17 / 30
17
しおりを挟む
突然、飛び出してきたライラにエドワルドは警戒するようにユスティアを抱きしめた。
「あら、ライラじゃない」
ユスティアは現れたのがライラとわかり、抱きしめるエドワルドの腕を安心させるように軽く叩いた。
「大丈夫?」「えぇ、ありがとう」そんな風に親し気に交わされるやり取りに嫉妬全開でユスティアを睨み付けるも、エドワルドがライラに顔を向けると可愛らしい笑顔を浮かべた。
「突然飛び出してはお客様に失礼よ」
呆れたように注意すると、ライラは大きな緑色の目に一瞬にして涙を浮かべ、悲しそうに両手で口元を押さえた。
そして、突然のように三文芝居が始まったのだった。
「ごめんなさい、お姉さま!私、お姉さまに会いたくて会いたくて・・・でも、お姉さまは私に会ってくれなくて・・・
寂しくて・・・こうしてお姉さまが出てこられるのを待っていたの・・・」
―――お姉さま、と連呼するライラに、これまで一度も呼ばれた事のない呼び名にユスティアは気持ち悪そうに腕をさすった。
まるで悲劇のヒロインの様にポロポロと涙をこぼす様は、贔屓目がなくても庇護欲を掻き立てる。
彼女の本性を知らない人は、コロッと騙されるのだろう。
学園でもこの手を使って、かなり引っ掻き回してきたようだから。
「お姉さまが私の事を嫌っているのはわかってます。でも私は学園で生まれ変わったの。
だからもう、無視するような意地悪はしないで!二人しかいない姉妹なのだから、仲良くしたいだけなの・・・・」
きらきらと涙に濡れるその瞳は、姉に訴えているはずなのに、隣のエドワルドしか見ていない。
何ら変わらないライラにユスティアは、思わず安堵してしまう。
だって、善人になっていたらこれからの事に罪悪感を感じてしまうもの・・・私が・・・
エドワルドの美貌も気に入ったのだろうが、きっとユスティアと親しげな彼を奪おうとしているのが手に取る様にわかり、安堵と失望に思わずため息をついてしまった。
そんなユスティアの溜息にもおびえるかのようにわざと身体をびくつかせ、すがる様にエドワルドを見上げている。
私を見て!と言わんばかりのライラを丸っと無視したエドワルドは、ユスティアをエスコートし目の前を通り過ぎ階段を降りようとした。
え?なに?無視?こんなに可愛い私を無視するの?噓でしょ?
この手で何人もの男を手玉に取ってきたライラは、エドワルドの反応にただ衝撃を受け、何故?が頭の中で繰り返されていた。
そして出た結論が、ユスティアの所為・・・だった。
きっと自分の悪口を彼に吹き込んでいるのだと。
「待って!お姉さま!・・・・私を無視するなんて、酷いっ!!」
そう言ってわっと泣き崩れるライラに、ユスティアは冷たく一言。
「今、それ必要?」
「・・・・・え?」
「見ての通り、私にはお客様がみえていたの。そのお客様の前で、その失態をわざわざ今お見せしなきゃいけないのかしら?」
まるで虫けらでも見る様な眼差しで見下ろしてくるユスティアは、傾国並みの美貌も相まってかその冷たさが際立っていた。
流石のライラも「やりすぎたか」と身体を震わせる。
「あなたが学園で何を学び、どこが矯正されたのか今一つわからないけれど、幼い子供でもこんな我儘は言わないと思うわ。しかも、わざとお客様がいる目の前でね」
恥ずかしさと悔しさに、ライラの頬にカッと朱が走る。
「確か今日は、後継者教育の日よね?またさぼってきたのかしら?」
「さ、さぼったなんて人聞きの悪い!お姉さまはいつもそうやって私を悪者扱いするのよね!私は仲良くしたいと思っているのに・・・」
「悪者扱い?そうね、あなたを悪人だと思っているのは私ではなく、学園でのあなたの同級生と呼ばれる人達でしょうね」
―――な・・何でそっちに話が飛ぶわけ?
学園で何をしてきたのか思いっきり自覚がある為、ぎくりと震える。
当然、ユスティアに・・・というより、侯爵家にライラの行動すべてが報告されていた。
あの学園では、ごまかしも忖度も通用しない。ありのまま報告される。
そんな事など知らないライラは、家族がすべてを知っているなどと夢にも思わず、またもハラハラと涙をこぼした。
「酷い・・・・私をいじめて、そんなに楽しいの?お姉さま・・・」
絶妙な角度でエドワルドを見上げるライラに、ユスティアの声は呆れも嫌悪も通り越し、哀れさを滲ませていた。
「妄想もそこまでいけば、ある意味才能かしらね。そう言うのは部屋に戻って、誰にも迷惑かけないよう一人でやる事をお勧めするわ」
「っなにを・・・!」
未だ食いつこうとするライラに、ユスティアはまるで冷気をも発しているのではという眼差しでライラを見下ろした。
「これ以上、この家の恥を晒すのはおやめなさい。あなたは次期侯爵なのですから」
ぴしゃりと言い放つと、二人はようやく玄関へと向かうのだった。
「あら、ライラじゃない」
ユスティアは現れたのがライラとわかり、抱きしめるエドワルドの腕を安心させるように軽く叩いた。
「大丈夫?」「えぇ、ありがとう」そんな風に親し気に交わされるやり取りに嫉妬全開でユスティアを睨み付けるも、エドワルドがライラに顔を向けると可愛らしい笑顔を浮かべた。
「突然飛び出してはお客様に失礼よ」
呆れたように注意すると、ライラは大きな緑色の目に一瞬にして涙を浮かべ、悲しそうに両手で口元を押さえた。
そして、突然のように三文芝居が始まったのだった。
「ごめんなさい、お姉さま!私、お姉さまに会いたくて会いたくて・・・でも、お姉さまは私に会ってくれなくて・・・
寂しくて・・・こうしてお姉さまが出てこられるのを待っていたの・・・」
―――お姉さま、と連呼するライラに、これまで一度も呼ばれた事のない呼び名にユスティアは気持ち悪そうに腕をさすった。
まるで悲劇のヒロインの様にポロポロと涙をこぼす様は、贔屓目がなくても庇護欲を掻き立てる。
彼女の本性を知らない人は、コロッと騙されるのだろう。
学園でもこの手を使って、かなり引っ掻き回してきたようだから。
「お姉さまが私の事を嫌っているのはわかってます。でも私は学園で生まれ変わったの。
だからもう、無視するような意地悪はしないで!二人しかいない姉妹なのだから、仲良くしたいだけなの・・・・」
きらきらと涙に濡れるその瞳は、姉に訴えているはずなのに、隣のエドワルドしか見ていない。
何ら変わらないライラにユスティアは、思わず安堵してしまう。
だって、善人になっていたらこれからの事に罪悪感を感じてしまうもの・・・私が・・・
エドワルドの美貌も気に入ったのだろうが、きっとユスティアと親しげな彼を奪おうとしているのが手に取る様にわかり、安堵と失望に思わずため息をついてしまった。
そんなユスティアの溜息にもおびえるかのようにわざと身体をびくつかせ、すがる様にエドワルドを見上げている。
私を見て!と言わんばかりのライラを丸っと無視したエドワルドは、ユスティアをエスコートし目の前を通り過ぎ階段を降りようとした。
え?なに?無視?こんなに可愛い私を無視するの?噓でしょ?
この手で何人もの男を手玉に取ってきたライラは、エドワルドの反応にただ衝撃を受け、何故?が頭の中で繰り返されていた。
そして出た結論が、ユスティアの所為・・・だった。
きっと自分の悪口を彼に吹き込んでいるのだと。
「待って!お姉さま!・・・・私を無視するなんて、酷いっ!!」
そう言ってわっと泣き崩れるライラに、ユスティアは冷たく一言。
「今、それ必要?」
「・・・・・え?」
「見ての通り、私にはお客様がみえていたの。そのお客様の前で、その失態をわざわざ今お見せしなきゃいけないのかしら?」
まるで虫けらでも見る様な眼差しで見下ろしてくるユスティアは、傾国並みの美貌も相まってかその冷たさが際立っていた。
流石のライラも「やりすぎたか」と身体を震わせる。
「あなたが学園で何を学び、どこが矯正されたのか今一つわからないけれど、幼い子供でもこんな我儘は言わないと思うわ。しかも、わざとお客様がいる目の前でね」
恥ずかしさと悔しさに、ライラの頬にカッと朱が走る。
「確か今日は、後継者教育の日よね?またさぼってきたのかしら?」
「さ、さぼったなんて人聞きの悪い!お姉さまはいつもそうやって私を悪者扱いするのよね!私は仲良くしたいと思っているのに・・・」
「悪者扱い?そうね、あなたを悪人だと思っているのは私ではなく、学園でのあなたの同級生と呼ばれる人達でしょうね」
―――な・・何でそっちに話が飛ぶわけ?
学園で何をしてきたのか思いっきり自覚がある為、ぎくりと震える。
当然、ユスティアに・・・というより、侯爵家にライラの行動すべてが報告されていた。
あの学園では、ごまかしも忖度も通用しない。ありのまま報告される。
そんな事など知らないライラは、家族がすべてを知っているなどと夢にも思わず、またもハラハラと涙をこぼした。
「酷い・・・・私をいじめて、そんなに楽しいの?お姉さま・・・」
絶妙な角度でエドワルドを見上げるライラに、ユスティアの声は呆れも嫌悪も通り越し、哀れさを滲ませていた。
「妄想もそこまでいけば、ある意味才能かしらね。そう言うのは部屋に戻って、誰にも迷惑かけないよう一人でやる事をお勧めするわ」
「っなにを・・・!」
未だ食いつこうとするライラに、ユスティアはまるで冷気をも発しているのではという眼差しでライラを見下ろした。
「これ以上、この家の恥を晒すのはおやめなさい。あなたは次期侯爵なのですから」
ぴしゃりと言い放つと、二人はようやく玄関へと向かうのだった。
112
あなたにおすすめの小説
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない
天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。
だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる