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あの後、ほどなくしてローラがやってきた。
自分が留守の間に起きた惨事に、涙を流して謝罪。
そんなローラを、ユスティアは抱きしめ宥める。
どちらが怪我人かわからないほどで、傍で二人を見ていたエドワルドが苦笑するほどだった。
ローラが傍にいてくれるだけで、安心感と心に余裕が出てきた。
その所為か、ついついいつも通りの振る舞いをして、傷が痛んで顔を顰めてしまう。そんな彼女を見て、狼狽えあたふたするエドワルドとローラに胸の奥が熱くなる。
王都に来てたった二日なのに色んな事がありすぎて、やっと楽に呼吸ができたような気がした。
エドワルドとローラが競ってユスティアの世話を焼こうとし、ちょっとした騒々しさが愛する領地を思いおこさせ、その晩は夢を見る事無く眠る事が出来たのだった。
翌日、目を覚ますと驚くほど体が軽く、傷の痛みもだいぶ良くなっていた。
エドワルドや公爵が言っていた通りとてもいい薬だったのだと、感謝しかない。
「傷口は完全に塞がったわけではありませんから、くれぐれも無理はなさいませんように」
老齢のお医者様に言われ、塗り薬と飲み薬をローラが受け取った。
朝食は部屋で摂り、その後公爵夫妻、エドワルド、ユスティア、そしてローラの五人が庭がよく見えるサロンへと集まった。
頭の包帯と頬の湿布はそのままだが、明らかに快方に向かっているユスティアに公爵家の面々は安堵したように微笑んだ。
「まずは、このような状況になった経緯をユスティア嬢に聞きたい」
公爵の言葉に、ユスティアは頷き、王都に来た初日、事件の起きた二日目の事を話した。
王都に着て二日目の暴力事件ばかりに目が行きそうだが、実は初日から嫌がらせは始まっていたのだ。
運び込まれる荷物にライラがいきなり手を出してきたのだ。
「可愛いドレスがあるわ!」
「このネックレス可愛い!!」
「このぬいぐるみ、王都に無いものね!」
そして最後には「わたしにちょうだい!!」と。
あっさりと渡せるほど、ユスティアにとってどうでもいい物ではない。
その時はローラがいたから、何とか退ける事が出来た。
だが、あの母子は機会を狙ってたいのだろう。ローラが彼女の傍を離れたその時を狙って、やって来た。
そして、あの暴力沙汰に。
ローラが部屋に戻ると、我が物顔で母子がユスティアの室内を物色していたのだという。
持ってきた物に関しては、こんな事もあろうかと事細かに目録を作っていた。
彼女らが盗もうとした物を取り返し、追い出した後すぐに公爵家へと駆け込んできたのだという。
ローラとユスティアの話を聞いて、公爵ははぁと大きく溜息を吐いた。
「あなたの前で彼等の事を悪くは言いたくないが・・・・噂通り、とんだクズのようだ」
彼の言葉を咎める様に公爵夫人が夫の手を軽く叩くが、ユスティアは軽く頭を振る。
「物心ついた時から、彼等の事を家族だと思った事は一度もありませんから、お気遣いなく」
それは紛れもない本心なのだが、公爵夫妻は痛ましそうにユスティアを見る。
本当なんだけどなぁ・・・と、ユスティアは困ったように微笑んだ。
そんなユスティアの手を、右側に座るローラが、左側に座るエドワルドが励ますようにそれぞれ握った。
正直これにも困惑している。
隣にローラがいるのはわかる。公爵にも話し合いの為に席を勧められていたから。
でも、何でエドワルドまで隣に座っているのか・・・・
そして誰もそれを指摘しないのか・・・・・
多少混乱はしつつも、公爵に集中する事にした。
「ユスティア嬢がここにきて一日が過ぎようとしているが、フライアン侯爵家では表立って娘を探そうとする気配すらない。それに関してローラはどう見る?」
「恐らくですが、夫人達を警戒しているのかもしれません。お嬢様が家を飛び出した事はわかっているはずですから」
「なるほどね・・・フライアン侯爵はユスティア嬢の事をどう思っているのかな」
「はい、実は侯爵様はユスティアお嬢様のことは嫌ってはおりません。どちらかと言えば気にかけているようではありますが、そんな仕草を見せればキャロル様にお嬢様が何をされるかわからないので距離をとっている状態です」
「どっちつかずってやつか・・・これもまた、手が悪い。しかし、ローラも見かけないとなると、流石に使用人達の間では大騒ぎになるのでは?」
「どうでしょうね・・・どちらかといえば、私が一緒だから安心しているかもしれません」
彼等はフレデリカが懇意にしていた使用人達だ。
フレデリカに似ているユスティアを大層大切に思い、可愛がってくれていた。
それを物語る様に実は昨晩、フライアン侯爵家の家令が先ぶれなしに訪問していた事をユスティアは知らない。
「そうか。ではもう数日だけ様子を見よう。ユスティア嬢をこちらで保護している事は国王陛下には連絡済みだ」
その言葉にユスティアはホッと息を吐いた。
と言うのも、保護者に連絡もなしに公爵家に滞在していれば、言われのない非難を受けるのではないかと心配したのだ。
例えば、誘拐だとか・・・
取り敢えずその心配がなくなったのは良いが、無断で侯爵家をあけているローラの事も心配になってくる。
それに関して公爵はなんて事のないように「フレデリカ様からのお願いでね、彼女の雇用主は私なのだよ。」と、とんでもない事実を暴露したのだった。
自分が留守の間に起きた惨事に、涙を流して謝罪。
そんなローラを、ユスティアは抱きしめ宥める。
どちらが怪我人かわからないほどで、傍で二人を見ていたエドワルドが苦笑するほどだった。
ローラが傍にいてくれるだけで、安心感と心に余裕が出てきた。
その所為か、ついついいつも通りの振る舞いをして、傷が痛んで顔を顰めてしまう。そんな彼女を見て、狼狽えあたふたするエドワルドとローラに胸の奥が熱くなる。
王都に来てたった二日なのに色んな事がありすぎて、やっと楽に呼吸ができたような気がした。
エドワルドとローラが競ってユスティアの世話を焼こうとし、ちょっとした騒々しさが愛する領地を思いおこさせ、その晩は夢を見る事無く眠る事が出来たのだった。
翌日、目を覚ますと驚くほど体が軽く、傷の痛みもだいぶ良くなっていた。
エドワルドや公爵が言っていた通りとてもいい薬だったのだと、感謝しかない。
「傷口は完全に塞がったわけではありませんから、くれぐれも無理はなさいませんように」
老齢のお医者様に言われ、塗り薬と飲み薬をローラが受け取った。
朝食は部屋で摂り、その後公爵夫妻、エドワルド、ユスティア、そしてローラの五人が庭がよく見えるサロンへと集まった。
頭の包帯と頬の湿布はそのままだが、明らかに快方に向かっているユスティアに公爵家の面々は安堵したように微笑んだ。
「まずは、このような状況になった経緯をユスティア嬢に聞きたい」
公爵の言葉に、ユスティアは頷き、王都に来た初日、事件の起きた二日目の事を話した。
王都に着て二日目の暴力事件ばかりに目が行きそうだが、実は初日から嫌がらせは始まっていたのだ。
運び込まれる荷物にライラがいきなり手を出してきたのだ。
「可愛いドレスがあるわ!」
「このネックレス可愛い!!」
「このぬいぐるみ、王都に無いものね!」
そして最後には「わたしにちょうだい!!」と。
あっさりと渡せるほど、ユスティアにとってどうでもいい物ではない。
その時はローラがいたから、何とか退ける事が出来た。
だが、あの母子は機会を狙ってたいのだろう。ローラが彼女の傍を離れたその時を狙って、やって来た。
そして、あの暴力沙汰に。
ローラが部屋に戻ると、我が物顔で母子がユスティアの室内を物色していたのだという。
持ってきた物に関しては、こんな事もあろうかと事細かに目録を作っていた。
彼女らが盗もうとした物を取り返し、追い出した後すぐに公爵家へと駆け込んできたのだという。
ローラとユスティアの話を聞いて、公爵ははぁと大きく溜息を吐いた。
「あなたの前で彼等の事を悪くは言いたくないが・・・・噂通り、とんだクズのようだ」
彼の言葉を咎める様に公爵夫人が夫の手を軽く叩くが、ユスティアは軽く頭を振る。
「物心ついた時から、彼等の事を家族だと思った事は一度もありませんから、お気遣いなく」
それは紛れもない本心なのだが、公爵夫妻は痛ましそうにユスティアを見る。
本当なんだけどなぁ・・・と、ユスティアは困ったように微笑んだ。
そんなユスティアの手を、右側に座るローラが、左側に座るエドワルドが励ますようにそれぞれ握った。
正直これにも困惑している。
隣にローラがいるのはわかる。公爵にも話し合いの為に席を勧められていたから。
でも、何でエドワルドまで隣に座っているのか・・・・
そして誰もそれを指摘しないのか・・・・・
多少混乱はしつつも、公爵に集中する事にした。
「ユスティア嬢がここにきて一日が過ぎようとしているが、フライアン侯爵家では表立って娘を探そうとする気配すらない。それに関してローラはどう見る?」
「恐らくですが、夫人達を警戒しているのかもしれません。お嬢様が家を飛び出した事はわかっているはずですから」
「なるほどね・・・フライアン侯爵はユスティア嬢の事をどう思っているのかな」
「はい、実は侯爵様はユスティアお嬢様のことは嫌ってはおりません。どちらかと言えば気にかけているようではありますが、そんな仕草を見せればキャロル様にお嬢様が何をされるかわからないので距離をとっている状態です」
「どっちつかずってやつか・・・これもまた、手が悪い。しかし、ローラも見かけないとなると、流石に使用人達の間では大騒ぎになるのでは?」
「どうでしょうね・・・どちらかといえば、私が一緒だから安心しているかもしれません」
彼等はフレデリカが懇意にしていた使用人達だ。
フレデリカに似ているユスティアを大層大切に思い、可愛がってくれていた。
それを物語る様に実は昨晩、フライアン侯爵家の家令が先ぶれなしに訪問していた事をユスティアは知らない。
「そうか。ではもう数日だけ様子を見よう。ユスティア嬢をこちらで保護している事は国王陛下には連絡済みだ」
その言葉にユスティアはホッと息を吐いた。
と言うのも、保護者に連絡もなしに公爵家に滞在していれば、言われのない非難を受けるのではないかと心配したのだ。
例えば、誘拐だとか・・・
取り敢えずその心配がなくなったのは良いが、無断で侯爵家をあけているローラの事も心配になってくる。
それに関して公爵はなんて事のないように「フレデリカ様からのお願いでね、彼女の雇用主は私なのだよ。」と、とんでもない事実を暴露したのだった。
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