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十五話目 ワイルドベア
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黒みがかった濃い茶色の毛並みは、とても健康的にツヤツヤしており、そのでっぷりと育った大きな巨体を見るからに、間違いなくベストコンディションと言ってもいいだろう。
引き裂かれたら一溜りもない鋭く光る大きな爪。目は紅く光り、僕たちを完全にロックオンしている。
ワイルドベアから見たら僕たちなんて、ただのお昼ごはんに過ぎないのかもしれない。あー、いや僕だけか……。
「レムちゃん。あ、あれは、この森の主か何かかな……」
「レックス、おしゃべりをしている余裕はなさそうだぞ!」
そう、野生のモンスターは、こちらの話など気に掛けず、遭遇、即、美味しく頂くのだろう。ワイルドベアはスピード重視の四足体勢をとると、真っ直ぐに僕に向かって突進してきた。
「うぉっ!?」
後ろを振り返ると、既にレムちゃんは木の上に避難して、様子見を決めこんでいる。新人魔王に対しての信頼が厚すぎる。
「ふぅー、……落ち着け」
とんでもない巨体のくせに、ステップを刻み大きな木を避けながらも弾けるようにやって来る。
狙いを定めている余裕はない。僕にできることは、もの凄いスピードで近づいてくるワイルドベアに魔法を当てること。失敗した時は流石にレムちゃんが助けてくれる……よね? と、とにかく、当てる! 当てるんだ。集中、とにかく集中するんだ。
「うぉぉぉ、ドレイン!」
「お、おいっ、な、なんだよ、そのドレインは!」
レムちゃんが驚くのも無理はない。何しろ魔法を放った僕の方が驚いている。とにかく、ワイルドベアに当てることだけを考えていたからなのか、僕の放ったドレインはさっきまでの大きさではなく、ワイルドベアを包み込む程、どデカいサイズの魔法となって襲い掛かっていた。
グモオォォォォォォォォ!
もちろん、そんな大きさのドレインを避けることなど出来るはずもなく、ワイルドベアは魔法が当たった瞬間にプチッと消滅してしまった。あれっ、ドレインって敵を消滅させちゃう魔法だったっけ?
「うわぁぁ……た、倒しちゃったんだよね?」
「倒しちゃった、じゃないよレックス。な、何だよ、今のドレイン。あんなサイズのドレイン、俺も見たことないぞ。ほ、本当に、ただのドレインなんだろうな?」
「う、うん。そもそも魔法はこの一つしか覚えていないし」
そして、目の前でプチッと消えたワイルドベアからとんでもないエネルギー体が現れると、僕の胸に飛び込んできた。
「そ、その感じは、確かにドレインっぽいな……。つか、魔力が元通りになってんじゃないか?」
「ほ、本当だ……。ドレインって凄い魔法なんだね」
「いや、ち、違うだろ……」
そして、魔力の回復とともに僕の体が熱くなっていく。どうやら、一気にレベルが七まで上がってしまったようだ。魔王って、レベルアップが早いのかな……。
「レムちゃん、どうやら今のレベルアップで新しく魔法を覚えたみたいなんだ」
「マ、マジか……成長が早すぎないか。つ、次は何を覚えたんだ? ダークヘイズか、それともイービルミストか?」
「えーっとね、どうやらイービルミストみたい」
イービルミスト。
魔王ならではともいえる毒属性の暗黒魔法だ。レムちゃん曰く、範囲攻撃魔法で、毒による攻撃プラス、ランダムで状態異常を叩き込めるという、それはとても使い勝手の良い魔法だそうだ。相手が強い場合など、まず最初に選択される暗黒魔法らしい。そりゃまぁ、敵を毒の状態異常にしてしまえば戦いやすくなるだろうからね。
「ただ、食料を得るためにその魔法は使ってはダメだからな。例えモンスターを倒したとしても、血や肉に毒は残るんだ。とても食べられたものではない」
せっかく覚えた範囲魔法だけど、食料を得るためには使えない魔法のようだ。とはいえ、自分の命を守るためには、例え食材として食べられなくなるとしても、躊躇せずにイービルミストを使おうと思う。背に腹はかえられぬってやつだね。命は大事に、安全マージンはしっかりとっていきたい。
「あと室内では使わない方がいい。毒のミストが残って、自分はもちろん味方にもダメージが入る時があるんだ」
なかなか使い所に制限のある暗黒魔法だ。言われてみればごもっともだけど、ドレインの便利さと比べると少し弱く感じてしまうのは何でだろう。いや、範囲攻撃魔法はありがたいし、複数に囲まれても冷静に対処できるものだ。これからじっくり使い方を学んでいこうと思う。
「と、ところでよ。ド、ドレインについてだが、ひょっとして小さいのも撃てるのか?」
「どうだろう。でも、何となくイメージすれば出来そうな気はするかな」
「た、試しに、俺に向かってやってみてくれ。い、いいか、絶対に全力でやるなよ」
レムちゃんが何を考えているのかはわからないけど、魔法のエキスパートとして何かしら考えがあってのことなのだろう。
「レムちゃん、わかったよ。とにかく、一番小さいサイズでドレインを撃ってみるね」
「お、おう。こ、来い!」
レムちゃんの足が微妙に震えているように見える。僕なんかの魔法を恐れる必要はないと思うんだけど、別の何かがあるということだろう。
まぁ、僕に細かいことはわからない。言われた通りにやってみようじゃないか。イメージは手の爪ほどの大きさにして魔力も極めて小さく。
「ドレイン」
引き裂かれたら一溜りもない鋭く光る大きな爪。目は紅く光り、僕たちを完全にロックオンしている。
ワイルドベアから見たら僕たちなんて、ただのお昼ごはんに過ぎないのかもしれない。あー、いや僕だけか……。
「レムちゃん。あ、あれは、この森の主か何かかな……」
「レックス、おしゃべりをしている余裕はなさそうだぞ!」
そう、野生のモンスターは、こちらの話など気に掛けず、遭遇、即、美味しく頂くのだろう。ワイルドベアはスピード重視の四足体勢をとると、真っ直ぐに僕に向かって突進してきた。
「うぉっ!?」
後ろを振り返ると、既にレムちゃんは木の上に避難して、様子見を決めこんでいる。新人魔王に対しての信頼が厚すぎる。
「ふぅー、……落ち着け」
とんでもない巨体のくせに、ステップを刻み大きな木を避けながらも弾けるようにやって来る。
狙いを定めている余裕はない。僕にできることは、もの凄いスピードで近づいてくるワイルドベアに魔法を当てること。失敗した時は流石にレムちゃんが助けてくれる……よね? と、とにかく、当てる! 当てるんだ。集中、とにかく集中するんだ。
「うぉぉぉ、ドレイン!」
「お、おいっ、な、なんだよ、そのドレインは!」
レムちゃんが驚くのも無理はない。何しろ魔法を放った僕の方が驚いている。とにかく、ワイルドベアに当てることだけを考えていたからなのか、僕の放ったドレインはさっきまでの大きさではなく、ワイルドベアを包み込む程、どデカいサイズの魔法となって襲い掛かっていた。
グモオォォォォォォォォ!
もちろん、そんな大きさのドレインを避けることなど出来るはずもなく、ワイルドベアは魔法が当たった瞬間にプチッと消滅してしまった。あれっ、ドレインって敵を消滅させちゃう魔法だったっけ?
「うわぁぁ……た、倒しちゃったんだよね?」
「倒しちゃった、じゃないよレックス。な、何だよ、今のドレイン。あんなサイズのドレイン、俺も見たことないぞ。ほ、本当に、ただのドレインなんだろうな?」
「う、うん。そもそも魔法はこの一つしか覚えていないし」
そして、目の前でプチッと消えたワイルドベアからとんでもないエネルギー体が現れると、僕の胸に飛び込んできた。
「そ、その感じは、確かにドレインっぽいな……。つか、魔力が元通りになってんじゃないか?」
「ほ、本当だ……。ドレインって凄い魔法なんだね」
「いや、ち、違うだろ……」
そして、魔力の回復とともに僕の体が熱くなっていく。どうやら、一気にレベルが七まで上がってしまったようだ。魔王って、レベルアップが早いのかな……。
「レムちゃん、どうやら今のレベルアップで新しく魔法を覚えたみたいなんだ」
「マ、マジか……成長が早すぎないか。つ、次は何を覚えたんだ? ダークヘイズか、それともイービルミストか?」
「えーっとね、どうやらイービルミストみたい」
イービルミスト。
魔王ならではともいえる毒属性の暗黒魔法だ。レムちゃん曰く、範囲攻撃魔法で、毒による攻撃プラス、ランダムで状態異常を叩き込めるという、それはとても使い勝手の良い魔法だそうだ。相手が強い場合など、まず最初に選択される暗黒魔法らしい。そりゃまぁ、敵を毒の状態異常にしてしまえば戦いやすくなるだろうからね。
「ただ、食料を得るためにその魔法は使ってはダメだからな。例えモンスターを倒したとしても、血や肉に毒は残るんだ。とても食べられたものではない」
せっかく覚えた範囲魔法だけど、食料を得るためには使えない魔法のようだ。とはいえ、自分の命を守るためには、例え食材として食べられなくなるとしても、躊躇せずにイービルミストを使おうと思う。背に腹はかえられぬってやつだね。命は大事に、安全マージンはしっかりとっていきたい。
「あと室内では使わない方がいい。毒のミストが残って、自分はもちろん味方にもダメージが入る時があるんだ」
なかなか使い所に制限のある暗黒魔法だ。言われてみればごもっともだけど、ドレインの便利さと比べると少し弱く感じてしまうのは何でだろう。いや、範囲攻撃魔法はありがたいし、複数に囲まれても冷静に対処できるものだ。これからじっくり使い方を学んでいこうと思う。
「と、ところでよ。ド、ドレインについてだが、ひょっとして小さいのも撃てるのか?」
「どうだろう。でも、何となくイメージすれば出来そうな気はするかな」
「た、試しに、俺に向かってやってみてくれ。い、いいか、絶対に全力でやるなよ」
レムちゃんが何を考えているのかはわからないけど、魔法のエキスパートとして何かしら考えがあってのことなのだろう。
「レムちゃん、わかったよ。とにかく、一番小さいサイズでドレインを撃ってみるね」
「お、おう。こ、来い!」
レムちゃんの足が微妙に震えているように見える。僕なんかの魔法を恐れる必要はないと思うんだけど、別の何かがあるということだろう。
まぁ、僕に細かいことはわからない。言われた通りにやってみようじゃないか。イメージは手の爪ほどの大きさにして魔力も極めて小さく。
「ドレイン」
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