逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん

文字の大きさ
30 / 36

30

しおりを挟む
昼過ぎに森の門の前に着いた、イサークとクロエ達。
其処は大勢の騎士達に警備され、幾つもの天幕が張られており、さながら戦場の陣地のようだ。
其々が役割を果たすべく配置に着き、既に準備は整っていた。後は最終確認をするのみである。
そんな中、馬に乗って現場に現れたクロエに、待機していた人達は驚いたように目を見開いた。
馬に乗ってきた事もそうだが、その装いは皆の視線を釘付けにする。
イサークと同じ黒の軍服に身を包み、腰の帯剣ベルトには白銀のレイピアが光り輝いている。
軽やかに馬から下りると、すかさずイサークが腰を抱く。
「疲れてはいないか?」
騎士達には見慣れたイサークの姿だったが、何時も無表情な皇帝からは想像できないほどの柔らかな表情に思わず二度見する騎士達。
初めて見る皇帝のその蕩ける様な眼差しに、彼等は思わず腕を擦った。
そして、寄り添う様に立つクロエの軍服姿。
正にそれは眼福としか言いようがない。
初めてクロエを見る者、城で何度か顔を会せている者など関係なく、視線を縫い付けられたかのように彼女に見惚れていた。

上着が少し窮屈そうに見える張のある胸。
裾が膝くらいまで長い上着ではあるが、キュッと締った腰からなだらかに流れ、まるでスカートの様に動くたびに揺れる。
黒く艶やかな髪は後頭部で一つにまとめて垂らし、こちらも動くたびに誘う様にゆらゆら揺ていた。
白い肌は少し高揚したかのように頬に紅を差し、サファイアブルーの瞳は殺伐としたこの場には不釣り合いなほど、穏やかで。
誰もがほっと感嘆の息を漏らした。
そんな視線を敏感に感じ取り、イサークはクロエを隠す様に抱き込み天幕へと連れ込んだ。
「イサーク様?」
騎士達に労いの言葉を掛けようと思っていたクロエは、意味も解らずされるがまま天幕へと入った。
周りの天幕より少し大きめな物が皇帝専用で、中も広々として圧迫感は一切感じられない。
その中に入ると、すでにケイト達がお茶の用意をして待っていた。
当然、ケイトやダリアン、リンナも軍服に身をつつんでいる。
元々、シェルーラ国の前国王の近衛兵だったダリアンとケイト。今だその腕は鈍る事無く、帝国の騎士に引けをとる事は無い。
娘のリンナもそんな二人から仕込まれているため、中々の腕前だ。
そして何を隠そうクロエも、リンナと共に剣を習っていた。
剣だけではない。弓や体術、乗馬など。おおよそ一国の王女が習う様な事では無い事を、ずっとこなしてきていた。
それも、帝国から逃れ平民として暮らしていくのに、最低限必要な事だと思っていたからだ。
帝国から逃れた後は、四人で諸国を巡る旅をする予定だった。
そうなれば自分の身は自分で守らなければいけない。その為に、目覚めた時からダリアン達に稽古を付けてもらっていたのだ。
それは帝国に嫁いできてからも変わらず、離宮に居た時は鍛錬と言うよりは外に出る事が叶わないストレスを、身体を動かす事で紛らわしていたというのが正直な所だ。

クロエが鍛錬していた事は、イサークも知っていた。
少年の様にシャツとズボン姿で剣を握るクロエは、色んな意味でイサークを悩殺している。
そして今日の軍服姿。身体にフィットしたその衣装は、禁欲的ではあるのに婀娜としか言いようがない。
それは誰もが思っている事で現場に着いた途端、全ての視線はクロエに集まりイサークは己の立場など忘れ、天幕の中へと隠してしまった。
此処まで自分は狭量だったのか・・・と、苦々しい思いもあるが、これだけは譲れないという強い思いもある。
だからこそ妻を、リージェ国には絶対に渡せない。
ルナティア達も既に準備は整い、時を待つばかりだ。
戦など出たことが無いイサークではあるが、徐々に気分が高揚していくのを止める事が出来ずにいた。
知らず知らずクロエを抱く腕に力が入っていたのか「イサーク様?」と呼ばれ、はっとした様に力を抜いた。
「すまない、痛くなかったか?」
「大丈夫です。それよりも、どうかされましたか?」
気遣わしげに見上げてくるサファイアブルーの瞳は、どこか不安げに揺れている。
そんなクロエを、今度は優しく抱きしめた。
「不安にさせてすまない」
「いいえ。イサーク様が側に居てくれるだけで、不思議と落ち着いていられるので、私は大丈夫ですわ」
そんなクロエの言葉にイサークは、いとも簡単に気持ちが和いでいくのがわかった。
「・・・・クロエは本当にすごいな」
首を傾げキョトンとする可愛らしい妻に、堪らないとばかりに口付けた。
それに焦るクロエはとっさに周りを見渡した。
先ほどまで控えていたダリアン達はいつの間にか天幕の外で待機している様で、中には二人きりになっていた事に驚く。
「いつの間に・・・・」
「お茶を入れてすぐに出ていったよ」
そう言いながら、顔中に口付けの雨を降らせるイサーク。
「イ、イサーク様!少しお待ちください!」
「何故?」
何故も何も、その手の動きは何!?と叫びそうになるクロエは、グッと言葉を飲んだ。
その手をやんわりと止めながら、愛おしい夫をキッと睨むクロエは、贔屓目が無くても可愛らしい。
「外がそんなに気になる?」
憎たらしいほどの余裕の笑みで目元に口付けるイサーク。もはや彼は止まらない。
「当たり前です!布一枚でしか外と隔たれていなのですよ?不埒な事はおやめください!」
頬を膨らませぷいっと横を向くクロエは、可愛い以外の何ものでもない。
こんな状況なのに、可愛い、愛おしいと言う感情しか浮かばない自分自身に、イサークは「参ったな」と苦笑した。
そして、クロエを抱き上げ几帳の陰にある寝台へと向かった。
「今日は夜中に動かなくてはいけない。今のうちに休んでおこう」
あたふたするクロエをそっと下ろし、当然のように覆いかぶさった。
「え?お休みになるのでは?」
「あぁ、休むとも。まずはクロエに癒してもらってからね」
そう言って、甘くも蕩ける様な口付けを与える。

当のクロエは、心の中では「勘弁して!」と思いながらも、その体温が心地よく本気で拒むことが出来ないでいた。
それはまるで、心の奥底に居座る恐怖と不安を溶かしてくれるようで、堪らず手を伸ばしその逞しい身体を抱き寄せる。
そして、声が漏れないようにイサークに自ら口付けるクロエなのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。

水鳥楓椛
恋愛
 男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。  イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

どちらの王妃でも問題ありません【完】

mako
恋愛
かつて、広大なオリビア大陸にはオリビア帝国が大小合わせて100余りある国々を治めていた。そこにはもちろん勇敢な皇帝が君臨し今も尚伝説として、語り継がれている。 そんな中、巨大化し過ぎた帝国は 王族の中で分別が起こり東西の王国として独立を果たす事になり、東西の争いは長く続いていた。 争いは両国にメリットもなく、次第に勢力の差もあり東国の勝利として呆気なく幕を下ろす事となった。 両国の友好的解決として、東国は西国から王妃を迎え入れる事を、条件として両国合意の元、大陸の二大勢力として存在している。 しかし王妃として迎えるとは、事実上の人質であり、お飾りの王妃として嫁ぐ事となる。 長い年月を経てその取り決めは続いてはいるが、1年の白い結婚のあと、国に戻りかつての婚約者と結婚する王女もいた。 兎にも角にも西国から嫁いだ者が東国の王妃として幸せな人生を過ごした記録は無い。

令嬢から成り下がったメイドの分際で、侯爵様と目が合ってしまって

真好
恋愛
彼はメイドの私に手を差し出した。「私と、踊っていただけませんか?」 かつては公爵令嬢として、誰もが羨む生活を送っていたエルナ。 しかし、国家反逆罪で家は没落し、今は嫌な貴族の下で働く「身分落ち」のメイド。 二度と表舞台に立つことなどないはずだった。 あの日の豪華絢爛な舞踏会で、彼と目が合うまでは。 アルフォンス・ベルンハルト侯爵。 冷徹な「戦場の英雄」として国中の注目を集める、今もっともホットで、もっとも手が届かない男。 退屈そうに会場を見渡していた彼の視線が、影に徹していた私を捉えて。 彼は真っ直ぐに歩み寄り、埃まみれの私に手を差し出した。 「私と、踊っていただけませんか?」 メイドの分際で、英雄のパートナー!? 前代未聞のスキャンダルから始まる逆転劇。

元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?

中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。 副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。 やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。 出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。 慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。 誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。 ……嘘でしょ、団長!? かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に! 本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け! ※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

処理中です...