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第二章
第21話 あの日の声
しおりを挟む広間に足を踏み入れた瞬間、クラリスの視界に、正面に座るシュヴァンの姿が飛び込んできた。
いつものように余裕ある笑みを浮かべ、グラスに口をつけている。
その隣には、色黒で、派手なアクセサリーをじゃらじゃらと身につけた、いかにも他国の王子といった風体の男が、どこか気だるげな笑みを浮かべ腰掛けていた。
(はぁ……シュヴァン王子、今日もめろい……グラスになりたい……)
思わず頬を押さえかけて、
(違う、そうじゃない!!)
クラリスは我に返る。
(ワタンボ解体は……!?)
慌てて視線を巡らせると、広間の中央には、大きな包丁を布で拭く料理人の姿と、ワタンボらしきものの残骸が無造作に置かれていた。
——終わっている。
嫌な予感に、喉がひくりと鳴る。
改めて周囲を見ると、奥の二人の王子を中心に、両脇へとずらりと席が設けられ、その間を縫うように、メイドたちが忙しなく皿を運んでいる。
(もう……配ってる……)
クラリスの背に、冷たい汗が伝った。
(ど、どうしよう……全員のお皿のアメーバを消すことはできない。そんなに発動したら、わたしが倒れるし、発動の光で誰かに気づかれかねない……)
『いいか。魔法を使っていることを、向こうに悟られるな。外交問題になりかねん』
聞いたばかりのルスカの忠告が、頭の中で何度も鳴り響く。
(誰を助けるか、決めなきゃ……!普通に考えたら、立場的にシュヴァン王子、だけど、他の人たちだって……!)
隣の男と何か言葉を交わすシュヴァン王子。
談笑する貴族らしき大勢の人々。
(誰を助けるか、選ばないと……!)
指先が冷たくなっていく。
『先生……!!』
『お願い……!おねがいですから……!!』
どこか遠くで響くいつかの日の声。
まるで喉が細くなったように、息が吸いづらくなっていく。
(どうしよう……誰から、誰を……!!)
目の前が白く染まっていく、その時。
「おい!そこのメイド!」
近くに座る貴族に声をかけられ、クラリスははっと我にかえった。
「は、はい!」
尊大に腰掛ける貴族は、空になったグラスを無言で掲げた。
クラリスは慌てて近づきワインクーラーからボトルを取り出し、注ぐ。
(……そうだ、いまはあの時じゃない……)
広間の中央奥、シュヴァンをちらりと見る。
ワタンボが全員に配膳されるのを待っているようだった。
(全員を助けることなんて、できない。けれど、シュヴァン王子になにかあれば、外交問題、即ち戦争!!)
クラリスは貴族の後ろから小さく手を合わせた。
(あなた方になにかあれば、私が治します。ですからお許しください。……そのアルコールでアメーバ死ぬかもですから。さあ飲んで飲んで)
きっと顔を上げると、シュヴァンを正面から捉えられる位置へと移動していく。
(発動の光がわからないようこのランプの下で、ここからなら……!)
位置を調整し、視線を上げた、その瞬間。
シュヴァンが、フォークに刺したワタンボを、
いままさに口へと運んでいた。
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