよ。相手してやれってこと?」

 空気を読まないキングさんにしては珍しく、ボスウルフに対して戦ってやれと言っているように思える。しょうがない。ボスの男気に応えて一撃食らわしてやろう。

 ブルルルルっ!!!

「な、なんだよ。拳銃はダメなの?」

 何となく拳銃はダメかなとは思ってはいたけど、予想通りよくないらしい。キングも、お前っ、嘘だろっ!? って表情をしていた。本当にゴーレムのくせに表情豊かな奴だ。

 まさか、ラウンドウルフと拳で戦うことになるとは思わなかったよ。残りの魔力を両脚と右腕に強く放出して覆い馴染ませていく。ボスのその覚悟に対して、せめて一瞬で決めてあげよう。

「多分、これが今出せる僕の最大攻撃。名を付けるなら、神の右手かな」

 抵抗はあるけど、ボスウルフの気持ちに精一杯応えてあげようと思う。素早く回り込んで脳天を一撃で仕留める。この経験をくれたことに感謝を。
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