16 / 60
16
しおりを挟む
アシアスに合わせ、ファラトゥールもゆっくりお茶を飲む。
そしてホロホロと涙を流しながらお菓子を三つほど食べると、恥ずかしそうに涙をぬぐった。
「失礼しました・・・お恥ずかしい姿を見せてしまって」
「気にしないで。お口にあったのなら何より。それより、もういいのかしら?」
「あ・・・あの、大変お恥ずかしい事を頼むのですが・・・このお菓子を頂いていってもいいでしょうか?」
「かまわないけど。もしかして、妹さんに?」
「はい。俺だけこんな美味しいものを食べるのは・・・妹は甘いお菓子が大好きなので」
「ふふふ・・・妹さんにはちゃんとお土産をあげるから、これはあなたが全部食べていいのよ。あ、あなたはお菓子よりこれがいいかしら」
またもパチンと指を鳴らすと、具たっぷりのホットサンドがアシアスの目の前に現れた。
新鮮な野菜は勿論、ハムやチーズ、肉がふんだんに挟まれており、キツネ色に焼けているパンは見た目にも食欲をそそり、アシアスの喉がごくりとなった。
「これはパンを焼いて具材を挟んだものよ。普通のサンドイッチもいいけれど、私はこちらが好みなの」
当然、ファラトゥールの前にもホッとサンドがあり、おいしそうにほおばった。
「あ、妹さんには焼いていないほうの普通のサンドイッチを用意しているわ。具合が良くないのであれば、パン粥の方がいいかしら?」
「・・・・有難うございます」
そう言ったきり、ジッと膝の上できつく握った己の手を見つめている。
「食べないの?」
「・・・・俺だけ、こんなご馳走を食べていいのかと。この国は貧しくて、食べる事に困っている人達が多いのに・・・」
あぁ、こういう所が彼の美徳でもあるけど、短所でもあるな・・・・・
清濁併せ吞む事ができてこそ、この状況を打破できると思うんだけど。
ステータスにあった、まさに清廉潔白みたいなのだけじゃ、人に上に立つのは厳しいね。精神的にやられちゃうし。
自分だけという罪悪感を抱くのはわかる。だが、だからと言って自分も食べなければ共倒れである。
この国を良い方へ導きたいと思うなら、出来るだけ健康でいなくてはいけない。
今の彼の姿を見て、この国の未来が明るいかと問われれば、皆首を傾げるだろう。
仕立ての良いものを着ていても、栄養不足の状態でやせ細りくたびれていれば、威厳も何もないのだから。
「あのね、あなたがこの国の未来を真面目に考えるのなら、ちゃんと食べなくては駄目だ。こうして食べる機会があるんだったら、それを逃しては駄目。現状を何とかしようという気持ちがあるのなら、あなたは健康で力強さを見せなくてはいけない」
「この国の、未来・・・・・」
アシアスはファラトゥールの言葉をなぞり、「本当に、この国に未来はあるのかな・・・」と小さく呟いた。
その小さな呟きに答える様に、ファラトゥールは「あるわよ。だってここは私の土地なんだもの」と笑う。
「私はね、この土地を取戻しに来たの。力ずくでとも考えたんだけど、国として機能しちゃってるから、住んでる人たちを追い出すわけにいかないでしょ?でも、私にはガルーラ国に味方もいないし。どうしようか悩んでたら、ここに王太子がいたってわけ」
アシアスは目を見開く。
「この土地を取り戻す手伝いをしてくれないかな?悪いようにはしない・・・と思う。まぁ、最悪国名が変わっちゃうかもしれないけど、そこら辺問答無用で了承してもらうわよ。それに、この土地が正当な持ち主に帰れば、呪いは解けるはずだし」
アシアスは、王太子という立場に固執している訳ではない。この国の状況を少しでも良くできるのであれば、という気持ちで動いてきた。
正直この立場を手放す事で、この国が少しでも良い方へと進むのであれば、喜んで立場を退く覚悟もある。
だが、今以上にこの状況を悪くするだろう人間達が控えている。だから、意地でも此処にしがみ付いていなくてはならなかった。
そして、妹を守るためにも。
そんな自分に手を貸せと言ってくれる人が、目の前にいる。
細くて柔らかで美しくしいのに、とても強い人が。
張りつめたようなアシアスの身体から、あからさまに力が抜けていくのがわかった。
この人に頼っても、いいんだ・・・俺を助けてくれるんだ・・・
ならば国名なんて、この王太子という立場だって無くなったってかまわない。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
これまでとは違う、まるで憑き物でも落ちたかのような、すっきりとした綺麗な笑顔で頭を下げた。
そして、大きな口を開けてホッとサンドにかぶりついたのだった。
そしてホロホロと涙を流しながらお菓子を三つほど食べると、恥ずかしそうに涙をぬぐった。
「失礼しました・・・お恥ずかしい姿を見せてしまって」
「気にしないで。お口にあったのなら何より。それより、もういいのかしら?」
「あ・・・あの、大変お恥ずかしい事を頼むのですが・・・このお菓子を頂いていってもいいでしょうか?」
「かまわないけど。もしかして、妹さんに?」
「はい。俺だけこんな美味しいものを食べるのは・・・妹は甘いお菓子が大好きなので」
「ふふふ・・・妹さんにはちゃんとお土産をあげるから、これはあなたが全部食べていいのよ。あ、あなたはお菓子よりこれがいいかしら」
またもパチンと指を鳴らすと、具たっぷりのホットサンドがアシアスの目の前に現れた。
新鮮な野菜は勿論、ハムやチーズ、肉がふんだんに挟まれており、キツネ色に焼けているパンは見た目にも食欲をそそり、アシアスの喉がごくりとなった。
「これはパンを焼いて具材を挟んだものよ。普通のサンドイッチもいいけれど、私はこちらが好みなの」
当然、ファラトゥールの前にもホッとサンドがあり、おいしそうにほおばった。
「あ、妹さんには焼いていないほうの普通のサンドイッチを用意しているわ。具合が良くないのであれば、パン粥の方がいいかしら?」
「・・・・有難うございます」
そう言ったきり、ジッと膝の上できつく握った己の手を見つめている。
「食べないの?」
「・・・・俺だけ、こんなご馳走を食べていいのかと。この国は貧しくて、食べる事に困っている人達が多いのに・・・」
あぁ、こういう所が彼の美徳でもあるけど、短所でもあるな・・・・・
清濁併せ吞む事ができてこそ、この状況を打破できると思うんだけど。
ステータスにあった、まさに清廉潔白みたいなのだけじゃ、人に上に立つのは厳しいね。精神的にやられちゃうし。
自分だけという罪悪感を抱くのはわかる。だが、だからと言って自分も食べなければ共倒れである。
この国を良い方へ導きたいと思うなら、出来るだけ健康でいなくてはいけない。
今の彼の姿を見て、この国の未来が明るいかと問われれば、皆首を傾げるだろう。
仕立ての良いものを着ていても、栄養不足の状態でやせ細りくたびれていれば、威厳も何もないのだから。
「あのね、あなたがこの国の未来を真面目に考えるのなら、ちゃんと食べなくては駄目だ。こうして食べる機会があるんだったら、それを逃しては駄目。現状を何とかしようという気持ちがあるのなら、あなたは健康で力強さを見せなくてはいけない」
「この国の、未来・・・・・」
アシアスはファラトゥールの言葉をなぞり、「本当に、この国に未来はあるのかな・・・」と小さく呟いた。
その小さな呟きに答える様に、ファラトゥールは「あるわよ。だってここは私の土地なんだもの」と笑う。
「私はね、この土地を取戻しに来たの。力ずくでとも考えたんだけど、国として機能しちゃってるから、住んでる人たちを追い出すわけにいかないでしょ?でも、私にはガルーラ国に味方もいないし。どうしようか悩んでたら、ここに王太子がいたってわけ」
アシアスは目を見開く。
「この土地を取り戻す手伝いをしてくれないかな?悪いようにはしない・・・と思う。まぁ、最悪国名が変わっちゃうかもしれないけど、そこら辺問答無用で了承してもらうわよ。それに、この土地が正当な持ち主に帰れば、呪いは解けるはずだし」
アシアスは、王太子という立場に固執している訳ではない。この国の状況を少しでも良くできるのであれば、という気持ちで動いてきた。
正直この立場を手放す事で、この国が少しでも良い方へと進むのであれば、喜んで立場を退く覚悟もある。
だが、今以上にこの状況を悪くするだろう人間達が控えている。だから、意地でも此処にしがみ付いていなくてはならなかった。
そして、妹を守るためにも。
そんな自分に手を貸せと言ってくれる人が、目の前にいる。
細くて柔らかで美しくしいのに、とても強い人が。
張りつめたようなアシアスの身体から、あからさまに力が抜けていくのがわかった。
この人に頼っても、いいんだ・・・俺を助けてくれるんだ・・・
ならば国名なんて、この王太子という立場だって無くなったってかまわない。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
これまでとは違う、まるで憑き物でも落ちたかのような、すっきりとした綺麗な笑顔で頭を下げた。
そして、大きな口を開けてホッとサンドにかぶりついたのだった。
61
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
勝手にしろと言ったのに、流刑地で愛人と子供たちと幸せスローライフを送ることに、なにか問題が?
赤羽夕夜
恋愛
アエノール・リンダークネッシュは新婚一日目にして、夫のエリオット・リンダークネッシュにより、リンダークネッシュ家の領地であり、滞在人の流刑地である孤島に送られることになる。
その理由が、平民の愛人であるエディットと真実の愛に満ちた生活を送る為。アエノールは二人の体裁を守る為に嫁に迎えられた駒に過ぎなかった。
――それから10年後。アエノールのことも忘れ、愛人との幸せな日々を過ごしていたエリオットの元に、アエノールによる離婚状と慰謝料の請求の紙が送られてくる。
王室と裁判所が正式に受理したことを示す紋章。事態を把握するために、アエノールが暮らしている流刑地に向かうと。
絶海孤島だった流刑地は、ひとつの島として栄えていた。10年以上前は、たしかになにもない島だったはずなのに、いつの間にか一つの町を形成していて領主屋敷と呼ばれる建物も建てられていた。
エリオットが尋ねると、その庭園部分では、十年前、追い出したはずのアエノールと、愛する人と一緒になる為に婚約者を晒し者にして国王の怒りを買って流刑地に送られた悪役王子――エドが幼い子を抱いて幸せに笑い合う姿が――。
※気が向いたら物語の補填となるような短めなお話を追加していこうかなと思うので、気長にお待ちいただければ幸いです。
恋人が聖女のものになりました
キムラましゅろう
恋愛
「どうして?あんなにお願いしたのに……」
聖騎士の叙任式で聖女の前に跪く恋人ライルの姿に愕然とする主人公ユラル。
それは彼が『聖女の騎士(もの)』になったという証でもあった。
聖女が持つその神聖力によって、徐々に聖女の虜となってゆくように定められた聖騎士たち。
多くの聖騎士達の妻が、恋人が、婚約者が自分を省みなくなった相手を想い、ハンカチを涙で濡らしてきたのだ。
ライルが聖女の騎士になってしまった以上、ユラルもその女性たちの仲間入りをする事となってしまうのか……?
慢性誤字脱字病患者が執筆するお話です。
従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティのお話となります。
菩薩の如き広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる