元救急医クラリスの異世界診療録 ―今度こそ、自分本位に生き抜きます―

やまだ

文字の大きさ
51 / 70
第二章

第21話 あの日の声

しおりを挟む



広間に足を踏み入れた瞬間、クラリスの視界に、正面に座るシュヴァンの姿が飛び込んできた。

いつものように余裕ある笑みを浮かべ、グラスに口をつけている。

その隣には、色黒で、派手なアクセサリーをじゃらじゃらと身につけた、いかにも他国の王子といった風体の男が、どこか気だるげな笑みを浮かべ腰掛けていた。

(はぁ……シュヴァン王子、今日もめろい……グラスになりたい……)

思わず頬を押さえかけて、

(違う、そうじゃない!!)

クラリスは我に返る。

(ワタンボ解体は……!?)

慌てて視線を巡らせると、広間の中央には、大きな包丁を布で拭く料理人の姿と、ワタンボらしきものの残骸が無造作に置かれていた。

——終わっている。

嫌な予感に、喉がひくりと鳴る。

改めて周囲を見ると、奥の二人の王子を中心に、両脇へとずらりと席が設けられ、その間を縫うように、メイドたちが忙しなく皿を運んでいる。

(もう……配ってる……)

クラリスの背に、冷たい汗が伝った。

(ど、どうしよう……全員のお皿のアメーバを消すことはできない。そんなに発動したら、わたしが倒れるし、発動の光で誰かに気づかれかねない……)

『いいか。魔法を使っていることを、向こうに悟られるな。外交問題になりかねん』

聞いたばかりのルスカの忠告が、頭の中で何度も鳴り響く。

(誰を助けるか、決めなきゃ……!普通に考えたら、立場的にシュヴァン王子、だけど、他の人たちだって……!)

隣の男と何か言葉を交わすシュヴァン王子。
談笑する貴族らしき大勢の人々。

(誰を助けるか、選ばないと……!)

指先が冷たくなっていく。

『先生……!!』
『お願い……!おねがいですから……!!』

どこか遠くで響くいつかの日の声。
まるで喉が細くなったように、息が吸いづらくなっていく。

(どうしよう……誰から、誰を……!!)

目の前が白く染まっていく、その時。

「おい!そこのメイド!」

近くに座る貴族に声をかけられ、クラリスははっと我にかえった。

「は、はい!」

尊大に腰掛ける貴族は、空になったグラスを無言で掲げた。

クラリスは慌てて近づきワインクーラーからボトルを取り出し、注ぐ。

(……そうだ、いまはあの時じゃない……)

広間の中央奥、シュヴァンをちらりと見る。
ワタンボが全員に配膳されるのを待っているようだった。

(全員を助けることなんて、できない。けれど、シュヴァン王子になにかあれば、外交問題、即ち戦争!!)

クラリスは貴族の後ろから小さく手を合わせた。

(あなた方になにかあれば、私が治します。ですからお許しください。……そのアルコールでアメーバ死ぬかもですから。さあ飲んで飲んで)

きっと顔を上げると、シュヴァンを正面から捉えられる位置へと移動していく。

(発動の光がわからないようこのランプの下で、ここからなら……!)

位置を調整し、視線を上げた、その瞬間。

シュヴァンが、フォークに刺したワタンボを、
いままさに口へと運んでいた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

処理中です...