3 / 4
第三話 もう、うんこはつかない
しおりを挟む「……お前、よくこんな本で人を呪おうと思ったな」
大きなため息から始まったの。
サクさんが言うには、
『呪いは一歩間違えれば、己にふりかかる』
だそう。
たしかにわたしにふりかかる、というか踏んでいたわ。
「でもわたし、きちんと本を読んで本の通りにしたわ」
「この本はダメだ。術者自身が呪われるように設計されてる」
サクさんが出したのは古びた紙。
「な、なにこれ……」
なかにはわからない文字がびっしり。
「古代文字だ。覚えろ。話はそれからだ」
めまいがするわね……
でも。
『本日を持って、貴殿との婚約を解消します』
今思い出しても腹が立つ!
絶対、絶対、絶対うんこ、踏ませてみせる!
「わたし、やるわ!!」
それから、わたしの毎晩の秘密の特訓が始まったの。
そうして何日も、何週間も経って。
「ねえサク。これは?どういう意味?」
「ああ、これは……」
わたしは秘密の特訓が楽しみになってた。
だって彼、教えるのも上手いし、あんなに嫌そうだったのに、毎晩必ずきてくれるの。
それに、
「あなたって顔がいいんだから、呪いなんかしてないで恋愛でもしてた方がいいわよ」
「おまえもな」
なんだか話してて心地がいいの。
それに、なんだかたまに、なんというのかしら、とっても優しい目をしてるの。
きっと悪い人じゃないのよ。
「……早く踏ませられるといいな。うんこ」
「ええ!」
わたしたち、すっかり仲良しになったの。
失恋の痛みが、薄れるほどに。
勉強会は毎日毎日深夜だから、昼間は眠くて仕方がないけれど、それも気にならないほどに。
そして、とうとうその日はやってきた。
「いよいよだな。準備は、いいか」
「ええ!完璧よ!」
わたしは打ち合わせどおり、サクが描いた魔法陣の真ん中に立った。
それにしてもすごい魔法陣。
本来うんこ踏ませるのに、こんな装備が必要だったのね……。
「お前はよくがんばった。この秘密の特訓も、これで終わりだな」
サクはわたしの頭を撫でる。
彼の嬉しそうな顔、初めてみたわ。
なぜか胸がどくんと鳴る。
終わったら、この秘密の夜も、終わりなのかしら。それはなんだか、寂しいわ。
「……終わっても、また来てくれる?」
「……ああ。ずっと」
サクは魔法陣から出ると、頷く。
やっとよ。やっと、彼にうんこ踏ませられる。
大きく深呼吸。
わたしは、サクの用意してくれた古代文字の羅列の紙を、読み上げ始めた。
その時。
「アリア!!ダメだ!!」
バァンと大きな音がしてドアが開いて、そこにいたのは……
「え?プランス!?」
剣を構えた元婚約者の姿。
後ろにはシアンもいる。
そのままプランスはまっすぐ走ってきて、わたしは抱えられた。
プランスの後ろから何人もの人が入ってきて、サクを囲んで、彼は見えなくなった。
「こいつは我が家が追放した呪い師の一族だ!きみを、狙ってる!」
「そ、そんなこと、あるはずがないわ!サクは、口は悪いけど優しいわ!あなたこそ、わたしを捨てたくせに!」
いけない、涙が。
彼の前でなんて、泣きたくなかったのに。
「そんなことしていない!」
「嘘よ!手紙送ってきたじゃない!婚約破棄するって!」
「家同士の婚約が、手紙一つで破棄なんてされるわけがないだろう!」
……それもそうね。おかしいとは思ったのよ。
「それに、僕は君を心から愛してるんだ。婚約破棄などしない!」
「へ……?」
顔が熱くなってきた。
こんな、大勢の前で……!恥ずかしいわ……!
でも。
「じゃあ、あの手紙は……?」
わたしがそう漏らした時。
サクが片手を上げた。
「!なにか仕掛けるぞ!やれ!」
プランスの一声で、彼を囲む大勢の人が剣を振り上げ……
「やめて!」
一気に突き刺した。
「いやーーっ!!!」
だんだん頭が真っ白になっていく。
なにがなんだか、わからない。
ただ、目の前が白く包まれていくなか、鳥が羽ばたく音だけが聞こえた。
それからわたしは何日も眠っていたらしい。
それはそうよね。
あんなに毎晩起きていたんだもの。
目を覚ましたわたしに、プランスも、シアンも何度も謝ってきたわ。
サクは死んだ。
それだけは、誰に聞いても同じだったし、どうして死んだのか、なにをしたかったのかもわからない。
けれどわたしは、彼に教わった文字を、今も忘れない。
あの優しい目は、傷つけようとしている人の目ではなかった。
わたしは、来月結婚式を挙げる。
もう彼の靴にも、わたしの靴にもうんこはつかない。
2
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
【完結】光の魔法って、最弱じゃなくて最強だったのですね!生きている価値があって良かった。
まりぃべる
恋愛
クロベルン家は、辺境の地。裏には〝闇の森〟があり、そこから来る魔力を纏った〝闇の獣〟から領地を護っている。
ミーティア=クロベルンは、魔力はそこそこあるのに、一般的な魔法はなぜか使えなかった。しかし珍しい光魔法だけは使えた。それでも、皆が使える魔法が使えないので自分は落ちこぼれと思っていた。
でも、そこで…。
婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました
鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」
十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。
悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!?
「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」
ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。
『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
隣国の王族公爵と政略結婚したのですが、子持ちとは聞いてません!?
朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
「わたくしの旦那様には、もしかして隠し子がいるのかしら?」
新婚の公爵夫人レイラは、夫イーステンの隠し子疑惑に気付いてしまった。
「我が家の敷地内で子供を見かけたのですが?」と問えば周囲も夫も「子供なんていない」と否定するが、目の前には夫そっくりの子供がいるのだ。
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n3645ib/ )
【完結済】呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。
まりぃべる
恋愛
異世界に来てしまった女性。自分の身に起きた事が良く分からないと驚きながらも王宮内の問題を解決しながら前向きに生きていく話。
その内に未知なる力が…?
完結しました。
初めての作品です。拙い文章ですが、読んでいただけると幸いです。
これでも一生懸命書いてますので、誹謗中傷はお止めいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる