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第1章
第13話 夏休み・夏祭り
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アパートと海の家を行き来する日々は、今日で終わりとなる。
「いいかい。今日が最後の稼ぎ時だよ。手を抜いたら許さないよ」
「はい」
そしてお決まりの会話がスタートする。
「ねぇねぇ、お兄さんたち今夜どう?」
「お祭りがあるの。一緒に行かない?」
などなど。その度に、
「すんません。もう約束してて」
「え~残念」
そう。バイト初日にお姉さんと約束した。
そして、このお姉さんは旭と蒼が過ごすアパートの隣の部屋に住んでいた。
1週間前、
「飲みすぎたぁ」
と汚ねぇ声をだすお姉さんは2人が暮らしている部屋の扉の前で俯いて座っていた。
「あれ?あんた…」
「あ?」
その瞬間ハッとしたようにお姉さんは立ち上がり、
「あれ?こんなところでどうしたの?」
声高らかに返事をするお姉さん。
「いやどうしたもなにも、俺たち今ここを借りてて」
「ここはうちよ」
「いや…」
「え?」
お姉さんは部屋の番号を確認し、間違えていることに気づき、部屋へと急ぎ足で帰って行った。
3時間後、お姉さんは酔いが覚めたようでコンビニで高いアイスを買って家を訪ねてきた。
「さっきはごめんなさい」
「いえいえ、大丈夫っすよ」
「お願い。お祭りの件、無かったことにしないで」
「大丈夫っす!しません!俺たちも楽しみにしてるんで」
そんな訳で、今日のバイトが終えたらお姉さんとの夏祭りが待っている。
蒼はいつも通りクールに、ただ最終日ということもあって少しサービスして女性にお金を落としてもらっていた。
旭はお姉さんが沢山声をかけてくれ、もしかしたらがあると思い燃えていた。
暁はそんな旭を見て溜息をした。
そして、最終日もなんとか乗り切った。
「ほら、給料だよ」
女性と沢山話したから減引きされていると思っていたがばばあは案外優しく、減引きはされていなかった。
「松代さん、良いの?」
「まぁね、うちの店があんなに繁盛してたの久しぶりに見たし。それは2人の力があってこそだからね」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
「あの1つだけ聞きたいことがあって、2日目とかに泣いていたじゃないですか。あれは何があったんですか?」
「今言った通りだよ。うちはずっと2人で営業していたんだけどね、歳のせいもあってかお客さんはどんどん隣の若いのがいるお店に取られてしまう。もう店じまいかと思ってたんだ。今年は最後にする予定で、バイトを雇ってあんたらが来た。そしたら、売れる売れる。とにかく売れる。あんたらのおかげだ。ありがとう」
「じゃあ、もう海の家やらないんすか?」
「何言ってんだい。やるよ」
「やるの!?!?」
「だからね、あんたら来年と再来年と来てくれるかい?」
「はいっす」
「え、旭?」
「なんだい、来ないのかい」
「はぁ、来ますよ。また」
「そうかい」
ばばあは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、今日のお祭り楽しんでおいで」
「はい」
2人が立ち去ろうとするとじじいが2人を止めた。
「せっかくの夏祭り。良かったらだけど、この浴衣着てってはくれないか?」
「こんなじじくさいやつ着ないだろ」
「いいんすか!」
「ありがとうございます」
「着るのかい!?」
そんな会話をし、浴衣を着させてもらい、お姉さんとの待ち合わせ時刻となった。
「わぁ。カッコイイね!」
「お姉さんも綺麗っすね」
「もう、お姉さんじゃなくて、由香里って呼んで」
「は、はい」
「もう行きますか?」
「待って、もう1人友達が来るの」
「お待たせー」
身長150cmの小柄な女性が来た。
「ごめんね、お待たせ。千夏っていいます」
この女性に旭は一目惚れした。暁はそれを感じとる。
旭と千夏を邪魔するように飛び回っている。
「うん!それじゃ行こっか」
「はい!」
旭は千夏に質問攻めをしている。この辺に住んでるのか、大学はどこか、好きな食べ物は何かなど。
「旭君はちーちゃんにメロメロだね」
「そう、っすね」
「蒼君は好きな子いないの?」
「いません」
「私、とかどう?」
「すみません」
「あはは、即答」
祭り会場へ着き、由香里がある提案を出す。
「この後花火が上がるまで、別行動にしない?」
「別行動っすか?」
「うん。私と蒼君。ちーちゃんと旭君」
「良いっすね!!」
嬉しそうな表情を見せる旭。それに嫉妬する暁。
旭と千夏は楽しそうに屋台を回った。
「千夏さん、何食べたいっすか?」
「う~ん。りんご飴とやきそば!」
「やきそばっすか?俺実は海の家でずっと焼いてたんすよ」
「そうだったんだ~」
そんな2人の姿を少し後ろから見つめてた暁が言葉を漏らす。
「何でそんな嬉しそうなんだよ…」
「暁、俺の恋を見届けてくれよ」
暁にコソコソと伝え、暁の傍を離れ、千夏の元へ駆け寄る。
「旭のギルの馬鹿ぁ」
泣きそうな表情で旭から離れる。
暁が自分から旭の傍を離れるのはこれが初めてのことだ。
その様子を遠目で見ていた蒼は、それとなく由香里と別れ、暁の元へと向かった。
「なんだよ、着いてきてほしいのはお前じゃない」
見えない聞こえない設定の蒼は暁に何も言わず着いていく。
神社の裏手。誰も来ないこの場所で、蒼は暁に語り始める。
「いいかい。今日が最後の稼ぎ時だよ。手を抜いたら許さないよ」
「はい」
そしてお決まりの会話がスタートする。
「ねぇねぇ、お兄さんたち今夜どう?」
「お祭りがあるの。一緒に行かない?」
などなど。その度に、
「すんません。もう約束してて」
「え~残念」
そう。バイト初日にお姉さんと約束した。
そして、このお姉さんは旭と蒼が過ごすアパートの隣の部屋に住んでいた。
1週間前、
「飲みすぎたぁ」
と汚ねぇ声をだすお姉さんは2人が暮らしている部屋の扉の前で俯いて座っていた。
「あれ?あんた…」
「あ?」
その瞬間ハッとしたようにお姉さんは立ち上がり、
「あれ?こんなところでどうしたの?」
声高らかに返事をするお姉さん。
「いやどうしたもなにも、俺たち今ここを借りてて」
「ここはうちよ」
「いや…」
「え?」
お姉さんは部屋の番号を確認し、間違えていることに気づき、部屋へと急ぎ足で帰って行った。
3時間後、お姉さんは酔いが覚めたようでコンビニで高いアイスを買って家を訪ねてきた。
「さっきはごめんなさい」
「いえいえ、大丈夫っすよ」
「お願い。お祭りの件、無かったことにしないで」
「大丈夫っす!しません!俺たちも楽しみにしてるんで」
そんな訳で、今日のバイトが終えたらお姉さんとの夏祭りが待っている。
蒼はいつも通りクールに、ただ最終日ということもあって少しサービスして女性にお金を落としてもらっていた。
旭はお姉さんが沢山声をかけてくれ、もしかしたらがあると思い燃えていた。
暁はそんな旭を見て溜息をした。
そして、最終日もなんとか乗り切った。
「ほら、給料だよ」
女性と沢山話したから減引きされていると思っていたがばばあは案外優しく、減引きはされていなかった。
「松代さん、良いの?」
「まぁね、うちの店があんなに繁盛してたの久しぶりに見たし。それは2人の力があってこそだからね」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
「あの1つだけ聞きたいことがあって、2日目とかに泣いていたじゃないですか。あれは何があったんですか?」
「今言った通りだよ。うちはずっと2人で営業していたんだけどね、歳のせいもあってかお客さんはどんどん隣の若いのがいるお店に取られてしまう。もう店じまいかと思ってたんだ。今年は最後にする予定で、バイトを雇ってあんたらが来た。そしたら、売れる売れる。とにかく売れる。あんたらのおかげだ。ありがとう」
「じゃあ、もう海の家やらないんすか?」
「何言ってんだい。やるよ」
「やるの!?!?」
「だからね、あんたら来年と再来年と来てくれるかい?」
「はいっす」
「え、旭?」
「なんだい、来ないのかい」
「はぁ、来ますよ。また」
「そうかい」
ばばあは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、今日のお祭り楽しんでおいで」
「はい」
2人が立ち去ろうとするとじじいが2人を止めた。
「せっかくの夏祭り。良かったらだけど、この浴衣着てってはくれないか?」
「こんなじじくさいやつ着ないだろ」
「いいんすか!」
「ありがとうございます」
「着るのかい!?」
そんな会話をし、浴衣を着させてもらい、お姉さんとの待ち合わせ時刻となった。
「わぁ。カッコイイね!」
「お姉さんも綺麗っすね」
「もう、お姉さんじゃなくて、由香里って呼んで」
「は、はい」
「もう行きますか?」
「待って、もう1人友達が来るの」
「お待たせー」
身長150cmの小柄な女性が来た。
「ごめんね、お待たせ。千夏っていいます」
この女性に旭は一目惚れした。暁はそれを感じとる。
旭と千夏を邪魔するように飛び回っている。
「うん!それじゃ行こっか」
「はい!」
旭は千夏に質問攻めをしている。この辺に住んでるのか、大学はどこか、好きな食べ物は何かなど。
「旭君はちーちゃんにメロメロだね」
「そう、っすね」
「蒼君は好きな子いないの?」
「いません」
「私、とかどう?」
「すみません」
「あはは、即答」
祭り会場へ着き、由香里がある提案を出す。
「この後花火が上がるまで、別行動にしない?」
「別行動っすか?」
「うん。私と蒼君。ちーちゃんと旭君」
「良いっすね!!」
嬉しそうな表情を見せる旭。それに嫉妬する暁。
旭と千夏は楽しそうに屋台を回った。
「千夏さん、何食べたいっすか?」
「う~ん。りんご飴とやきそば!」
「やきそばっすか?俺実は海の家でずっと焼いてたんすよ」
「そうだったんだ~」
そんな2人の姿を少し後ろから見つめてた暁が言葉を漏らす。
「何でそんな嬉しそうなんだよ…」
「暁、俺の恋を見届けてくれよ」
暁にコソコソと伝え、暁の傍を離れ、千夏の元へ駆け寄る。
「旭のギルの馬鹿ぁ」
泣きそうな表情で旭から離れる。
暁が自分から旭の傍を離れるのはこれが初めてのことだ。
その様子を遠目で見ていた蒼は、それとなく由香里と別れ、暁の元へと向かった。
「なんだよ、着いてきてほしいのはお前じゃない」
見えない聞こえない設定の蒼は暁に何も言わず着いていく。
神社の裏手。誰も来ないこの場所で、蒼は暁に語り始める。
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