600年捕らわれていた魔女ですが、解放されたので愛する人と幸せになる

ひとみん

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今迄伝えられてきた歴史が嘘にまみれていたなど、シュテファンには到底信じられなかった。
だが、目の前で甦る様に若返る魔女を見て、心が揺れる。

アルラウネが語った事が真実ならば、二代目が行った事は大罪である。

「に、二代目国王は初代の実子だと、家系図にもある・・・それが、嘘だと・・・・」
そう声を上げるものの、おかしいと思い当たる節はシュテファンにはあった。
初代の妻の名前が、家系図には記されていないのだから。

初代は、今魔女に寄り添う美丈夫と同じ色をしていた。
例え初代の伴侶が黒髪青目だったとしても、長い歴史の中一人くらいは初代と同じ色持ちが生まれてもいいはずなのに。
シュテファンもそうだが、代々王家の直系は黒髪青目しか生まれなかった。まさに、オレルの色。
それでも、初代国王の血が流れているのだと、誇りに思っていた。

そして、徐々に廃れていく魔法。
この国で魔法を使えるのはほんのひと握り。その中には王族であるシュテファンも含まれている。
だが純粋に、シュテファンに魔力があるわけではない。

王家には代々受け継がれている指輪があった。
魔女がはめていた指輪と同じ、紫の石が填る、美しい指輪。
王太子に任命された時に、国王から渡される魔女との婚姻の証。真実は、オレルが自己満足の為だけに作った、指輪。
だがその指輪には思いがけない副産物を生み出した。
指輪を嵌めたと同時に、満る魔力。次第にその不思議な指輪そのものを魔女と見立て、婚姻に結び付けたのだろうと解釈していた。
であれば、魔女を用意する必要はないのに。

だが不思議な事に、魔女から指輪を外した瞬間から、何も感じなくなった。
常に体を巡っていた温かく満ちる感覚が、全くなくなってしまったのだ。

国王となる者だけに受け継がれてきた、指輪の力。
コーエン王国内では魔力を持つ者が居なくなりつつあるなか、誰よりも強力な魔法が使えるほどの潤沢な魔力。
魔女と結婚する事によって得られる魔力があまりにも魅力的で、これまでの都合の悪い事に歴代国王は口を閉ざしてきたのだ。

そして、その魔力が国に結界を張っているのだという事実は誰にも知られず、結界が張られているのが当たり前と・・・いや、結界の存在すら忘れその安寧をただ漠然と享受していた。
その陰で犠牲となっていた魔女の事など知る由もなく。

「オレルは商家の生まれで、当時の戦争で全てを失った戦争孤児だ。リヒトとの血縁は一切ない。リヒトの血筋であれば、彼が指輪を抜く事が出来たのだがね」
そう言ってアルラウネは自分の腰を抱くリヒトを見上げた。
「え・・・まさか、初代の・・・・」
「あぁ、そうだ。リヒトと私の魂は繋がっていると言っただろ。。よって、私が生きている限り必ず彼は生まれ変わり、私の元へ戻ってくるのさ。だからここに居る彼は初代の魂を持つ、生まれ変わりだ。
ただ、彼が生まれ変わりではなかったとしても、初代の生家から生まれている。正真正銘のリヒトの縁者だ」
オレルは只々衝撃を受けた。

彼の第一印象・・・・「まるで王族のようだ」と言うのは、あながち間違いではなく、正しい印象だったのだ。
「リヒトは世襲制ではなく能力性で国王が選ばれる事を望み、法として定めていた。だが、オレルはリヒトが死んでから、全てを無いものとし己の欲望で塗りつぶした。
そして、私を塔に閉じ込め魔力を奪い、国を包む結界を維持させていた」

結界の事を語る者がいないこの時代。何せこの国には、魔法を使える者がほぼいない。そして、指輪のおかげで高度な魔法が使えるだけの凡才は、何も考えない。
「その指輪を通して広場の記念碑の紫水晶へと流れる様になっている。そして多少のおこぼれがお前の指輪にも流れているのだ。お前も魔法が使えただろ?」

シュテファンは全てに合点がいった。
指輪を嵌めた瞬間、何故魔力が満ちたのか。
他国が頭を悩ませている魔獣の被害が、何故わが国だけは一切なかったのか。

国を覆うように結界が張られていたとは・・・知らなかった。

結界がもたらしていた偽りの安寧は、伝えるべき必要な事すら消し去った。
そこでシュテファンは自分がした行為がどれだけ危険で愚かな事なのかを、初めて知る。
恐らく結界は解除されている。指輪を外した時に聞こえた何かが割れるような音を思い出し、シュテファンは震えた。
周りを囲む生徒達も、状況を把握した生徒達から静かにその事実を伝えられる。

「私はね、魔力を吸い取られているからと、身動きできないわけではなかったし、魔法が使えないわけでもなかった。まぁ、しばらくは寝込んでいる事が多かったがね。
だから、禁書の中にわざと魔女との離縁の仕方を記する事も出来た。リヒトの事だって、生まれ変わりここを訪れる度に、私の世話役になるよう周りを誘導できた。
ぶっちゃけ、この国から出る事も可能だったのさ」

国を覆うだけの結界を張りながらも、自由に動け魔法も使えるとは。
魔女の底知れぬ恐ろしさを垣間見た気がした。

「ただ、どこへ行っても指輪を嵌めている限りはそれに縛られるし、使える魔法にも制限が出てくる。
ならば、リヒトを待ちながら、私の指輪を外してくれる王族を作り出せばいいと思って、色々と策略を練っていたのさ」

だが、時が経つにつれ魔法は廃れていくし、結界の存在を忘れ平和ボケしてるしで、アルラウネは空しさを覚えていった。
たった一人の人間が、無理矢理力を抜かれ国防に準じている事すら分かっていない。

「だからムカついちゃったからさ、お前の周りの人間をちょっと唆したのさ。・・・・実体のない魔女が正妃なんて、おかしいだろ?ってな」

何かに気付いたようにシュテファンとマユドゥリは、ハッとしたように顔を見合わせた。

そう言えば、この二人に仕える側近と侍女。それぞれに、昔から何度となく問われた事があった。
「魔女殿って、本当にいるのですか?」
「愛する人を正妃にできないなんて・・・なんだか納得できませんね」
「魔女殿との婚姻は、何か利益があるのですか?」

そのような事を沢山言われた気がする。いや、刷り込まれていた。
頭が良く合理的なシュテファンは、無駄を嫌った。
だからこそ「魔女との結婚に何の利益があるのか」と言う問いが、大きく刺さったのだ。
まぁ、無駄を嫌うとは言いながら、彼の横に立つ女は贅沢をこよなく愛するようないで立ちをしているが、それは気にならないのだろう。

「意外と私は、あちらこちらに出没していたのだが、誰も気づかなかったね。おかげで好き放題できたよ」
そう言いながら笑うアルラウネは、魔女と言うよりも女神と言った方がしっくりくるほど、清廉で美しい。

誰も彼もがアルラウネに見惚れ頬を染めるが、それを良しとしないリヒトがアルラウネを後ろから抱きしめた。
「アルラウネ、もういいだろう?」
「あぁ。待たせてすまない。行こうか」
リヒトは見せつける様にアルラウネの腰を引き寄せ、出口へ向かった。

騒動を聞き、権力者達に来られても面倒だ。来たからと言って何かが変わるわけでもないのだが。
背を向ける二人に、シュテファンはすがる様に声を掛けた。
「お待ちください!結界はもう、元には戻らないのですか?」
その問いに答えたのは、瞳に怒りを宿したリヒトだった。

「戻るわけがないだろう。結界が張られていた事すら分からず、当然、感謝も労わりもない。ただ無神経に安寧を貪っていただけの愚民の為に、ようやく自由を手に入れた俺の大切な人が何故、身を切らねばならないのだ」
「っ!確かに・・・・無知は罪だと・・・・それが例え意図して隠されていた事だったとしても、知ろうとしなかった我らの落ち度だと思っています。ですか!この国は初代様の国でもあるではないですか!
あなた様が初代様の生まれ変わりであるのなら、この国を思う気持ちもあるはずでは!」
シュテファンの言葉に、リヒトは一瞬キョトンと首を傾げ、次の瞬間爆笑した。
「何を見当違いな事を言っているんだ。俺に愛国心などないさ。なりたくもない国王に祭り上げられ、愛する人がいるというのに他の女を薦められ、やりたくもない事ばかり押し付けられる。だから国王は世襲制ではなく、政治能力に長けたものがなればいいのだと決めた。なのにオレルは、全てを無にした」

明らかに怒っているのはわかるが、その表情は無。
だからこそ余計にその身から発する怒気が禍々しく、近づく事すら躊躇う。

「それに俺にはれっきとした故郷がある。アルラウネと旅をしていた時に、たまたま戦争に巻き込まれ、たまたま戦争を終わらせてしまっただけだ」
「え?どういう事ですか?」
国王の故郷はこの国ではないのか・・・・と、誰もが思った。

「俺の故郷は、この大陸の中心にあるキャベラ帝国であり、俺の生家は帝国の剣とも呼ばれているコーエン公爵家だ」

キャベラ帝国・・・?
まさか・・・

ホール内に騒めきが波の様に広がる。

キャベラ帝国は、大陸一の軍事国家で最強国家と言われている。
この国とは違い魔法研究が進んでおり、戦闘魔法師と呼ばれる軍隊もあるほどだ。
だからと言って、無闇矢鱈むやみやたらに他国を侵略するわけではない。
広大で肥沃な土地。穀倉地帯が東西南北にあり、世界で一番富んでいる国と言えよう。
その所為で、他国からの侵略も数多くあり、軍隊は自衛のためでもある。

初代国王がまさか、キャベラ帝国出身だとは。しかも公爵家の子息。
この事実も二代目国王により、無いものとされていたのかと思うと、自分達はこの国の偽りの歴史を学んできたのかと、なんとも言えない気持ちになった。

「他国は結界など無い中で、自分達の力で国を守っているんだ。この国も、本来の姿に戻るだけだ」
リヒトの言葉はまさに正論。他国に比べ、この国が異常だったのだと改めて思う。
これまでの安寧は望めなくても、国民が平和に暮らせるよう努めねばならない。

「この国の兵士は他国に比べれば、かなり弱い。死ぬ気で鍛錬を積まねば、脆弱な民が被害を受けるだろう。結界など無くても、他国同様暮らしていくがいいさ」
突き放すようなアルラウネの言葉を最後に、二人はホールを出ていく。
そんな後姿を誰一人として引き止める事は出来なかった。

しんと静まるホールに、シュテファンの指から滑り落ちる様に指輪が外れ、床に落ちる音が妙に響き渡った。
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