素晴らしい世界から脱却を

秋霧ゆう

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第24話 彼方へ

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 それから毎日拓海はログインしていた。
 21時だったり、23時だったり、もっと遅く2時だったり。時間はまちまちだったが必ずソードはログインしていた。
 2人は一緒に話したりモンスター倒したり楽しい日常を送っていた。
 だが、拓海は少し心配していた。どの時間に入っても必ずソードがいるからだ。試しに、朝の6時や昼の14時とかにインしてみた。その時間もソードは居た。

「なぁ、ソード。お前ちゃんと休んでるか?」
「ん?あぁ、休んでるけど」
「俺が入るタイミング、必ずソードはインしてるだろ。ちゃんと現実世界に帰って休んでるのか?」
「…。当たり前だろ!!何言ってんだよ」
「そう、だよな。変なこと疑ってごめんな」

 そして、あの約束から1週間が経った。

「なぁ。ゴリラエンジン。俺さこのゲーム辞めようと思うんだ」
「え?」
「だから先週、ゴリラエンジンにこれから1週間インしてくれてって頼んだんだ」
「…そっか」

 これはゲームだ。
 辞める人は辞める。それは仕方のないこと。

「じゃあ、元気でな」
「あぁ。それでさ、最後に俺の、俺自身の話を聞いてもらいたいんだ」
「ん?別に、良いけど」

 それからソードは淡々と話し始めた。

「俺の家は剣道一家として結構有名で。父さんも母さんも兄ちゃんも姉ちゃんも沢山結果を出してて、俺は全然結果が出せなくて、凄いプレッシャー感じてて…。兄ちゃんや姉ちゃんは人それぞれ得意不得意あるし俺のペースで平気って慰めてくれてたけどそれが余計に辛くて」
「うん」
「父さんは厳しい人でさ、何でお前は出来ないんだって毎日怒鳴られて、それがどんどんストレスになって、練習に行かなくなって、そしたら父さんは部屋に乗り込んできて殴られて母さんが止めて、家の関係が悪くなって」
「…」
「兄ちゃんや姉ちゃんは気にするなって言ってくれたけど気にしないなんて無理だし、気づけば引きこもりになってた」

 拓海は下手なことは言わずにひたすらソードの話を聞き続けていた。

「そんな時たまたま見つけたんだ。部屋でアプリゲームしてたら広告が流れてきて、【美しい世界は身を滅ぼす Beautiful World Online】って。どういう意味なんだろうって父さんにバレないようにゲーム機買いに行って、プレイしてみたらめちゃくちゃ綺麗に見えて、周りはクソゲーとか言ってたけど俺はこんなに世界が美しいと思ったの初めてだった」
「うん、分かる」
「ハハッ。でさ、大運動会初日にゴリラエンジンと約束してたじゃん」
「お前来なかった時な」
「うん。あの時、父さんにゲーム機バレて、怒られて取り上げられてイン出来なかったんだ。ごめんな」
「…そう、だったんだ」
「でもその後すぐに取り返したから問題ないけどな。部屋も鍵つけたし!」
「そっか」
「父さんは俺を怒鳴りたくても部屋には入れなくなったってわけ」
「うん」
「それで俺は父さんが出かけてる間とか剣道の稽古中とか会わなくてすむ時だけ部屋から出てた。そしたら聞いちゃったんだ。稽古部屋の近くを通った時に父さんが、『なんであいつはあんなに出来損ないなんだ』とか『あんなゴミを育てた覚えはない』とか。それで母さんが怒ってまた関係が悪化してどうしたらいいか分かんなくなって、そんな時にサタンさんに出会って色々話聞いてもらって」
「うん」
「サタンさん、本当は俺達と初めて会った日を最後に辞めようとしていたらしい。でも俺の事が心配で続けてくれたんだって」
「へぇ」
「ナナさんが言ってた」
「優しい人なんだな」
「うん。本当に良い人だった。俺はかなり復活出来たと思う。だからこそ、サタンさんが居なくなってゴリラエンジンとも音信不通になった時は結構寂しかったな」

 その瞬間、ソードの体、声がおかしくなり 始めた。正常ではなくバグが起きた時のような。

「そろそろ時間かな」
「え?」

 ソードは立ち上がった。

「なぁ、ゴリラエンジン。握手してくれないか」
「あぁ。別に良いけど」

 2人は握手を交わした。

「最後にもう1つ。俺の本名。ゴリラエンジンには覚えておいてほしい」
「は?」
「…彼方。剣崎彼方。それが俺の名前。今までありがとう。お前のおかげで楽しかったって思える人生だった」


 そして、目の前からソードが消えた。
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