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後日談 溺愛オメガは運命を織りなす
巣づくりの衣替え
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春うらら。
寒さもひかえめにひっこんで、温かくなってきたので衣替えをしている。クローゼットの扉を開けて、朝からこもって忙しい。袖がほつれたセーターに、染みができてしまった灰色のパーカー、それにズボンとスーツにコート。あと大量にあるワイシャツ。
いろいろと、もろもろと忙しい。
俺はこんもりと山になった服をせっせと畳みながら積み上げていく。これはダンボールに入れて、あれはケースにいれて、それとこれは……。
「……おい」
「へ?」
とっかえひっかえクローゼットから衣類をひっぱり出していると後ろから低い声がした。
「……おまえ、巣づくり用を確保してあるだろ」
「うっ」
振り返る。
おたまを持って腕組みをしながら、仁王立ちしているグリズリー、もといエプロン姿の夫がいた。ふうとため息をつくと、つかつかとこちらにやってきて屈む。そしてひょいっと服をつまんで取り上げられた。
「これはだめだ。捨てる」
「あっ……」
ぎろりと鋭い眼光を放って、手にしていたシャツを取り上げられた。
「これも」
「えっ……」
「これもだ。もう古いから捨てるぞ」
「えっ……、えっ……」
横にあったスラックスも、ボーダーのロンTも全て取り上げられる。棚にも視線を投げて、目星をつけられる。
「あれもだな」
「そ、そんな……」
「古いのは捨てる。買い替えしないとすごいことになるからな。断捨離だ」
「え、え……」
「……七海、大掃除に約束しただろう」
「でも……さ……、その……」
もじもじと俯いてしまう。そのあとの言葉がどうしても口から出てこない。
巣づくりができない。
その一言が、恥ずかしくて言えない。
「あのな、巣づくり用にもちゃんと残してあるんだ。いつまでも古くなった服を残すと、ぱんぱんになってクローゼットの扉が壊れるぞ」
「……でも、さ」
ぽろっと一粒でると、ぼろぼろと涙がこぼれた。あれもこれもずっとずっとそばにあったものだ。一部なのだ。俺の。こころのカケラだ。七年分の思い出がある。引っ越しをしながら、転々とついてきたやつもいる。
「……わるい。言い方が悪かったな」
「…………っ」
親指で膨らんだ涙をすくいとられる。
大げさだけど、それぐらいつらい。
本人を目の前にして申し訳ないが、巣づくりも大変なのだ。匂いを織りなして、安寧をつくっている自負がある。
断捨離なんてしたくない。でもあまりにも溜め込んでしまっているのはわかっている。新しい服よりも思い出のある服ばかり選んでしまっているのもよくない。でもすべて大切なのだ。
「……量より質っていうだろう。そんなに多くなくてもいいじゃないか」
「わかってる……」
なだめるような声だ。おこってないけど、言葉が見つからない。
「一枚だけ選ぶのはどうだ?」
「……」
「二枚とかどうだ?」
「……」
「……このままじゃクローゼットがはち切れる」
「……そんなのわかってる」
ぶるぶると震えるような声がでて、押し黙る。わかってる。でも手離したくない。離れたくない。
「……急に。……離れるのは、つらい」
「……そうだな」
「慶斗がいなくなりそうで、いやだ」
押し殺した声で言う。
「わるい。傷つけた」
もやもやとした雲が立ち込めて、雨がふりそうな沈黙が漂いそうなところで、インターホンが鳴り響いた。
「なんかきたな」
「お、俺がでる……」
「いや、俺がでる。泣き顔を見せたくない」
かるく唇をのせられ、慶斗がエプロン姿で玄関に向かった。そしてすぐに大きなダンボールを抱えて戻ってきた。
「お、大きいね」
「実家からだ」
「な、なんだろうね」
「……軽いな」
慶斗の実家は医者家系で、色々と送ってきてくれる。高級デパートにある果物だったり、お菓子だったりと非常にありがたい。
びりびりと梱包をとく。中からは菓子箱と学ランが入っていた。どうやら向こうでも断捨離中のようで、制服を送ってきたらしい。手紙に捨てるならそっちでお願いしますとのこと。
鴉のような黒の生地に、つやつやの金の釦が目に入る。
「……質がいいね」
「…………そうだな」
くんくんと俺の鼻が動いた。
この一枚とダンボール二箱を交換して、我が家に平和が戻った。重くなった箱を軽々と持ち上げる慶斗に声をかける。
「これ、さ……」
言いかけた言葉を遮って、ぎろっと睨まれる。口の端は上がっている。
「着ないからな」
「バレたか」
「ばか」
春の嵐が無事に通り過ぎた。
寒さもひかえめにひっこんで、温かくなってきたので衣替えをしている。クローゼットの扉を開けて、朝からこもって忙しい。袖がほつれたセーターに、染みができてしまった灰色のパーカー、それにズボンとスーツにコート。あと大量にあるワイシャツ。
いろいろと、もろもろと忙しい。
俺はこんもりと山になった服をせっせと畳みながら積み上げていく。これはダンボールに入れて、あれはケースにいれて、それとこれは……。
「……おい」
「へ?」
とっかえひっかえクローゼットから衣類をひっぱり出していると後ろから低い声がした。
「……おまえ、巣づくり用を確保してあるだろ」
「うっ」
振り返る。
おたまを持って腕組みをしながら、仁王立ちしているグリズリー、もといエプロン姿の夫がいた。ふうとため息をつくと、つかつかとこちらにやってきて屈む。そしてひょいっと服をつまんで取り上げられた。
「これはだめだ。捨てる」
「あっ……」
ぎろりと鋭い眼光を放って、手にしていたシャツを取り上げられた。
「これも」
「えっ……」
「これもだ。もう古いから捨てるぞ」
「えっ……、えっ……」
横にあったスラックスも、ボーダーのロンTも全て取り上げられる。棚にも視線を投げて、目星をつけられる。
「あれもだな」
「そ、そんな……」
「古いのは捨てる。買い替えしないとすごいことになるからな。断捨離だ」
「え、え……」
「……七海、大掃除に約束しただろう」
「でも……さ……、その……」
もじもじと俯いてしまう。そのあとの言葉がどうしても口から出てこない。
巣づくりができない。
その一言が、恥ずかしくて言えない。
「あのな、巣づくり用にもちゃんと残してあるんだ。いつまでも古くなった服を残すと、ぱんぱんになってクローゼットの扉が壊れるぞ」
「……でも、さ」
ぽろっと一粒でると、ぼろぼろと涙がこぼれた。あれもこれもずっとずっとそばにあったものだ。一部なのだ。俺の。こころのカケラだ。七年分の思い出がある。引っ越しをしながら、転々とついてきたやつもいる。
「……わるい。言い方が悪かったな」
「…………っ」
親指で膨らんだ涙をすくいとられる。
大げさだけど、それぐらいつらい。
本人を目の前にして申し訳ないが、巣づくりも大変なのだ。匂いを織りなして、安寧をつくっている自負がある。
断捨離なんてしたくない。でもあまりにも溜め込んでしまっているのはわかっている。新しい服よりも思い出のある服ばかり選んでしまっているのもよくない。でもすべて大切なのだ。
「……量より質っていうだろう。そんなに多くなくてもいいじゃないか」
「わかってる……」
なだめるような声だ。おこってないけど、言葉が見つからない。
「一枚だけ選ぶのはどうだ?」
「……」
「二枚とかどうだ?」
「……」
「……このままじゃクローゼットがはち切れる」
「……そんなのわかってる」
ぶるぶると震えるような声がでて、押し黙る。わかってる。でも手離したくない。離れたくない。
「……急に。……離れるのは、つらい」
「……そうだな」
「慶斗がいなくなりそうで、いやだ」
押し殺した声で言う。
「わるい。傷つけた」
もやもやとした雲が立ち込めて、雨がふりそうな沈黙が漂いそうなところで、インターホンが鳴り響いた。
「なんかきたな」
「お、俺がでる……」
「いや、俺がでる。泣き顔を見せたくない」
かるく唇をのせられ、慶斗がエプロン姿で玄関に向かった。そしてすぐに大きなダンボールを抱えて戻ってきた。
「お、大きいね」
「実家からだ」
「な、なんだろうね」
「……軽いな」
慶斗の実家は医者家系で、色々と送ってきてくれる。高級デパートにある果物だったり、お菓子だったりと非常にありがたい。
びりびりと梱包をとく。中からは菓子箱と学ランが入っていた。どうやら向こうでも断捨離中のようで、制服を送ってきたらしい。手紙に捨てるならそっちでお願いしますとのこと。
鴉のような黒の生地に、つやつやの金の釦が目に入る。
「……質がいいね」
「…………そうだな」
くんくんと俺の鼻が動いた。
この一枚とダンボール二箱を交換して、我が家に平和が戻った。重くなった箱を軽々と持ち上げる慶斗に声をかける。
「これ、さ……」
言いかけた言葉を遮って、ぎろっと睨まれる。口の端は上がっている。
「着ないからな」
「バレたか」
「ばか」
春の嵐が無事に通り過ぎた。
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