愛しの君へ

秋霧ゆう

文字の大きさ
9 / 62
第1章

第7話 部長会議

しおりを挟む
 部長会議の日がやってきた。
 バタバタと走りながら教室にやってきた旭と蒼。

「失礼しまーす」
「失礼します」

 教室に入ると、39部の『部長』、『生徒会長』『副会長』『生徒会書記』という威厳を持つ42人が待ち構えていた。

「遅い!」
「すみません。ホームルームで副担任の話が長引いてしまって」
「副担任は誰だ」
「小林先生です」
「…それは、仕方がない」

 小林先生は旭達の副担任であるが、話が長いと有名なのである。
 45分の授業のうち、25分は関係のない話をし必ず授業が延長する。
 まぁ、今回は関係がないので小林先生の話はここまでにしよう。

「じゃあ2人はそこに座って」
「はい」
「それでは、今年度1回目の部長会議を始めます。今回の議題は来月の体育祭について」

 生徒会長が会議を進める。
 
「妖精部部長の九条君、副部長の桐生君は初めての会議、初めての体育祭になるので今日は軽く聞いて参加していて下さい」
「はい」
「体育祭の種目については各クラスで話すと思うので、この会議で行うは体育祭で1番盛り上がる部活対抗リレーです。部活対抗リレーでは毎年200mを4人で走ります。ただ走るだけでは面白くないため、バトンをバットやボールにしたりユニフォームで走ったり各部活それぞれの良さ、面白さで競技を行います。基本的には昨年と一緒で良いと思うけど皆はどう思う?」
「はい」
「吹奏楽部」

 吹奏楽部部長・江田が手を上げる。

「はい。毎年フルートを持って走ってるけど、指揮棒にチェンジしたい」
「うーん、そうするとオーケストラ部と被るんだよな」
「そんなこといったら美術と書道は筆なんだし一緒だろ」
「違いますー、全然違いますー。江田は目が悪いんですかー?」
「はぁ?テメェやんのか?」
「上等だ」
「待って待って、落ち着いて」

 吹奏楽部部長と美術部部長が喧嘩を始めそうになるもすぐに仲介に入る生徒会長。

「分かった。指揮棒で良いよ。でも吹奏楽部って分かる服装走ること」
「あー部活Tとか?」
「うん。そうだね。そうしよう」
「了解」
「オーケストラ部も服を変えることは出来る?」
「こちらも部活Tシャツでいいか?」
「もちろん」
「それならば良い」
「良かった。じゃあ、他に何かある人」
「はい」
「陸上部」
「はい、毎年陸上部ハードルなんだけどさすがにキツいから変えてほしい」
「でも陸上部と他の部活で公平にするにはハードルが一番なんだよね」
「短距離の選手以外にするとか?」
「それは短距離差別だ」
「うーん。じゃあどうするか」

 全員3年ということもあるが、遠慮なく意見を言い合う状況に旭と蒼は見てることしか出来なかった。そんな時、

「九条君、桐生君、君たちはどう思う?」
「え?」
「君たちだって部長・副部長という立場でここにいる。意見を言う権利を持っているんだよ」
「えっと、…高飛びの棒とか?」
「いいかもね」
「でも危ないんじゃない?」
「危ない?」
「うん。高飛びの棒を持って走るってことは絶対に邪魔になるし後ろを走る選手に危険が及ぶ」
「そっか。貴重な意見をありがとう、九条君」
「あの」
「桐生君、どうぞ」
「陸上部は1番外側のレーンにして、内側に入っちゃいけないってのはどうですか?」

 1レースで走る人数は10人。内側に入れないとなると陸上部は結構辛い。

「…うん。良いね!」
「それなら危険はないし平等に走れるかもな」
「それでいいかい、陸上部」

 陸上部部長の顔は少し険しくなる。しかし、これを断れば次はどんな難題がくるか分かったもんじゃない。

「…ハードルに比べたら優しいもんだ。ありがとな、桐生」
「ははは、はい」
「吹奏楽部、陸上部と終わって他にある部は?」

 手を上げる人は居なかった。

「うん。それじゃあ、今回の本題。新しく創設された部、妖精部はどうするか。山田先生からはオカルト雑誌でと言われてるけど。皆はどう思う?」
「お前らの部活って妖精部って言うけど実際は妖精を探す部なんだろ。妖精のコスプレして走れば」
「嫌です」
「なんで?」
「それは、恥ずかしいから…」
「乙女か!」
「うん。でも今回はオカルト雑誌でいいんじゃないかな。1年目だし、最初の体育祭は楽しくあってほしいからね」
「じゃあ来年はコスプレな」
「えっ?」
「他に何かある人ー」

 淡々と会議を進める生徒会長。

「無い、みたいだね。じゃあ、」
「いやいやいや来年はコスプレっすか?」

 生徒会長は旭の顔を見てニコッと笑った。
 その後手を1回叩く。

「それじゃあ、今日の会議はここまで。皆、お疲れ様」

 次々に教室を出ていく各部長と生徒会役員。旭が戸惑っていると生徒会長が旭と蒼の元へやってきた。

「お疲れ様。初めての会議どうだった?」
「あぁ。そう、っすね」

 来年はコスプレ姿で走らなければいけない。旭は嫌すぎて微妙な顔をしている。
 そんな旭に対し生徒会長は言った。

「…来年のことは来年の部長達で決めたらいいよ。今年は今年で楽しんでもらいたいからね。それから、意見をくれてありがとう」
「でも俺、高飛びの棒とか、蒼に比べて全然良い意見出せなくて」
「いいや。あんなにパッと意見を出してくれて助かったよ。吹奏楽部の江田君とか君たちも知ってる園芸部の花井君とか最初は全く喋れなかったからね。漫研の小鳥遊君に至っては未だに存在感を消して指されないようにしてるから、意見をくれるのはすごい助かるんだ。だからありがとう。それに君たちはまだ1年生だ。これからこれから」
「はい。ありがとうございます」
「うん。それじゃあね」

 教室を出てそのまま帰宅する旭と蒼。

「生徒会長、良い人だったね」
「だな」

 そんな会話をしながら家路に着いた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

処理中です...