それぞれの愛のカタチ

ひとみん

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それは、フレデリカたちが領地へ戻ると決めた時だったという。

「これをもって、ここに来られたのだ」
そう言って、美しいロイヤルブルーのケースを出した。
中を開けてみれば、アレクサンドライトが輝くシルバーのピンブローチとカフスボタンが納められていた。
ピンブローチは、真ん中に大きめのアレクサンドライトがひときわ目立ち、それを囲うように四枚の花弁。花弁と花弁の間には、小ぶりのダイヤモンドが輝く。
その四枚の花弁を繋ぐよう銀の蔦が這わされ、また四か所に小ぶりのアレクサンドライトが置かれ高級感漂うものだった。
カフスボタンに至っては、ボタンほどの大きさのアレクサンドライトがシルバーの台座に収まった、シンプルながらも見事なもの。
何故、祖母がこれを?とユスティアが首を傾げながら食い入るように見つめ、ハッとしたようにローラを見た。
「ローラ、これって・・・・」
見た事があるデザインだと思った。
そんなユスティアを見て、ローラは公爵に視線を移し頷いた。
「ユスティア嬢の予想通り、こちらは先日ローラから預かっていたものです」
そう言って出してきたのは、同じロイヤルブルーのケースで、先に出したものより何倍も大きい。
それはユスティアがよく見知っているもので、ケースを開けた。
その中にあったのは王位継承権を証明する、ユスティアの為だけに作られた装身具。
ネックレス、イヤリング、そしてティアラ。
とても見慣れたものではあるが、ピンブローチはそれとは少しデザインが違っており、すぐには気づけなかったのだ。
だけれど、それは対となる物。

「そう、このピンブローチはユスティア嬢の伴侶へと託される物」
「つまり・・・私は・・・私には伴侶が決められていたという事?」
「エイト殿がまだ家督を譲る前に、君の婚約者を決めていかれたのだ。当主がカーネル殿に変わっても、勝手に婚約を解消する事ができなくなるからね」
当主が代替わりし、先代が亡くなっている場合、先代が契約したそれらは簡単に解約できない。
兎に角、複雑な手続きと時間と金がかかる。
ただ、当人同士が合意すれば簡単に変更はできる。ただし当人達が十六歳以上であることが条件だが。
フレデリカはそれを狙っていたのだ。変な男の許にユスティアを嫁がせないために。
だから、王弟でもあるライト公爵の子息へと婚約を申し込んだのだ。

つまりは、ユスティアとエドワルドは婚約していたという事。
まぁ、そこには「仮」とつくのだが・・・・
「強制ではないよ。互いの意思があれば解消もできるのだから」
ユスティアはあまりの急な展開に、驚きながらも冷静さを取り戻そうと胸に手を当て、祖母の形見でもあるペンダントを握った。
そして、エドワルドを見上げる。
迷惑ではないだろうか・・・いわばお家騒動に巻き込まれる様に婚約者にさせられて。
申し訳ない気持ちで見つめれば、彼女の予想に反し彼はとても嬉しそうにユスティアを見ていた。
そして誰をも魅了する、花が咲く様なというのはこういうのを言うのかというほどの笑みを浮かべ言った。
「僕は嬉しいよ。やっと絵姿の婚約者ではなく、こうして触れ合う事ができる位の距離で言葉を交わせる事ができるんだから」
「絵姿?」
「フレデリカ様が年に数度、ユスティア嬢の絵姿を近況報告と共に送ってくれてたんだ」
その絵姿を見る度に、彼女に恋をしていった。

会った事もない、いわば他家のお家騒動に巻き込まれる形での婚約。
父親から話を聞いた時は正直な所、それってどうなの?とも思った。
でも、訪れたフレデリカと対面しその人柄や考え方に感銘を受け、彼女の育てた娘ならばきっといい娘なのだろうと漠然と思った。
そして、王都を離れる彼らを見送る体で、侯爵家の使用人に紛れてユスティアを目にとめた瞬間、恋に落ちたのだ。
勿論それはフレデリカが、エドワルドを巻き込んでしまった罪悪感と、ユスティアを少しでも知って欲しいという気持ちから実現したものなのだが。
幼い彼女は既に完成された美をもっていたが、フレデリカへと向ける笑顔はとても可愛らしく、一瞬でエドワルドは魅了された。
当然、言葉は交わせない。彼女は自分を認識もしていないし、婚約した事すら知らない。
侯爵家の人間には内緒で結んだ婚約だから。
それでもエドワルドは、フレデリカに感謝した。今は公にできなくても、国王が認めた確かな婚約者同士なのだから。
それから数年、送られてくる絵姿を見る度に、二人の未来に影を落とす邪魔者を排除しなくてはと、年々強く思うようになっていく。
そしてようやく会えた愛しい婚約者は、血を流しその美しい顔に怪我をしていた。

「あいつら、潰す」そう改めて心に決めた瞬間だった。

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