不遇スキルの錬金術師、辺境を開拓する 貴族の三男に転生したので、追い出されないように領地経営してみた

つちねこ

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4巻

4-1

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 1 精霊せいれいのお引っ越し



 貴族の三男坊として生まれた僕、クロウ・エルドラド。スキル授与の儀式の直前、前世の日本人として生きていた時の記憶を思い出したことで魔法の世界にわくわくしていたのに――授かったスキルはこの世界では不遇ふぐうとされる錬金術れんきんじゅつだった。
 せっかく貴族として生まれたというのにこの不遇スキルでは表舞台に立つことすら許されず、僕の貴族としての道はあっさりと途絶とだえてしまう。
 それでも錬金術の可能性を信じ、仲間や家族の協力のもと辺境の地に一人の領主として赴任ふにんすることになった。
 そんな感じで困難に見舞われつつも、ようやく軌道に乗り始めた辺境の地――だというのにトラブルの種が尽きることがない。
 魔の森からやってくる魔物の大群や、村にみついてしまった大きなドラゴン。そして村の近くにはダンジョンまで見つかってしまう始末。辺境の地でのんびり楽しいスローライフを満喫まんきつしようとしていたのに、僕の心が休まる暇はないらしい。
 さらには、ダンジョンの中に拠点を造り上げ、ようやく落ち着いてきたと思った矢先に――今度は火の精霊せいれいが暴れているとの情報が舞い込んでくる。
 話し合いの末に精霊さんとの全面戦闘は回避し、騒動の原因となっていた火の精霊の女王を救出することに成功して事なきを得たものの、住む場所を失ってしまった精霊をネスト村へ案内することになってしまって……。


 ◇


 ようやくネスト村に戻ることになったのだけど、火の精霊の数は全部でなんと百体近くいた。
 この数と戦闘になっていたらと思うとゾッとする。一概に比べられないけど、魔力だけ見れば一般的な魔法使いよりも全然上だろう。
 まあ、小さいだけに耐久力とかなさそうだから物理的な攻撃とか水属性の攻撃には弱そうだけども。

「それにしても意外とまとまりがあるんだね。百体もいるから誰かしら反対でもするのかと思ってたよ」

 隣にいる火の精霊のアルニマルに話しかけると、普通のことであるかのように返答する。

「精霊はすべて龍脈りゅうみゃくから生まれているから考え方は基本的に同じ傾向にあるのですよ。人は好きではありませんけど、女王を助けてくれた恩は感じています」
「なるほどね」

 精霊と仲良くなるのはかなり大変そうだ。まあ、無理に交流する必要もない。近くで僕らを観察することで歩み寄ってくるかもしれないし、ずーっとそうならないかもしれない。
 今はこうやってアルニマルと会話ができているだけでも十分だ。問答無用もんどうむようで攻撃されないだけマシというもの。

「クロウ殿にお願いがあるのだが」
「ん、何?」
「住む場所として温かくて良いものが流れている所を用意してもらうことになったのに申し訳ないのだが、ドワーフの住むエリアとは分けてもらいたいのと、我々にも温泉とやらを造ってもらえないだろうか」
「うん、構わないよ。ていうか、精霊も温泉に入るの?」
「入ったことはないのだが、皆、興味を持っている。温泉も龍脈の影響を少なからず受けているはずだから、我らとは相性が良いと思うのですよ」
「そうなんだね。あ、あとさ、エリアを分けるとしても、ドワーフって酒癖悪くて騒がしいけど近くにいて平気かな?」

 アル中が原因で揉められてもこっちが困る。あいつら人数増えているからさらに騒がしくなっている可能性もあるからね。

「精霊魔法で遮音結界しゃおんけっかいを張らせてもらうので、そのあたりは気にしなくてもいい。酔っ払ってこちらのエリアに来るようなら攻撃させてもらうが」
「いや、攻撃はしないでもらえるかな。僕もなるべくそうならないように協力はするからさ」
「ふむ、わかった」

 精霊魔法で音を遮断できるのか。それならば酔っ払ったドワーフがいくら騒いでも問題はなさそう。あとは物理的に近寄れないように地形でも変更すればいい。
 あそこは小さな森だけど、火の精霊の体は小さいのでこれだけの数がいても窮屈きゅうくつに感じることもないかな。
 全員ふわふわと浮きながら特に荷物もなく体一つでやってくる。

「そういえば荷物ないんだね」
「精霊が必要なのは濃厚な魔力のある場所だけだ。人のように食事もとらないしな」
「食事いらないんだ」
「我々にとっては魔力がごはんであるので、そういう意味ではクロウ殿の魔力は美味おいしそうに見える」

 人を食料のように見ないでもらいたい。魔力に味があるのかわからないけど、精霊によっては好みとかあるのかもしれない。

「ちなみにネシ子の魔力は?」
「ちょっと暴力的な感じがするから人を選びそうですな。質はいいのでしょうけど……」

 ネスト村に棲みつくようになったネシ子について尋ねてみると、精霊さん的にはちょっとスパイスが効きすぎてる感じっぽい。ドラゴンだし確かにちょっと癖が強そうな気がしないでもない。

「それじゃあ、これからネスト村の村長やうちの執事しつじと顔合わせするからよろしくね」
「はい、よろしくお願いするであります」


 ◇


 その後、うちの執事のセバスとワグナーに火の精霊を紹介したり、村の子供たちが火の精霊を追いかけ回したり――精霊も子供を攻撃するわけにもいかずにピザがまに逃げ込んだりとわちゃわちゃしていた。
 セバスとワグナーはお互いにため息をつきながら、火の精霊が隣人となることを了解してくれた模様。
 というか、事情を説明したうえでここまで連れてきてしまったんだし、反対することなんかできないよね。精霊と全面戦争なんて誰も望まない。

「それじゃあ、錬金術師たちは森の方へ。精霊たちが住みやすいようにアルニマルの指示に従って手伝ってくれるかな。アルニマル、あとのことは頼むよ」

 ベテランの錬金術師たちにお願いすると、彼らは来たばかりの数名の錬金術師を引き連れて森の方へと向かっていってくれる。ついでに酔っ払ったドワーフ対策もよろしく頼みます。
 アルニマルが応える。

「はい。クロウ殿も女王のことくれぐれもお頼み申し上げます。住環境の整備が一段落しましたらすぐに戻ってまいります」
「うん、了解」

 救出してからまったく反応がない女王。アルニマルいわく、生命活動はしているということなので、現状は意識を失っている状態のはず。
 これから試す予定のAランクポーションが少しでも効き目があればいいのだけど。
 僕は、僕と同じ錬金術師のマリカに声をかける。

「マリカ、女王をアトリエに運ぶから手伝って」
「はい、クロウ様。ポーションを使うのですね!」

 この子、こういう実験的なこと大好き少女だからね。あくまでも治療なのだけど、顔がちょっと喜色きしょくがかっているのがこわい。

「変なことしちゃダメだよ」
「もちろんです! 事情は聞きました。龍脈を実際にこの目で見たかったのが本音ですけど、見れないものはしょうがないですものね。龍脈による精神支配を受けていたというなら毒消しポーションですか? でもこれだけ弱っているのを見るとまずは回復ポーションでしょうか」

 すっごく楽しそうにしているな……。
 あっ、そういえば、村の入口にマリカが錬成れんせいしたらしき新ギガントゴーレムがいたんだった。これは聞いておかねば。

「そういえば……ギガントゴーレム見たよ」
「はいっ! イメージ通りに錬成できました」
「そ、そう……なんだ」

 ピンク色のミニスカートを穿いたようなギガントゴーレムが畑の上で体育座りをして、とってもシュールだったんだけど、マリカはいったい何をイメージしたのだろうか。


 ◇


 女王を錬金術師のアトリエにあるベッドに運ぶと、すぐにAランクの回復ポーションを振りかけていく。
 状態はというと体は全体的に熱を帯びていて、時折苦しそうな表情をするようになった。今までの無表情な感じではなくなってきたのはいいことなのだと思いたい。
 アルニマルについていかず女王のもとに残った火の精霊たちが心配そうに女王のおでこに手を当てたり、僕の渡した回復ポーションを女王の口に含ませようと頑張っている。
 Aランクの効果は高く、すぐに女王の体力が回復していくのが目に見えてわかる。わかるのだけど、それは一瞬のことで再び体力を奪うように黒いもやのようなものがポーションの効果を打ち消してくる。

「これを先に取り除かないと回復させること自体ができなそうですね」

 精神的な症状の原因がこの黒い靄なのだろう。となると、体の中にあるこの黒い靄の影響を取り除きながら回復させる必要がある。

「Aランクポーションで確かに回復はしているけど、すぐに体の中に残っている龍脈の残骸ざんがいが悪さをしてくる感じか……」

 黒い靄を目掛けて毒消しポーションを振りかけてみる。すると、ほんの少しだけ靄を遠ざけられたものの、すぐに靄は元の場所に戻ってきてしまった。女王の顔がまた苦しそうにしているのを見ると僕としてもつらい。

「毒消しポーションでも効き目はほとんどないのですね」
「うーん、たぶんだけど毒消しポーションは効いていると思う。でも、それだけではダメみたいだね」

 ちなみに回復ポーションと毒消しポーションを混ぜると効果がそこなわれてしまうようだ。そうではあるんだけど、この正反対のポーションを同時に使用できればひょっとしたら……。

「毒素を取り除きながらすぐに回復させるポーション、名付けてデトリングポーションですね!」

 名前はどうだっていい。でも、そのデトリングポーションとやらを錬成しないと女王を治すことができないだろう。
 しかしながら、そんな研究は今までやったこともないし、簡単に錬成できるとも思えない。二つのポーションは混ざると打ち消し合うのだから。

「それ以外のやり方を考えるとしたら……マリカならどうする?」
「そうですね……でしたら体半分ずつ治しますか。私が右側からでクロウ様が左側からとか」

 そんなざっくりな感じで上手くいくとは到底とうてい思えないな。一人でやるよりは効率はいいかもしれないけど実際は難しいだろう。回復ポーションも毒消しポーションにもそれなりの効果があるので、時間をかければなんとかなるとは思うんだけど……。
 たまに見せる女王の苦しそうな表情。それを見てしまうと、可能な限り早く治してあげたいと思う。
 火の精霊たちも心配そうにしているしね。彼らは今も汗をぬぐったり、おでこを冷やしたりと甲斐甲斐かいがいしく看病している。
 ふむ。でも、マリカの言う二方向からのアプローチというのは悪くない考えかもしれない。打ち消し合わないように、毒素を除去する部位と回復する部位を分ければいいんだから。
 僕はふと思いついてマリカにお願いする。

「マリカ、うちにあるティーポットを持ってきてもらえるかな」
「ティーポット……? お茶会をされるのですか?」
「いいから、いいから」
「わかりました。すぐに取ってきますね」

 火の精霊が女王に回復ポーションを飲ませているのを見てやってみようと思ったんだ。そんなわけで、回復ポーションはティーポットを使って口から摂取してもらう。
 毒消しポーションについては振りかけて使用する。つまり体の内側と外側から挟むようにしてポーションを使ってみようと思うのだ。こうすればポーション同士が打ち消し合うこともないし、黒い靄を狙ってマリカと二人で治療に専念できる。

「君たちも手伝ってもらえるかな?」

 僕の意向を理解したのだろう。任せろと言わんばかりに火の精霊たちは胸を張り、腕を上げて応えてくれる。

「じゃあ、君たちは女王の口から回復ポーションを頼むよ。僕とマリカがピンポイントでこの黒い靄を狙い撃ちしていくから」

 うんうんとうなずきながら火の精霊たちは打ち合わせをしている。小さな精霊ではティーポットを持つのも大変そうだけど協力して頑張ってもらいたい。

「お待たせいたしましたー。クロウ様、ティーポット借りてきましたよ」
「ありがとうマリカ。それは精霊たちに渡してもらえるかな」

 それからマリカと簡単な打ち合わせを行って、すぐに作戦に移る。
 ティーポットを数名がかりで抱えながら女王の口に含ませていく精霊。ちゃんと体の内部から回復効果を与えている。
 その効果を打ち消そうと黒い靄が動き始めるのを、僕は毒消しポーションをかけて阻止そししていく。

「おお、なるほど。これは効果が期待できそうですね」
「マリカ、なるべくこの黒いやつを遠ざけるんだ」
「了解しました!」

 この作戦は功を奏し、女王の体の黒い靄の撃退に成功した。とはいえ、完全に取り除くことはできていないし、女王の目が覚めることもない。
 やはり、人と違って何か特別な治療の手段が必要なのかもしれない。このあたりはアルニマルと相談が必要だろう。そういえば、呼びに行っていると言っていた、風の精霊の治癒の魔法とやらに期待をしたい。
 今の僕たちにできることは、この悪さしている黒い靄を少しでも小さく、少しでも早く消滅させるように継続して治療に当たることだ。
 思いのほかAランクポーションが必要になりそうなので、治療と並行して追加で錬成しなければならなそうだ。


 ◇


 それから数日が経過して、女王の体調もかなり安定してきたのを感じている。顔色は良くなってきていつ目覚めてもおかしくはない気もするけど、やはりこのあたりがポーションの限界なのかもしれない。

「もう一つ上のランクのポーションが必要なのかもしれないね」
「もう一つ上? ですか!」

 ここ最近Aランクポーションの錬成で寝不足気味だったはずのマリカの瞳が一気に輝いてしまう。
 Aランクポーションは、ポーションの最上級で間違いない。四肢切断ししせつだんですら回復させてしまうのだから。
 しかしながら万能薬ではないのだ。対象が精霊だからなのかもしれないけど、女王を全快させることはできていない。Aランクポーションのもう一つ先の光景を見るにはどうすればいいだろう。そんなふうに、女王の看病をしていてふと考えてしまったのだけど……。

「Aランクは万能で、だからこそ錬成する数も調整しなければならないと思っていたんだけど。必ずしも万能ではないんだよね」
「クロウ様ならいつか錬成できると思いますよ。万能なポーションを」

 そんな簡単に言わないでもらいたいけど、マリカは信じて疑わないようなピュアな目をしているので冗談にもできない。

「万能薬、エリクサーか。いつかチャレンジしてみたいね」
「エリクサー……」

 名前だけなら聞いたことがある薬。物語に出てくるまぼろしの万能薬で、先天的な病や怪我も治すし、飲み続けると不老不死ふろうふしになるとさえ言われている。
 もちろん物語の中の話なので眉唾物まゆつばものではあるのだけど、このファンタジーの世界では決してありえない代物ではない。
 身内に、仲間に、もしものことがあった時に頼れる物があるというのは心強い。いや、全員が不死になられても困るんだけどさ。とはいえ、この世界って簡単に死にやすいから不安になってしまうのは確かだ。
 今は奇跡的に上手くいっているけど、今後何があるかわからない。身近にいる人が急に亡くなることだってある。だから、だからこそ、錬金術師ならばその高みを目指してもいいんじゃないかと思う。
 もちろん生死のことわりを変えてしまうかもしれないことを軽く考えているわけではない。それでも助けられる可能性がある人を救えるのであればいつか作り上げたい。

「ほらっ、マリカ。ボーッとしてないで女王の看病頼むよ」
「は、はいっ! 一生ついていきます!」

 一生はやりすぎだからね。この子、距離感が独特だからどう反応したらいいかわからない時があるんだよね。
 まあいい、錬金術師チームの大きな目標としてエリクサーの錬成というのを掲げてみよう。
 小さな目標はいっぱいありすぎて困るぐらいある。今や錬金術師は村のあらゆる事業にたずさわっていて、ダンジョン探索やもりの魔物討伐にも必要な存在。そろそろ部門ごとに長を立てなければならないかもしれない。

「クロウ殿、風のがやってまいりました!」

 そんなふうに考えていると、突然、嬉しそうな大きな声を上げてアルニマルがアトリエに飛び込んできた。火の女王の体調は安定しているとはいえまだ目覚めていない。治癒の魔法が得意という風の精霊は待ちに待った待ち人なのだが……

「ん? 風の女王!?」

 ただの精霊ではなくて女王? いずれにしても僕が想像しているよりも早い到着だった。
 火の精霊を炎のようなあかを基調としたボサボサ髪の姿だとしたら、風の精霊は薄い緑色をして毛先がくるりと反り返った可愛らしい髪型をしている。
 どうやら到着した風の精霊は全部で三人らしい。なかでも女王と思われる真ん中の精霊は魔力の大きさからも相当な使い手だと思われる。脇を固めるお二方もアルニマルと同レベルぐらいの魔力量があるんじゃないかな。

「聞いていた話より状態が良さそうなの。ほぇー、このポーションがなければ助からなかったかもしれないの」

 マリカの持っていたポーションをひとめしてからそう言い、感心したように僕たちを見てくる風の女王。

「はじめまして、この村の領主をしておりますクロウ・エルドラドです。隣にいるのは錬金術師のマリカ」
「マリカ・クレメンツと申します」
「この薬を作ったのはあなたたちなの?」

 風の女王に問われ、僕は答える。

「はい、そうです」
「あるだけ買うの。お前たち、あるだけお金を置いていくの。ほぇー、あ、あと代わりに何か欲しい物は何かある?」

 精霊ってお金持ってるんだね。どこから取り出したのか、袋詰めされた重量感のある物がテーブルの上にどさっと置かれる。中からは何やらキラキラと光る石が見えている。

「クロウ様、こ、これはミスリルです! やばやばです! しかもかなり純度の高い物ですよ」

 どうやらお金じゃなくてミスリルだったらしい。ファンタジー鉱物として一番有名なやつだ。確か、魔力の伝わりがよく属性付与された武器や防具に使用されるんだっけね。
 僕は慌てて風の女王に言う。

「申し訳ございません、女王。在庫していた物はすべて治療に使用しているので今はありません。こちらのBランクポーションでしたらいくらでもあるのですが」
「Bランク? それをすぐ出すの。少しもらってもいい?」
「マリカ」
「あっ、はい。すぐにお持ちします」
「あのー、風の女王……。我らの女王の容体ようだいは?」

 アルニマルが心配そうに尋ねると、風の女王は断言する。

「心配しなくても容体は安定しているの。今は心を休めている状態だからすぐに起こす必要はないの。この状態ならいつでも復活できるの」
「おお、まことでございますか!」
「だから、今はBランクの試飲が優先なの。アルニマルはこのポーションをなんとも思わなかったの?」
「人が使うポーションですよね。女王に効果があって良かったとは思っております」
「違うの。女王に効果があるなら、あなたにも効果があるということなの。これは龍脈から離れることができなかった精霊にとって、長期の移動を、いえ、暮らす場所を変えることが可能になる薬なの!」

 なんだか風の女王の食いつきが半端はんぱないとは思っていたけど、思っていた以上に精霊にとって大事なことっぽい。
 小さなびんに移し替えたBランクポーションをコクコクと味わいながら一気に飲み干していく風の女王。プハーっと言いながらテーブルに瓶を置くとすぐにこちらを見てくる。

美味うまい、おかわりなの!」

 マリカが僕の方に顔を向ける。

「クロウ様、試飲ではなかったのでしょうか?」
「味に満足してもらえているならいいんじゃない。それにBランクだしさ」

 ちまたではBランクはそれなりに高級品であるけど、ネスト村に限っては量産品である。
 あの勢いでAランクを飲まれてしまうと困るが、Bランクであればすでに結構な人数の錬金術師が錬成できるようになっているのでそう問題にはならない。
 マリカがすぐに次のBランクポーションを持ってくると、風の女王は迷うことなく一気飲みしていった。

「ふぅー。美味い! 若干物足りないけど……これも悪くないの。Bランクはどのぐらい用意できるの?」


 ちょっとミスリルの価値とかわからないから計算できないんだけど。でもまあ、Bランクポーションならいくら供給しても構わない。精霊が王都で売る心配もないので、大量供給しても値崩れしないのだから。
 僕は風の女王に言う。

「今ある本数はあとで連絡するけど、数的にはいくらでも用意できるよ」
「そうなの! 大地の精霊からもらったミスリルを持ってきて正解だったの。そうだ、風の精霊もここに住んでもいい?」

 突然とんでもないことを言い出した風の女王に、僕は唖然あぜんとしてしまう。

「えっ、マジですか……」
「火の精霊も住んでいるんだもの、精霊が少し増えるぐらい問題ないと思うの。あと、大地の精霊も呼んでくるの」
「えーっと、いったいどうなっちゃうのかな」
「ここは住み心地がいいの。それにこのポーションがあれば龍脈から離れた場所でも気軽に旅ができるの。精霊にとって夢みたいな話なの」

 精霊というのはあまり長い時間、龍脈から離れることができない。それをこの回復ポーションを飲むことで離れても平気になるというのだ。つまり、長年の夢だったという旅ができるのだと喜んでいるらしい。
 もちろん、ポーションの効果が切れるまでの間なのだけど、Bランク一本でも数ヶ月もの効果がありそうとのこと。ポーションを何本か持っていけば気軽に遠出もできるということか。
 風の精霊たちはアルニマルが作っていたネスト村の地図を悩ましげに見て、牧場の辺りやヒーリングそう畑を指さしている。


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