王子に嫌われたい!

ひとみん

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「かぁさま、ただいま~!」と、ティナが駆け寄り腕の中に飛び込んでくるのを受け止めながら、私は確かめるように一人うんうん、と頷く。
出会った時の彼等の健康状態は最悪なものだった。見るからに痩せ細り、顔色も悪く、成長さえ止まっているかのようで。
でも今は、健康体そのもので、彼等の成長が嬉しくて、こうして抱きしめてはこっそり喜んでいるのだ。
ティナの次にルカをギュッと抱きしめながら、思わず声が漏れるほど私は驚く。
「ルカ、また身長伸びた?」
彼の成長はほかの誰より著しく、日に日に身長や体格が変わっていくのが目に見えてわかる。
「身体の節々、痛くない?大丈夫?」
「どこも痛くないよ」
そう言いながら照れたようにはにかむルカは、超絶かわかっこいい!
「あぁ・・ルカが日に日にカッコ良くなってきて、変な女に引っかからないか、かーさん心配!!」
そう言って更にぎゅうぎゅうと抱きしめた。
そんな私の足元に「ティナも!ティナも!」と抱き着いてきて、私は彼女を抱っこしながら頬擦り。
「ティナも美人さ~ん!かーさん、心配だよ~」
「かぁさま、かわいい!ティナ、しんぱ~い!」
「いや~ん!ティナってば!うれしい~!」
そんなやり取りを見ていたリズが、ちょっと呆れたようにため息を吐き、パンパンと手を叩いた。
「はいはい、わかりました。三人とも座ってください。お茶にします」
これが彼等が来てからの、いつもの光景だったりする。
今日の出来事を話しながらお茶を飲んでいると、ミリナ、ココ、ナナも帰って来た。
彼女等にもお帰りのハグをしていると、タイミングが良いんだか悪いんだか・・・アリオスもやって来た。狙ったかのように。いや、恐らく狙ってる。
そんな彼をスルーし、さて皆でお茶を飲もうとソファーに向かおうとすると「えっ!?俺は?」と両手を広げたまま叫んだ。

また始まった・・・と、私はちょっと眉根を寄せる。
何度も言うが、私たちは婚約はしているが、婚約と言う名の契約だ。だから、これといってべたべたする必要もない。
それは子供達も知っている。知っているはずなのに・・・最近はアリオスの味方をしている様な気がするのは気のせいではない・・・多分。
私が今の様に、ちょっとでも拒絶する様な態度を見せると、子供達はじっと私を見つめるのだ。
そう、「何で応えてあげないの?」と・・・・・
今もそう。ティナは目をキラキラさせて私に言う。
「かぁさま、どおしてとぉさまと、ギュッしないの?」
契約なんて事は、大人の事情であって子供達にとっては関係ない。
契約だろうと何だろうと、彼等にとって私たちは親なのだし、私達にとっても彼等は家族なのだ。
両親は仲が悪いよりは良い方がいい。

あぁ・・・視線が辛い・・・・

私は諦めたようにアリオスにハグをした。
「おかえりなさい」
「ただいま、俺の可愛い人」
そんな歯茎がガクガクいうような甘ったるい台詞と共に、頭のてっぺんにキスしてくる。
子供達がいない時はこんなスキンシップが取れないから、忙しいくせにとにかく皆と居たがる。そして、そのタイミングを狙ってくるのだ。
兎に角、嬉しそうにするもんだから拒絶もできず、困ったことに嫌悪感もない。
私はされるがままに抱きしめられべたべたされ、魂が抜ける寸前にティナの声に助けられるのだ。
「とぉさま!ティナもおかえりのだっこ~!」
うずうずしたように、ティナは両手を広げ見上げてきた。
「あぁ、ティナ。ただいま!」
そう言って、ティナを高く持ち上げ抱っこすれば彼女は嬉しそうに声をあげるのだった。

私たち新米家族には、ちょっとしたルール―がある。
それは子供達との触れ合いだ。
出かける前と帰って来てからのハグはまさにそれを目的としたもの。
私は子供等を先に抱きしめるけど、アリオスは必ず私を優先してくる。彼は彼なりに考え『家族』と言うものも作り上げようとしているのかもしれない。
子供達もそれに関しては不快とは思わないようで、自然と今みたいに待っておねだりしてくるのだ。

アリオスは力がある。だから、ミリナやルカまでも抱っこしてしまう。時には私の事も。・・・・私はいらないのに・・・
初めは恥ずかしがって、子供っぽいと遠慮していた二人だったけど、アリオスが「ミリナとルカの事を抱っこしてあげられるのは、多分、後少しの時間だけなんだよ。だから、今は私のしたいようにさせてもらえるかい?」と、懇願したのだ。
でも本当は、小さな三人が抱き上げられているのを少し羨ましそうに見ていた二人の様子を知っていたから、アリオスは自分がしたいから・・・と、願ったのだ。
そんな彼を見て、そこだけは本当に尊敬しているし、きっと良い父親になるんだろうなって思う。

全員をハグし終わると、皆でお茶を飲みながら他愛無い話をして笑い合う。それはとても幸せで穏やかで、静かに身体を侵食していく遅効性の毒の様で・・・
ざわざわと騒ぎ立てるかのような得体の知れない感情と、あまりに心地良くて流されそうになる気持ちと、私はそれに敢えて逆らう様に心に問いかける。

――――いいの?彼の事、愛せる?

すると、まるで解毒剤が効いたかのように、私の心は凪いでいくのだ。
子供達を引き取ってからと言うものこの繰り返しで、私は少し自分の気持ちが見えなくなっていたのかもしれない。

そんな私の気持ちなどお見通しのリズは、小さく呟く。
「充分、仲の良い家族にしか見えないんだけど。早く、観念すればいいのに」
でも、それは私の耳には届く事はなかった。
例え届いていたとしても、私はきっと笑い飛ばしていただろう。

「彼と結婚なんて、あり得ない!」と・・・

そんなふうに思っていた自分がこんなにも動揺する事になるなんて、人生ってわからないものだと頭を抱えるのは、あと数日後の事。
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