逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん

文字の大きさ
19 / 36

19

ルナティアからの返事はすぐに返って来た。

サハド国は、リージェ国からの魔薬侵略が思いの外進んでいたようで、討伐の為に準備を進めていたのだという。
つまり、本来は帝国支配後に起きるはずだった出来事が、サハド国で起きてしまったという事。
いや、サハド国だけでは無かった。世界各国で魔薬に関わる事件が多発していた。
規模や形は違えど、魔薬による大陸侵略は静かに進んでいた事になる。
前と異なる所は、まだそれほど深く根を張っていなかったため、大事には至らなかったのが不幸中の幸いだった。
だが、クロエは不安に顔を曇らせた。

クロエは幼い頃、一度だけ祖母ルナティアとシェルーラ国へ行った事があった。
その時、ルドルフ国王と互いに体験した事を照らし合わせ、自分が死んだ後に何が起きていたのかを初めて知ったのだ。
前は帝国を支配した事により軍事力が一気に高くなったため、あっという間に大陸が支配されていった。
それとは別に、世界各国の魔薬に対しての知識が低かったことも侵攻の速度を加速させた要因の一つでもあった。
まさか、魔薬を使って世界征服をするなど、誰も思っていなかったのだから。
ルナティアとルドルフは魔薬に対しての正しい知識を広めると共に、未来で得たこれから起こるであろう出来事を小出しに、尚且つ、神秘的に見えるよう主要国に宣託を与える作戦を立てた。
その策は見事にはまり、今ではリージェ国を警戒、包囲するかのような態勢ができている。
だからこそ今回、サハド国を筆頭に魔薬に警戒していた国々は速やかに対処し、その魔の手から逃れる事が出来たのだ。
だが、どんなに手を尽くしても限界はあり、全ての国がルナティアの行動に賛同しているわけではない。
大国と呼ばれる国はほぼ掌握済みのルナティア。
しかし、小国で力なく貧しい国々は、リージェ国に良いように扱われていた。
出稼ぎと称しリージェ国へと微々たる金で売られた人間は、魔薬の実験体として廃人にされ、家族の元に帰る事はなかったという。

ルドルフから自分の死んだ後の話を聞いた時は、正直、無力感に支配された事を覚えている。
王宮に籠らず、何故もっと周りを見なかったのか。帝王学だけではなく、生きた勉強をどうしてしなかったのか。
もっと世間で起きている事に敏感になっていれば、未来は違っていたのではと。
そして後悔と共に、今世はどうなのかという不安が大きく育っていく。
どんなに頑張っても、たかだか三人の人間で何とかできるものなのか。
そんな不安を打ち明ければ、ルナティアとルドルフは「大丈夫。首尾は上々よ」「クロエは自分に出来る事をしなさい」と良い笑顔で言われた。
笑った顔は流石に姉弟なだけありとても似ていて、何故かとても安堵した事を覚えている。
まさか又こうして帝国に嫁ぐ事になるとは思わなかったが、「自分に出来る事をしなさい」という言葉に励まされ、がむしゃらに頑張ってきた事は無駄ではないのだと思いたかった。

「一歩間違えれば・・・と思うと、怖いものだな。ルナティア様とシェルーラ国王、クロエには感謝してもしきれない」
物思いに耽っていたクロエは、イサークの言葉に我に返った。
そんなクロエを安心させるように微笑むイサークは、ひょいと彼女を膝の上に抱き上げた。
その温かさと力強さに、強張った身体から力が抜けほっと息を吐く。
「私は何もしていません。全ておばあ様とルドおじ様のおかげです。お二人のおかげでエドリード様や他国の方達と協力体制がとれているのですから」
「確かに。クロエとの結婚もルナティア様の御心ひとつで出来なかったかもしれないと思うと、まるでてのひらの上で踊らされてる気分だ」
「そうですね。私の気持などお見透みとおしだったのかもしれません」
「クロエ?」
「やはり私は、貴方に心奪われる事は変える事が出来ない運命だったのでしょう」
意外なクロエの告白に、イサークは目を見開き頬が朱に染まる。
「それは俺も同じだ。クロエを一目見た時のあの感情は、生まれて初めてだった。初めて会うのに愛してしまったのだから」
「嬉しい・・・私は今とても幸せです。だからこそ、私は今度こそ手放したくないのです」
決意に満ちたサファイアブルーの美しい眼差しは、イサークにとっては何より愛しいもの。
「俺も、同じだよ。何があってもクロエを離さないから」
イサークの言葉に嬉しそうにするものの、その表情にはすぐに陰りが帯びる。
リージェ国のガルド王子の動きが不気味ではあるが、そこは暗部からの報告を待つしかない。待つ事しか出来ないのが、とてももどかしい。
考え込む様に溜息を吐くクロエに、イサークは彼女を抱き上げ寝室へと足を向けた。
「イ、イサーク様?」
「先を考え策を練る事は大事だけど、考えすぎて疲れてしまうのは良くない」
「―――はい」
「今は何も考えず、ゆっくり休もう」
そう言いながら、ベッドに下ろしその額に口付けた。
そして「ただ・・・」と続ける。
「ゆっくり休むのは、夫婦の触れ合いが終わってからだけどね」
一瞬で真っ赤になるクロエを素早く組み敷き、反論は聞かないとばかりに唇を塞いだ。

そして明日の朝きっと、顔を真っ赤にしながら起き上がれ無い事に、恥ずかし気に文句を言うクロエを想像し、それを現実にしようと快楽の海へと誘うのだった。

感想 3

あなたにおすすめの小説

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

咲妃-saki-
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ