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後日談 溺愛オメガは運命を織りなす
おまけのおまえ
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温泉から帰ってきて、慶斗とちょっとした喧嘩をした。
理由は実にくだらない。くだらなすぎて、口を滑らせてしまった自分を呪いたくなる。原因は俺。
不意に、そう、不意にだ。ふと昔グリズリーと心の中で呼んでいたことを白状してしまった。口に出してからしまったと思った。
黙り込んで、むすっとしている夫。
そりゃそうだ。
グリズリーなんて言われてうれしくない。
俺はまた余計なことにしてしまったと思い、すぐに謝った。ごめん。昔、好きな動物を聞かれたことがあるけど、それ、慶斗なんだとも白状した。
それでも慶斗はむすっとしたまますぐにペンライトの灯を消して眠った。
「……グリズリーはさすがにダメだよな。めちゃくちゃ怒ってるよな」
はあ……とまたしゃぼん玉みたいなため息がでる。
映画を観て、ごはんを食べて、お酒を飲んでキスをして、そのまま雪崩のようにベッドに押し倒される。
帰ってすぐなんてヒートでもないのに、朝からお互い求め合って気づいたら夕方だった。初夜をすっ飛ばしてしまうと、反動がこうも大きくなってしまうのか。と、思ってたのに……。
「と、とりあえずもう一度謝ろうかな」
ぐるぐるとシチューを混ぜながら、おたまを回す。鍋の中はたっぷり牡蠣シチューだ。使いきれなかった白菜の残りものの整理だ。俺の失態も一緒にぐつぐつ煮え滾らせて消したい。
「……ただいま」
すっと扉がひらいた。低い声と、のそりと大きな巨体の短髪黒髪がリビングにやってきた。
「お、おかえり。早かったね」
やっぱりグリズリーだとはさすがに言えない。
「ああ。事務所の人数が増えて、負担が減ったんだ」
「そっか。……ちょっと。いや、うれしいね」
「どうして?」
横にある洗面台で手を洗っている顔を上げ、スーツ姿の慶斗と目が合った。凛々しい顔にぽっと頬が桜色にそまる。
「い、一緒にいれるじゃん」
「……グリズリーだけどな」
「うっ」
ちろっと見られて、怯む。
責めている目だ。
「ま、俺もおまえのことさ……」
「へ?」
「いや、なんでもない」
のそのそと近づいて、鞄から空になった弁当箱を出して横から出される。慶斗が自分で詰めたやつだ。朝と昼は慶斗、夕方は俺が料理を担当している。
「あ、そうだ。弁当ありがとう」
「ああ。おまえの好物たくさんいれといた」
「卵焼きとレンコン挟み揚げ、とってもおいしかった。やっぱり慶斗のあまい卵焼きが一番おいしいね」
「またつくってやるよ」
うしろから長い手が伸びて、ぎゅっと抱きしめられた。
「……な、なんだよ。あ、今日は牡蠣シチューなんだ。牡蠣は亜鉛が多く含まれてて、体力がつくんだって」
「……無自覚もこうだとこわいな」
「へ?」
「べつに」
頬に触れるようなキスをされた。
後日、俺のことをトゲネズミと呼んでいたことがわかり、こっそりと弁当に桜でんぷんをまいて、ハートマークをたくさんつけてやった。事務所の増員分だけはずかしめを受けてもらう。
トゲネズミってなんだ、と訊いたら兄が飼っていたペットらしい。
ちなみにグリズリーが俺でよかった、と白状された。グリズリーのような男は誰なんだとむすむす妬いていたらしい。七年もだ。
笑ってしまった。
理由は実にくだらない。くだらなすぎて、口を滑らせてしまった自分を呪いたくなる。原因は俺。
不意に、そう、不意にだ。ふと昔グリズリーと心の中で呼んでいたことを白状してしまった。口に出してからしまったと思った。
黙り込んで、むすっとしている夫。
そりゃそうだ。
グリズリーなんて言われてうれしくない。
俺はまた余計なことにしてしまったと思い、すぐに謝った。ごめん。昔、好きな動物を聞かれたことがあるけど、それ、慶斗なんだとも白状した。
それでも慶斗はむすっとしたまますぐにペンライトの灯を消して眠った。
「……グリズリーはさすがにダメだよな。めちゃくちゃ怒ってるよな」
はあ……とまたしゃぼん玉みたいなため息がでる。
映画を観て、ごはんを食べて、お酒を飲んでキスをして、そのまま雪崩のようにベッドに押し倒される。
帰ってすぐなんてヒートでもないのに、朝からお互い求め合って気づいたら夕方だった。初夜をすっ飛ばしてしまうと、反動がこうも大きくなってしまうのか。と、思ってたのに……。
「と、とりあえずもう一度謝ろうかな」
ぐるぐるとシチューを混ぜながら、おたまを回す。鍋の中はたっぷり牡蠣シチューだ。使いきれなかった白菜の残りものの整理だ。俺の失態も一緒にぐつぐつ煮え滾らせて消したい。
「……ただいま」
すっと扉がひらいた。低い声と、のそりと大きな巨体の短髪黒髪がリビングにやってきた。
「お、おかえり。早かったね」
やっぱりグリズリーだとはさすがに言えない。
「ああ。事務所の人数が増えて、負担が減ったんだ」
「そっか。……ちょっと。いや、うれしいね」
「どうして?」
横にある洗面台で手を洗っている顔を上げ、スーツ姿の慶斗と目が合った。凛々しい顔にぽっと頬が桜色にそまる。
「い、一緒にいれるじゃん」
「……グリズリーだけどな」
「うっ」
ちろっと見られて、怯む。
責めている目だ。
「ま、俺もおまえのことさ……」
「へ?」
「いや、なんでもない」
のそのそと近づいて、鞄から空になった弁当箱を出して横から出される。慶斗が自分で詰めたやつだ。朝と昼は慶斗、夕方は俺が料理を担当している。
「あ、そうだ。弁当ありがとう」
「ああ。おまえの好物たくさんいれといた」
「卵焼きとレンコン挟み揚げ、とってもおいしかった。やっぱり慶斗のあまい卵焼きが一番おいしいね」
「またつくってやるよ」
うしろから長い手が伸びて、ぎゅっと抱きしめられた。
「……な、なんだよ。あ、今日は牡蠣シチューなんだ。牡蠣は亜鉛が多く含まれてて、体力がつくんだって」
「……無自覚もこうだとこわいな」
「へ?」
「べつに」
頬に触れるようなキスをされた。
後日、俺のことをトゲネズミと呼んでいたことがわかり、こっそりと弁当に桜でんぷんをまいて、ハートマークをたくさんつけてやった。事務所の増員分だけはずかしめを受けてもらう。
トゲネズミってなんだ、と訊いたら兄が飼っていたペットらしい。
ちなみにグリズリーが俺でよかった、と白状された。グリズリーのような男は誰なんだとむすむす妬いていたらしい。七年もだ。
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