600年捕らわれていた魔女ですが、解放されたので愛する人と幸せになる

ひとみん

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コーエン王国の王宮に隣接する離宮の大ホール。
今夜は、この国の王太子が通っていた学園の卒業を祝い、卒業生、在校生を集めてのささやかなパーティが開かれていた。
当然、隠れて教師達が監視はしているが、子供達だけのパーティにそれぞれが大人ぶり、いつもより気持ちが大きくなりがちだが、皆和やかに楽しんでいた。
そんな中、王太子がいきなりホールの真ん中で声を上げた。彼の隣には卒業パーティには似つかわしくない真っ赤できわどいデザインのドレスを纏い、豪奢な金髪を巻き髪にした令嬢が寄り添っている。

「みんな、聞いてくれ!」

流れていた音楽は鳴り止み、一斉に王太子を見た。

「皆も知っている通り、我が王家には古くからの仕来しきたりがある!それが、王家と魔女との婚姻だ!」
王家の子供と同じ年の子供を持つ親たちは、当然の様に知っており又、子供達にも言い聞かせていた。
特に王家に王子が生まれた場合、将来その妻となり得る令嬢達には。

「扱いは王妃でも、立場は第二妃となる」と。

子供達は素直に「何故?」と問えば「国王となる者は、魔女殿と結婚しなくてはいけないからだ」と大人たちは真面目な顔で答えるのだ。
そんな親達を「何を言っているんだろう・・・」「魔女なんてお話の中だけの人なのに」と子供心に思うものの、あまりに真面目な顔で言うものだから、そうなのかと納得する。
恐らく、子供達だけではない。親達も、そのまた親達も、代々思ってきた事でもある。

何故、魔女と王家は結婚しなくてはいけないのか。
そもそも、魔女は本当に存在するのか?

過去、王太子と婚姻が決まった令嬢達は「事実を明らかにする」と意気込んで王家に入るが、最終的には口を閉ざしその立場を受け入れてきた。
「それが決まりだから」と言われれば何も言えない。長い時が経つにつれ、魔女との婚姻の本当に理由すら失われていたのだから、誰も理由を説明できないのだ。
それに、建国してからずっと続く決まり事。それを排し、何か起きればその責任を負えるのか。
そう言われてしまえば、誰も何も言えなくなる。そしてそれは、決して違えてはいけない契約なのだろうと、無条件に受け入れるのだ。

過去現在と、皆が皆素直に納得していたわけではない。
心の中に一物を抱えながらも、納得せざるおえなかったのだ。特に、王太子の、国王の妻となった女性たちは。

だがこの度は、王太子でもあるシュテファン・コーエンが愛する人を正真正銘の王妃にする為に、声をあげた。


「魔女との婚姻は、わが国の建国まで遡る。二代目国王が決められた。それは、約六百年も前の話である!」
ザワリと会場が揺れる。
「魔女の生態は我々にはわからない。王家秘蔵の書物にすら載ってはいないのだ」

シュテファンは幼い頃から疑問に思い「魔女との婚姻」を秘かに調べていた。父である国王に疑問をぶつけても「昔からの仕来りだから」と取り合ってもくれなかったから。
大人が当てにならないのであれば自分で調べてしまえと、周りにはバレないよう秘かに動いていた。
一度、魔女と王家の関係性を調べようとした事があったのだが「余計なことはするな!」と怒られた事があったからだ。

初めの頃は、すぐにわかるだろうと高を括っていた。
だが、調べても調べても魔女と婚姻する意味が分からない。婚姻を結ぶ事によっての利益すら。
そもそも、魔女に関する書物が無いのだ。恐らく過去に、焚書ふんしょが行われたのではとシュテファンは思っている。

「そのような仕来りは形骸化けいがいかされ、我々に無条件で刷り込まれているだけだ!私はここに居るマユドゥリ・ルクイア侯爵令嬢を正妃にしたい。
よって、今日ここで魔女と離縁する!中身のない仕来りは、必要無いのだ!!」

シュテファンの宣言に「おぉ!」と言う声が上がる。そこには歓喜だけではなく、驚愕や不安の感情も混ざっていた。
魔女は実際に存在していたのかと言う、誰もが疑問に思っていた事に踏み込んで決別宣言をする王太子を眩しそうに見つめながら。

「魔女をここへ!」


まさか魔女が六百年も生きているとは思わない。
精々何年かに一度は人を入れ替え、魔女と偽っているのだろう。そう誰もが思っていた。
それは正常な考えであり、世の理でもある。

人が六百年も生きている事は出来ないのだから。

だが、一人の老婆の出現で、全てが覆されるなど誰も思わなかった。


******  ******  ******


開かれた扉から現れたのが、ほぼ直角に腰が曲がった小汚い老婆だった。
長いであろう白髪を無造作に後ろで結わえ、着ているドレスはもとは白い色をしていたのだろうか・・・うっすらと黄ばみ裾は黒ずんでいる。
今にも折れそうな老婆にも驚いたが、一番に目を引いたのはその老婆をエスコートする美丈夫。

薄藍色の髪は首の後ろできっちり纏められ、腰まで伸びる長い髪は歩くたびに流れる様に煌めき揺れる。
そしてその瞳は髪より濃い藍色で、手を握りエスコートする老婆を愛し気に見てめている。

違和感しかなかった。

老婆は所謂、よれよれのボロボロの格好だ。だが、恭しく手を取る騎士然とした彼は、まるで王族をも思わせるような正装。
いや、目の前にいる王太子よりも王族らしい。

そんなちぐはぐな二人から、誰も視線を外せない。特に女性達は感嘆の溜息を吐きながら、うっとりと美丈夫を見つめている。
シュテファンもその一人だし、彼の隣のマユドゥリもシュテファンを見つめる眼差しより、熱が籠っている。
だが、すぐそばで立ち止まった二人にハッとしたように我にかえる。

「よく来たな、魔女よ」

目の前の二人から醸し出される雰囲気に飲まれないよう、拳を握り、声が震えぬよう腹に力を入れる。

シュテファンは、初めて魔女と呼ばれる人物を見る。
正直、目の前の老婆が正真正銘の魔女だとは思っていない。大方、何らかの理由をつけて雇われた者だと思っていた。
長く続く仕来りの正当性を知らしめる為の。
だがどうだろうか。目の前の二人は、どう見ても普通には見えない。
何故そう感じるのかはわからない。この二人に関わってはいけないとも、本能が警鐘を鳴らしている。

だが、愛する女を王妃にしたい。ただ、その思いだけで震える足に力を入れる。
そこで初めて気づく。自分が震えている事を。

何なんだ!何でこうも体が震えるんだ!
ただ俺は魔女と離婚するだけなのに!・・・・そうだよ、離婚するだけだ。

そこまで考え、ふぅ・・・と、大きく息を吐く。
少しだけ緊張が解れ、いつもの余裕の笑みを浮かべた。

魔女との離婚の仕方はわかっている。これだけは、書物に示されていた。
禁書扱いとして。

なに、簡単な事だ。
魔女の指に嵌められている指輪を外せばいいだけ。
簡単な事だ・・・・・

「魔女よ。私は其方と離縁する。同意するのであれば、その指輪を差し出せ」

その言葉に従い、老婆はゆっくりと左手を差し出した。
皺皺のその薬指には、紫の石が輝くとてもシンプルな銀色の指輪が嵌っている。
老婆の指にはとても不釣り合いな美しい指輪。

シュテファンは禁書に書かれていた通り、心の中で唱える。
魔女と離縁したいのだ。真に愛する女性を正妃にしたい・・・・と。

シュテファンの指が指輪に触れ、ゆっくりと引き抜かれていく。
完全に魔女の指から指輪が離れると、シュテファンは安堵したように息を吐いた。
禁書には、この指輪は魔女自身では抜けない事。夫でもある王族が心から離縁したいと願わなければ抜けないのだと記されていた。

「マユドゥリ!これで正妃は其方だ!!」
「シュテファン様!」
感極まり抱き合う二人ではあるが、たかが指輪を引き抜いただけで離縁できるのかと、真実を知らない外野がぽかんとしていると、ホールに『パリンッ』と何かが割れる音が響いた。
何事だろうと周りを見渡す生徒達など気にすることなく、魔女の手を引いていた美丈夫が彼女の前に跪いた。

「アルラウネ、俺はこの時を待っていた」
凛としたその声は、意図せずホールに響き、先程の音など忘れ皆の注目を集める。
「俺と結婚してくれるだろ?」

老婆に求婚する美丈夫に、皆が唖然とした。
「おい・・・正気なのか?あの男・・・」
「今にも死にそうな老婆じゃないか・・・・本気かよ」
「え?もしかして、本当に魔女?」

ヒソヒソと囁かれる声など気にする様子もなく、只々愛おし気に老婆を見つめている。
シュテファンも一体何が起きているのか理解できず呆けていたが、我に返り美丈夫に声を掛けようとして初めて気づく。

―――彼は、誰なんだ?

王宮の外れの塔に魔女を閉じ込めている事は知っていた。
厳重に外から鍵をかけられ、決して外には出られない。だから、シュテファンも今日初めて魔女を見た。
父親である国王は魔女と対面したと聞いたこともなく、これまでも顔を合わせたという王族がいるのかも怪しい。
それほどまでに無関心だった存在。
そんな魔女に世話役が付いていた事は知っていた。
食事や身の回りの世話をする者だ。てっきり女性だと思っていた。
シュテファン自身も侍女たちに世話をされているのだから、まさか男性でしかも若く美しい者だとは誰も思わない。
だからこそ益々混乱したように見つめる事しかできない。本当に彼が世話人なのかと。

勝手に混乱している外野など、やはり気にするそぶりも見せない二人。
しっかりと二人だけの世界が出来上がっていた。

「リヒト・・・・」

その呟きは誰が発したものなのか・・・・
若々しく愛らしいその声が、老婆が発したものだとは信じられなかった。
だが、驚いたのはそれだけではない。
直角に曲がっていた腰が徐々に真っ直ぐになり、無造作に結わえていた白髪は銀色に輝く髪に。
床に着きそうなほどの銀髪は、腰のあたりから七色に輝いている。
そして、汚れていたはずのドレスは純白の美しいものへと変わっていた。
体の線に沿う様なドレス。襟元や袖、裾や腰には、薄藍色と濃い藍色の二色で美しくも複雑な刺繍が施されている。
まるで目の前の美丈夫・・・リヒトの色そのもの。

俯いていた顔を伸びをするように上げれば、そこには女神のごとく美しいかんばせが室内の灯りに照らされ、バイオレットサファイアの如き煌めく瞳はより一層人間離れした容姿を引き立てる。

まるで時間を巻き戻したかのような変化に、誰もが驚きホール内は水を打ったような静けさに包まれた。
そして響き渡るのは、二人の会話。

「アルラウネ、俺は六百年も待った。そんな俺にご褒美をくれてもいいのではないか?」
「リヒト・・・あなたは出会う度に私に求婚していたね。どれだけ私の事が好きなんだか」
「今更何を言っているんだ。どれだけだなんて、言葉で言い表せる程度なわけがないだろう」
「あぁ・・・そうだな。貴方の愛は年を重ねるごとに、濃く重くなっていく」
困ったような口ぶりだが、その表情は嬉しそうに微笑んでいる。
そんな彼女に見惚れる生徒達。
先程まで周りの視線など気にしていなかったのに、リヒトは立ち上がりアルラウネを隠すように抱きしめた。
「リヒト?」
「可愛らしい貴女を見つめる輩が多い。早くここから出よう」
「そうだな。六百年ぶりに自由になれたのだ、リヒトの縁者にも会いたいし、何より世界をまわってみたいね」
「貴女がそれを望むのなら、俺が叶えよう」

立ち並ぶ二人はまるで宗教画でも見ているかのように神々しくも美しい。
単体でも美しいが、二人揃えばその比ではない。

シュテファン達に背を向け歩き出した二人に、彼は慌てて声を掛ける。
「貴女は本当に、魔女だったのか?」
誰もが確認したかった事。

振り返ったアルラウネが浮かべた笑みは、酷く冷たいものでそれを見た生徒達からは小さな悲鳴が上がった。

「どうやらお前達は、自分達が何をしたのか、何をしていたのかわからないようだな。正直な所、早くここから立ち去りたいが、解放してくれた礼として簡単にこの国の歴史を教えてやろう」
「・・・・え?歴史?」
「そうだ、改竄かいざんされたものでは無く、真実を」
そう言いながらシュテファンを見る彼女の瞳は、冷笑とは対照的に怒りに燃え上がっているようだった。
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