それぞれの愛のカタチ

ひとみん

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ようやくライラから解放され、二人は馬車へと乗り込んだ。
ライト公爵家へと向かうためである。

「それにしても、聞きしに勝る令嬢だったね」
これまで一言も発しなかったエドワルドが、ユスティアを労わる様に抱きしめながら、感心したように呟いた。
「えぇ・・・想像をはるかに超えていたわ・・・・学園の教師陣の泣き顔が想像できる位に」
毎月送られてくる報告書は、ほぼ教師陣の泣き言だったことを覚えている。
それを読むたび、父親でもあるカーネルと共に、教師や被害をうけた生徒達に対する申し訳なさと、をどうしたらいいものか・・・と頭を抱えていたのだから。

疲れたように溜息を吐く愛しい婚約者を慰める様に、膝の上に抱き上げ頬にキスを何度も落とすエドワルド。
いつもであれば恥ずかしそうに抵抗するのだが、されるがままの愛しい人にエドワルドの愛は止まらない。
「あぁ・・・好きだよ、愛してる・・・早く結婚したい・・・」
キスの雨を降らせながら、まるで呪文の様に止まらない言葉に、流石にユスティアも恥ずかしくなりその口を手で覆った。
「ルド、恥ずかしいわ・・・・もう・・・」
「でも、嬉しいでしょ?」
「・・・嬉しいわよ・・・あなたが、あの女に心惹かれる事がなくて・・・」
ライラが戻ってから、何かとユスティアに絡もうとしていた事はわかっていた。
久しぶりに会ったライラは、中身はどうであれ母親でもあるキャロルにそっくりで、これまで以上に可憐な容姿をしていたから。
エドワルドの事は信用していたし、彼女の事をも話していたから、心移りするとは思っていなかった。

でも、とても不安だった・・・・
あの子、とても可愛らしくなっていたんだもの・・・・

一人自己嫌悪に浸るユスティアを、嬉しそうに抱き締めるエドワルド。
巷で言われる「永久凍土」は、ユスティアの前ではふやけたように愛に溺れる、ただの気持ちの重い男である。
エドワルドの目には、ユスティア以外の女性の顔など皆同じに見えていた。
ただ、父の後を継ぎ外交面を担当する関係上、義務的に人相を覚えているだけで、そこに気持ちなど一つもない。
仕事で多くの人と接する機会があるエドワルドに、ユスティアがいつも不安を感じている事はわかっていた。
その度に愛を囁くのだが、嫉妬してくれる彼女も可愛らしく、愛されているのだという実感をその身で甘受するのを止められない。
その美しい外見だけではなく、本当はお転婆な所や、負けん気が強いけれど人情味に溢れる彼女だからこそ、エドワルドは愛しているのだ。

それに、不安なのはユスティアだけではない。エドワルドは常にその危機に晒されている。
婚約は、ライラが婚約するまでは発表しない事になっていた。
というのも彼女の所謂、手癖の悪さは学園の生徒達から漏れ出ており、その噂は高位貴族の間でさざ波の様に静かに広がっていた。
そして、エドワルドもその標的になる事は簡単に想像できたから。
もしユスティアと婚約している事がばれれば、エドワルドではなくユスティアを標的にし、何を仕掛けてくるかわからない。
その対策の為に、三階のワンフロアをユスティアのみの居住区にし、公爵家の護衛を付けているのだ。

ただでさえ、美しいユスティアを手に入れようと、卑劣な手段を使ってくる男等を処理する事に忙しいのに。
身内が手引きをしたら、益々難しくなるじゃないか。
だけれど、彼女の髪の毛の一本たりとも誰かにくれてやるつもりはない。
あのバカな女、一生戻ってこなくてもよかったのに。この侯爵家だって僕達の子供等に継がせればいいだけの話しだ。
毒にしかならない女など、侯爵家の為にもならない。はなから必要無い存在じゃないか。

忌々し気に、うっすらとしか覚えていないライラの顔を思い浮かべるエドワルド。
彼が、ただ美しく優しいだけの人ではない事くらいユスティアも知っているが、まさか「消えちまえばいいんじゃね?」と軽く実行しようかどうか考えているなど知る由もない。

本当なら、ユスティアの視界にすら入れたくもないのだが、将来的にはそれも難しい。
ならば、何らかの鎖で繋いでしまえばいいのではないか・・・・物理的にも精神的にも。
ライラへの対策を練っている時に、ふと浮かんだその一言を何気なく口にしたエドワルド。

「それは良い考えね!」と、食らい付いたユスティア。
今までは、どうやって彼女を大人しくさせようか、遠ざけようか、としか考えたいなかったので、目から鱗が落ちた気分だった。
他人の物を欲しがるライラの性格を逆手に取れば、かなり有効になるのではと、ユスティアは考えた。

その計画の最終段階を詰める為に、二人はライト公爵家へと向かっているのだった。
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