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三十四話目 あれから一年
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「シャドウバインド、アンド、ブラッディ・インク」
「うおおー! し、しまった!」
アイミーとシュナちゃんの猛攻に気をとられている間に、まんまとレムちゃんのシャドウバインドで拘束され、ブラッディ・インクで視界まで奪われてしまった。
「行けっ、ファムファタル!」
あっ、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
「ぬぉああああああ!」
レムちゃんの魔法で足を押さえられた状態で、容赦なく大量のレイピアが飛んで来る。しかも後ろからはパワーをため込んだアイミーがいつでも襲い掛かれるように待機しているのはわかっている。視界を塞がれる前に、我慢できなさそうに尻尾をブンブン振り、目がギランって輝いていたのは確認済みだ。バレバレだからもう少し、隠した方がいいと思うんだよね。
猛スピードで飛んでくるレイピアの魔力を感じながら最小限で躱し、また弾きながら、足のバインドを身体強化魔法で強引に引きちぎる。
そろそろかな……後方から狙いすました一撃が飛んで来るのは。
「獣王爪撃破にゃああ!!」
尋常ではないスピードだけど、あらかじめ予想していれば避けられないこともない。あと、必殺技を叫びながら飛び込むのは、避けてくださいと言っているようなものだよアイミー。
僕は、そのまま地面に突っ込んでしまったアイミーの首を掴むと、次の魔法を撃とうと準備していたレムちゃんに投げつける。
「ふにゃああああ」
「あわ、あわわ……あ、あうぅぅ……」
目を回しているアイミーがレムちゃんにぶつかって両者ノックダウン。これで、残るはシュナちゃん一人だ。
「奥義、千剣乱舞」
魔力ステータスが大幅にアップしたシュナちゃんの最大奥義。名前の通り、千のレイピアが僕の周りに出現する。視界全てがレイピアに変わっていく光景は荘厳だ。もちろん、本体のファムファタルを僕に向けたシュナちゃんも後から走り出している。
全方向から飛んでくるレイピアを弾きながらシュナちゃんの動きからも目を離さない。そして、このレイピアは掠っただけでも体力を持っていかれるのでしっかり避ける。
「ちっ! 流石だな」
集中して、最短ルートで抜けていく。身体強化魔法は僕の動き、剣を振るうタイミングに合わせてスピードとパワーを細かく配分しながら最適な身体の動き、体勢を補助している。
「ようやく、視界も元に戻ってきたかな」
「ふぅー、行くぞ、レックス。奥義、隼回転突き!」
魔力を最大限にまで高めたファムファタルによる刺突による連撃。シュナちゃんの奥義の中でも一番の攻撃力を誇る奥義だ。
何度も受けては吹き飛ばされた記憶が甦る。
でも、今の僕ならやれるっ!
「はぁぁっ! 」
真っ正面から踏み込み、切っ先を寸でのところでかわしてみせる。しかしながら、これで終わりではない。連撃はさらに繰り返し目の前に現れる。
あと一歩、いや、あと半歩でいい。
異常とも思えるスピードの中で、正確な選択をとり続ける。右足の踏み込み、次は左足を押し込む。これで終わりだ。
「ま、参った……」
僕の剣は、魔剣ファムファタルを持つシュナちゃんの右手にギリギリ当たるところで止められていた。
「お疲れさま」
「放出系魔法を無しにしても、勝てなくなってしまったな。剣に迷いもなかった。もう私たちに教えることはないのかもしれぬな」
「そんなことないよ。僕にはみんなと比べて圧倒的に経験値が足りないんだ。まだまだ上を目指さなければ」
「四天王三人を相手に、ハンディを抱えたまま勝っておいてよく言う」
呆れ顔のシュナちゃんだけど、何となく嬉しそうに聞こえるのは弟子の成長を喜んでくれているのだろう。
「レックス様、シュナイダー様、少しよろしいでしょうか」
いつの間にか、獣人族の隠密部隊を束ねてくれている鳥人族のスリーザーがいることに、驚きを隠しながら平然を装う。この人いつも突然現われるんだよね。
「ど、どうしたのかな?」
「レックス様、ブンボッパ村を調査していた者から報告が入っております」
「とうとうエリオが出発したんだね」
エリオも村で勇者ドゥマーニ様、剣聖であるギベオンおじさんとの特訓が終わったということだろう。
「はい、イーリアの街に向いパーティを組んだのち、王都へ行きお披露目になるとのことです」
「スリーザー、魔王軍の動きはどう?」
「はい、戦力の報告はこれまでとそう変わっておりません。ゴブリンキングとオークキングを新たな四天王に迎え入れたとのことです。それから、気になることが一つ……」
「何かな?」
「王都周辺の森に、魔王軍のゴブリン部隊が集結し始めているそうです」
このタイミングでゴブリン部隊を王都に。魔王軍も勇者が王都から出発するということを知っているということか。
「魔王も早い段階で勇者を叩いておきたいのだろう。奴らも戦力が大幅に落ちているだけに、なりふり構っていられないということか」
「それでも、王都って一番守りが固そうだと思うんだけど、ゴブリンが大勢いたところでどうにか出来るのかな」
「ゴブリン族は集団になると獰猛になる習性がある。あと、ゴブリンキングのユニークスキルが厄介なのだ」
「ユニークスキル?」
「悪食と従属というゴブリンキングだけが持つスキルがあるのだが、これがなかなかにエグい」
悪食は敵味方関係なく食べた分、自身のステータスがアップする。そして、従属はゴブリンキングのステータスに応じて配下のゴブリンの戦闘力を上昇させ、その対象人数も増えていくスキルだそうだ。
つまり、食べれば食べるだけゴブリンキングも配下のゴブリンたちも強くなっていくという、恐ろしいスキルらしい。
もちろん、そんな都合のいいスキルでもなく、悪食は発動してから十日間でその効力を失い、しばらくの間使用出来なくなるらしい。
「それで、レックスはどう動くのだ?」
「もちろん、王都へ行くよ」
「では、私もお供しよう」
「でも、シュナちゃんはエルフの里からあまり離れない方がいいんじゃないかな。もしものこともあるし」
「問題ない。エルフの民もレックス殿と共に戦う気持ちを固めている。それに、何か動きがあればスリーザーが教えてくれるだろう?」
「もちろんでございます」
「念の為、アイミーにエルフの里の防御を獣人族にもお願いしてもらおう。それじゃあ、準備をしたら王都へ」
「うおおー! し、しまった!」
アイミーとシュナちゃんの猛攻に気をとられている間に、まんまとレムちゃんのシャドウバインドで拘束され、ブラッディ・インクで視界まで奪われてしまった。
「行けっ、ファムファタル!」
あっ、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
「ぬぉああああああ!」
レムちゃんの魔法で足を押さえられた状態で、容赦なく大量のレイピアが飛んで来る。しかも後ろからはパワーをため込んだアイミーがいつでも襲い掛かれるように待機しているのはわかっている。視界を塞がれる前に、我慢できなさそうに尻尾をブンブン振り、目がギランって輝いていたのは確認済みだ。バレバレだからもう少し、隠した方がいいと思うんだよね。
猛スピードで飛んでくるレイピアの魔力を感じながら最小限で躱し、また弾きながら、足のバインドを身体強化魔法で強引に引きちぎる。
そろそろかな……後方から狙いすました一撃が飛んで来るのは。
「獣王爪撃破にゃああ!!」
尋常ではないスピードだけど、あらかじめ予想していれば避けられないこともない。あと、必殺技を叫びながら飛び込むのは、避けてくださいと言っているようなものだよアイミー。
僕は、そのまま地面に突っ込んでしまったアイミーの首を掴むと、次の魔法を撃とうと準備していたレムちゃんに投げつける。
「ふにゃああああ」
「あわ、あわわ……あ、あうぅぅ……」
目を回しているアイミーがレムちゃんにぶつかって両者ノックダウン。これで、残るはシュナちゃん一人だ。
「奥義、千剣乱舞」
魔力ステータスが大幅にアップしたシュナちゃんの最大奥義。名前の通り、千のレイピアが僕の周りに出現する。視界全てがレイピアに変わっていく光景は荘厳だ。もちろん、本体のファムファタルを僕に向けたシュナちゃんも後から走り出している。
全方向から飛んでくるレイピアを弾きながらシュナちゃんの動きからも目を離さない。そして、このレイピアは掠っただけでも体力を持っていかれるのでしっかり避ける。
「ちっ! 流石だな」
集中して、最短ルートで抜けていく。身体強化魔法は僕の動き、剣を振るうタイミングに合わせてスピードとパワーを細かく配分しながら最適な身体の動き、体勢を補助している。
「ようやく、視界も元に戻ってきたかな」
「ふぅー、行くぞ、レックス。奥義、隼回転突き!」
魔力を最大限にまで高めたファムファタルによる刺突による連撃。シュナちゃんの奥義の中でも一番の攻撃力を誇る奥義だ。
何度も受けては吹き飛ばされた記憶が甦る。
でも、今の僕ならやれるっ!
「はぁぁっ! 」
真っ正面から踏み込み、切っ先を寸でのところでかわしてみせる。しかしながら、これで終わりではない。連撃はさらに繰り返し目の前に現れる。
あと一歩、いや、あと半歩でいい。
異常とも思えるスピードの中で、正確な選択をとり続ける。右足の踏み込み、次は左足を押し込む。これで終わりだ。
「ま、参った……」
僕の剣は、魔剣ファムファタルを持つシュナちゃんの右手にギリギリ当たるところで止められていた。
「お疲れさま」
「放出系魔法を無しにしても、勝てなくなってしまったな。剣に迷いもなかった。もう私たちに教えることはないのかもしれぬな」
「そんなことないよ。僕にはみんなと比べて圧倒的に経験値が足りないんだ。まだまだ上を目指さなければ」
「四天王三人を相手に、ハンディを抱えたまま勝っておいてよく言う」
呆れ顔のシュナちゃんだけど、何となく嬉しそうに聞こえるのは弟子の成長を喜んでくれているのだろう。
「レックス様、シュナイダー様、少しよろしいでしょうか」
いつの間にか、獣人族の隠密部隊を束ねてくれている鳥人族のスリーザーがいることに、驚きを隠しながら平然を装う。この人いつも突然現われるんだよね。
「ど、どうしたのかな?」
「レックス様、ブンボッパ村を調査していた者から報告が入っております」
「とうとうエリオが出発したんだね」
エリオも村で勇者ドゥマーニ様、剣聖であるギベオンおじさんとの特訓が終わったということだろう。
「はい、イーリアの街に向いパーティを組んだのち、王都へ行きお披露目になるとのことです」
「スリーザー、魔王軍の動きはどう?」
「はい、戦力の報告はこれまでとそう変わっておりません。ゴブリンキングとオークキングを新たな四天王に迎え入れたとのことです。それから、気になることが一つ……」
「何かな?」
「王都周辺の森に、魔王軍のゴブリン部隊が集結し始めているそうです」
このタイミングでゴブリン部隊を王都に。魔王軍も勇者が王都から出発するということを知っているということか。
「魔王も早い段階で勇者を叩いておきたいのだろう。奴らも戦力が大幅に落ちているだけに、なりふり構っていられないということか」
「それでも、王都って一番守りが固そうだと思うんだけど、ゴブリンが大勢いたところでどうにか出来るのかな」
「ゴブリン族は集団になると獰猛になる習性がある。あと、ゴブリンキングのユニークスキルが厄介なのだ」
「ユニークスキル?」
「悪食と従属というゴブリンキングだけが持つスキルがあるのだが、これがなかなかにエグい」
悪食は敵味方関係なく食べた分、自身のステータスがアップする。そして、従属はゴブリンキングのステータスに応じて配下のゴブリンの戦闘力を上昇させ、その対象人数も増えていくスキルだそうだ。
つまり、食べれば食べるだけゴブリンキングも配下のゴブリンたちも強くなっていくという、恐ろしいスキルらしい。
もちろん、そんな都合のいいスキルでもなく、悪食は発動してから十日間でその効力を失い、しばらくの間使用出来なくなるらしい。
「それで、レックスはどう動くのだ?」
「もちろん、王都へ行くよ」
「では、私もお供しよう」
「でも、シュナちゃんはエルフの里からあまり離れない方がいいんじゃないかな。もしものこともあるし」
「問題ない。エルフの民もレックス殿と共に戦う気持ちを固めている。それに、何か動きがあればスリーザーが教えてくれるだろう?」
「もちろんでございます」
「念の為、アイミーにエルフの里の防御を獣人族にもお願いしてもらおう。それじゃあ、準備をしたら王都へ」
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