逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん

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ルナティアからの返事はすぐに返って来た。

サハド国は、リージェ国からの魔薬侵略が思いの外進んでいたようで、討伐の為に準備を進めていたのだという。
つまり、本来は帝国支配後に起きるはずだった出来事が、サハド国で起きてしまったという事。
いや、サハド国だけでは無かった。世界各国で魔薬に関わる事件が多発していた。
規模や形は違えど、魔薬による大陸侵略は静かに進んでいた事になる。
前と異なる所は、まだそれほど深く根を張っていなかったため、大事には至らなかったのが不幸中の幸いだった。
だが、クロエは不安に顔を曇らせた。

クロエは幼い頃、一度だけ祖母ルナティアとシェルーラ国へ行った事があった。
その時、ルドルフ国王と互いに体験した事を照らし合わせ、自分が死んだ後に何が起きていたのかを初めて知ったのだ。
前は帝国を支配した事により軍事力が一気に高くなったため、あっという間に大陸が支配されていった。
それとは別に、世界各国の魔薬に対しての知識が低かったことも侵攻の速度を加速させた要因の一つでもあった。
まさか、魔薬を使って世界征服をするなど、誰も思っていなかったのだから。
ルナティアとルドルフは魔薬に対しての正しい知識を広めると共に、未来で得たこれから起こるであろう出来事を小出しに、尚且つ、神秘的に見えるよう主要国に宣託を与える作戦を立てた。
その策は見事にはまり、今ではリージェ国を警戒、包囲するかのような態勢ができている。
だからこそ今回、サハド国を筆頭に魔薬に警戒していた国々は速やかに対処し、その魔の手から逃れる事が出来たのだ。
だが、どんなに手を尽くしても限界はあり、全ての国がルナティアの行動に賛同しているわけではない。
大国と呼ばれる国はほぼ掌握済みのルナティア。
しかし、小国で力なく貧しい国々は、リージェ国に良いように扱われていた。
出稼ぎと称しリージェ国へと微々たる金で売られた人間は、魔薬の実験体として廃人にされ、家族の元に帰る事はなかったという。

ルドルフから自分の死んだ後の話を聞いた時は、正直、無力感に支配された事を覚えている。
王宮に籠らず、何故もっと周りを見なかったのか。帝王学だけではなく、生きた勉強をどうしてしなかったのか。
もっと世間で起きている事に敏感になっていれば、未来は違っていたのではと。
そして後悔と共に、今世はどうなのかという不安が大きく育っていく。
どんなに頑張っても、たかだか三人の人間で何とかできるものなのか。
そんな不安を打ち明ければ、ルナティアとルドルフは「大丈夫。首尾は上々よ」「クロエは自分に出来る事をしなさい」と良い笑顔で言われた。
笑った顔は流石に姉弟なだけありとても似ていて、何故かとても安堵した事を覚えている。
まさか又こうして帝国に嫁ぐ事になるとは思わなかったが、「自分に出来る事をしなさい」という言葉に励まされ、がむしゃらに頑張ってきた事は無駄ではないのだと思いたかった。

「一歩間違えれば・・・と思うと、怖いものだな。ルナティア様とシェルーラ国王、クロエには感謝してもしきれない」
物思いに耽っていたクロエは、イサークの言葉に我に返った。
そんなクロエを安心させるように微笑むイサークは、ひょいと彼女を膝の上に抱き上げた。
その温かさと力強さに、強張った身体から力が抜けほっと息を吐く。
「私は何もしていません。全ておばあ様とルドおじ様のおかげです。お二人のおかげでエドリード様や他国の方達と協力体制がとれているのですから」
「確かに。クロエとの結婚もルナティア様の御心ひとつで出来なかったかもしれないと思うと、まるでてのひらの上で踊らされてる気分だ」
「そうですね。私の気持などお見透みとおしだったのかもしれません」
「クロエ?」
「やはり私は、貴方に心奪われる事は変える事が出来ない運命だったのでしょう」
意外なクロエの告白に、イサークは目を見開き頬が朱に染まる。
「それは俺も同じだ。クロエを一目見た時のあの感情は、生まれて初めてだった。初めて会うのに愛してしまったのだから」
「嬉しい・・・私は今とても幸せです。だからこそ、私は今度こそ手放したくないのです」
決意に満ちたサファイアブルーの美しい眼差しは、イサークにとっては何より愛しいもの。
「俺も、同じだよ。何があってもクロエを離さないから」
イサークの言葉に嬉しそうにするものの、その表情にはすぐに陰りが帯びる。
リージェ国のガルド王子の動きが不気味ではあるが、そこは暗部からの報告を待つしかない。待つ事しか出来ないのが、とてももどかしい。
考え込む様に溜息を吐くクロエに、イサークは彼女を抱き上げ寝室へと足を向けた。
「イ、イサーク様?」
「先を考え策を練る事は大事だけど、考えすぎて疲れてしまうのは良くない」
「―――はい」
「今は何も考えず、ゆっくり休もう」
そう言いながら、ベッドに下ろしその額に口付けた。
そして「ただ・・・」と続ける。
「ゆっくり休むのは、夫婦の触れ合いが終わってからだけどね」
一瞬で真っ赤になるクロエを素早く組み敷き、反論は聞かないとばかりに唇を塞いだ。

そして明日の朝きっと、顔を真っ赤にしながら起き上がれ無い事に、恥ずかし気に文句を言うクロエを想像し、それを現実にしようと快楽の海へと誘うのだった。

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