逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん

文字の大きさ
8 / 36

8

しおりを挟む
今思い返しても、王妃ルナティアに声を掛けられるまで、何をどう行動していたのか記憶が曖昧で、情けない事に覚えているのはただただクロエを見つめていた事だけだった。
そんなイサークにルナティアが声を掛け、驚く事にお茶でもどうかと誘ってきた。
「クロエは早々に下がってしまったわ。此処に居ても、頭にお花を生えさせた金色の小蠅が煩く付きまとうだけよ?」
と、悪戯っぽく笑う。
頭に花云々・・・とは、言わずもがなロゼリンテの事だとすぐにわかり、チラリとそちらを見れば、彼女は他の貴族と挨拶しつつもイサークをガン見している。
ぞわりと悪寒が走り、此処は王妃の言葉に甘えた方が良いだろうと、国王にその旨挨拶を済ませルナティアに手を引かれ会場を後にしたのだった。

部屋に向かう道すがらルナティアはおかしそうに笑うので、「どうかされましたか?」と聞けば、
「皇子が会場を出る時のロゼリンテの顔を見た?周りの人達が一歩後退っていたわ。愉快だわ~」と、まるでスキップでもしそうなほど上機嫌である。
その内容にもだが、あまりに気さくな言葉遣いに思わず瞑目すると、「エドリード様ともこんな感じよ。私の事はルナティアと呼んでね」と、いたずらっ子の様にウィンクしてくる。
その可愛らしさに思わず沈んでいたい気持ちがふんわりと温かくなり「では、私の事はイサークとお呼び下さい」と、自然な笑顔で返すことが出来た。
王妃とは部屋に着くまで他愛無い話をしていただけなのに、あの絶望的な気持ちが欠片も無くなるほど、不思議とその話に引き込まれていった。
そして部屋に着きドアを開け彼女が一歩部屋に入ったとたん「あらあら・・・そんな恰好で。困った子ねぇ」と、ソファーへと進んでいく。
入っていいものか悩んでいたイサークをルナティアが側に来るよう促すので、ソファーを覗き込めば白く丸いものがそこに横たわっていた。
よく見ればそれは人で・・・・
「っ!クロエ姫・・・」
愛しくて愛しくてたまらない姫が穏やかな表情で横たわっているではないか。
「湯あみをしてそのままで来たのね。風邪を引いたらどうするのかしら・・・・イサーク様、申し訳ありませんが手を貸してはいただけませんか?」
ちゃんと髪も乾かしていないのだろう。しっとりと濡れた黒髪は冷たく、シーツにくるまり小さくなっているクロエを見ると、まるで凍えているように見える。
恐々とクロエの横たわるソファーに近づき腰を落とし、その顔を覗き込んだ。
「この子、よほどの事が無い限り起きないから、大丈夫よ」
ニコニコしながら状況を見ているルナティア。
未婚のうら若き女性。しかも一国の姫君で、シーツ一枚だけの状態。
ましてや一目惚れした女性でもあり、諦めなくてはいけない女性。
自分が触れてもいいのだろうかと一瞬、躊躇したものの「これが最初で最後なのかもしれない」と思えば、僥倖としか言えない。
なるべく振動を与え無いよう優しく抱きかかえると、その軽さに驚き、ふんわりと香る柔らかな匂いに眩暈を覚えた。
そして無意識になのだろうか、縋りつく様に自分の胸にすり寄ってくるクロエに、自分はきっと今にも泣きそうな表情をしていたのかもしれない。
ルナティアはちょっと困った様に笑うと、そのまま一旦、ソファーに座るよう促してきた。
そして、胸元で合わさっていたシーツをゆっくり開きその白い肌をあらわにした。
「なっ!」
動揺に思わず声を上げそうになるのをぐっと堪え、非難するようにルナティアを見みるが、彼女は全く気にすることなく見ろと言わんばかりにクロエの胸元を指さした。
きわどく開かれた胸元に恐々と視線を向けるとそこには、白く滑らかな肌には不釣り合いな、まるで傷跡の様な紅色の盛り上がりがあった。
「・・・・これは・・・・」
「貴方には、これが何に見えますか?」
「まるで・・・傷跡のようです。剣に刺されたかのような、そんな・・・」
「そうですね。これは貫通したかのように背中にもあるんですのよ」
その言葉に、まさか・・・とルナティアを見れば小さく首を横に振った。
「クロエは刺された事はありません。これは彼女が五才の時に現れました。・・・・まぁ、その話もこの子を部屋に運んだ後でお話ししましょう」
そう言うと立ち上がり、室内にあるドアを開いた。

クロエを送り届けルナティアの部屋に戻ると、侍女のカイラがお茶を用意して待っていた。
「この通路はクロエの部屋と繋がっているの。人目に付かず私の部屋に来られるから、何時もあんな格好なのよね。困ったものだわ」
そう言いながら、優雅にお茶を飲むルナティアの眼差しは優しい。
イサークもお茶を一口飲むと、そこで初めて喉が渇いていたのだと自覚する。
互い一息つくと、ルナティアがいきなり核心に切り込んできた。
「イサーク様はクロエをどう思います?」
「・・・それは・・どういう・・」
「言い方を変えますわ。クロエの事、好きですか?愛してます?」
今日初めて会ったばかりの二人。だが、ルナティアは何処か確信があるよな、そんな強い眼差しでイサークを見つめる。嘘、誤魔化しは通用しないと。
「・・・・クロエ姫を、私は・・・愛しています。本日初めてお会いしたのだというのに・・・おかしいですよね」
苦し気な表情で告白するイサークに、ルナティアは納得したように頷いた。
「例え運命が変わろうと、惹かれ合う・・・・これは宿命ね」
「宿命?」
「えぇ、イサーク様とクロエの事ですわ」
「私と姫?」
「そうです。ですがその話の前に、こちらに来られる際、エドリード様から何か言われましたか?」
「父からですか?・・・・そうですね、ルナティア様の故郷について勉強するようにと。それと、託宣を頂けるといいな・・・と」
その言葉に器用に片眉を上げる王妃。
「そう。では私の故郷に関しては、どう思いました?」
王妃ルナティアの故郷は、帝国から見て極東の島国、シェルーラ国という。
その国は鎖国はしていないものの、あまり積極的に他国と交流をする事が無い、どこか神秘的な国でもあった。
交流が少ないからと言って他国との文明に差があるわけではない。
どちらかと言えば、他国に頼らずともその国は豊かに栄えている。
そして、神秘的と言われる所以。稀に未来を見る事が出来る人間が生まれるのだという事。
「人は千里眼というけれど・・・それは違うのよ?そこからお話ししましょうね」
そう言いながら、カイラにお茶のおかわりをお願いし、小さく息を吐いた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。

水鳥楓椛
恋愛
 男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。  イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

どちらの王妃でも問題ありません【完】

mako
恋愛
かつて、広大なオリビア大陸にはオリビア帝国が大小合わせて100余りある国々を治めていた。そこにはもちろん勇敢な皇帝が君臨し今も尚伝説として、語り継がれている。 そんな中、巨大化し過ぎた帝国は 王族の中で分別が起こり東西の王国として独立を果たす事になり、東西の争いは長く続いていた。 争いは両国にメリットもなく、次第に勢力の差もあり東国の勝利として呆気なく幕を下ろす事となった。 両国の友好的解決として、東国は西国から王妃を迎え入れる事を、条件として両国合意の元、大陸の二大勢力として存在している。 しかし王妃として迎えるとは、事実上の人質であり、お飾りの王妃として嫁ぐ事となる。 長い年月を経てその取り決めは続いてはいるが、1年の白い結婚のあと、国に戻りかつての婚約者と結婚する王女もいた。 兎にも角にも西国から嫁いだ者が東国の王妃として幸せな人生を過ごした記録は無い。

令嬢から成り下がったメイドの分際で、侯爵様と目が合ってしまって

真好
恋愛
彼はメイドの私に手を差し出した。「私と、踊っていただけませんか?」 かつては公爵令嬢として、誰もが羨む生活を送っていたエルナ。 しかし、国家反逆罪で家は没落し、今は嫌な貴族の下で働く「身分落ち」のメイド。 二度と表舞台に立つことなどないはずだった。 あの日の豪華絢爛な舞踏会で、彼と目が合うまでは。 アルフォンス・ベルンハルト侯爵。 冷徹な「戦場の英雄」として国中の注目を集める、今もっともホットで、もっとも手が届かない男。 退屈そうに会場を見渡していた彼の視線が、影に徹していた私を捉えて。 彼は真っ直ぐに歩み寄り、埃まみれの私に手を差し出した。 「私と、踊っていただけませんか?」 メイドの分際で、英雄のパートナー!? 前代未聞のスキャンダルから始まる逆転劇。

元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?

中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。 副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。 やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。 出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。 慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。 誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。 ……嘘でしょ、団長!? かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に! 本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け! ※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

処理中です...